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1商行為法

堀川 寿和2021/12/07 10:55

商行為の種類

商行為の種類は次のとおり。

絶対的商行為営業として行われたか否かを問わず、当然に商行為となる
相対的商行為営業的商行為営業として行われた場合に限り、商行為となる
附属的商行為商人がその営業ためにする行為

詳細については、第1章第2節第3款「『商行為』の意義」参照

民法の特則となる商行為に関する規定

(1) 総説

 一般市民である個人間で行われる取引は通常1回限りであり、営利を目的としていない。それに対して、商人が行う取引は営利を目的としており、大量に、かつ反復継続的に行われ、また迅速性も要求される。そこで商法では、民法で必要とされるルールを不要としたり、民法の債権者保護の規定をより徹底したりするなど、民法の一般的規定を補充・変更している。

 民法の特則となる商行為に関する規定は、適用対象の違いから、次の3つに分けられる。


取引のパターン
商行為一般に関する規定商人⇔商人、商人⇔非商人、非商人⇔非商人
当事者の一方が商人である場合に適用される規定商人⇔商人、商人⇔非商人
当事者双方が商人である場合にのみ適用される規定商人⇔商人


(2) 商行為一般に関する規定

 次の規定は、商行為一般に適用される。つまり、商行為であれば、商人間の取引だけではなく、商人と非商人との取引や、非商人間の取引にも適用される。


① 商行為の代理(商事代理)

 商取引では、商人は商業使用人(代理人)を利用して商行為を行うのが一般的である。このような商行為の代理を商事代理という。

(a) 原則(非顕名主義)

 商行為の代理人が本人のためにすることを示さないでこれをした場合であっても、その行為は、本人に対してその効力を生ずる(商法504条本文)。つまり、商事代理では顕名が要求されない。これを、非顕名主義という。

 民法の原則では、顕名主義であり、代理人が意思表示をする場合、その権限内において「本人のためにすること」を示すこと(顕名)が必要であり(民法99条1項)、代理人が本人のためにすることを示さないでした意思表示は、原則として、自己のためにしたものとみなされ(民法100条)、本人のためにその効力を生じない。これに対して、商取引では、大量の取引を簡易・迅速に成立させることが要求されるので、商法では、顕名主義の例外を定めている。

(b) 例外(相手方の保護)

 しかし、顕名がないと、相手方が本人のためにすることを知らなかった場合に代理人を本人と信じて取引をした相手方に不測の損害を及ぼすおそれがある。そこで、そのような相手方を保護するために、相手方が、代理人が本人のためにすることを知らなかったときは、代理人に対して履行の請求をするこができる(商法504条ただし書)。


Point1 判例により、この場合に、相手方は、本人のためにすることを知らなかったことについて、過失がなかったことが必要とされる(最大判昭43.4.24)。したがって、保護されるのは善意無過失の相手方である。


Point2 判例によると、この規定の趣旨は、相手方において、代理人が本人のためにすることを知らなかったとき(過失により知らなかったときを除く)は、相手方保護のため、相手方と代理人との間にも本人との間と同一の法律関係が生ずるものとし、相手方は、その選択に従い、本人との法律関係を否定し、代理人との法律関係を主張することを許容するものであるので、相手方が代理人との法律関係を主張したときは、本人は、もはや相手方に対し、本人相手方間の法律関係の存在を主張することはできないとされる(最大判昭43.4.24)。


② 商行為の委任

 商行為の受任者は、委任の本旨に反しない範囲内において、委任を受けていない行為をすることができる(商法505条)。

 民法の原則では、受任者は委任を受けていない行為をすることはできないが、商取引では、臨機応変に対応する必要があるので、このように受任者の権限が拡張されている。


③ 商行為の委任による代理権の消滅事由の特例

 商行為の委任による代理権は、本人の死亡によっては、消滅しない(商法506条)。したがって、代理人は、本人の死亡後は、本人の相続人の代理人になる。

 民法の原則では、委任による代理権は、本人の死亡によって消滅する(民法111条1項1号)。しかし、商取引の場合、本人が死亡しても、その相続人によって営業活動が継続されることが多い。そこで、商法では、委任による代理権の消滅事由について、特例を定めている。


