• 行政法ー5.情報公開法
  • 1.情報公開法の概要
  • 情報公開法の概要
  • Sec.1

1情報公開法の概要

堀川 寿和2021/12/06 15:29

情報公開法の概要

 情報公開法は、正式名称を『行政機関の保有する情報の公開に関する法律(情報公開法)』という。

 情報公開法は、「国民主権の理念にのっとり、行政文書の開示を請求する権利につき定めること等により、行政機関の保有する情報の一層の公開を図り、もって政府の有するその諸活動を国民に説明する責務が全うされるようにするとともに、国民の的確な理解と判断の下にある公正で民主的な行政の推進に資することを目的とする」(情報公開法1条)。



(1) 対象となる行政機関

 情報公開法は、原則として、国のすべての行政機関が保有する情報を対象にしている。つまり、対象となるのは行政機関であり、国会や裁判所が保有する情報は対象とならない。

 情報公開法の対象となる主な行政機関は、次のとおりである(情報公開法2条1項)。

① 法律の規定に基づき内閣に置かれる機関(内閣府を除く)および内閣の所轄の下に置かれる機関

② 内閣府、宮内庁並びに内閣府設置法49条1項および2項に規定する機関

③ 会計検査院

※ 国会や裁判所は、行政機関には含まれない。また、独立行政法人等については、独立行政法人等情報公開法により規律されている。


(2) 行政文書

 情報公開法による開示請求の対象となるのは行政文書である。

 情報公開法にいう行政文書とは、「行政機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画及び電磁的記録であって、当該行政機関の職員が組織的に用いるものとして、当該行政機関が保有しているもの」をいう(情報公開法2条2項)。

 ただし、次のものは行政文書から除外される(情報公開法2条2項但書)。

① 官報、白書、新聞、雑誌、書籍その他不特定多数の者に販売することを目的として発行されるもの

② 公文書等の管理に関する法律2条7項に規定する特定歴史公文書等

③ 政令で定める研究所その他の施設において、政令で定めるところにより、歴史的若しくは文化的な資料又は学術研究用の資料として特別の管理がされているもの(上記②を除く。)


行政文書の開示

 何人も、情報公開法に基づき、行政機関の長に対し、当該行政機関の保有する行政文書の開示を請求することができる(情報公開法3条)。

 開示請求権者は限定されていないので、外国人や法人等の団体も開示請求をすることができる。


(1) 開示請求の手続

① 開示請求書の提出

 開示請求は、次の事項を記載した書面(開示請求書)を行政機関の長に提出してしなければならない(4条1項)。

(a) 請求者に関する情報
 ⅰ) 開示請求をする者の氏名または名称
 ⅱ) 住所または居所
 ⅲ) 法人その他の団体にあっては代表者の氏名
(b) 行政文書に関する情報
 行政文書の名称その他の開示請求にかかる行政文書を特定するに足りる事項

※ 理由の記載は不要

② 開示請求書の補正

 行政機関の長は、開示請求書に形式上の不備があると認めるときは、開示請求をした者(開示請求者)に対し、相当の期間を定めて、その補正を求めることができる(4条2項)。


(2) 行政文書の開示・不開示

① 行政文書の開示義務(情報公開法5条)

 行政機関の長は、開示請求があったときは、原則として、開示請求者に対し、開示請求に係る行政文書を開示しなければならない。

 ただし、当該行政文書に不開示情報が記載されている場合を除く。


② 不開示情報(情報公開法5条各号)

 開示請求にかかる行政文書に「不開示情報」が記載されている場合は、当該行政文書は開示されない。不開示情報には、次のものがある。


(a) 個人に関する情報
ⅰ) 当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)
ⅱ) 特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの。

ただし、次に掲げる情報を除く。
イ 法令の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報
ロ 人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報
ハ 当該個人が公務員等である場合において、当該情報がその職務の遂行に係る情報であるときは、当該情報のうち、当該公務員等の職及び当該職務遂行の内容に係る部分
 (b) 次のいずれかに該当する特定の個人を識別することができる氏名、生年月日その他の記述等(他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)又は個人識別符号

ⅰ) 行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律に規定する行政機関非識別加工情報又は行政機関非識別加工情報の作成に用いた保有個人情報から削除した記述等又は個人識別符号

ⅱ) 独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律に規定する独立行政法人等非識別加工情報又は独立行政法人等非識別加工情報の作成に用いた保有個人情報から削除した記述等又は個人識別符号

(c) 法人その他の団体に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報

ⅰ) 公にすることにより、当該法人等又は当該個人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの

ⅱ) 行政機関の要請を受けて、公にしないとの条件で任意に提供されたものであって、法人等又は個人における通例として公にしないこととされているものその他の当該条件を付することが当該情報の性質、当時の状況等に照らして合理的であると認められるもの

ただし、人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報を除く。

(d) 公にすることにより、国の安全が害されるおそれ、他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報

(e) 公にすることにより、犯罪の予防、鎮圧又は捜査、公訴の維持、刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報

