- 行政法ー4.行政救済法
- 2.行政事件訴訟法
- 行政事件訴訟法
- Sec.1
1行政事件訴訟法
行政事件訴訟は、訴訟によって、行政活動の効力について争うことを認めるものである。慎重で厳格な手続による救済が、公平中立の司法機関によってなされるものであるため、行政上の不服申立てと比して適正な結果を期待しやすい。
行政機関が行う略式の争訟手続である行政上の不服申立ては、その本質が内部審査であるので、「公平性」という観点からは疑義があるともいえ、その分、司法機関による慎重で厳格な手続による救済がなされるべきという要請が働く。行政事件訴訟制度はこの要請に応えるものである。行政上の不服申立てとの相違点を意識しつつ特徴をおさえていく必要がある。
■行政事件訴訟法総論
(1) 行政事件訴訟の意義
「行政事件訴訟」とは、通常裁判所(司法権の帰属する裁判所)が行政活動に関連する紛争に関し、正式の訴訟手続に基づいて行う訴訟(裁判)である。
行政上の不服申立てでは、違法な行政庁の処分だけでなく不当な行政庁の処分も救済の対象とされたが、裁判所が処分の不当性について判断することには問題があるため、行政事件訴訟では、処分の違法性についてのみ判断されることになる。
cf. 行政上の不服申立てにおいて行政機関が違法又は不当な行為を審査するのに対し、行政事件訴訟においては裁判所が違法な行為を裁判する。 |
(2) 行政事件訴訟法の沿革・位置づけ
大日本帝国憲法(明治憲法)下においては、行政事件を裁判するために、司法裁判所とは別の『行政裁判所』が設けられていたが、「公平中立」という点に問題があったほか、訴訟の対象となる事項が限定されているなど、国民の権利利益を救済する制度としては不十分であった。
日本国憲法においては、行政事件に関する訴訟も、民事および刑事事件に関する訴訟と同じく、通常裁判所が裁判をすることになった。また、行政事件訴訟に関する法整備も行われ、昭和23年には現在の行政事件訴訟法の前身となる行政事件訴訟特例法が制定された。しかし、この法律は、行政事件に関し、民事訴訟法についての特例(例:訴願前置主義、内閣総理大臣の異議の制度、事情判決)を一括して規定しただけであり、行政事件訴訟に関する他の規定との解釈上の疑義を生じることが少なくなかった。そこでその後、行政事件訴訟に関する全般的な見直しがなされ、昭和37年に現在の行政事件訴訟法が制定された。
行政事件訴訟法(以下「訴訟法」と呼ぶこともある)は行政事件訴訟の一般法である。他の個別法に定めがない限り、行政事件訴訟法が適用される(1条)。
そして、行政事件訴訟法に定めがない事項については「民事訴訟法」の例による(7条)。つまり、民事訴訟法の規定が適用される。
用語チェック: 例による
ある事項について、他の法令の規定を当てはめること。 「適用する」や「準用する」とは異なり、他の法令に規定されている一定の制度を包括的に当てはめるという意味である。 |
(3) 行政事件訴訟とは
行政事件訴訟法において、行政事件訴訟とは、抗告訴訟、当事者訴訟、民衆訴訟および機関訴訟をいう(訴訟法2条)。
① 主観訴訟
抗告訴訟および当事者訴訟は、主観訴訟と呼ばれる。主観訴訟とは、個人の権利・利益の保護を目的とする訴訟をいう。行政行為により自己が何らかの損害を受けたことに対する救済を求めて提訴するものである。
② 客観訴訟
民衆訴訟および機関訴訟は、客観訴訟と呼ばれる。客観訴訟とは、個人の権利・利益の保護とは関係なく、社会の利益のために提起される訴訟をいう。客観訴訟は、法律で特に定める場合に認められるものである。
(4) 行政事件訴訟の類型
① 抗告訴訟
抗告訴訟とは、行政庁の公権力の行使に対する不服の訴訟をいう(訴訟法3条1項)。
抗告訴訟について、行政事件訴訟法では、処分の取り消しの訴え、裁決の取り消しの訴え、無効等確認の訴え、不作為の違法確認の訴え、義務付の訴え、および差止めの訴えを定めている。
法定の抗告訴訟以外の抗告訴訟を無名抗告訴訟という。
(a) 処分の取消しの訴え
処分の取消しの訴えとは、行政庁の処分その他の公権力の行使に当たる行為(不服申立てに対する裁決・決定等を除く)の取消しを求める訴訟をいう(3条2項)。
(b) 裁決の取消しの訴え
裁決の取消しの訴えとは、審査請求その他の不服申立てに対する行政庁の裁決、決定その他の行為の取り消しを求める訴訟をいう(3条3項)。
(c) 無効等確認の訴え
無効等確認の訴えとは、処分もしくは裁決の存否またはその効力の有無の確認を求める訴訟をいう(3条4項)。
(d) 不作為の違法確認の訴え
不作為の違法確認の訴えとは、行政庁が法令に基づく申請に対し、相当の期間内に何らかの処分または裁決をすべきであるにかかわらず、これをしないことについての違法の確認を求める訴訟をいう(3条5項)。
(e) 義務付けの訴え
義務付けの訴えとは、次の場合において、行政庁がその処分または裁決をすべき旨を命ずることを求める訴訟をいう(3条6項)。
1. 行政庁が一定の処分をすべきであるにかかわらずこれがされないとき(次の2.の場合を除く)