④ 多数当事者間の債務の連帯

(a) 多数債務者の連帯

 数人の者がその1人または全員のために商行為となる行為によって債務を負担したときは、その債務は、各自が連帯して負担することになる(商法511条1項)。つまり、商法では、複数の債務者がいる場合の債務は、自動的に連帯債務になる。

 民法の原則では、数人の債務者がある場合は、別段の意思表示がない限り、各債務者は、それぞれ等しい割合で義務を負うことになる(民法427条)。つまり、民法では、原則として、複数の債務者がいる場合の債務は、分割債務になる。これに対して、商法では、商取引の信用を確保するために、債務者の債務を重くしている。 

(b) 保証人の連帯

 保証人がある場合において、債務が主たる債務者の商行為によって生じたものであるとき、または保証が商行為であるときは、主たる債務者および保証人が各別の行為によって債務を負担したときであっても、その債務は、各自が連帯して負担することになる(商法511条2項)。つまり、商法では、保証人は、自動的に連帯保証人になる。

 民法の原則では、保証人は、主たる債務者と連帯して債務を負担する旨の意思表示をしない限り、連帯保証とはならない。これに対して、商法では、商取引の信用を確保するために、保証人の責任を重くしている。


⑤ 債務の履行の場所

 民法の原則では、弁済をすべき場所について別段の意思表示がないときは、特定物の引渡しは債権発生の時にその物が存在した場所において、その他の弁済は債権者の現在の住所において、それぞれしなければならない(民法484条1項)。

 これに対して、商行為によって生じた債務の履行をすべき場所がその行為の性質または当事者の意思表示によって定まらないときは、特定物の引渡しはその行為の時にその物が存在した場所において、その他の債務の履行は債権者の現在の営業所(営業所がない場合にあっては、その住所)において、それぞれしなければならない(商法516条)。


⑥ 契約による質物の処分(流質契約)の許容

 民法の原則では、質権設定者は、設定行為または債務の弁済期前の契約において、質権者に弁済として質物の所有権を取得させ、その他法律に定める方法によらないで質物を処分させることを約することができない(民法349条)。このような契約を流質契約といい、債務者の困窮につけこんだ暴利行為を防ぐために、民法では禁止される。

 これに対して、商法では、商行為によって生じた債権を担保するために設定した質権については、流質契約は禁止されない(商法515条)。商人は、冷静に利害を計算する能力を有するからである。


(3) 当事者の一方が商人である場合に適用される規定

 次の規定は、当事者の一方が商人である場合に適用される。


① 契約の申込みを受けた者の諾否通知義務

 商人が平常取引をする者からその営業の部類に属する契約の申込みを受けたときは、遅滞なく、契約の申込みに対する諾否の通知を発しなければならない(商法509条1項)。そして、商人がこの通知を発することを怠ったときは、その商人は、契約の申込みを承諾したものとみなされる(商法509条2項)。

 民法の原則では、契約の申込みに対して諾否の応答をする義務はなく、承諾をしない限り契約は成立しないが、商取引では同様の取引が繰り返し行われることが多いことから、商法は、申込みに対する諾否の応答について、特別の規定を設けている。

② 契約の申込みを受けた者の物品保管義務

 商人がその営業の部類に属する契約の申込みを受けた場合において、その申込みとともに受け取った物品があるときは、その申込みを拒絶したときであっても、申込者の費用をもってその物品を保管しなければならない(商法510条本文)。