(f) 国の機関、独立行政法人等、地方公共団体及び地方独立行政法人の内部又は相互間における審議、検討又は協議に関する情報であって、公にすることにより、率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ、不当に国民の間に混乱を生じさせるおそれ又は特定の者に不当に利益を与え若しくは不利益を及ぼすおそれがあるもの

(g) 国の機関、独立行政法人等、地方公共団体又は地方独立行政法人が行う事務又は事業に関する情報であって、公にすることにより、当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの


(3) 部分開示

 部分開示とは、不開示情報が記録されている部分を除いた部分について開示することをいう。

① 一般的部分開示

 行政機関の長は、開示請求にかかる行政文書の一部に不開示情報が記録されている場合において、不開示情報が記録されている部分を容易に区分して除くことができるときは、開示請求者に対し、当該部分を除いた部分につき開示しなければならない。ただし、当該部分を除いた部分に有意の情報が記録されていないと認められるときは、開示を要しない(6条1項)。

② 個人に関する情報の部分開示

 開示請求にかかる行政文書に特定の個人を識別することができる情報が記録されている場合において、当該情報のうち、氏名、生年月日その他の特定の個人を識別することができることとなる記述等の部分を除くことにより、公にしても、個人の権利利益が害されるおそれがないと認められるときは、当該部分を除いた部分は、不開示情報に含まれないものとみなされ、一般的部分開示の規定が適用される(6条2項)。


(4) 公益上の理由による裁量的開示

 行政機関の長は、開示請求にかかる行政文書に不開示情報(上記(2)②(b)に該当する情報を除く。)が記録されている場合であっても、公益上特に必要があると認めるときは、開示請求者に対し当該行政文書を開示することができる(情報公開法7条)。


(5) 行政文書の存否に関する情報

 開示請求に対し、当該開示請求にかかる行政文書が存在しているか否かを答えるだけで不開示情報を開示することになってしまうときは、行政機関の長は、当該行政文書の存否を明らかにしないで、当該開示請求を拒否することができる(情報公開法8条)。


(6) 開示請求に対する措置等

① 開示請求に対する措置

 行政機関の長は、開示請求にかかる行政文書の全部または一部を開示するときは、その旨の決定をし、開示請求者に対し、その旨および開示の実施に関し政令で定める事項を書面により通知しなければならない(9条1項)。

 逆に、開示しないときは開示しない旨の決定をし、開示請求者に対し、その旨を書面により通知しなければならない(9条2項)。なお、上記8条の規定により拒否する場合や、開示請求の対象となった行政文書自体が存在しない場合も同様の扱いとなる。


【開示決定の種類】

開示全部開示決定
一部開示決定
不開示全部不開示決定


② 開示決定等の期間

 行政機関の長は、開示決定等を、原則として、開示請求があった日から30日以内にしなければならない。ただし、補正を求めた場合にあっては、当該補正に要した日数は、当該期間に算入されない(情報公開法10条1項)。

 ただし、事務処理上の困難その他正当な理由があるときは、上記の期間を30日以内に限り延長することができる。この場合は、開示請求者に、遅滞なく、延長後の期間および延長の理由を書面により通知しなければならない(情報公開法10条2項)。

 また、特例として、開示請求に係る行政文書が著しく大量であるため、開示請求があった日から60日以内にそのすべてについて開示決定等することにより事務の遂行に著しい支障が生ずるおそれがある場合は、開示請求に係る行政文書のうちの相当部分につき60日以内に開示決定等をし、残りの行政文書については、相当の期間内に開示決定等をすれば足りる。この場合は、30日内に、開示請求者に対し、この特例が適用される旨およびその理由、残部についての期限を書面により通知しなければならない(情報公開法11条)。


【開示決定等の期間】

事由期限書面による通知(義務)
原則開示請求の日から30日以内なし
事務処理上の困難その他正当な理由があるとき開示請求の日から30日
+30日以内で延長可能
=最長60日
時期
・遅滞なく
内容
・延長の期間
・延長の理由
開示請求に係る行政文書が著しく大量で、開示請求から60日以内に開示決定等をすると相当の部分
→開示請求の日から60日以内
残りの部分
→相当の期間内
時期
・開示請求の日から30日以内
内容
・特例が適用される旨
・特例が適用される理由
・残りの部分についての期限


③ 第三者に対する意見書提出の機会の付与

 開示請求に係る行政文書の中に第三者に関する情報が記録されている場合に、その行政文書の開示により、この第三者が不利益を受ける可能性がある。そこで、開示の前に第三者に意見提出の機会が与えられている。

 開示請求にかかる行政文書に第三者に関する情報が記録されているときは、行政機関の長は、開示決定等をするにあたって、当該情報にかかる第三者に対し、意見書を提出する機会を与えることができる(情報公開法13条1項)。

 また、行政機関の長は、第三者に関する情報が記録されている行政文書を、公益上の理由等により開示しようとするときは、原則として、開示決定に先立ち、当該第三者に対し、意見書を提出する機会を与えなければならない(情報公開法13条2項)。

もっとも、第三者の所在が判明しない場合はこの限りではない。(情報公開法13条2項但書)