2. 行政庁に対し一定の処分又は採決を求める旨の法令に基づく申請又は審査請求がされた場合において、当該行政庁がその処分又は採決をすべきであるにかかわらずこれがされないとき。 |
(f) 差止めの訴え
差止めの訴えとは、行政庁が一定の処分または裁決をすべきではないにかかわらずこれがされようとしている場合において、行政庁がその処分または裁決をしてはならない旨を命ずることを求める訴訟をいう(3条7項)。
② 当事者訴訟
当事者訴訟とは、(a)当事者間の法律関係を確認しまたは形成する処分または裁決に関する訴訟で法令の規定によりその法律関係の当事者の一方を被告とするもの、および(b)公法上の法律関係に関する確認の訴えその他の公法上の法律関係に関する訴訟をいう(訴訟法4条)。(a)は形式的当事者訴訟、(b)は実質的当事者訴訟と呼ばれる。公権力の行使に対する不服の訴訟とは異なり、権利主体が対等な立場で争う訴訟である。その実質は民事訴訟に近い。ただ、当事者となる者が一般私人ではなく、行政の関係者であるという点が特徴である。
(a) 形式的当事者訴訟
形式的当事者訴訟とは、当事者間の法律関係を確定しまたは形成する処分または裁決に関する訴訟で法令の規定によりその法律関係の当事者の一方を被告とするものをいう(4条前段)。つまり、本来であれば取消訴訟を提起すべき性質の争いであるが、個別の法令が当事者訴訟の形式で争うように命じていることから形式的当事者訴訟というのである。
例えば、土地収用法133条3項は、収用委員会の裁決のうち損失の補償に関する訴えは、これを提起した者が起業者(都道府県や第三セクター)であるときは土地所有者または関係人を、土地所有者または関係人であるときは起業者を、それぞれ被告としなければならないと定めている。収用委員会を相手取って裁決の取消しの訴えをすることは認められていない。
(b) 実質的当事者訴訟
実質的当事者訴訟とは、当事者間の公法上の法律関係に関する確認の訴えその他の公法上の法律関係に関する訴訟をいう(4条後段)。
公法上の地位(例:公務員の地位)等の確認訴訟、公法上の金銭債権(例:公務員の俸給、公法上の損失補償)の支払請求訴訟がこれにあたる。
③ 民衆訴訟
民衆訴訟とは、国または公共団体の機関の法規に適合しない行為の是正を求める訴訟で、選挙人たる資格その他自己の法律上の地位に関わらない資格で提起するものをいう(5条)。
例えば、公職選挙法の当選の効力に関する訴訟(選挙訴訟)(同法207条、208条)、地方自治法の住民訴訟(同法242の2)がこれにあたる。
④ 機関訴訟
機関訴訟とは、国または公共団体の機関相互間における権限の存否またはその行使に関する紛争についての訴訟をいう(6条)。
■取消訴訟
処分や裁決の取消しの訴えを便宜上取消訴訟という。抗告訴訟の中心的な訴訟類型である。
(1) 取消訴訟と行政上の不服申立てとの関係
① 自由選択主義
行政庁の処分につき行政不服審査法その他法令の規定により審査請求をすることができる場合においても、原則として、処分の取消しの訴えを直ちに提起することが認められる(訴訟法8条1項本文)。つまり、訴訟提起と不服申立ては、どちらを先に行ってもよく、また同時に行うことも許される。当事者の自由選択主義を採っている。
② 訴訟手続の中止
取消訴訟が提起されている処分につき審査請求もされているときは、裁判所は、その審査請求に対する裁決があるまで(審査請求があつた日から3箇月を経過しても裁決がないときは、その期間を経過するまで)、訴訟手続を中止することができる。
これは、不服申立てと行政事件訴訟で矛盾する結論が下されることを回避するためである。
(2) 審査請求前置主義
① 審査請求前置主義
法律に当該処分についての審査請求に対する裁決を経た後でなければ処分の取消しの訴えを提起することができない旨の定めがあるときは、直ちに処分取消の訴えを提起することができない(8条1項但書)。これを審査請求前置主義といい、自由選択主義の例外となる。
② 審査請求前置主義の例外
審査請求前置主義がとられる場合であっても、次のいずれかに該当するときは裁決を経ないで取消訴訟を提起できる(同条2項)。
1. 審査請求があった日から3ヶ月を経過しても裁決がないとき。
2. 処分、処分の執行または手続の続行により生ずる著しい損害を避けるため緊急の必要があるとき。
3. その他裁決を経ないことにつき正当な理由があるとき。
(3) 原処分主義
ある処分についての不服申立てがなされたが、棄却の裁決を受けた場合、原処分の取消しの訴えと裁決の取消しの訴えと、どちらを提起するべきかという問題が生じる。この点、両方を提起することができるときは、裁決の取消しの訴えでは、当該裁決に固有の違法についてしか主張することができず(例えば審査請求の審理手続に違法があった)、原処分の違法を主張することはできない。よって、原処分に不服があるのであれば、原処分の取消しの訴えによらなければならない(10条2項)。これを原処分主義という。
ただし、特別法により、原処分についての出訴を許さず、裁決に対してのみ出訴ができる旨の規定がおいてある場合は、裁決の取消しの訴えにおいて原処分の違法を主張することができる。これは、裁決主義とよばれる。
