• 行政法ー6.地方自治法
  • 9.国と地方公共団体の関係・地方公共団体相互の関係
  • 国と地方公共団体の関係・地方公共団体相互の関係
  • Sec.1

1国と地方公共団体の関係・地方公共団体相互の関係

堀川 寿和2021/12/07 09:08

国等の関与

 地方自治を保障する憲法の趣旨からすれば、国と地方公共団体との関係は対等・協力の関係にある。したがって、地方の行政は、地方公共団体がその権限と責任において処理するとともに、これに対する国の政府の関与はできるだけ排除されることが望ましい。

 そこで、地方自治法では国と地方との役割分担の原則を定めている。つまり、地方公共団体は、住民の福祉の増進を図ることを基本として、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うものとする一方で、国は、国際社会における国家としての存立にかかわる事務、全国的に統一して定めることが望ましい国民の諸活動もしくは地方自治に関する基本的な準則に関する事務または全国的な規模でもしくは全国的な視点に立って行わなければならない施策および事業の実施その他の国が本来果たすべき役割を重点的に担うこととし、そのために、国は、住民に身近な行政はできる限り地方公共団体にゆだねることを基本として、地方公共団体との間で適切に役割を分担するとともに、地方公共団体に関する制度の策定および施策の実施に当たって、地方公共団体の自主性および自立性が十分に発揮されるようにしなければならないとする(1条の2)。また、この役割分担の原則は、地方自治の本旨とともに地方公共団体に関する法令の制定・解釈・運用にも活かされる必要がある(2条11項~13項)。

 しかし、地方自治制度も国家の法によって認められたものであり、国家行政と無関係ではいられないものであるので、その統一性や一貫性、適法性などを確保するために、ある程度は国または都道府県による関与の余地も残しておかなければならない。

 そこで、地方自治法は、行政的関与を中心とした、国等の関与の仕組みを整備し、それらによる関与のルールを定めている。

 まずは、関与に関しての三原則といわれるものをみておこう。


(1) 関与の法定主義の原則

 普通地方公共団体は、その事務の処理に関し、法律またはこれに基づく政令によらなければ、普通地方公共団体に対する国または都道府県の関与を受け、または要することとされることはない(245条の2)。


(2) 行政目的達成のための必要最小限の関与/関与の際の地方公共団体の自主性・自立性への配慮の原則

 国は、普通地方公共団体が、その事務の処理に関し、普通地方公共団体に対する国または都道府県の関与を受け、または要することとする場合には、その目的を達成するために必要な最小限度のものとするとともに、普通地方公共団体の自主性および自立性に配慮しなければならない(245条の3第1項)。

(3) 公正・透明の原則(246条~250条の6)

 国等による地方公共団体へ関与の差別的・不利益的な取り扱いを回避するために、関与に関する手続について、関与の基本類型ごとに、書面の交付、許可・認可等の審査基準や標準処理期間の設定、公表等を定めている。

① 書面主義

 国の行政機関または都道府県の機関は、普通地方公共団体に対し、助言、勧告その他これらに類する行為を書面によらないで行った場合において、当該普通地方公共団体から当該助言等の趣旨および内容を記載した書面の交付を求められたときは、これを交付しなければならない(247条1項)。

② 許認可等の判断基準の設定

 国の行政機関または都道府県の機関は、普通地方公共団体からの法令に基づく申請または協議の申出があった場合において、許可、認可、承認、同意その他これらに類する行為をするかどうかを法令の定めに従って判断するために必要とされる基準を定め、かつ、行政上特別の支障があるときを除き、これを公表しなければならない。また、許認可等の取消しその他これに類する行為をするかどうかを法令の定めに従って判断するために必要とされる基準を定め、かつ、これを公表するよう努めなければならない(250条の2第1項、2項)。

③ 標準処理期間の設定

 国の行政機関または都道府県の機関は、申請等が当該国の行政機関または都道府県の機関の事務所に到達してから当該申請等に係る許認可等をするまでに通常要すべき標準的な期間を定め、かつ、これを公表するよう努めなければならない(250条の3第1項)。

④ 到達主義

 国の行政機関または都道府県の機関は、申請等が法令により当該申請等の提出先とされている機関の事務所に到達したときは、遅滞なく当該申請等に係る許認可等をするための事務を開始しなければならない(250条の3第2項)。

