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1持分会社

堀川 寿和2021/12/07 14:43

持分会社

(1) 総説

① 意義

 『持分会社』とは、合名会社、合資会社および合同会社を総称する用語である。会社法は、その第3編において、持分会社に関する規定を置いている。


② 持分会社の種類

合名会社無限責任社員によって組織される会社で(576条2項参照)、社員は、会社の債務につき、会社債権者に対して直接・無限の連帯責任を負う(580条1項)
合資会社無限責任社員と有限責任社員によって組織される会社で(576条3項参照)、無限責任社員は合名会社の社員と同様の責任を負い(580条1項)、有限責任社員は、会社の債務につき、会社債権者に対して、出資の価額(既に持分会社に対し履行した出資の価額を除く)を限度として直接・有限の責任を負う(同条2項)
合同会社有限責任社員によって組織される会社で(576条4項参照)、社員は、会社の債務につき、会社債権者に対して間接・有限責任を負う(なお、合同会社の社員は、会社成立時までに出資財産の全額を払い込みまたは給付しなければならない(578条)ので、会社成立後は、弁済責任を負わない)


③ 株式会社と持分会社の比較

 株式会社と持分会社の主な相違点は、次の通りである。


株式会社持分会社
会社における
社員の地位
・ 『株式』と呼ぶ
・ 株式は、均一の割合的単位の形をとっている
※ 各株主は複数の株式を有することができる(持分複数主義)
・ 自由に譲渡することができる
・ 『持分』と呼ぶ
・ 各社員は単一の持分を有している(持分単一主義)
※ 各社員の有する持分ごとに量的な違いがありうる
・ 持分を譲渡することは制限されている
所有と経営の関係所有と経営の分離各社員は、原則として、会社の業務を執行し、会社を代表する(所有と経営の一致が原則)


(2) 設立

① 定款の作成

 持分会社を設立するには、その社員になろうとする者が定款を作成し、その全員がこれに署名し、または記名押印しなければならない(575条1項)。

 この持分会社の定款には、一定の事項を記載し、または記録しなければならない(576条1項)。

主な記載・記録事項は、次の通りである。

1. 目的

2. 商号

3. 本店の所在地

4. 社員の氏名または名称および住所

5. 社員が無限責任社員または有限責任社員のいずれであるかの別

6. 社員の出資の目的(有限責任社員にあっては全銭等に限る)およびその価額または評価の標準


② 出資の履行

 設立しようとする持分会社が合同会社である場合には、当該合同会社の社員になろうとする者は、定款の作成後、合同会社の設立の登記をする時までに、その出資に係る金銭の全額を払い込み、またはその出資に係る金銭以外の財産の全部を給付しなければならない。ただし、合同会社の社員になろうとする者全員の同意があるときは、登記、登録その他権利の設定または移転を第三者に対抗するために必要な行為は、合同会社の成立後にすることができる(578条)。


③ 持分会社の成立

 持分会社も、株式会社と同様に、その本店の所在地において設立の登記をすることによって成立する(579条)。

(3) 社員

① 社員の責任等

(a) 社員の責任

合名会社社員は、会社の債務につき、会社債権者に対して直接・無限の連帯責任を負う(580条1項)
合資会社無限責任社員は合名会社の社員と同様の責任を負い(580条1項)、有限責任社員は、会社の債務につき、会社債権者に対して、出資の価額(既に持分会社に対し履行した出資の価額を除く)を限度として直接・有限の責任を負う(同条2項)
合同会社社員は、会社の債務につき、会社債権者に対して間接・有限責任を負う

(b) 社員の抗弁

 社員が持分会社の債務を弁済する責任を負う場合には、社員は、持分会社が主張することができる抗弁をもって当該持分会社の債権者に対抗することができる(581条1項)。また、この場合において、持分会社がその債権者に対して相殺権、取消権または解除権を有するときは、社員は、当該債権者に対して債務の履行を拒むことができる(同条2項)。


② 持分の譲渡等

(a) 持分の譲渡

 社員は、定款に別段の定めがない限り、他の社員の全員の承諾がなければ、その持分の全部または一部を他人に譲渡することができない(585条)。

(b) 持分の全部の譲渡をした社員の責任

 持分の全部を他人に譲渡した社員は、その旨の登記をする前に生じた持分会社の債務について、従前の責任の範囲内でこれを弁済する責任を負う(586条1項)。ただし、この責任は、登記後2年以内に請求または請求の予告をしない持分会社の債権者に対しては、当該登記後2年を経過した時に消滅する(同条2項)。


(4) 管理

① 業務の執行等

(a) 業務執行権

 持分会社の各社員は、定款に別段の定めがある場合を除き、持分会社の業務を執行する(590条1項)。

(b) 業務執行の意思決定

 持分会社の社員が2人以上ある場合には、持分会社の業務は、定款に別段の定めがある場合を除き、社員の過半数をもって決定する(590条2項)。ただし、持分会社の常務は、原則として、各社員が単独で行うことができる(同条3項)。 

② 持分会社の代表

 業務を執行する社員は、原則として、持分会社を代表し(599条1項)、業務を執行する社員が2人以上ある場合には、各自、持分会社を代表する(同条2項)。


(5) 社員の加入および退社

① 社員の加入

 持分会社は、新たに社員を加入させることができ(604条1項)、持分会社の社員の加入は、当該社員に係る定款の変更をした時に、その効力を生ずる(同条2項)。

持分会社の成立後に加入した社員は、その加入前に生じた持分会社の債務についても、これを弁済する責任を負う(605条)。


② 社員の退社

(a) 退社事由

ⅰ)任意退社

 持分会社の存続期間を定款で定めなかった場合またはある社員の終身の間持分会社が存続することを定款で定めた場合には、定款に別段の定めがない限り、各社員は、6箇月前までに持分会社に退社の予告をして、事業年度の終了の時において退社をすることができる(606条1項・2項)。