 ただし、その物品の価額がその費用を償うのに足りないとき、または商人がその保管によって損害を受けるときは、保管義務を負わない(商法510条ただし書)。

 商取引では、契約の申込みとともに、商品見本などの物品を送ることが多い。そこで、商法は、このような物品の保管について、特別の規定を設けている。


③ 報酬請求権

 商人がその営業の範囲内において他人のために行為をしたときは、相当な報酬を請求することができる(商法512条)。

 民法の原則では、委任や寄託は、原則として無償契約であり、他人のために法律行為や物の保管などを行っても、受任者や受寄者は、特約がない限り、委任者や寄託者に対して報酬を請求することができない(民法648条1項、656条、665条)。商人は、営利を目的として活動する者なので、営業の範囲内の行為であれば、営利目的と考えられるために、特別の規定が設けられている。


④ 受寄者の注意義務

 商人がその営業の範囲内において寄託を受けた場合には、報酬を受けないときであっても、善良な管理者の注意をもって、寄託物を保管しなければならない(商法595条)。

 民法の原則では、無報酬の受寄者は、自己の財産に対するのと同一の注意をもって、寄託物を保管する義務を負う(民法659条)。つまり、受寄者の注意義務が軽減されているのであるが、商法では、商人の信用を高めるために、特別の規定が設けられている。


(4) 商人間の取引にのみ適用される規定

 次の規定は、商人間の取引にのみ適用される。


① 隔地者間における契約の申込み

 商人である隔地者の間において承諾の期間を定めないで契約の申込みを受けた者が相当の期間内に承諾の通知を発しなかったときは、その申込みは、その効力を失う(商法508条1項)。つまり、申込者が申込みを撤回しなくても、相当の期間の経過のみで、申込みの効力は失われる。

 民法の原則では、隔地者の間で承諾の期間を定めないでした申込みは、原則として、申込者が承諾の通知を受けるのに相当な期間を経過するまでは、撤回することができない(民法525条1項)。そして、相当な期間が経過した後に、申込者が申込みを撤回することにより、はじめて、その申込みの効力は失われる。商取引では、取引の迅速性が要求されるので、商法は、申込みの失効について、特別の規定を設けている。

 なお、申込みの効力が失われた後に承諾の通知があった場合、申込者は、遅延した承諾を新たな申込みとみなすことができる(商法508条2項→民法524条)。


② 利息請求権

 商人間において金銭の消費貸借をしたときは、貸主は、法定利息を請求することができる(商法513条1項)。また、商人がその営業の範囲内において他人のために金銭の立替えをしたときは、その立替えの日以後の法定利息を請求することができる(商法513条2項)。

 民法の原則では、金銭消費貸借は、原則として無償契約であり、貸主は、特約がない限り、借主に対して利息を請求することができない(民法589条1項)。これに対して、商人は営利を目的として活動しているので、原則として、利息を請求できるものとしている。


③ 商人間の留置権(商事留置権)

 商人間においてその双方のために商行為となる行為によって生じた債権が弁済期にあるときは、当事者の別段の意思表示がない限り、債権者は、その債権の弁済を受けるまで、その債務者との間における商行為によって自己の占有に属した債務者の所有する物または有価証券を留置することができる(商法521条)。

 民法の原則では、他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有する場合に、その債権が弁済期にあるときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる(民法295条1項)。 民法上の留置権の被担保債権は「その物に関して生じた債権」であり、留置権の目的物は「その物」である。つまり、被担保債権と留置権の目的物との間に牽連性が必要とされる。これに対して、商事留置権の被担保債権は「商人間のその双方のために商行為となる行為によって生じた債権」であり、留置権の目的物は「債務者との間の商行為によって債権者の占有に属した債務者の所有する物または有価証券」である。つまり、被担保債権と留置権の目的物との間に牽連性が必要とされない。このように、商法は、商人間の留置権(商事留置権)という民法よりも強力な留置権を定めている。


Point1 被担保債権は、留置権の目的物に関して生じたものである必要はない。


Point2 商人間の留置権の目的物は、債務者の所有するものである必要がある。したがって、債務者との間の商行為によって債権者の占有に属した物であっても、債務者の所有する物でなければ、留置権の目的物とすることはできない。


