- 民法ー8.相続
- 2.遺言・遺留分
- 遺言・遺留分
- Sec.1
1遺言・遺留分
■遺言
遺言とは、自分の死後の財産の帰属などを定めておくために行われる意思表示である。
遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生ずる。
(1) 遺言能力
15歳に達した者は、遺言をすることができる(961条)。
制限行為能力者に関する規定は、遺言については、適用されない(962条)。
Point1 制限行為能力者の遺言に、その保護者の同意は不要である。
Point2 成年被後見人は、事理を弁識する能力を欠いている場合は、遺言をすることができない。しかし、事理を弁識する能力を一時回復した時に遺言をすることができ、この場合は、医師2人以上の立会いがなければならない(973条1項)。
(2) 遺言の方式
遺言は、民法に定める方式に従わなければ、効力を生じない(960条)。
遺言には「普通の方式」と「特別の方式」があるが、「特別の方式」によることが許される場合を除いて、「普通の方式」によってしなければならない(967条)。
「普通の方式」には、①自筆証書による遺言、②公正証書による遺言、③秘密証書による遺言の3つがある。
① 自筆証書遺言
自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付および氏名を自書し、これに印を押さなければならない(968条1項)。
ただし、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産の全部または一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない(968条2項)。
Point1 証書の日付として、「○年○月吉日」と記載されている自筆証書遺言は、日付の記載を欠くものとして無効である(最判昭54.5.31)。
Point2遺言書の本文の自署名下には押印がなかったが、これを入れた封筒の封じ目にされた押印があれば、押印の要件に欠けるところはない(最判平6.6.24)。
② 公正証書遺言
公正証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない(969条)。
イ)証人2人以上の立会いがあること。
ロ)遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授(くじゅ)すること。 ハ)公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者および証人に読み聞かせ、または閲覧させること。 ニ)遺言者および証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押すこと。ただし、遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる。 ホ)公証人が、その証書は上記イ)~ニ)に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名し、印を押すこと。 |
Point 口がきけない者が公正証書によって遺言をする場合には、遺言者は、公証人および証人の前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述し、または自書して、口授に代えなければならない(969条の2第1項前段)。
③ 秘密証書遺言
秘密証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない(970条)。
イ)遺言者が、その証書に署名し、印を押すこと。
ロ)遺言者が、その証書を封じ、証書に用いた印章をもってこれに封印すること。 ハ)遺言者が、公証人1人および証人2人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨ならびにその筆者の氏名および住所を申述すること。 ニ)公証人が、その証書を提出した日付および遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者および証人とともにこれに署名し、印を押すこと。 |
Point 自筆証書(これに添付される財産目録を含む)および秘密証書中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない(968条3項)。
Point 次の①~③に該当する者は、遺言の証人となることができない(974条)。
①未成年者
②推定相続人および受遺者ならびにこれらの配偶者および直系血族
③公証人の配偶者、4親等内の親族、書記および使用人
Point 遺言は、たとえ夫婦であっても、2人以上の者が同一の証書ですることができない(975条)。
Point 遺言は、必ず本人がしなければならず、いかなる場合も、代理人によってすることはできない。
(3) 遺言の撤回
遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部または一部を撤回することができる。
前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなされる。
遺言者は遺言の撤回権を放棄することはできない(1026条)。
Point 遺言の撤回は、撤回される遺言と同一の方式でなくてよい。
(4) 遺言書の検認
検認とは、遺言の執行前に遺言書の形式その他の状態を確認し、後日において遺言書の偽造、変造がなされることを防止するための手続である。
自筆証書遺言および秘密証書遺言については家庭裁判所の検認を要する(1004条1項・2項)。
遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない(1004条1項前段)。遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様に、発見後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない(1004条1項後段)。
封印のある遺言書は、これをそのまま家庭裁判所に提出し、家庭裁判所において相続人またはその代理人の立会いのもとで、開封しなければならない(1004条3項)。
遺言書を提出することを怠り、その検認を経ないで遺言を執行したり、家庭裁判所外においてその開封をしたりしても、遺言書の効力には影響を与えないが、このような場合は、5万円以下の過料に処せられる(1005条)。
Point1 検認は、遺言書の効力の有無を判断するものではない。
Point2 公正証書遺言については、検認を要しない(1004条2項)。
(5) 法務局における遺言書の保管
自筆証書遺言については、遺言者は、遺言保管所(法務局)の遺言書保管官に対して、遺言書の保管の申請をすることができる。なお、この遺言書は、所定の様式に従って作成した無封のものでなければならない。
自筆証書遺言であっても、遺言書保管所に保管されている遺言書については、相続開始後に家庭裁判所の検認を要しない。遺言書は、その原本および画像データが遺言保管所(法務局)において適正に管理・保管されるため、遺言書の紛失・亡失のおそれがなくなるだけでなく、相続人等の利害関係者による遺言書の破棄、隠匿、改ざんなどを防ぐことができるからである。
Point 自筆証書遺言であっても、遺言保管所(法務局)に保管されていた遺言書については、検認を要しない。
■遺贈
遺贈とは、遺言によって遺言者の財産の全部または一部を、無償で他人に与えることである。遺贈を受けた者を受遺者という。遺贈には、包括遺贈と特定遺贈の2つがある(964条)。
(1) 包括遺贈
包括遺贈とは、遺言者の財産の全部または一定割合を与える旨の遺贈である(964条)。したがって、相続の場合と同様に、積極財産(プラスの財産)だけでなく、消極財産(マイナスの財産)も受遺者(包括受遺者)に引き継がれることになる。
包括受遺者は相続人と同様に扱われ、包括受遺者は、自己のために遺贈があったことを知った時から3か月以内に、遺贈について、単純承認、限定承認または放棄をしなければならない(965条)。
(2) 特定遺贈
特定遺贈とは、遺言によって指定された遺言者の特定の財産を与える旨の遺贈である(964条)。
受遺者は、遺言者の死亡後、いつでも、遺贈の放棄をすることができる(986条1項)。
Point 法定相続人に対する遺贈も有効である。
■配偶者居住権
(1) 配偶者居住権
被相続人の配偶者は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合において、次の①②のいずれかに該当するときは、その居住していた建物(居住建物)の全部について無償で使用および収益をする権利(配偶者居住権)を取得する(1028条1項本文)。
① 遺産の分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき
② 配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき |
Point1 配偶者居住権は、遺産分割または遺贈により取得することができる。
Point2 居住建物が配偶者の財産に属することとなった場合であっても、他の者がその共有持分を有するときは、配偶者居住権は、消滅しない(1028条2項)。
Point3 婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、配偶者居住権の遺贈をしたときは、その遺贈は、相続分の計算上、原則として特別受益(遺産の先渡し)としては取り扱われない(903条1項)。
Point4 配偶者居住権の存続期間は、原則として、配偶者の終身の間である(1030条本文)。ただし、遺産分割協議または遺言に別段の定めがあるときは、その定めによる(1030条ただし書)。
(2) 配偶者短期居住権
配偶者は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に無償で居住していた場合には、一定期間、その居住していた建物(居住建物)の所有権を相続または遺贈により取得した者(居住建物取得者)に対し、居住建物について無償で使用する権利(配偶者短期居住権)を有する(1037条1項本文)。
配偶者短期居住権の期間は、次の通りとなる。
① 居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産の分割をすべき場合 | 遺産の分割により居住建物の帰属が確定した日または相続開始の時から6か月を経過する日のいずれか遅い日 |
② 上記以外の場合 | 居住建物所有者による配偶者短期居住権の消滅の申入れの日から6か月を経過する日 |