- 行政法ー4.行政救済法
- 1.行政不服審査法
- 行政不服審査法
- Sec.1
1行政不服審査法
国民が行政の活動に対して不服がある場合、事後的に、救済を求めて争うことができる。これが行政救済であり、行政救済について規律する法を、行政救済法という。
行政救済法の分野は、大きく「行政争訟」と「国家補償」の2つに分けられる。「行政争訟」は、行政の活動によって生じた権利の侵害状態を是正するものであるのに対して、「国家補償」は行政の活動によって生じた損失を金銭によって埋め合わせるものである。
「行政争訟」は、行政の活動によって生じた権利の侵害状態を是正する主体によって、さらに「行政上の不服申立て」と「行政事件訴訟」の2つに分けられる。その主体が、「行政機関」である場合が「行政上の不服申立て」であり、「裁判所」である場合が「行政事件訴訟」である。「行政上の不服申立て」の一般法として「行政不服審査法」があり、「行政事件訴訟」の一般法として「行政事件訴訟法」がある。
「国家補償」は、損失の発生原因となった行政の活動の性質によって、さらに「国家賠償」と「損失補償」の2つに分けられる。損失の発生原因となった行政の活動が、「違法」である場合が「国家賠償」であり、「適法」である場合が「損失補償」である。「国家賠償」の一般法として「国家賠償法」があるのに対して、「損失補償」については一般法がない。
【行政争訟】行政活動自体を是正するもの
是正の主体 | 一般法 | |
行政上の不服申立て | 行政機関 | 行政不服審査法 |
行政事件訴訟 | 裁判所 | 行政事件訴訟法 |
【国家補償】行政活動から生じた損失を金銭等によって埋め合わせるもの
損失の発生原因 | 一般法 | |
国家賠償 | 違法 | 国家賠償法 |
損失補償 | 適法 | なし |
■行政不服審査法の意義
行政庁の処分によって国民の権利利益が侵害された場合の事後的な救済制度として裁判があるが、より簡便な救済制度として、行政上の不服申立制度がある。行政不服審査法は、その行政上の不服申立制度に関する一般法である。
■総則
(1) 行政不服審査法の目的等
① 目的
行政手続法は、その目的を、次のように定めている(行審法1条1項)。
この法律は、行政庁の違法又は不当な処分その他公権力の行使に当たる行為に関し、国民が簡易迅速かつ公正な手続の下で広く行政庁に対する不服申立てをすることができるための制度を定めることにより、国民の権利利益の救済を図るとともに、行政の適正な運営を確保することを目的とする。 |
Point1 処分が「違法」である場合だけでなく、「不当」である場合も、不服申立てをすることができる。これに対して、裁判の場合は、処分が「違法」である場合しか、救済されない。
Point2 行政不服審査法による不服申立ては「国民の権利利益の救済を図る」ことを目的とするとされているが、外国人(外国法人を含む。)も不服申立てを行うことができる。
② 不服申立ての対象となる行為
不服申立ての対象となる行為は、「行政庁の処分その他公権力に当たる行為」である。このような行為を、行政不服審査法では、単に「処分」と呼んでいる。
行政不服審査法は、行政活動の分野や種類を問わず、「処分」であれば不服申立ての対象としている。このような考え方を一般概括主義という。
Point 国がした処分だけでなく、地方公共団体がした処分についても、行政不服審査法による不服申立ての対象になる。
③ 一般法と特別法
行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(以下単に「処分」という。)に関する不服申立てについては、他の法律に特別の定めがある場合を除くほか、行政不服審査法の定めるところによる(行審法1条2項)。これは、行政不服審査法は、処分に関する不服申立てを規律する一般法であるということである。したがって、処分に関する不服申立てについて特別法を定めることもでき、個別法に行政不服審査法と異なる定めがある場合は、その定めが行政不服審査法に優先して適用される。
Point行政不服審査法は、処分に関する不服申立てを規律する一般法であるので、個別法に審査請求をすることができる旨の定めがない場合であっても、行政不服審査法に基づいて審査請求をすることができる。
(2) 不服申立ての種類
行政不服審査法が定める、不服申立ての種類は、次の3種類である。
① 審査請求
② 再調査の請求 ③ 再審査請求 |