(4) 訴えの提起 ― 訴訟要件
訴訟要件とは、訴えが適法として、本案審理を行うための要件である。訴訟要件が1つでも欠けると、その訴えは不適法として却下される。
取消訴訟のおもな訴訟要件は、次のとおりである。
① 行政庁の処分、裁決または決定があること(とくに処分の取り消しの場合の処分性)
② 原告適格があること ③ 訴えの利益があること ④ 出訴期間内に訴訟提起がなされたこと ⑤ 被告適格があること ⑥ 審査請求前置の場合に、不服申立てに対する裁決を経たこと |
① 処分性
処分の取消しの訴えの対象となるのは、「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる」行為である(訴訟法3条2項)。この処分にあたることを処分性という。判例は、処分とは、「公権力の主体たる国または公共団体のうち、その行為によって直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているものをいう」と判示している(最判S39.10.29)。
基本的には、講学上の行政行為と同義と捉えてよいが、濫訴を防ぐ趣旨から、「訴訟による救済を求めなければならない程度に紛争が成熟していること」が処分性の要件に含まれると考えられる。
なお、裁決取り消しの訴えの対象となるのは、不服申立てに対する裁決や決定である。
(a) 規範定立行為
法規命令や条例・規則の制定など、行政庁による規範定立行為は、一般的抽象的な権利義務を定めるものであり、特定人の具体的な権利義務に影響を及ぼすものではないため、通常、処分性はないとされる。
しかし、このような行為であっても、実質的に見て具体的処分にあたるときには処分性ありとされる。
規範定立行為 | 原則 | 処分性なし |
1.告示による一括指定の方法でされた建築基準法42条2項に基づいて行政庁のする道路の指定(最判H14.1.17)。
2.市の設置する特定の保育所を廃止する条例の制定(最判H21.11.26) | 処分性あり |
(b) 行政機関の内部行為
通達など行政機関相互間で行われるものは、国民との関係で直接の権利変動を生じる行為ではないため、通常、処分性はないとされる。
行政機関の内部行為 | 1. 通達(最判S43.12.24)
2. 消防法に基づいて消防長がした建築許可の同意、又は同意の取消し(最判S34.1.29) 3. 全国新幹線鉄道整備法9条に基づく運輸大臣の工事実施計画の認可(最判S53.12.8) | 処分性なし |
(c) 行政指導
行政指導は、相手方私人の任意の協力のもとに行われるものであり、行政指導が直接国民に法効果を有するものではないので、通常、処分性はないとされる。
行政指導 | 1. 社会保健医療担当者監査要項に基づき都道府県知事が保険医に対してした戒告(最判S38.6.4)
2. 海難審判法に基づき海難審判庁が行う原因解明裁決(最大判S36.3.15) | 処分性なし |
3. 病院開設中止の勧告 | 処分性あり |
判例 | 病院開設中止の勧告(最判H17.7.15) |
Xは、富山県高岡市内において病院の開設を計画し、Y(富山県知事)に対し、医療法の規定による許可の申請(本件申請)をした。これに対し、Yは医療法の規定に基づき、「高岡医療圏における病院の病床数が、富山県地域医療計画における必要病床数に達している」との理由で、病院の開設を中止するよう勧告した(本件勧告)。Xが本件勧告の違法を主張して提訴。 |
《論点》 | 本件勧告は、処分性を有し、取消しの訴えの対象となるか? |
《判旨》 | 本来行政指導自体には処分性は認められないが、本件の勧告は、従わなければ病院が開設できても保険医療機関の指定を受けられなくなる可能性が高い。すると、保険の利かない病院にかかる患者などほぼ存在しないので、結局病院の経営は成り立たず、開設を断念せざるを得なくなる。よって、これらの予想される結果等を併せて検討すると、本件勧告は処分性を有し、取消しの訴えの対象となる。 |
(d) 表示行為
行政の行為が、単に法律的見解を示すだけの行為である場合は、通常、処分性はないとされる。
ただし、表示行為にすぎなくても、相手方私人の法的地位の変動が認められる場合は、処分性が認められるとする。
表示行為 | 1. 公務員の採用内定通知(最判S57.5.27) | 処分性なし |
2. 関税定率法に基づき税関長がした輸入禁制品にあたる旨の通知(最判S54.12.25) | 処分性あり |
(e) 行政計画
行政計画は、通常、処分性はないとされる。
ただし、行政計画が、計画対象地区内の私人の法的地位に直接影響を及ぼす場合は、処分性が認められるとする。
行政計画 | 1. 都市計画法に基づく工業地域指定の決定(最判S57.4.22) | 処分性なし |
2. 市町村営土地改良事業の施行の認可(最判S61.2.13)
3. 都市再開発法に基づく第二種市街地再開発事業の事業計画の決定(最判H4.11.26) 4. 土地区画整理事業の計画の決定(最判H20.9.10)。 | 処分性あり |