④ 開示の実施

 行政文書の開示は、文書または図画については閲覧または写しの交付により、電磁的記録についてはその種別、情報化の進展状況等を勘案して政令で定める方法により行われる。ただし、閲覧の方法による行政文書の開示にあっては、行政機関の長は、当該行政文書の保存に支障を生ずるおそれがあると認めるときその他正当な理由があるときは、その写しにより、これを行うことができる(情報公開法14条1項)。

 一方、開示決定に基づき行政文書の開示を受ける者は、政令で定めるところにより、当該開示決定をした行政機関の長に対して、その求める開示の実施の方法その他の政令で定める事項を申し出なければならない。この申し出は、原則として、開示決定の通知があった日から30日以内にしなければならない(情報公開法14条2項、3項)。


⑤ 手数料

 開示請求をする者または行政文書の開示を受ける者は、政令で定めるところにより、それぞれ、実費の範囲内において政令で定める額の開示請求にかかる手数料または開示の実施にかかる手数料を納めなければならない(16条1項)。


審査請求等

(1) 審査請求

 不開示の決定がなされた場合や、開示された情報に自分に関する情報が記録されていた場合など、開示決定等について不服がある者や、開示請求に係る不作為について不服がある者は、行政不服審査法に基づいて審査請求をすることができる。

 ただし、審理員制度や、行政不服審査会等への諮問制度など一部の規定は適用されない。


(2) 情報公開・個人情報保護審査会への諮問

 開示決定等又は開示請求に係る不作為について審査請求があったときは、当該審査請求に対する裁決をすべき行政機関の長(=諮問庁)は、原則として、情報公開・個人情報保護審査会に諮問しなければならない(情報公開法19条)。

 開示か不開示かの決定を行政機関の判断のみで行わせると、行政機関に都合のよくない情報は、不開示とされるおそれがあるため、客観的で公正な判断ができるよう第三者の立場からの判断も加えることとしている。なお、審査会の調査や審議の手続は、非公開で行われる(情報公開・個人情報保護審査会設置法14条)(以下「設置法」という)。


(3) 情報公開・個人情報保護審査会

 情報公開・個人情報保護審議会とは、情報公開法等の法律の規定による諮問に応じ、審査請求について調査審議するため、総務省に設置される機関である(設置法2条)。

① 審査会の組織

 審査会は、15人の委員で組織され(設置法3条1項)、委員の任期は3年であるが(設置法4条4項)、再任されることができる(設置法4条5項)。

 委員の任命は、優れた識見を有するもののうちから、両議院の同意を得て、内閣総理大臣が行う(設置法4条1項)。

 委員は、原則として非常勤であるが、5人以内は常勤とすることができる(設置法3条2項)。


② 合議体

 審査請求に係る事件について調査審議するのは、原則として、審査会が指名する3人の委員で構成される合議体である(設置法6条1項)。例外として、審査会が定める場合においては、委員の全員で構成する合議体で調査審議を行う(設置法6条2項)。


③ 審査会の調査・審議の手続

(a) 審査会の調査権限(設置法9条)

 審査会は、必要があると認めるときは、諮問庁に対し、(開示決定に係る)行政文書等の提示を求めることができる。諮問庁は、この請求を拒んではならない。なお、何人も、審査会に対し、その提示された行政文書等の開示を求めることができない。

審査会は、必要があると認めるときは、諮問庁に対し、行政文書等に記録されている情報の内容を、審査会の指定する方法により分類または整理した資料を作成し、審査会に提出するよう求めることができる。 

(b) 審査請求人等の権利保護

ⅰ) 意見陳述権(設置法10条)

 審査会は、審査請求人等から申立てがあったときは、当該審査請求人等に口頭で意見を述べる機会を与えなければならない。ただし、審査会が、その必要がないと認めるときは、この限りでない。

ⅱ) 意見書の提出権(設置法11条)

 審査請求人等は、審査会に対し、意見書または資料を提出することができる。

ⅲ) 提出資料の閲覧権(設置法13条)

 審査請求人等は、審査会に対し、審査会に提出された意見書または資料の閲覧を求めることができる。この場合において、審査会は、第三者の利益を害するおそれがあると認めるとき、その他正当な理由があるときでなければ、その閲覧を拒むことができない。


④ 答申

 審査会は、諮問に対する答申をしたときは、答申書の写しを審査請求人および参加人に送付するとともに、答申の内容を公表しなければならない(設置法16条)。


⑤ 審査請求の制限

 審査会設置法の規定により審査会または委員がした処分については、行政不服審査法による審査請求をすることができない(設置法15条)。付随的処分に過ぎないからである。


(4) 情報公開訴訟

 情報公開訴訟とは、開示決定等の取消しを求める訴訟または開示決定等にかかる審査請求に対する裁決若しくは決定の取消しを求める訴訟のことである。

 取消し訴訟は、被告である国の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所または処分若しくは裁決をした行政庁の所在地を管轄する裁判所の管轄に属する(行政事件訴訟法12条1項)が、原告の普通裁判籍の所在地を管轄する高等裁判所の所在地を管轄する地方裁判所(特定管轄裁判所)にも提起することができる(同条4項)