審査請求が原則であり、個別法に特別の定めがある場合に限り、審査請求の前に再調査の請求や、審査請求の裁決後に再審査請求をすることができる。
(3) 適用除外(行審法7条)
① 一般概括主義に対する例外
下記の処分およびその不作為については、行政不服審査法の審査請求の規定が適用されず、不服申立てをすることができない。これは、一般概括主義に対する例外となる。
(a) 国会の両院もしくは一院または議会の議決によってされる処分
(b) 裁判所もしくは裁判官の裁判により、または裁判の執行としてされる処分 (c) 国会の両院もしくは一院もしくは議会の議決を経て、またはこれらの同意もしくは承認を得た上でされるべきものとされている処分 (d) 検査官会議で決すべきものとされている処分 (e) 当事者間の法律関係を確認し、または形成する処分で、法令の規定により当該処分に関する訴えにおいてその法律関係の当事者の一方を被告とすべきものと定められているもの (f) 刑事事件に関する法令に基づいて検察官、検察事務官または司法警察職員がする処分 (g) 国税または地方税の犯則事件に関する法令(他の法令において準用する場合を含む。)に基づいて国税庁長官、国税局長、税務署長、国税庁、国税局もしくは税務署の当該職員、税関長、税関職員または徴税吏員(他の法令の規定に基づいてこれらの職員の職務を行う者を含む。)がする処分および金融商品取引の犯則事件に関する法令(他の法令において準用する場合を含む。)に基づいて証券取引等監視委員会、その職員(当該法令においてその職員とみなされる者を含む。)、財務局長または財務支局長がする処分 (h) 学校、講習所、訓練所または研修所において、教育、講習、訓練または研修の目的を達成するために、学生、生徒、児童若しくは幼児もしくはこれらの保護者、講習生、訓練生または研修生に対してされる処分 (i) 刑務所、少年刑務所、拘置所、留置施設、海上保安留置施設、少年院、少年鑑別所または婦人補導院において、収容の目的を達成するためにされる処分 (j) 外国人の出入国または帰化に関する処分 (k) 専ら人の学識技能に関する試験または検定の結果についての処分 (l) この法律に基づく処分(行政不服審査会の設置および組織に関する規定に基づく処分を除く。) |
Point1 地方公共団体の議会の議決によってされる処分には、行政不服審査法の審査請求の規定は適用されない。
Point2 国会および裁判所が行う処分以外にも、適用除外とされる処分がある。
② 国の機関等が「固有の資格」で処分の名あて人となる場合
国の機関または地方公共団体その他の公共団体もしくはその機関に対する処分で、これらの機関または団体がその固有の資格において当該処分の相手方となるものおよびその不作為については、行政不服審査法の規定は、適用されない。
■審査請求
不服申立手続のうち、原則となるのは、審査請求である。審査請求とは、行政庁の処分またはその不作為について、審査庁に対してする不服申立てである。
(1) 審査請求をすることができる場合
① 処分についての審査請求(行審法2条)
行政庁の処分に不服がある者は、審査請求をすることができる。
Point1 行政不服審査法は、審査請求の対象を「処分」に限定しているので、行政指導について不服があっても、行政不服審査法に基づく審査請求をすることはできない。なお、行政指導に対する救済手続として、行政手続法に、行政指導の中止等の求めの制度が設けられている。
Point2 処分についての審査請求の申立適格を有するのは、行政庁の処分に不服がある者とされ、処分の相手方に限られない。しかし、誰でも審査請求の申立適格を有するわけではなく、処分の相手方以外の第三者は、不服申立てをする法律上の利益を有している場合に、審査請求の申立適格を有する(主婦連ジュース不当表示事件:最判S53.3.14)。
判例 | 主婦連ジュース不当表示事件(最判S53.3.14) |
公正取引委員会は、景表法に基づいて、飲料メーカーの業界団体に対して果実飲料等の表示に関する公正競争規約を認定する処分を行った。ところが、同規約では、果汁含有量5%未満または無果汁の飲料につき「合成着色料飲料」または「香料使用」等と表示すればよいとしていたため、主婦連合会が、このような表示は果汁を含有していない旨を一般消費者に誤りなく伝えるものではなく、不適正な表示であるから、景表法に規定する規約の認定の要件に該当せず違法であるなどと主張して、公正取引委員会に不服申立てをした。これに対して、公正取引委員会が、主婦連合会に不服申立資格がないことを理由に却下する審決を下したため、主婦連合会は、同審決の取消しを求めて出訴した。 |
