- 行政法ー6.地方自治法
- 7.執行機関
- 執行機関
- Sec.1
1執行機関
■執行機関の種類
地方公共団体の執行機関とは、当該地方公共団体の事務を管理し、これを執行する機関であり、その担当する事務について、自ら意思決定を行い、表示ができる機関をいう。
普通地方公共団体の執行機関には、長と行政委員会および行政委員がある。
■普通地方公共団体の長(都道府県知事・市町村長)
(1) 長の地位
普通地方法公共団体の長として、都道府県には知事、市町村には市町村長がおかれる(139条)。
都道府県知事、市町村長ともに、住民の直接選挙によって選任され、当該地方公共団体の執行機関としてその事務を管理し、執行する。
都道府県知事、市町村長ともに任期は4年であり(140条1項)、国会議員や地方公共団体の議会の議員・職員等との兼職は禁止されている(141条)。
また、当該普通地方公共団体の事業を請け負う法人の役員となること等が禁止されるなど、長は関係私企業への関与が禁止されている。
ただし、当該普通地方公共団体が出資している法人で、政令で定めるものについては、役員等に就任することができる(142条)。役員等への就任が認められている法人とは、当該普通地方公共団体が資本金等の2分の1以上を出資している第三セクター等である(地方自治法施行令122条)。
(2) 長の権限
① 統轄権・代表権・管理権・執行権
長は、当該普通地方公共団体を統轄し代表する(147条)。また、長は、当該普通地方公共団体の事務を管理し執行する(148条)。
② 規則制定権
長は、法令に違反しない限りにおいて、その権限に属する事務に関し、規則を制定することができる(15条1項)。
③ 担任事務
長は、議会に議案を提出するほか、予算の調製、執行および地方税の賦課徴収等の事務を担任する(149条各号)。
(3) 長の権限の代行
① 長の職務の代理(法定代理と臨時代理)
長に事故があったとき、または長が欠けたときには、副知事または副市町村長が長の職務を代理することになる(152条1項)。
また、長は、権限に属する事務の一部をその補助機関である職員に臨時に代理させることができる(153条1項前段)。
② 長の権限の委任
長は、その権限に属する事務の一部をその補助機関である職員に委任することができる(153条1項後段)。また、その管理に属する行政庁にも委任することができる(同条2項)。
③ 長の権限の分掌
長は、その権限に属する事務を分掌させるため、必要な内部組織を設けることができる。この場合において、当該普通地方公共団体の長の直近下位の内部組織の設置およびその分掌する事務については、条例で定めるものとする(158条1項)。
■長と議会の関係
憲法上、長と議会の議員はそれぞれ住民によって直接に選挙され(憲法93条2項)、両者は独立対等の立場に立つ。
ただし、行政の円滑な運営と相互抑制という観点から、両者が関係を持つ場合が定められている。 (1)再議の制度、(2)議会による長の不信任議決の制度とそれに対する長の議会解散権、(3)長の専決処分などがある。
(1) 長の付再議権(拒否権)
再議とは、議会が下した決定につき再度審議するよう、長が議会に要請する制度のことをいう。長のこのような権限を、付再議権や拒否権とよぶ。権限を行使することが任意的な任意的付再議権(一般的拒否権)と、権限を行使することが義務的な必要的付再議権(特別拒否権)の2種類がある。
① 任意的付再議権(一般的拒否権)
議会の議決について異議があるときは、長は、原則として、その議決の日から(条例の制定改廃・予算に関する議決についてはその送付の日から)10日以内に理由を示して再議に付することができる(176条1項)。これに対し、議会が出席議員の過半数の同意により同一内容の議決をした場合には、その議決は確定する(176条2項3項)。ただし、条例の制定改廃・予算に関する議決については3分の2以上の者の同意が必要になる。
② 必要的付再議権(特別拒否権)
(a) 越権・違法な議決・選挙
議会の議決または選挙がその権限を超えまたは法令もしくは会議規則に違反すると認めるときは、長は、理由を示してこれを再議に付し、または再選挙を行わせなければならない(176条4項)。
再議の議決または再選挙の選挙がなおその権限を超えまたは法令もしくは会議規則に違反すると認めるときは、都道府県知事にあっては総務大臣に、市町村長にあっては都道府県知事に対し、当該議決または選挙があった日から21日以内に、審査を申し立てることができる(176条5項)。この申立てがあった場合に、総務大臣または都道府県知事は、審査の結果、議会の議決または選挙がその権限を超えまたは法令もしくは会議規則に違反すると認めるときは、当該議決または選挙を取り消す旨の裁定をすることができる(176条6項)。
この裁定に不服があるときは、普通地方公共団体の議会または長は、裁定のあった日から60日以内に、裁判所に出訴することができる。
(b) 義務的経費を削除・減額する議決
議会において、法令により負担する経費、法律の規定に基づき当該行政庁の職権により命ずる経費その他の普通地方公共団体の義務に属する経費を削除しまたは減額する議決をしたときは、その経費およびこれに伴う収入について、長は、理由を示してこれを再議に付さなければならない。
再議の議決がなお経費を削除しまたは減額したときは、長は、その経費およびこれに伴う収入を予算に計上してその経費を支出することができる(177条2項)。つまり、原案通り執行可能なので、原案執行とよばれる。
(c) 非常的経費を削除・減額する議決
議会において、非常の災害による応急もしくは復旧の施設のために必要な経費または感染症予防のために必要な経費を削除しまたは減額する議決をしたときは、その経費およびこれに伴う収入について、長は、理由を示してこれを再議に付さなければならない。
再議の議決がなお経費を削除しまたは減額したときは、長は、その議決を不信任の議決とみなすことができる(177条3項)。
(2) 議会による長の不信任議決とそれに対する長の議会解散権
議会は、議員数の3分の2以上の者が出席し、その4分の3以上の者の同意による議決により、長に対する不信任議決をすることができる(178条1項3項)。
これに対し、長は、議決の通知を受けた日から10日以内に議会を解散することができる(178条1項)。この期間内に議会を解散しないとき、この期間が経過した日に、長は職を失う(178条2項)。
また、解散した場合も、その解散後初めて招集された議会において、議員数の3分の2以上の者が出席し、その過半数の者の同意による再度の不信任議決があった場合は、議長からその旨の通知があった日に、長は職を失う(同条2項3項)。
(3) 長の専決処分
長の専決処分とは、本来議会の議決を経るべき事件につき、一定の場合に長がその議決を経ずに事件の処分を行うことをいう。法律の規定に基づく専決処分と、議会の委任による専決処分とがある。法律の規定による専決処分をした場合は、長は議会に報告し、承認を受けなければならない。
① 法律の規定に基づく専決処分
次の場合に、長は、その議決すべき事件を処分することができる(179条1項)。
ⅰ) 議会が成立しないとき
ⅱ) 会議を開くことができないとき ⅲ) 議会の議決すべき事件について特に緊急を要するため議会を招集する時間的余裕がないことが明らかであると認めるとき ⅳ) 議会において議決すべき事件を議決しないとき |
ただし、副知事または副市町村長の選任の同意については、専決処分をすることができない(179条1項但書)。
法律に基づく専決処分をしたときは、長は、次の会議においてこれを議会に報告し、その承認を求めなければならない(179条3項)。
② 議会の委任による専決処分
議会の権限に属する軽易な事項で、その議決により特に指定したものは、長において、これを専決処分にすることができる(180条1項)。
議会の委任による専決処分をしたときは、長は、これを議会に報告しなければならない(180条2項)。