※ 行政計画について、同じ行政計画同士であるのに処分性の有無について結論が分かれているのは、計画の施行地区内の土地所有者等に直接的な影響を与えるか否かが基準であるとされている。つまり、処分性があるとされた行政計画は、その計画決定を以て、施行地区内の土地所有者等の法的地位に直接影響を及ぼすため、処分性があるとしたのである。
(f) その他
その他 | 1. 供託金取戻請求が供託官により却下された処分(最判S45.1.15) | 処分性あり |
2. 国有普通財産の払い下げ(最判S35.7.12)
3. 道路交通法上の反則金の納付通知(最判S57.7.15) | 処分性なし |
判例 | 東京都ごみ焼却場事件(最判S39.10.29) |
東京都は、ごみ焼却場の設置を計画し、その計画案を都議会に提出し、都議会が計画案を可決したので、その旨を都の広報に記載し、建築会社と建築請負契約を締結した。これに対し、ごみ焼却場の近隣住民らは、本件ごみ焼却場の設置は清掃法6条に違反するとして、本件ごみ焼却場設置の一連の行為の無効を求めて訴えを提起した。 |
《論点》 | 本件ごみ焼却場設置行為は、処分性を有し、取消しの訴えの対象となるか? |
《判旨》 | 本件ごみ焼却場設置行為は東京都が公権力の行使により直接住民らの権利義務を形成し、またはその範囲を確定することを法律上認められている場合に該当するということはできないから、処分にあたらず、訴えは不適法である。 |
② 訴えの利益(原告適格、狭義の訴えの利益)
訴えの利益とは、訴訟を提起することで当事者が得られる利益をいう。その者に訴えの利益があるか否かという観点で検討する『原告適格』と、その者が訴訟を遂行することで得られる利益があるか否かという観点で検討する『狭義の訴えの利益』がある。
(a) 原告適格(特定の訴訟につき、当事者として訴訟を追行し、判決を求めるための資格)
「誰が」取消しの訴えを提起するだけの利益を有しているのかという問題である。この点、取消しの訴えは、「当該処分または裁決の取消しを求めるにつき、法律上の利益を有する者に限り提起することができる」とされる(9条1項)。
すなわち、法律上の利益が認められず、単なる反射的利益・事実上の利益を受けているに過ぎないものには、原告適格は認められない。
逆に、法律上の利益を有するものであれば、処分の直接の相手方でなくても原告適格は認められることになる。
i) 『法律上の利益を有する者』の意義
『法律上の利益を有する者』とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいう(判例)。
ii) 原告適格の有無の考え方
上記ⅰにいう者に該当するか否かの判断基準について、判例は、【当該基準を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益をもっぱら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべき者とする趣旨を含むと解される場合には、かかる利益も法律上保護された利益に当たり、当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は、当該処分の取消訴訟における原告適格を有する(最判H1.2.17)】とする。
つまり、行われた処分等の根拠となる法律の立法趣旨を検討するのである。
立法趣旨が、
・ 個々人の個別的利益を守ろうとするもの →原告適格あり ・一般的公益を守ろうとするもの →原告適格なし |
そして、『法律上の利益』の解釈にあたっては、裁判所は、処分又は裁決の相手方以外の者について当該利益の有無を判断するにあたっては、当該処分又は裁決の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨および目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容および性質を考慮するものとされている(9条2項)。
iii) 原告適格が認められる例
1. 第三者に対する公衆浴場営業許可処分の無効確認を求める既存の公衆浴場営業者(最判S37.1.19)
2. 航空事業免許が与えられることで飛行機の航行が行われ、その騒音によって社会通念上著しい障害を受けることになる飛行場の周辺住民(新潟空港事件 最判H1.2.17) 3. 原子炉設置許可について争った原子炉施設の周辺住民(もんじゅ訴訟 最判H4.9.22) |
iv) 原告適格が認められない例
1. 私鉄の運賃認可処分について争った利用者(最判H1.4.13)
2. 史跡指定解除について争った研究者(最判H1.6.20) 3. 町名変更にかかる区域内の住民(最判S48.1.19) |
(b) 狭義の訴えの利益
裁判は当事者に現実的救済を与えることを目的とするから、勝訴したとき(取消判決がされたとき)、原告の現実的救済を実現することができるような状況がなければ意味がない。そこで、処分・裁決を現実に取り消す必要性がなければならない。
具体的には以下のような場合に、訴えの利益が失われるとされる。