⑤ 書面による理由の提示

 国の行政機関または都道府県の機関は、普通地方公共団体に対し、申請等に係る許認可等を拒否する処分をするときまたは許認可等の取消し等をするときは、当該許認可等を拒否する処分または許認可等の取消し等の内容および理由を記載した書面を交付しなければならない。


関与の種類

(1) 関与の種類

 関与の基本類型として定められているものは以下のとおり(245条)。

1. 助言または勧告(1号イ)             2. 資料の提出の要求(同号ロ)
3. 是正の要求(同号ハ)                  4. 同意(同号ニ)
5. 許可、認可または承認(同号ホ)    6. 指示(同号ヘ)
7. 代執行(同号ト)                         8. 普通地方公共団体との協議(2号)

 これらのうち、1.~5.の関与については、個別法によらずとも、地方自治法を根拠として行うことができるとされる。


(2) 地方自治法を根拠とする関与

① 技術的な助言および勧告、資料の提出の要求(245条の4)

 技術的な助言および勧告は、地方公共団体が担任する事務に関し、地方公共団体の事務の運営その他の事項について行われる助言および勧告である。

 ここでいう『助言または勧告』とは、いずれも客観的に適当と認められ得る行為を促したり、その行為を行うにあたり必要な事項を示したりする非権力的な関与形態であり、このうち勧告については、勧告を受けた地方公共団体に尊重義務が生じるが、従う義務まで生じるものではない。

 資料の提出の要求は、前述の助言・勧告を行うため、または地方公共団体の事務の適正な処理に関する情報を提供するため行われるものであり、こちらは求めに従わなければならない。



主体相手方内容対象事務
各大臣
都道府県の執行機関
地方公共団体技術的な助言・勧告、資料提出の要求(第1項)自治事務
法定受託事務

各大臣都道府県の執行機関市町村に対する助言・勧告、資料提出の要求に関する必要な指示(第2項)
地方公共団体の執行機関各大臣
都道府県の執行機関
事務の管理・執行について技術的な助言・勧告・情報提供を求める(第3項)


② 是正の要求(245条の5)

 是正の要求は、地方公共団体の事務処理が法令の規定に違反しているとき、または著しく不適正で明らかに公益を害しているときに、その違反の改善・是正を求める行為であり、これを受けた地方公共団体は、それに従って必要な措置を講じる義務を負う。



主体相手方内容対象事務
各大臣都道府県事務処理が法令に違反していると認める場合、または著しく適正を欠き、かつ、明らかに公益を害していると認める場合
⇒ 違反の是正・改善のため必要な措置を講ずるよう要求(第1項)
自治事務
都道府県の
執行機関
市町村の事務処理(※)が法令に違反していると認める場合、または著しく適正を欠き、かつ、明らかに公益を害していると認める場合
⇒ 違反の是正・改善のため必要な措置を講ずべきことを市町村に求めるよう指示(第2項)
自治事務
第二号法定受託事務

市町村市町村の事務処理が法令に違反していると認める場合、または著しく適正を欠き、かつ、明らかに公益を害していると認める場合で、緊急を要するときその他特に必要があると認めるとき
⇒ 違反の是正・改善のため必要な措置を講ずるよう要求(第4項)


③ 是正の勧告(245条の6)

 是正の勧告は、市町村の自治事務の処理が法令に違反しているとき、または著しく不適正で明らかに公益を害しているときに、その違反の是正・改善のため必要な措置を講じることを勧告する行為であり、勧告の主体が都道府県の執行機関に限られること、相手方が市町村に限られること、対象事務が自治事務に限られることが特徴である。



主体相手方内容対象事務
都道府県の執行機関市町村市町村の事務処理(※)が法令に違反する場合、または著しく適正を欠き、かつ、明らかに公益を害する場合
⇒ 違反の是正・改善のため必要な措置を講ずるよう勧告
自治事務

※ 厳密には、市町村の『執行機関』が処理する事務が対象となっている。

④ 是正の指示(245条の7)

 是正の指示は、地方公共団体の法定受託事務の処理が法令に違反しているとき、または著しく不適正で明らかに公益を害しているときに、その是正のために指示をする行為であり、おおきく2つのパターンに分けられ、いずれも地方公共団体は、指示された具体的行為を行う義務を負う。

