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1総論

堀川 寿和2021/12/07 09:42

 例年、本試験の1問目と2問目に出題されるのが基礎法学である。その内容は、法規範の特徴や法原理等の法律的なものの考え方を問うものである。このため、試験対策としては、法令用語等の基本的な知識を覚えるとともに、条文や判例などを読むことで法律的な文章に慣れ親しむことが必要となる。

 法学は、法とは何かを明らかにする学問である。つまり諸々の社会規範のなかで法はどのような特徴を備えているのかを明らかにするのである。行政書士試験では、法と道徳の違いや法源が重要である。さらに、法に関する様々な原理・原則を理解することも必要である。




法規範

(1) 規範

 「規範」とは、物事の是非善悪を判断する基準のことである。社会規範は、その起源や制裁等により、道徳規範・宗教規範・法規範等に分類される。

cf. 社会規範とは

 「社会のあるところ、そこに法がある」という法格言があるように、複数の人間が集まって社会を形成するとき、そこに各人を規律するルールが必要になる。これを社会規範という。


【法と他の社会規範との相違点 -法と道徳-】

道徳
組織化された政治的権力によって作られる他律規範各人の良心により存在が認められる自律規範
物理的強制力を伴う物理的強制力は伴わない
人間の外部的行為を規律することによって目的を達成しようとする人間の内面の意思に訴えて、目的を達成しようとする
権利と義務の対応関係があり権利者は義務者に対して義務の履行を請求しうる道徳的義務にはこれを請求する者は存在せず、自分の良心に従い行動することが求められるにすぎない


【法と他の社会規範との相違点 -法と宗教-】

宗教
社会秩序の維持を目的とする各自の信仰を基礎に人間の安心立命を得ることを目的とする
国家権力により強制される自己の信仰の力で強制される


(2) 法規範

 法規範は、裁判規範であると同時に行為規範でもある。

① 行為規範

 行為の際に、行為の是非善悪を判断する基準となること。

② 裁判規範

 紛争が裁判に持ち込まれた際に、その紛争を解決するための基準となること。ただし、例外的に憲法の前文のように、それによって裁判が行われることを予定しない法規範もある。

③ 組織規範

 行動規範でも裁判規範でもないもの。組織について定めた規範。


(3) 制裁(サンクション)

 法は、国家権力を背景にした強制規範であるため、強制力が保障されている。

① 刑 罰

 「刑罰」とは、犯罪に対する法的効果として行為者の法益(例えば、死刑であれば生命、懲役等であれば自由)を剥奪、制限する処分のことである。

 刑罰の種類: 死刑、懲役、禁錮、罰金、拘留、科料、没収



② 懲戒罰

 「懲戒罰」とは、公法上の監督関係を維持するため、一定の義務(例えば、公務員の服務上の義務)を課し、その義務違反に対して科される制裁のことである。



 「科料」と「過料」については後掲


法の分類

(1) 国際法と国内法

① 国際法

 国際社会における法で、国家間の交渉関係を規律する法のことである。例えば、条約や国際慣習法である。

 従来は、国際法上の法的関係の主体は当然に国家だけだと考えられていたが、国際社会の発展とともに国際組織や個人も一定の範囲で国際法の主体と扱われるに至っている。また、国際法のことを国際私法と区別して、特に国際公法とも呼ばれるが、『国際法』という呼び方が一般的になりつつある。

② 国内法

 国内において制定された法のことである。例えば、法律や政令等である。


(2) 公法・私法・社会法

公法: 一般的に、国家と国民の生活関係を規律する法のことをいう。

 例: 憲法・行政法・刑法・刑事訴訟法・民事訴訟法・不動産登記法

私法: 一般的に、私人対私人の生活関係を規律する法のことをいう。

 例: 民法・商法

杜会法: 公共の福祉を維持増進するため、権力的な介入により、私的利害の統制を図る法のこと


cf. 社会生活と国家生活

 すべての人間は、法秩序たる国家の中で共同生活を営みながら、個人として尊重され、自己の価値を発揮しているが、この共同生活は大きく二つに分類することができる。

 一つは社会生活で、構成員の対等性と白主性を重んじることに特色がある。そこでの法の機能は、必要最小限の強制力による共同生活の調整である。

 もう一つは国家生活で、国家、地方公共団体その他の公権力主体が存在しているところに特色がある。この公権力は、国民や住民の信託により付与され、国民や住民の権利・利益を確保し、それを促進するためにのみ使用される。憲法は、この国家生活を規律する基本法である。