 また、各社員は、やむを得ない事由があるときは、いつでも退社することができる(同条3項)。

ii) 法定退社

 持分会社の社員は、一定の事由によって退社する。主な法定退社事由は、次の通りである(607条)。

1. 定款で定めた事由の発生

2. 総社員の同意

3. 死亡

4. 合併(合併により当該法人である社員が消滅する場合に限る)

5. 破産手続開始の決定

6. 解散(4.または5.に掲げる事由によるものを除く)

7. 後見開始の審判を受けたこと

8. 除名

(b) 退社した社員の責任

 退社した社員は、その登記をする前に生じた持分会社の債務について、従前の責任の範囲内でこれを弁済する責任を負う(612条1項)。ただし、この責任は、登記後2年以内に請求または請求の予告をしない持分会社の債権者に対しては、当該登記後2年を経過した時に消滅する(同条2項)。

(6) 計算等

① 合名会社・合資会社

 合名会社および合資会社においては、無限責任社員が存在するため、会社債権者保護の観点から会社の計算および利益の配当を規律する必要性は少ない。

 このため、合名会社および合資会社の計算については、商人一般に対する規律とほぼ同様の規律がされている(615条1項、617条1項、商法19条2項参照)。

 また、合名会社および合資会社の利益の配当についても、一定の制限があるものの、利益額を超えてすることが許されている(621条、623条)。

 さらに、合名会社および合資会社の社員は、持分会社に対し、既に出資として払込みまたは給付をした金銭等の払戻しを請求することができる(624条)。


② 合同会社

 合同会社においては、株式会社と同様に、社員は、間接有限責任を負うにすぎず、会社債権者にとって債権の満足を得るための責任財産は、会社財産だけである。このため、会社債権者を保護するために、計算書類の閲覧(625条)、資本金の額の減少に関する債権者の異議(627条)、利益の配当の制限(628条)、出資の払戻しの制限(632条)等の規定が置かれている。


(7) 定款の変更

 持分会社は、定款に別段の定めがある場合を除き、総社員の同意によって、定款の変更をすることができる(637条)。


(8) 解散

 持分会社は、次の事由によって解散する(641条)。

1. 定款で定めた存続期間の満了

2. 定款で定めた解散の事由の発生

3. 総社員の同意

4. 社員が欠けたこと

5. 合併(合併により当該持分会社が消滅する場合に限る)

6. 破産手続開始の決定

7. 解散を命ずる裁判

 平成17年改正前商法94条4号においては、合名会社の解散事由として「社員が1人となったこと」が定められていた(合資会社についてもこの規定が準用された)が平成17年の商法の改正により、「社員が欠けたこと」に変更された(会社法641条4号)。

したがって、社員が1人となっても解散することを要しないこととなった。

(9) 清算

① 清算の開始原因

 持分会社は、次の場合には、会社法の定めるところにより、清算をしなければならない(644条)。

1. 解散した場合(合併により解散した場合および破産手続開始の決定により解散した場合であって当該破産手続が終了していない場合を除く)

2. 設立の無効の訴えに係る請求を認容する判決が確定した場合

3. 設立の取消しの訴えに係る請求を認容する判決が確定した場合

② 清算持分会社の能力

 清算をする持分会社(『清算持分会社』という)は、清算の目的の範囲内において、清算が結了するまではなお存続するものとみなされる(645条)。


チェック問 会社法(3)

【チェック問 会社法(3)】

下記の正誤を答えよ。

1. 株式会社は、定款において、その発行する全部の株式の内容として、または種類株式の内容として、譲渡による当該株式の取得について当該株式会社の承認を要する旨を定めることができる。


2. 譲渡制限株式の株主は、その有する譲渡制限株式を当該株式会社以外の他人に譲り渡そうとするときは、当該株式会社に対し、当該他人が当該譲渡制限株式を取得することについて承認するか否かを決定することを請求することができる。


3. 譲渡制限株式を取得した者は、当該株式会社に対し、当該譲渡制限株式を取得したことについて承認するか否かの決定をすることを請求することができるが、この請求は、利害関係人の利益を害するおそれがない一定の場合を除き、その取得した譲渡制限株式の株主として株主名簿に記載もしくは記録された者またはその相続人その他の一般承継人と共同してしなければならない。


4. 発行済株式の総数は、会社が単元株式数を定款に定めることにより減少する。


5. 発行済株式の総数は、会社が自己株式を処分することにより増加する。


チェック問 会社法(3) 正解

【チェック問 会社法(3) 正解】

1-○2-○3-○4-×5-×


【チェック問 会社法(3) 解説】

1. ○会社法107条1項1号、会社法108条1項4号参照。株式会社が非公開会社か公開会社かが分かれる重要な要素である。


2.○譲渡制限株式を他人に譲り渡そうとするときは、株主は会社に対し、当該譲渡を承認するか否かの決定をすることを請求することができる(会社法136条)。


3.○譲渡制限株式を取得した株式取得者は、会社に対し、当該株式を取得したことについて承認をするか否かの決定をすることを請求することができる(会社法137条1項)。この請求は株主名簿上の株主又はその相続人その他の一般承継人と共同してしなければならない(会社法137条2項)。


4.×単元株式数を定款に定めても、発行済株式の総数は減少しない。単元株式数を定款に定めて減少するのは議決権数である(会社法189条参照)。


5.×会社が自己株式を処分しても、発行済株式の総数は増加しない。会社の自己株式が減るだけである。なお、会社が自己株式を消却した場合は(会社法178条)、発行済株式の総数は減少する。