まず、1つめのパターンは、法定受託事務全般に関するものである。



主体相手方内容対象事務
各大臣都道府県事務処理が法令に違反する場合、または著しく適正を欠き、かつ、明らかに公益を害する場合
⇒ 違反の是正・改善のため講ずる措置に関する必要な指示(第1項)
法定受託事務
都道府県の執行機関市町村市町村の事務処理(※)が法令に違反する場合、または著しく適正を欠き、かつ、明らかに公益を害する場合
⇒ 違反の是正・改善のため講ずる措置に関する必要な指示(第2項)


そして、2つめは、「市町村」が行う「第一号」法定受託事務のみに関するものである。



主体相手方内容対象事務
各大臣都道府県の執行機関市町村の事務処理(※)が法令に違反する場合、または著しく適正を欠き、かつ明らかに公益を害する場合
⇒ 都道府県の執行機関が市町村に対して行う違反の是正・改善のため講ずる措置に関する指示に関し必要な指示(第3項)
市町村の
第一号法定受託事務

市町村市町村の事務処理が法令に違反する場合、または著しく適正を欠き、かつ、明らかに公益を害する場合で、緊急を要するときその他特に必要があると認めるとき
⇒ 違反の是正・改善のため講ずる措置に関する必要な指示(第4項)

※ 厳密には、市町村の『執行機関』が処理する事務が対象となっている。


⑤ 代執行(245条の8)

 地方公共団体の法定受託事務の管理または執行について、法令または各大臣・都道府県知事の処分に違反しているとき、または、事務処理を怠っているときは、各大臣または都道府県知事は、裁判等の手続を経て是正のための措置を地方公共団体に代わって行う。代執行は、各大臣が行う場合(245条の8第8項)のほか、都道府県知事が行う場合もある(同条第12項)。


【代執行に至るまでの手続(245 条の8)】

勧告(第1項)
指示(第2項)
出訴(第3項)
大臣(知事)の請求に理由があると認める裁判(6項、12項)
代執行(第8項)


⑥ 法定受託事務に係る処理基準(245条の9)

 処理基準は、目的を達成するために必要な最小限度のものでなければならない(245条の9第5項)。設定の可否等については以下のとおり。



主体対象事務内容
各大臣都道府県の法定受託事務処理基準を定めることができる(第1項)
都道府県の執行機関市町村の法定受託事務(※)処理基準を定めることができる(第2項)
各大臣市町村の第一号法定受託事務特に必要があると認めるときは、処理基準を定めることができる(第3項)
都道府県の執行機関が定める処理基準に関し、必要な指示をすることができる(第4項)



関与の手続

 地方公共団体に対する国・都道府県の関与についても、事前手続の方式が整備され、法律による行政の原理が徹底されている。

 もっとも、個別法に特別の定めがある場合には、当該個別法の定めによる。

 関与の手続についての規定の内容は以下のとおり。



関与内容
助言等・資料の提出の要求等
(247条、248条)
国の行政機関等が書面によらないで助言・勧告、資料の提出要求等を行ったときで、地方公共団体からその趣旨および内容を記載した書面の交付を求められたときは、原則として、書面の交付義務がある。普通地方公共団体が助言等に従わなかったことを理由とする不利益な取扱いは禁止。
是正の要求等(249条)国の行政機関等が是正の要求等を行うときは、原則として、同時にその内容・理由を記載した書面の交付義務がある。
協議(250条)地方公共団体から国の行政機関または都道府県の機関に協議の申出がなされたときには、誠実に協議を行うとともに、相当の期間内に協議が調うよう努める義務がある。
許認可等の基準(250条の2)普通地方公共団体から申請や協議の申出があった場合、国の行政機関または都道府県の機関は、許認可等をするかどうかの判断基準を定め、原則として公表義務がある。
許認可等の標準処理期間
(250条の3)
申請等の処理に通常必要とされる標準的な期間を定め、公表するという努力義務がある。申請の到達主義を採用。
許認可等の取消し等
(250 条の4)
国の行政機関または都道府県の機関は、その内容・理由を記載した書面の交付義務がある。
届出(250条の5)届出についても、申請と同じように到達主義を採用している。
国の行政機関が自治事務と同一の事務をみずからの事務として処理する場合(250条の6)原則として、事前に普通地方公共団体に対して、その処理の内容・理由を記載した書面による通知をする義務がある。