• 商法・会社法ー1.商法
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  • 商法の適用範囲
  • Sec.1

1商法の適用範囲

堀川 寿和2021/12/07 10:15

総論

 一般市民間の取引には民法が、商取引には商法が適用されるといったが、これだけでは民法と商法の適用範囲の区別があいまいである。さらに具体的に、商法はどのような場合に、どのような範囲で適用されるのかが問題となる。

 商法は、商法が適用される場合について、次のように規定している(商法1条1項)。

商人の営業、商行為その他商事については、他の法律に特別の定めがあるものを除くほか、この法律の定めるところによる。

このように、「商人の営業」や「商行為」に商法が適用される。そこで、まずは「商人」「商行為」の意味が問題となる。

「商人」の意義

 商人には、「固有の商人」と「擬制商人」とがある。


(1) 固有の商人

 商法において「商人」とは、自己の名をもって商行為をすることを業とする者をいう(商法4条1項)。これを固有の商人という。

 「自己の名をもって」とは、自分が行為から生じた権利義務の帰属主体となることである。「業とする」とは、営業として、つまり営利の目的をもって、同種の行為を反復継続して行うことを意味する。


(2) 擬制商人

 店舗その他これに類似する設備によって物品を販売することを業とする者または鉱業を営む者は、商行為を行うことを業としない者であっても、商人とみなされる(商法4条2項)。これを擬制商人という。

 たとえば、農産物や水産物を収穫して店舗販売する者などがこれにあたる。このような場合、固有の商人と外形上見分けがつかず、また固有の商人と区別する理由もないので商人とみなされる。



「商行為」の意義

 商行為は、大きく「絶対的商行為」と「相対的商行為」の2つに分類できる。


(1) 絶対的商行為

 絶対的商行為は、行為の性質から見て営利性が極めて強い行為であり、営業として行われたか否かを問わず、当然に商行為とされるものである。したがって、商人ではない者が1回限り行っただけでも、商行為となる

【絶対的商行為】

 次の行為は、商行為となる(商法501条)。

(a) 利益を得て譲渡する意思をもってする動産、不動産もしくは有価証券の有償取得またはその取得したものの譲渡を目的とする行為(投機購買とその実行行為)
(b) 他人から取得する動産または有価証券の供給契約およびその履行のためにする有償取得を目的とする行為(投機売却とその実行行為)
(c) 取引所においてする取引
(d) 手形その他の商業証券に関する行為


(2) 相対的商行為

 「相対的商行為」は、さらに、「営業的商行為」と「附属的商行為」の2つに分類できる。


① 営業的商行為

 営業的商行為は、営業としてするときに限り、商行為とされるものである。「営業としてする」とは、営利の目的をもって、同種の行為を反復継続して行うことである。

【営業的商行為】

 次の行為は、営業としてするときは、商行為となる(商法502条)。

(a) 賃貸する意思をもってする動産もしくは不動産の有償取得もしくは賃借またはその取得しもしくは賃借したものの賃貸を目的とする行為(投機貸借とその実行行為)
(b) 他人のためにする製造または加工に関する行為
(c) 電気またはガスの供給に関する行為
(d) 運送に関する行為
(e) 作業または労務の請負
(f) 出版、印刷または撮影に関する行為
(g) 客の来集を目的とする場屋における取引
(h) 両替その他の銀行取引
(i) 保険
(j) 寄託の引受け
(k) 仲立ちまたは取次ぎに関する行為
(l) 商行為の代理の引受け
(m) 信託の引受け


② 附属的商行為

 商人がその営業のためにする行為は、商行為となる。これを、附属的商行為という(商法503条1項)。

 「商人がその営業のためにする行為」とは、商人の営業を補助する行為である。その行為に営利性は認められないが、営業の手段として行われるために商法が適用される。たとえば、商人が営業資金として金融機関から借り入れをする行為などがある。

 なお、商人の行為は、その営業のためにするものと推定される(同条2項)。


Point 商人の行為は、その営業のためにするものと「推定される」のであって、「みなされる」のではない。したがって、商人の行為であっても、その営業のためにするものではないことが証明された場合は、商行為とはならない。


【商人と商行為の関係】