1. メーデーのための公園使用許可申請が不許可となったので取消しの訴えを提起して争っている間に、メーデーの期日(通常は5月1日)が過ぎてしまった場合(最大判S28.12.23)
2. 生活保護処分に関する不服申立ての却下裁決について取消しの訴えを提起して争っている最中に、原告が死亡したとき(朝日訴訟 最大判S42.5.24) 3. 建築基準法による建築確認処分の取消訴訟係属中に、建築物の工事が完了したとき(最判S59.10.26) |
逆に、訴えの利益が失われないと判示された例は以下のとおりである。
1. 公務員の免職処分の取消し訴訟係属中に、当該公務員が公職の候補者として届出をしたとき(最大判S40.4.28) →立候補までの間に受給しえた俸給相当額の金銭を請求できる利益があるから。
2. 自動車等運転免許の取消処分の取消訴訟係属中に、当該運転免許証の有効期間が経過したとき(最判S40.8.2) →取消処分の有効が前提であるため(公定力)、免許更新手続を行うことができない。そこで、救済を図る必要があるから。 |
③ 被告適格
誰を相手取って訴訟を提起するべきかという問題である。取消訴訟はその処分・裁決をした行政庁の所属する国または公共団体を被告として提起する(11条1項)。
④ 裁判管轄
何処の裁判所に出訴するべきかという問題である。
取消訴訟は、被告の普通裁判籍を管轄する裁判所または処分・裁決をした行政庁の所在地を管轄する裁判所に提起する(12条1項)。
また、国を被告とする取消訴訟は、原告の普通裁判籍の所在地(原告住所地)を管轄する高等裁判所の所在地を管轄する地方裁判所(「特定管轄裁判所」という)にも提起することができる。(12条4項)
⑤ 出訴期間
取消訴訟は、処分・裁決があったことを知った日(翌日)から6ヶ月を経過したときは提起することができなくなる(不可争力 14条1項)。また、処分・裁決の日(翌日)から1年を経過したときも提起することができなくなる(14条2項)。
ただし、正当な理由があるときはこの限りでない。
⑥ 当事者能力・訴訟能力の有無
当事者能力とは、そもそも訴訟の当事者となりうる能力をいう。民法の権利能力に近い概念である。
訴訟能力(独力で、有効な訴訟行為を行い、相手方や裁判所の訴訟行為を受けるための能力)とは、その者に訴訟を遂行しうるだけの能力があるかどうかの問題であり、民法の行為能力に近い概念である。その趣旨は当事者の保護にある。
⑦ 同一事件における確定判決の有無
確定判決は既判力(確定判決の後訴における、拘束力ないし通用力)を生じるので(民事訴訟法114条1項)、一旦判決が下されて確定した事件を蒸し返すことはできない。よって、既に確定判決が出ている事件について再度提起された訴えは却下される。
⑧ 審査請求前置の有無
審査請求前置が適用される場合は、その裁決を経ているかどうかが審理される。
(3) 取消訴訟の審理
① 要件審理
裁判所はまず、上記訴訟要件が漏れなく具備されているか否かを審理する。そして、漏れなく具備されていれば本案審理に移行し、逆に具備されていなければ『却下判決』が下される。なお、管轄違いの場合は特別の定めがあれば移送することができるので、この場合は却下とはならない。
② 本案審理
要件審理で不適法がなければ、裁判所は本案について審理し、請求認容の判決または請求棄却の判決により訴訟を終了させなければならない。
(a) 訴訟における当事者主義と職権主義
行政事件訴訟は民事訴訟を基調とする部分を有しており、最たるものが弁論主義の採用であるといえる。弁論主義とは、事実の主張及び証拠の申し出を当事者の職責とする建前をいう。そして、この弁論主義と、訴訟の提起と取下げを当事者の判断に委ねるという処分権主義を併せて当事者主義という。
(b) 弁論主義の3つのテーゼ(命題)
第1テーゼ | 裁判所は、当事者が主張しない事実を判決の基礎とすることができない。 |
第2テーゼ | 裁判所は、当事者間に争いのない事実をそのまま判決の基礎としなければならない。
自白の拘束力をあらわす。 |
第3テーゼ | 裁判所は、当事者の提出した証拠のみによって判決の基礎となる事実認定をしなければならない。
職権証拠調べの禁止をあらわす。 |
これらのテーゼのうち、行政事件訴訟では第3テーゼのみ採用されていない。これは、取消訴訟がその性質上、判決如何で公共の福祉に大きな影響を及ぼすことが考えられるため、弁論主義を基調としつつも職権主義の要素を加味したものである。よって、裁判所は職権証拠調べが可能である(24条)。
なお、審理の手続については裁判所の訴訟指揮に委ねる職権進行主義が採用されている(民事訴訟法93条1項、148条等)。
(c) 本案審理の対象
本案審理の対象となるのは、処分等の『違法性』に限られる。違法性とは、行政法規に違反することであり、行政庁の裁量の問題である処分等の妥当・不当の問題(公益問題)は原則として裁判所の審理の対象とはならない。ただし裁量権の逸脱・濫用があった場合は審理の対象となる(30条)。
(4) 判決
審理の結果下される判決の種類は以下のとおり。
① 却下判決
