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1地方公共団体の事務

堀川 寿和2021/12/06 16:00

地方公共団体の権能

憲法94条は、地方公共団体の権能について、「その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を定めることができる」と定める。

 この規定からもわかるように、地方公共団体の基本的な権能は、行政権と自治立法権であり、これらによって事務を処理することになる。

 また、憲法の上記規定を受けて、普通地方公共団体の一般的権能を定める地方自治法2条2項では、普通地方公共団体が処理する事務として以下のものを定める。

1. 地域における事務

2. 地域における事務以外の事務であって法律またはこれに基づく政令により処理することとされているもの 例:国際協力の目的で外国の地方公共団体等にその地方公共団体の職員を派遣すること


地方公共団体の事務

 普通地方公共団体は、地域における事務などを広く担うこととされているが、その内容は『自治事務』と『法定受託事務』に区分される。


(1) 自治事務

 自治事務とは、地方公共団体が処理する事務のうち、法定受託事務以外のものである(2条8項)。つまりは「控除」の概念だが、この控除概念が採用されたのは、現実に地方公共団体が処理している事務が多種多様であり、積極的に定義することが困難であることや、それが地域における行政を地方公共団体が広く担うとする考え方にも合致するからとされる。


(2) 法定受託事務

 法律または法律に基づく政令により、国等から地方公共団体に委託する事務であり、これには第一号法定受託事務(2条9項1号)と第二号法定受託事務(2条9項2号)とがある。

① 第一号法定受託事務

 第一号法定受託事務とは、法律またはこれに基づく政令により都道府県、市町村または特別区が処理することとされる事務のうち、国が本来果たすべき役割に係るものであって、国においてその適正な処理を特に確保する必要があるものとして法律またはこれに基づく政令に特に定める事務をいう。第一号法定受託事務の内容については、地方自治法の別表第一を参照のこと。

② 第二号法定受託事務

 第二号法定受託事務とは、法律またはこれに基づく政令により市町村または特別区が処理することとされる事務のうち、都道府県が本来果たすべき役割に係るものであって、都道府県においてその適正な処理を特に確保する必要があるものとして法律またはこれに基づく政令に特に定める事務をいう。第二号法定受託事務の内容については、地方自治法の別表第二を参照のこと。

(3) 法定受託事務の処理基準

 各大臣は、その所管する法律またはこれに基づく政令に係る都道府県の法定受託事務の処理について、都道府県が当該法定受託事務を処理するに当たりよるべき基準を定めることができる(245条の9第1項)。

 都道府県の執行機関(都道府県知事等)は、市町村の法定受託事務の処理について、市町村が法定受託事務を処理するに当たりよるべき基準を定めることができる(245条の9第2項)。なお、この基準が第一号法定受託事務の処理に係るものであるとき、各大臣は、その所管する法律またはこれに基づく政令に係る市町村の第一号法定受託事務の処理について、都道府県の執行機関に対し、必要な指示をすることができる。

 各大臣は、特に必要があると認めるときは、その所管する法律またはこれに基づく政令に係る市町村の第一号法定受託事務の処理について、市町村が当該第一号法定受託事務を処理するに当たりよるべき基準を定めることができる。


【法定受託事務の基準設定者】

種類受託者基準設定者
第一号法定受託事務・大臣
・都道府県知事等(大臣の指示可)
・大臣
第二号法定受託事務・都道府県知事等


(4) 法定受託事務の代執行

 法定受託事務は地方公共団体の事務であるが、国等が本来果たすべき役割に係るものを、法律またはこれに基づく政令により、地方公共団体が処理することとされている事務である。

 したがって、法定受託事務の管理・執行が法令の規定その他に違反する場合や、法定受託事務の管理・執行の懈怠に対して、国の行政機関は、一定の手続を経たうえで、これを代執行することができる(245条の8第8項)。

 また、市町村の法定受託事務についても、都道府県知事が同様の手続により代執行することができる(同条第12項)。


自治事務と法定受託事務の扱いの違い

自治事務と法定受託事務は、制度上の取扱いもいろいろと異なっている。ここでは、その違いを整理しておこう。


(1) 条例制定権

 まず、自治事務については、本来その地方公共団体が処理する事務なのだから、それにかかる条例を制定できるのは当然である。これに対し、法定受託事務にかかる条例を、その地方公共団体が制定できるのかという問題が生じる。

 この点、法定受託事務は、国の法律あるいはこれに基づく政令により処理することが原則とされ、その内容、基準、手続等が国の法令に詳細に規定されているので、条例で定めることができる余地は極めて少なくなるものの、法定受託事務であることのみをもって、条例で定めることを一切排除するものではなく、条例の制定は可能であるとするのが一般的である。


(2) 議会の権限

 自治事務については、地方自治法が議会の権限として定める議決権、検閲・検査権、監査請求権、調査権の全てが及ぶ(一部例外もあり)。

 一方、法定受託事務については、議会の議決権が及ぶのは法律またはこれに基づく政令でこれを認める場合に限られることとなっており、条例で自由に議決の対象とできるものではない。また、法定受託事務に関する検査、監査請求、調査については、国の安全や個人の秘密に関わる事務、収用委員会の権限に属する事務はその対象外とされている。


(3) 監査委員の監査

 自治事務については、財務監査、行政監査、直接請求に基づく監査、議会の監査請求に基づく監査など、監査委員の監査の権限が全面的に及ぶ。

 法定受託事務については、前述の議会の権限が及ばない場合と同様、国の安全や個人の秘密に関わる事務、収用委員会の権限に属する事務はその対象外とされている。


(4) 審査請求

 国と地方公共団体は、行政主体として相互に独立・対等であることから、地方公共団体の事務について不服がある者は、「上級の審査庁に審査請求する」という概念が成立せず、原則としてその地方公共団体に対する異議申立てをすることとなる。つまり、自治事務については国の行政機関に対する審査請求は認められないのが原則である(個別法に定めがあれば別)。

 一方、法定受託事務については、機関委任事務の時のように主務大臣や都道府県知事が上級行政庁として審査請求を当然に受けるというものではないが、その事務の適正な実施が国や都道府県において特に確保する必要があるという性格から、地方自治法において、国の行政機関や都道府県知事などに対し、審査請求をすることが認められている。


(5) 国等の関与

 関与の類型についても、自治事務と法定受託事務では違いがある。詳細は後述。