- 行政法ー3.行政作用法
- 1.行政行為
- 行政行為
- Sec.1
1行政行為
行政主体と私人との間の公法上の法律関係に関する法律を行政作用法という。
本章では、まず権力的な行政の活動である『行政行為』を学習し、その他、法律を執行するために行政がさらに立法的作用を行う場合として『行政立法』、『行政計画』を、法律を執行するための非権力的な手法として『行政指導』を学習する。 また、行政作用の実効性を確保するための措置である行政上の強制措置も学習する。本章を学習すれば、現実には、これらの手法、手段が複雑に組み合わされて行政過程を形成しているということがイメージできるはずである。 |
行政行為とは、行政庁が、法に基づき、優越的な意思の発動または公権力の行使として、国民に対し、具体的事実についての法的規制をする行為をいう。これは、講学上の概念である。
■行政行為の特徴
① 行政庁の行為であること。行政庁以外の機関の行為は行政行為ではない。
② 一方的に法律関係を形成・消滅させる行為であること。「権力的行為」であるともいう。相手方の承諾を必要とする『行政契約』と異なる点である。
③ 行政機関の外部に対して、つまり一般国民に対して法的効果を生じさせる行為であること。行政機関の内部行為は行政行為ではない。
④ 個別の具体的事実に関する行為であること。一般的・抽象的な定めをする行政立法と異なる点である。
■行政行為の分類
行政行為は、法律効果の発生原因により、2つに分けられる。
法律行為的行政行為 | 行政庁の意思表示により、行政庁の意思に基づいて法律効果が発生する行政行為 |
準法律行為的行政行為 | 行政庁の認識・判断等の表示により、法律の規定に基づいて法律効果が発生する行政行為 |
(1) 法律行為的行政行為
法律行為的行政行為は、命令的行為と形成的行為に分けられる。
命令的行為 | 私人が本来有している自由を制限し、またその制限を解除することを内容とする行政行為 |
形成的行為 | 私人が本来は有していない権利、権利能力または包括的な法律関係を発生させ、変更し、または消滅させることを内容とする行政行為 |
① 命令的行政行為
命令的行為は、下命(および禁止)、許可、免除の3つに分類される。
下命
(および禁止) | 私人に対し、作為・不作為・給付・受忍を命じる行為
(不作為を命じるものを、とくに禁止という) 例:租税の賦課処分、違法建築物の除去命令、営業の禁止命令、道路の通行止 |
許可 | 法令によって課されている不作為義務(禁止)を解除する行為
風俗営業の許可、自動車の運転免許、医師の免許、火薬類輸入の許可 |
免除 | 法令によって課されている作為・給付・受忍義務を解除する行為
例:租税の納税義務の免除、児童の就学義務の免除 |
② 形成的行政行為
形成的行為は、特許(および剥権)、認可、代理の3つに分類される。
特許
(および剥権) | 私人に対し、特定の権利を付与し、または包括的な法律関係を設定する行為
(反対に特定の権利や包括的な法律関係を剥奪する行為を、剥権という) 例:鉱業権設定の許可、公共用物の占用の許可、公有水面埋立免許、公務員の任命 |
認可 | 私人が行う法律上の行為の効力を補充して、その行為を完成させる行為
例:農地の権利移動の許可、河川占用権の譲渡の承認、公共組合設立の認可 |
代理 | 私人が行うべき法律上の行為を行政庁が代わって行い、その行為を私人が行ったのと同じ効果を生じさせる行為
例:土地収用法に基づく収用委員会の収用裁決 |
(2) 準法律行為的行政行為
準法律行為的行政行為は、確認、公証、通知、受理の4つに分類される。それぞれの行為の効果は、法律の定めるところによる。
確認 | 行政庁が事実または法律関係の存否を判断し確定する行為
例:当選人の決定、建築確認、発明の特許、租税の更正・決定 |
公証 | 特定の法律事実または法律関係の存否を公に証明する行為
例:選挙人名簿への登録、戸籍への記載、自動車運転免許証の交付 |
通知 | 行政庁が、ある事項を、特定の人または不特定多数の人に知らせる行為
例:納税の督促、特許出願の公告 |
受理 | 行政庁が他人の表示(届出・申請等)を有効な行為として受領する行為
例:転入届の受理、婚姻届の受理 |
(3) 各行政行為の対比
① 許可と特許
許可(命令的行為) | 特許(形成的行為) | |