《論点》 | 公正取引委員会による公正競争規約の認定に対し、主婦連合会に不服申立資格があるか? |
《判旨》 | 景表法に基づいて公正取引委員会がした公正競争規約の認定に対する行政上の不服申立は、行政上の不服申立の一種にほかならないのであるから、景表法にいう「公正取引委員会の処分について不服があるもの」とは、一般の行政処分についての不服申立の場合と同様に、当該処分について不服申立をする法律上の利益がある者、すなわち、当該処分により自己の権利もしくは法律上保護された利益を侵害されまたは必然的に侵害されるおそれのある者をいう、と解すべきである。
仮に、公正取引委員会による公正競争規約の認定が正当にされなかったとしても、一般消費者としては、景表法の規定の適正な運用によって得られるべき反射的な利益ないし事実上の利益が得られなかったにとどまり、単に一般消費者であるというだけでは、公正取引委員会による公正競争規約の認定につき景表法による不服申立をする法律上の利益をもつ者であるということはできない。 主婦連合会の主張する商品を正しく特定させる権利、よりよい取引条件で果汁を購入する利益、果汁の内容について容易に理解することができる利益ないし表示により内容を知って果汁を選択する権利等は、景表法の規定またはその適正な運用による公益保護の結果生ずる反射的利益にすぎないものと解すべきであって、これらの侵害があることをもつて不服申立をするについて法律上の利益があるものということはできず、主婦連合会は、本件公正競争規約の認定につき景表法に基づく不服申立をすることはできないものというべきである。 |
② 不作為についての審査請求(行審法3条)
法令に基づき行政庁に対して処分についての申請をした者は、当該申請から相当の期間が経過したにもかかわらず、行政庁の不作為(法令に基づく申請に対して何らの処分をもしないことをいう。)がある場合には、当該不作為についての審査請求をすることができる。
Point1 不作為についての審査請求の申立適格を有するのは、法令に基づき行政庁に対して処分についての申請をした者である。したがって、それ以外の第三者は、当該処分がなされることにつき法律上の利益を有する者であったとしても、審査請求の申立て適格を有しない。
Point2 不作為についての審査請求をすることができるのは、法令に基づく申請から相当の期間が経過したにもかかわらず、行政庁が、当該申請に対して何らの処分をもしない場合である。したがって、法令に違反する事実がある場合において、その是正のためにされるべき処分がなされていないときに、不作為についての審査請求をすることができない。このような場合の救済手続として、行政手続法に、処分等の求めの制度が設けられている。
(2) 審査請求をすべき行政庁(行審法4条)
行政不服審査法では、「処分をした行政庁」を、「処分庁」といい、「不作為に係る行政庁」を「不作為庁」という。
審査請求は、法律(条例に基づく処分については、条例)に特別の定めがある場合を除くほか、処分庁等(処分庁または不作為庁をいう。)に上級行政庁がある場合は、原則として、当該処分庁等の最上級行政庁に対してするものとされる。それに対して、上級行政庁がない場合は、審査請求は、当該処分庁等にするものとされる。
【審査請求をすべき行政庁】
場合の区分 | 審査請求先 |
処分庁等に上級行政庁がある場合 | 当該処分庁等の最上級行政庁(原則) |
処分庁等に上級行政庁がない場合 | 当該処分庁等 |
(3) 審査庁および審理関係人
① 審理員制度
審査請求には審理員制度が導入されている。審理員が、中立的な立場で審理手続を主宰し、審査庁がすべき裁決について意見書を作成する。
(図)総務省ホームページから
② 審理員(行審法9条)
(a) 審理員の指名
審査請求がされた行政庁(以下「審査庁」という。)は、審査庁に所属する職員(審理員となるべき者の名簿を作成した場合にあっては、当該名簿に記載されている者)のうちから審理手続を行う者を指名するとともに、その旨を審査請求人および処分庁等(審査庁以外の処分庁等に限る。)に通知しなければならない。
ただし、行政委員会等が審査庁である場合または条例に基づく処分について条例に特別の定めがある場合は、審理員を指名する必要はない。
(b) 審理員の除斥事由