訴訟要件を欠く不適法な訴えであるとして、本案の審理を拒絶する判決である。
② 棄却判決
本案審理をした結果、原告の請求に理由なしとして、その主張を排斥する判決である。
③ 事情判決
処分または裁決が違法ではあるが、これを取り消すことにより公の利益に著しい障害を生ずる場合において、原告の受ける損害の程度、その損害の賠償または防止の程度及び方法その他一切の事情を考慮した上で、処分または裁決を取り消すことが公共の福祉に適合しないとして訴えを棄却する判決である。(訴訟法31条1項前段)。事情判決をする場合には、当該判決の主文において、処分又は裁決が違法であることを宣言しなければならない(訴訟法31条1項後段)。
④ 認容判決
本案審理の結果、原告の請求に理由ありとして、その請求の全部または一部を認容する判決である。
(a) 判決の効力
裁判所が下した判決には、以下の効力が発生する。なお、それらの効力は、判決が確定することによって発生する。つまり、上訴(控訴・上告)による係争中の状態では未だ確定していないため、発生しない。
ⅰ) 形成力
形成力とは、処分または裁決の取消判決が確定したときに、行政庁がその処分または裁決を自ら取り消すことを待つまでもなく、当然に処分または裁決の効力が消滅し、処分または裁決がなかった状態になる効力をいう。
ⅱ) 対世効
対世効とは、取消判決の効果が第三者にも及ぶ効力をいい、第三者に対しても絶対的に処分または裁決の効力が消滅する(32条1項)。そこで、第三者の利益を保護すべく、第三者の訴訟参加(22条)や、第三者の再審の訴え(34条)の規定が設けられている。
ⅲ) 拘束力
拘束力とは、取消判決が確定したときに、「行政庁が」その判決に従った行動を行うことを義務付けられ、同一の処分や裁決を改めて行うことが禁止されるという効力をいう。このため、処分または裁決をした行政庁その他の関係行政庁は、その事件について、裁判所が違法であるとした理由と同一の理由に基づいて、同一の処分または裁決をすることはできない(33条1項)。裏を返せば、「異なる理由であれば」同一の処分または裁決を改めてすることは許される。
ⅳ) 既判力
既判力とは、判決が確定すると、同一の事項について改めての訴えができなくなる効力をいう。紛争の蒸し返しを防ぐ趣旨である。既判力は、取消判決に限らず、棄却判決の場合にも生じる。
(b) 違法判断の基準時
取消訴訟において裁判所が判断すべきは、処分等が違法に行われたか否かである。この点、係争中、判決に至るまでに法律が改正されて、改正法に照らせば適法であるが、処分等が行われた当時は違法であるというような状態が生じたらどのように扱うかという問題がある。判例は、処分時を基準に違法を判断するとしている(最判S27.1.25)。これを処分時説という。
(5) 執行停止
① 執行不停止の原則
取消訴訟においては、訴訟を提起したからといってそれだけで処分の効力、処分の執行または手続の続行が停止することはない(25条1項)。執行不停止の原則である。濫訴を防止し、行政の円滑な運営を確保するために定められている。
② 執行停止
執行不停止によって生じる重大な損害を避けるため緊急の必要があるときは、例外的に、裁判所は申立てにより、決定をもって、執行停止をすることができる(25条2項本文)。
もっとも、執行停止は公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき、または本案について理由がないとみえるときはすることができない(25条4項)。
行政不服審査法と異なり、職権での執行停止は一切ないので注意。
【行政事件訴訟法と行政不服審査法の比較】
行政事件訴訟法 | 行政不服審査法 | |
執行停止の要件 | 重大な損害を避けるため緊急の必要があるとき | なし |
執行停止の発動 | 申立て | 申立て
上級行政庁は職権も可 |
必要的執行停止 | なし | あり
重大な損害を避けるため緊急の必要があるときは、原則として、執行停止をしなければならない |
(6) 内閣総理大臣の異議
執行停止の申立てがあった場合や執行停止の決定があった場合は、やむを得ない場合に限り、内閣総理大臣は裁判所に対し、その理由を付して異議を申し述べることができる(27条)。
この異議があったときは、裁判所は執行停止をすることができず、また、既に執行停止の決定をしているときは、これを取り消さなければならない(絶対的拒否権 27条4項)。
(7) 取消訴訟等の提起に関する事項の教示(訴訟法46条)
行政庁は、取消訴訟を提起することができる処分または裁決を書面でする場合には、その相手方に対し、①取消訴訟の被告とすべき者、②取消訴訟の出訴期間、および③法律に当該処分についての審査請求に対する裁決を経た後でなければ処分の取消しの訴えを提起することができない旨(審査請求前置主義)の定めがあるときはその旨を書面で教示しなければならない。ただし、処分が口頭でされる場合は、教示する必要はない。
また、行政庁は、法律に処分についての審査請求に対する裁決に対してのみ取消訴訟を提起することができる旨(採決主義)の定めがある場合において、当該処分をするときは、その相手方に対し、法律にその定めがある旨を書面で教示しなければならない。ただし、処分が口頭でされる場合は、教示の必要はない。