(3) 一般法と特別法

① 一般法

 法の効力が、領域・人・事項の全般に及ぶものである。例えば、民法・刑法等である。

② 特別法

 法の効力が、領域・人・事項の特別なものだけに及ぶものである。例えば、商法・会社法等である。

③ 法令相互間の優劣

(a) 一般法と特別法 ⇒ 特別法が優先する。

例:商法と民法とでは商法が優先する。

(b) 前法と後法 ⇒ 後法が優先する。

(c) 後法優先と特別法優先との関係

 甲規定と乙規定の関係が、一般法と特別法の関係にある場合、甲規定が乙規定の後法であっても、特別法である乙規定が優先する。



cf. 一般法と特別法の関係は相対的なものである。例えば、私法に関する最も基本的な法である民法は一般法となるのに対し、商人に関する法律関係を規律する商法は特別法となる。しかし、「手形法」は、商法に対して特別法になり、商法が一般法となる。



(d) 旧特別法と新一般法

 後法優位原則と特別法優位原則がかちあった場合、つまり後に制定された一般法と、先に制定された特別法が矛盾する場合、古い特別法が新しい一般法に優先する。


(4) 強行法規と任意法規

① 強行法規

 法律の規定のうち、当事者がそれと異なる特約をしても、その特約を無効とするような規定をいう。

強行法規は公の秩序に関するものであるから、公法上の規定の多くが強行法規である。

また、私法上の規定でも、身分法の規定、物権に関する規定の多くは強行法規である。

② 任意法規

 法律の規定のうち、当事者がそれと異なる特約をすると、特約が優先し、その適用が排除されてしまう規定をいう。任意法規にあたるのは、当事者の合理的意思解釈のためにおかれている契約上の規定の多くである。



(5) 実体法と手続法

実体法: 権利・義務の発生・変更・消滅等に関して規定した法

 例: 民法・刑法

手続法: 実体法を実現するための手続に関して規定した法

 例: 民事訴訟法・刑事訴訟法


(6) 上位法と下位法

 「上位法は下位法に優先する」

 我が国の法規範秩序においては、憲法→法律→命令→条例の順に上下関係は決まっている。

 なお、憲法と条約、法律と規則(議院規則、最高裁規則)の関係についてはどちらが上位か学説上争いがある。


(7) 実定法と自然法

 実定法→実際に効力を有している法  ex.制定法、慣習法、判例法

 自然法→自然又は、人間の理性に基づく永久不変の法

(8) 法定犯と自然犯

① 法定犯

 行政上の目的のために定められた法規に違反する行為をいう。法により特に命令・禁止されたことにより、法に違反する行為が初めて実質的に不法とされる行為である。

② 自然犯

 その行為自体が、反社会性・反倫理性を有するものをいう。例えば、殺人や強盗のような行為である。



法源

 「法源」とは、法の存在形式のことである。次の2つに大別することができる。


(1) 成文法

 法の内容が、文字で書かれているもので、次のように分類することができる。

① 憲法

 国の最高法規であり、形式的効力として他の法形式より優越する。なお、条約との聞でどちらが優位かの議論があるが、憲法優位説が多数説である。

② 条約

 文書でなされた国家間の合意で、国際法を形成するものである。

③ 法律

 国会の議決によって制定される法形式である。

④ 命令

 行政機関によって制定される法形式である。

a) 法律との関係における分類

 執行命令 → 法律の規定を実施するために必要な細則を定める命令。

 委任命令 → 法律の委任又は、上級の命令の委任に基づいて制定される命令。

 独立命令 → 法律から独立して制定させる命令。現憲法下では認められない。

b) 制定機関による分類

 政令: 内閣が制定する命令

 内閣府令・省令: 前者は、内閣府の長である内閣総理大臣が発令する命令。後者は、各省大臣が発令する命令

⑤ 条例

 地方公共団体の議会によって制定される法形式である。

⑥ 規則

 国会以外の国家機関が制定する法のうち、主として内部の規律に関して定めるものをいう。

 例えば、最高裁判所規則(憲法77条)、議院規則(同法58条2項)、地方公共団体の長によって制定される都道府県規則や市町村規則(地方自治法15条)がある。


(2) 不文法

 法の内容が、文字で書かれていないもので、次のように分類することができる。

① 慣習法

 立法機関の制定によらず、慣習を内容とした法である。

認められる要件

 公の秩序又は善良な風俗に反しない慣習は、法令の規定により認められるもの又は法令に規定されていない事項に関するものに限り、法律と同一の効力を有する。(法の適用に関する通則法第3条)

a) 商慣習

 商事に関し、この法律に定めがない事項については商慣習に従い、商慣習がないときは、民法の定めるところによる。(商法第1条第2項)

b) 任意規定と異なる慣習

 法令中の公の秩序に関しない規定と異なる慣習がある場合において、法律行為の当事者がその慣習による意思を有しているものと認められるときは、その慣習に従う。(民法第92条)

② 判例法

 裁判所の判決、つまり判例によって成立する法である。ある事件に対して下された判決の中で示された一般基準が先例として規範化され、その後の同種の事件においても同じ内容の判決が下されるようになる。

③ 条理

 社会共同生活における物事の道理・筋道のこと。民事裁判において、特定の事件に適用すベき具体的な法が存在しない場合、条理で解決する。