中立性・公正性を確保するために、審査請求に係に関与した者や、審査請求に係る不作為に係る処分に関与する者など一定の者は、審理員に指名することができない。
Point1 審査庁となるべき行政庁は、審理員となるべき者の名簿を作成するよう努めるとともに、これを作成したときは、当該審査庁となるべき行政庁および関係処分庁の事務所における備付けその他の適当な方法により公にしておかなければならない(行審法17条)。
Point2 処分についての審査請求の場合も、不作為についての審査請求の場合も、原則として、審理員が指名されて審理手続が行われる。
③ 法人でない社団または財団の審査請求(行審法10条)
法人でない社団または財団で代表者または管理人の定めがあるものは、当該社団または財団の名で審査請求をすることができる。
④ 総代(行審法11条)
共同で行われる審査請求(共同審査請求)においては、迅速・円滑な審理手続を確保するために、総代の選任が認められている。
(a) 総代の互選
多数人が共同して審査請求をしようとするときは、3人を超えない総代を互選することができる。
共同審査請求人が総代を互選しない場合において、必要があると認めるときは、審理員は、総代の互選を命ずることができる。
(b) 総代の権限
総代は、各自、他の共同審査請求人のために、審査請求の取下げを除き、当該審査請求に関する一切の行為をすることができる。
総代が選任されたときは、共同審査請求人は、総代を通じてのみ、審査請求に関する行為をすることができる。
(c) 共同審査請求人に対する行政庁の通知等
共同審査請求人に対する行政庁の通知その他の行為は、2人以上の総代が選任されている場合においても、1人の総代に対してすれば足りる。
(d) 総代の解任
共同審査請求人は、必要があると認める場合には、総代を解任することができる。
⑤ 代理人による審査請求(行審法12条)
(a) 代理人
審査請求は、代理人によってすることができる。代理人の資格に制限はない。したがって、弁護士等の資格がなくても代理人になることはできる。
(b) 代理人の権限
代理人は、各自、審査請求人のために、当該審査請求に関する一切の行為をすることができる。ただし、審査請求の取下げは、特別の委任を受けた場合に限り、することができる。
【総代・代理人による審査請求の取下げの可否】
総代 | できない |
代理人 | 特別の委任を受けた場合はできる |
⑥ 参加人(行審法13条)
(a) 参加人
利害関係人(審査請求人以外の者であって審査請求に係る処分または不作為に係る処分の根拠となる法令に照らし当該処分につき利害関係を有するものと認められる者をいう。)は、審理員の許可を得て、当該審査請求に参加することができる。
審理員は、必要があると認める場合には、利害関係人に対し、当該審査請求に参加することを求めることができる。
審査請求に参加する利害関係人を、参加人という。
(b) 参加人の代理人
審査請求への参加は、代理人によってすることができる。代理人は、各自、参加人のために、当該審査請求への参加に関する一切の行為をすることができる。ただし、審査請求への参加の取下げは、特別の委任を受けた場合に限り、することができる。
Point 利害関係人に、不服申立ての結果によって行政運営上の影響を受ける可能性のある関係行政機関は含まれない。
⑦ 審理手続の承継(行審法15条)
(a) 審査請求人の死亡による承継
審査請求人が死亡したときは、相続人その他法令により審査請求の目的である処分に係る権利を承継した者は、審査請求人の地位を承継する。この場合は、審査請求人の地位を承継した相続人その他の者は、死亡の事実を称する書面を添付して、書面でその旨を審査庁に届け出なければならない。
審査請求人の地位を承継した相続人その他の者が2人以上あるときは、その1人に対する通知その他の行為は、全員に対してされたものとみなされる。
(b) 審査請求人の合併等による承継
審査請求人について合併または分割(審査請求の目的である処分に係る権利を承継させるものに限る。)があったときは、合併後存続する法人その他の社団もしくは財団もしくは合併により設立された法人その他の社団もしくは財団または分割により当該権利を承継した法人は、審査請求人の地位を承継する。この場合は、審査請求人の地位を承継した法人その他の社団または財団は、分割による権利の承継または合併の事実を証する書面を添付して、その旨を審査庁に届け出なければならない。