【商法と民法の留置権の比較】


商人間の留置権(商事留置権)民法上の留置権
被担保債権商人間のその双方のために商行為となる行為によって生じた債権その物に関して生じた債権
留置権の目的物債務者との間の商行為によって債権者の占有に属した債務者の所有する物または有価証券その物
被担保債権と留置権の目的物との間の個別の牽連性不要必要



商人間の売買(商事売買)

(1) 商人間の売買

 商法は、商人間の売買について、商取引の迅速性を図り、売主の利益を保護するために、民法の特則を置いている。商人間の売買を商事売買ともいう。


(2) 商人間の売買における売主および買主の権利義務

① 売主の目的物の供託・競売権

 商人間の売買において、買主がその目的物の受領を拒み、またはこれを受領することができないときは、売主は、その物を供託し、または相当の期間を定めて催告をした後に競売に付することができる(商法524条1項前段)。また、損傷その他の事由による価格の低落のおそれがある物は、催告をしないで競売に付することができる(同条2項)。

 売買の目的物を競売に付したときは、売主は、その代価を供託しなければならない(同条3項本文)。この場合に、その代価の全部または一部を代金に充当することもできる(同条3項)。


② 定期売買の履行遅滞による解除

 定期売買とは、たとえば、クリスマス用品をクリスマス期間内に売買する場合のように、一定の期間内に履行をしなければ、契約目的を達成することができない売買のことである。

 商人間の売買において、売買の性質または当事者の意思表示により、特定の日時または一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、当事者の一方が履行をしないでその時期を経過したときは、相手方は、直ちにその履行の請求をした場合を除き、契約の解除をしたものとみなされる(商法525条)。

 民法の原則では、このような場合も契約を解除する旨の意思表示をしなければ契約は解除されないが(民法542条1項4号)、これは、自動的に契約が解除されるようにするものである。


③ 買主の目的物の検査・通知義務

 商人間の売買において、買主は、その売買の目的物を受領したときは、遅滞なく、その物を検査しなければならない(商法526条1項)。

 買主は、検査により売買の目的物が種類・品質または数量に関して契約の内容に適合しないことを発見したときは、直ちに売主に対してその旨の通知を発しなければ、その不適合を理由とする履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求および契約の解除(「契約不適合責任の追及」)をすることができない(同条2項前段)。売買の目的物が種類・品質に関して契約の内容に適合しないことを直ちに発見することができない場合において、買主が6か月以内にその不適合を発見したときも、同様に、直ちに売主に対してその旨の通知を発しなければ、「契約不適合責任の追及」をすることができない(同条項後段)。

 ただし、売買の目的物が種類・品質または数量に関して契約の内容に適合しないことにつき売主が悪意であった場合には、通知をしていなくても、「契約不適合責任の追及」をすることができる(同条3項)。

 民法の原則では、目的物の種類・品質に関する契約不適合については、買主がその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知すれば、契約不適合責任の追及をすることができることになっているが(民法566条本文)、商人間の売買では法律関係を迅速に確定する必要があるために、このように買主に検査・通知義務を課している。


④ 買主の目的物の保管・供託義務

 商人間の売買において、買主がその売買の目的物を受領した場合に、買主は、契約の解除をしたときであっても、売主の費用をもって売買の目的物を保管し、または供託しなければならない(商法527条1項本文)。なお、売主および買主の営業所(営業所がない場合にあっては、その住所)が同一の市町村の区域内にある場合には、買主に目的物の保管・供託義務はない(同条4項)。

 なお、商人間の売買において、売主から買主に引き渡した物品が注文した物品と異なる場合における当該売主から買主に引き渡した物品および売主から買主に引き渡した物品の数量が注文した数量を超過した場合における当該超過した部分の数量の物品についても、同様に扱われる(商法528条)。