これらは必要的教示となっているが、行政不服審査法のように請求による教示や誤った教示に対する救済の制度は定められていない。
【行政事件訴訟法と行政不服審査法の比較】
行政事件訴訟法 | 行政不服審査法 | |
必要的教示 | あり | あり |
請求による教示 | なし | あり |
誤った教示に対する救済 | なし | あり |
(8) 第三者の訴訟参加
裁判所は、訴訟の結果により権利を害される第三者があるときは、当事者若しくはその第三者の申立てにより又は職権で、決定をもつて、その第三者を訴訟に参加させることができる(訴訟法22条1項)。
(9) 訴えの移送
訴えの移送とは、訴訟係属を他の裁判所に移すことである。
取消訴訟と関連請求に係る訴訟とが各別の裁判所に係属する場合において、相当と認めるときは、関連請求に係る訴訟の係属する裁判所は、申立てにより又は職権で、その訴訟を取消訴訟の係属する裁判所に移送することができる(訴訟法13条)。
なお、関連請求とは、以下のものである。
ⅰ) 当該処分又は裁決に関連する原状回復又は損害賠償の請求
ⅱ) 当該処分とともに一個の手続を構成する他の処分の取消しの請求 ⅲ) 当該処分に係る裁決の取消しの請求 ⅳ) 当該裁決に係る処分の取消しの請求 ⅴ) 当該処分又は裁決の取消しを求める他の請求 ⅵ) その他当該処分又は裁決の取消しの請求と関連する請求 |
(10) 訴えの併合および変更
訴えの併合とは、1つの訴訟で複数の訴訟を審理することであり、訴えの変更とは、ある訴訟を違う訴訟に変更することである。これらについては、取消訴訟だけでなく、他の訴訟にも準用される。
① 訴えの併合
訴えの併合には、請求の客観的併合と、原告による請求の追加的併合がある。
なお、訴えを併合する場合において、取消訴訟の第一審裁判所が高等裁判所であるときは、関連請求に係る訴えの被告の同意を得なければならない(訴訟法16条2項前段)。
ⅰ) 請求の客観的併合
取消訴訟には、関連請求に係る訴えを併合することができる(訴訟法16条1項)。
ⅱ) 原告による請求の追加的併合
原告は、取消訴訟の口頭弁論の終結に至るまで、関連請求に係る訴えをこれに併合して提起することができる(訴訟法19条1項)。
② 訴えの変更
裁判所は、取消訴訟の目的たる請求を当該処分又は裁決に係る事務の帰属する国又は公共団体に対する損害賠償その他の請求に変更することが相当であると認めるときは、請求の基礎に変更がない限り、口頭弁論の終結に至るまで、原告の申立てにより、決定をもって、訴えの変更を許すことができる(訴訟法21条1項)。
(11) その他
① 仮処分の排除
行政庁の処分その他公権力の行使にあたる行為については、民事保全法に規定する仮処分をすることができない(44条)。
② 争点訴訟
私法上の法律関係に関する訴訟において、処分・裁決の存否・効力の有無等が争われている場合を争点訴訟という。
形式的には民事訴訟だが、行政処分が無効かどうかが争点となっているため、こう呼ばれる。この性格に照らし、行政事件訴訟法の規定の一部が準用される。
■取消訴訟以外の抗告訴訟
取消訴訟以外の抗告訴訟については、基本的に取消訴訟に関する規定が準用される(38条)。
(1) 無効等確認の訴え
無効等確認の訴えは、無効である処分等を前提として、それに続く処分等が行われようとしている場合に提起する意義がある。例えば、課税処分が無効であるにもかかわらず、税務署長がこれを有効視して、課税処分に続く滞納処分をするおそれがあるため、課税処分が無効であることを裁判所に認定してもらおうとする場合などである。
この訴訟は、当該処分または裁決に続く処分により損害を受けるおそれのある者その他当該処分または裁決の無効等の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者で、当該処分若しくは裁決の存否またはその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによって目的を達成することができない者に限り、提起することができる(36条)。つまり、行政行為の無効を前提とした法律行為を主張する当事者訴訟や通常の民事訴訟で目的が達成できる場合には、無効等確認の訴えは提起することができない。出訴期間の制限はない。
(2) 不作為の違法確認の訴え
例えば、適法に許認可を求める申請を行ったにもかかわらず、それに対する処分が行われない場合等に、その状態(不作為)が違法であることを裁判所に認定してもらうために提起する訴訟である。
この訴訟は、処分または裁決についての申請をした者に限り、提起することができる(37条)。これも出訴期間の制限はない。
認容判決では不作為の違法が宣言される。その結果、拘束力により、行政庁には何らかの応答をする義務が生じるが、応答内容には拘束力はおよばない(申請拒否処分の可能性もある)。
(3) 義務付けの訴え(37条の2)