(c) 特定承継の場合
審査請求の目的である処分に係る権利を譲り受けた者は、審査庁の許可を得て、審査請求人の地位を承継することができる。
⑧ 標準審理期間(行審法16条)
審査庁となるべき行政庁は、審査請求がその事務所に到達してから当該審査請求に対する裁決をするまでに通常要すべき標準的な期間を定めるよう努めるとともに、これを定めたときは、当該審査庁となるべき行政庁および関係処分庁(当該審査請求の対象となるべき処分の権限を有する行政庁であって当該審査庁となるべき行政庁以外のものをいう。)の事務所における備付けその他の適当な方法により公にしておかなければならない。
Point1 標準審理期間の設定は努力義務であるのに対して、標準審理期間を設定した場合の公開は法的義務である。
Point2 審査請求に対する裁決が標準審理期間内に行われない場合であっても、この不作為が直ちに違法となるわけではない。あくまで「標準的な」期間であり、特殊事情のある事例であれば、期間内に裁決を行うことができない場合もありうるからである。
(4) 審査請求の手続
① 審査請求期間(行審法18条)
処分についての審査請求については、審査請求期間が設けられている。
(a) 主観的請求期間
処分についての審査請求は、処分があったことを知った日の翌日から起算して3月(当該処分について再調査の請求をしたときは、当該再調査の請求についての決定があったことを知った日の翌日から起算して1月)を経過したときは、することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。
(b) 客観的請求期間
処分についての審査請求は、処分(当該処分について再調査の請求をしたときは、当該再調査の請求についての決定)があった日の翌日から起算して1年を経過したときは、することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。
Point 不作為についての審査請求については、審査請求期間は設けられていない。したがって、不作為の状態が続いている限り、審査請求をすることができる。
② 審査請求書の提出(行審法19条)
審査請求は、他の法律(条例に基づく処分については、条例)に口頭ですることができる旨の定めがある場合を除き、所定の事項を記載した審査請求書を提出してしなければならない。
例外的に、口頭で審査請求をすることができる場合に、口頭で審査請求をするときは、審査請求書に記載すべき事項を陳述しなければならない。
Point 審査請求は、原則として、書面でしなければならない。
③ 処分庁等を経由する審査請求(行審法21条)
(a) 処分庁等を経由する審査請求
審査請求をすべき行政庁が処分庁等と異なる場合における審査請求は、処分庁等を経由してすることができる。これは、審査請求人の便宜を図るためである。この場合は、審査請求人は、処分庁等に審査請求書を提出し、または当該事項を陳述する。その後、処分庁等は、直ちに、審査請求書または審査請求録取書(陳述の内容を録取した書面をいう。)を審査庁となるべき行政庁に送付しなければならない。
(b) 審査請求期間の計算
処分庁等を経由する審査請求があった場合の審査請求期間の計算については、処分庁に審査請求書を提出し、または処分庁に対し当該事項を陳述した時に、処分についての審査請求があったものとみなされる。
【審査請求の方法】
直接する方法 | 審査請求人→審査庁 |
処分庁等を経由する方法 | 審査請求人→処分庁等→審査庁 |
④ 誤った教示をした場合の救済(行審法22条)
(a) 審査請求をすべき行政庁を誤って教示した場合
審査請求をすることができる処分につき、処分庁が誤って審査請求をすべき行政庁でない行政庁を審査請求をすべき行政庁として教示した場合において、その教示された行政庁に書面で審査請求がされたときは、当該行政庁は、速やかに、審査請求書を処分庁または審査庁となるべき行政庁に送付し、かつ、その旨を審査請求人に通知しなければならない。そして、審査庁となるべき行政庁ではなく、処分庁に審査請求書が送付されたときは、処分庁は、速やかに、これを審査庁となるべき行政庁に送付し、かつ、その旨を審査請求人に通知しなければならない。
【審査請求書の送付の流れ】
処分庁に送付した場合 | 審査請求人→教示された審査庁(誤)→処分庁→審査庁(正) |
審査庁に送付した場合 | 審査請求人→教示された審査庁(誤)→審査庁(正) |