趣旨 | 本来有しているはずの自由を回復する | 本来認められないはずの特権・特別の能力を付与する |
排他的権利 | 与えない | 与える |
裁量 | 狭い
法定の要件を満たすなら、許可を与えなければならない | 広い
誰にどのような観点から特許を付与するのかについて、行政庁の判断の余地は広い |
具体例 | 道路交通法に基づく自動車の運転免許
食品衛生法に基づく飲食店の営業許可 | 電気事業法に基づく電気事業の許可
公有水面埋立法に基づく公有水面の埋立免許 河川法に基づく河川敷の土地の占用許可 |
② 許可と認可
許可(命令的行為) | 認可(形成的行為) | |
対象 | 事実的・法律的行為 | 法律的行為のみ |
許可・認可を受けないでした行為の効果 | 法律行為の効果は否定されない。ただし、事後的に強制執行や処罰がある。 | 法律行為の効果は発生しない。 |
③ 確認と公証
確認 | 公証 | |
要素 | 『判断』が要素となる | 『認識』が要素となる |
性質 | 対象となっている事実に疑義または争いがあるので、公の権威をもって判断する | 対象となっている事実に疑義または争いはない |
■覊束(きそく)行為と裁量行為
(1) 覊束行為
覊束行為とは、法が行政行為の要件について、ほとんど完全に行政庁を拘束しているものをいう。つまり、行政庁に行政行為を行うか否かの自由な意思決定ができず、機械的に行政行為を行わなければならないということである。
例:租税の賦課・徴収等、講学上の準法律行為的行政行為
(2) 裁量行為
裁量行為とは、法が行政庁に、行政行為を行うに際して一定の選択の余地を与えているものをいう。
① 覊束裁量
裁量行為のうち、裁量が狭いものをいう。「何が法であるか」の裁量であり、客観的な基準がある。行政庁の高度の専門技術的な知識を前提としなくても、通常人の日常的な経験・常識に照らして判断できる事項であり、行政庁が裁量を誤った場合は客観的に指摘できるものなので、裁量を誤ったことは司法審査の対象となる。
② 自由裁量
裁量行為のうち、裁量の幅が広いものをいう。行政庁の高度の専門的技術的な知識に基づき、「何が公益に適するか」を判断する裁量であり、たとえ行政庁が裁量を誤ったとしても、適法か違法かという問題には発展せず、裁量を誤ったことは司法審査の対象にならないとされる。
【自由裁量に対する統制】
自由裁量の行為が司法審査の対象にならないといっても、裁量権を逸脱した場合や、裁量権の濫用があった場合にはもはや妥当か不当かの問題にとどまらず、司法審査が及ぶものとされる(行政事件訴訟法30条)。では、どのようなことが裁量権の逸脱や濫用に当たるのかということに関しては、以下のとおり、類型化することができる。
1. 法目的違反…根拠法の目的に違反すること。法律の本来の目的とは異なる目的で行政行為をすることであり、他事考慮ともいわれる。
2. 重大な事実誤認…行政行為をするための要件事実を誤認すること。 3. 平等原則違反…同じような状況にある者のうち、特定の者だけを合理的理由なく差別すること。 4. 比例原則違反…必要な限度を超えた不利益を課すこと。つまり、行政行為の「目的」と「課される不利益」が釣り合っていないということである。 |
これらの類型のうち、法目的違反が認められた判例として、次のものがある。
判例 | 個室付浴場事件(最判S53.6.16) |
Aは、個室付浴場を営むための建築確認を得た。しかし、周辺住民が反対運動を起こしたため、県および町も営業を阻止する方向に転じ、風俗営業等取締法が児童福祉法に定める児童福祉施設の周辺200メートル区域内において個室付浴場の営業を禁じていることを利用することを思いついた。そして、急遽、Aの建物建築予定地の近くに児童遊園を設置することにし、その認可を行った。そこで、その認可の法目的適合性が争われた。 |
《争点》 | 個室付浴場の出店を阻止する目的で、風俗営業等取締法に定める許認可権を利用することは許されるか? |
《判旨》 | 本来、児童遊園は、児童に健全な遊びを与えてその健康を増進し、情操を豊かにすることを目的とする施設なのであるから、児童遊園設置の認可申請、同許可処分もその趣旨に沿ってなされるべきものであって、トルコぶろ営業の規制を主たる動機、目的とする児童遊園設置の認可申請を容れた本件認可処分は、行政権の濫用に相当する違法性があり、被告会社のトルコぶろ営業に対しこれを規制する効力を有しないといわざるを得ない。 |