不作為の違法確認は、あくまでも「確認」するだけであり、裁判所はそこからさらに踏み込んで「~をせよ」と命じてくれるわけではない。そこで、義務付けの訴えをする意義がある。平成16年の行政事件訴訟法改正で正式に法定された。
① 要件
(a) 申請に対する処分を求める義務付けの訴え
3条6項2号に掲げる場合(=行政庁に対し一定の処分又は裁決を求める旨の法令の基づく申請又は審査請求がされた場合において、当該行政庁がその処分又は裁決をすべきであるにかかわらずこれがされないとき)において、義務付けの訴えは、次の要件のいずれかに該当するときに限り、提起することができる(37条の3第1項)。
1. 当該法令に基づく申請又は審査請求に対し相当の期間内に何らの処分又は裁決がされないとき(=不作為が継続している場合)
2. 当該法令に基づく申請又は審査請求を却下し又は棄却する旨の処分又は裁決がされた場合において、当該処分又は裁決が取り消されるべきものであり、又は無効若しくは不存在であるとき(=拒否処分がなされた場合) |
法令に基づく申請をした者が、申請に対する処分を求める義務付の訴えを提起できる。
申請に対する処分を求める義務付けの訴えは、不作為の場合は不作為の違法確認訴訟、拒否処分の場合は取消訴訟または無効等確認訴訟と併合提起しなければならない(訴訟法37条の3第3項)。
(b) その他の義務付けの訴え
3条6項1号における掲げる場合(=行政庁が一定の処分をすべきであるにかかわらずこれがされないとき)において、義務付けの訴えは、一定の処分がされないことにより重大な損害を生ずるおそれがあり、かつ、その損害を避けるためほかに適当な方法がないときに限り、提起することができる(37条の2第1項)。
この義務付けの訴えは、行政庁が一定の処分をすべき旨を命ずることを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り、提起することができる(同条3項)。
【参考】 (b)の訴えの要件が、(a)の場合の要件に比して厳格であるのは、(b)の訴えが、法令に基づく申請又は審査請求に対する応答を求めるものではなく、申請権等に基づくことなく行政庁の第三者に対する規制権限の発動を義務付けようとするものだからである。 |
② 仮の義務付け
義務付けの訴えの提起があった場合において、その義務付けの訴えにかかる処分又は裁決がされないことにより生ずる償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があり、かつ、本案について理由があるとみえるときは、裁判所は、申立てにより、決定をもって、仮に行政庁がその処分又は裁決をすべき旨を命ずること(「仮の義務付け」という)ができる(37条の5第1項)。
なお、仮の義務付けは、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるときは、することができない(同条3項)。
(4) 差止めの訴え(37条の4)
差止めの訴えは、処分の取消しを求めるのではなく、処分等の物理的な停止を求める際に用いられる類型である。処分の当事者ではなく、第三者が不利益を被るおそれがある場合等に用いる実益がある。
① 要件
差止めの訴えは一定の処分または裁決がされることにより重大な損害を生ずるおそれがある場合に限り提起することができる。ただしその損害を避けるため他に適当な方法があるときはこの限りでない(37条の4第1項)。
また、差止めの訴えは、行政庁が一定の処分又は裁決をしてはならない旨を命ずることを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り、提起することができる(同条3項)。
② 判決
差止めの訴えに係る処分又は裁決につき、行政庁がその処分若しくは裁決をすべきでないことがその処分若しくは裁決の根拠となる法令の規定から明らかであると認められるとき(=当該処分をするか否かにつき行政庁に裁量がない場合)又は行政庁がその処分若しくは裁決をすることがその裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となると認められるときは、裁判所は、行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずる判決をする(同条5項)。
③ 仮の差止め
差止めの訴えの提起があった場合において、その差止めの訴えに係る処分又は裁決がされることにより生ずる①償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があり、かつ、②本案について理由があるとみえるときは、裁判所は、申立てにより、決定をもつて、仮に行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずること(「仮の差止め」という)ができる(37条の5第2項)。
なお、仮の差止めは、③公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるときは、することができない(同条3項)。