(b) 誤って再調査の請求ができると教示した場合
審査請求をすることができる処分のうち、再調査の請求をすることができない処分につき、処分庁が誤って再調査の請求をすることができる旨を教示した場合において、当該処分庁に再調査の請求がされたときは、処分庁は、速やかに、再調査の請求書または再調査の請求録取書を審査庁となるべき行政庁に送付し、かつ、その旨を再調査の請求人に通知しなければならない。
(c) 再調査の請求ができる処分につき、誤って審査請求ができることを教示しなかった場合
再調査の請求をすることができる処分につき、処分庁が誤って審査請求をすることができる旨を教示しなかった場合において、当該処分庁に再調査の請求がされた場合であって、再調査の請求人から申立てがあったときは、処分庁は、速やかに、再調査の請求書または再調査の請求録取書および関係書類その他の物件を審査庁となるべき行政庁に送付しなければならない。この場合に、その送付を受けた行政庁は、速やかに、その旨を再調査の請求人および当該再調査の請求に参加する者に通知しなければならない。
(d) 送付の効果
上記(a)~(c)により審査請求書または再調査の請求書もしくは再調査の請求録取書が審査庁となるべき行政庁に送付されたときは、初めから審査庁となるべき行政庁に審査請求がされたものとみなされる。
⑤ 審査請求書の補正(行審法23条)
審査請求書が不適法な場合には、審査庁は、相当の期間を定め、その期間内に不備を補正すべきことを命じなければならない。
⑥ 審理手続を経ないでする却下裁決(行審法24条)
審査請求書の補正が命じられた場合に、審査請求人が指定された期間内に不備を補正しないときは、審査庁は、審理手続を経ないで、裁決で、該審査請求を却下することができる。
審査請求が不適法であって補正することができないことが明らかなときも、同様とされる。
⑦ 執行停止(行審法25条・26条)
(a) 執行不停止の原則
審査請求は、処分の効力、処分の執行または手続の続行を妨げない。
(b) 執行停止制度
ⅰ)審査庁が処分庁の上級行政庁または処分庁である場合
処分庁の上級行政庁または処分庁である審査庁は、必要があると認める場合には、審査請求人の申立てによりまたは職権で、処分の効力、処分の執行または手続の続行の全部または一部の停止その他の措置(以下「執行停止」という。)をとることができる。
ⅱ)審査庁が処分庁の上級行政庁または処分庁のいずれでもない場合
処分庁の上級行政庁または処分庁のいずれでもない審査庁は、必要があると認める場合には、審査請求人の申立てにより、処分庁の意見を聴取した上、執行停止をすることができる。ただし、処分の効力、処分の執行または手続の続行の全部または一部の停止以外の措置をとることはできない。
【執行停止の手続・要件・種類】
※ 執行停止をするには、処分庁の意見を聴取しなければならない
弁明書の区分 | 記載事項 |
処分についての審査請求に対する弁明書 | 処分の内容および理由 |
不作為についての審査請求に対する弁明書 | 処分をしていない理由ならびに予定される処分の時期、内容および理由 |
提出者 | 書面の名称 |
処分庁等 | 弁明書 |
審査請求人 | 反論書 |
参加人 | 意見書 |
ⅰ)弁明書・反論書・意見書・証拠書類等の物件が所定の期間内に提出されない場合に、さらに一定の期間を示して、当該物件の提出を求めたにもかかわらず、当該提出期間内に当該物件が提出されなかったとき。
ⅱ)申立人が、正当な理由なく、口頭意見陳述に出頭しないとき。 |
処分の取消し | 処分の変更 | 申請に対する 一定の処分 | ||
審査庁 | 上級行政庁 | ○ | ○ | ○(命令) |
処分庁 | ○ | ○ | ○ | |
その他 | ○ | × | × |
違法・不当の宣言 | 行為の撤廃 | 行為の変更 | ||
審査庁 | 上級行政庁 | ○ | ○(命令) | ○(命令) |
処分庁 | ○ | ○ | ○ | |
その他 | ○ | ○(命令) | × |
違法・不当の宣言 | 申請に対する一定の処分 | ||
審査庁 | 上級行政庁 | ○ | ○(命令) |
不作為庁 | ○ | ○ | |
その他 | ○ | × |
ⅰ)主文
ⅱ)事案の概要 ⅲ)審理関係人の主張の要旨 ⅳ)理由(主文が審理員意見書または行政不服審査会等もしくは審議会等の答申書と異なる内容である場合には、異なることとなった理由を含む。) |