• 民法ー7.親族
  • 6.扶養
  • 扶養
  • Sec.1

1扶養

堀川 寿和2021/12/03 15:42

 扶養とは、肉体的、精神的、社会的事情によって自己の資産・労力によって生活のできない者の生活を維持するために、その者と一定の親族的身分関係にある者が必要な生活資料(経済的給付)を与える制度をいう。

扶養義務の種類

扶養義務には、次のように性質の異なった2つのものがある。ただし、一般に扶養という場合には、②の意味であり、民法が877条以下で扱うのも②についてである。


① 生活保持の義務

夫婦相互間および親の未成熟の子に対する扶養であり、それらの身分関係の本質を形成する同居・協力・扶助の義務(752条)および監護・教育の義務(820条)が内容となっている。この扶養義務は、相手方の生活を自己の生活の一部として維持することであって、自己と同程度の生活を相手方に保障することを意味する。


② 生活扶助の義務

夫婦あるいは親と未成熟子間以外の親族間の扶養であり、義務者が自己の地位相応の生活をしてなお余裕がある場合に、その限りにおいて相手方を援助することである。


扶養の当事者

扶養権利者および扶養義務者は2つの類型に分かれる。


(1) 直系血族および兄弟姉妹

これらの者は、法律上当然に、相互に扶養する権利と義務を有する(877条1項)。

この場合の「直系血族」とは、子が、実親子でも養親子でもよく、また、嫡出子でも非嫡出子でもよい。

この場合の「兄弟姉妹」とは、父母の双方を共通にする場合(全血)でも一方のみを共通する場合(半血)でもよく、また、養子と養親の実子や同一の養親の養子同士でもよい。


(2) それ以外の3親等内の親族相互間

これらの者は当然に扶養の当事者となるのではなく、特別の事情があるとして家庭裁判所が扶養の権利義務を認めた場合に、扶養の当事者となる(877条2項)。

「特別の事情」とは、(1)の類型に属する扶養義務者が存在しない場合、または存在してもそれらの者に優先してまたは共同して扶養させるのが妥当であるとされる特殊な事情がある場合である。

なお、特別の事情があって審判で特に扶養義務が認められた場合でも、後になってその事情に変更が生じた場合には、家庭裁判所はその審判を取り消すことができる(同条3項)。


扶養の順位・程度・方法

(1) 扶養の順位

① 扶養義務者が数人いる場合には、第1次的には、当事者である要扶養者・扶養義務者の協議によって扶養すべき者の順序を定めることになる。これは、親族であることに基づく法律関係は当事者間で自律的に決することが望ましいからである。協議が調わないときまたは協議をすることができないときは、第2次的に家庭裁判所がこれを定めることになる(878条前段)。

② 要扶養者が数人いる場合で、扶養義務者の資力がその全員を扶養するに足りないときの扶養を受けるべき者の順序についても、①と同様である(同条後段)。


(2) 扶養の程度・方法

具体的にどの程度の扶養を、いかなる方法によってなすべきかについても、扶養の順位と同様、まず扶養当事者の協議によって定めることになる。そして、協議が調わないときまたは協議ができない場合には、家庭裁判所が定めることになるが、その際には、扶養権利者の需要、扶養義務者の資力その他の一切の事情を考慮しなければならない(879条)。


(3) 扶養の順位・程度・方法に関する協議あるいは審判がなされた後に、事情の変更があれば、家庭裁判所は、その協議あるいは審判を変更または取り消すことができる(880条)。


(4) 過去の扶養料の求償

扶養義務者が数人いる場合において、その一方の扶養義務者が扶養料を支出した場合には、他の扶養義務者に支出した過去の扶養料を求償することができる(最判S26.2.13)。この場合、要扶養者を現に扶養している扶養義務者の意思に反して、他の扶養義務者が要扶養者を引き取って扶養したという事実だけでは、他の扶養義務者が扶養料の全額を負担することはない(同判例)。

また、扶養をする義務のある者が数人ある場合の扶養すべき者の順序および扶養の程度・その方法は、当事者間に協議が調わないとき、または協議をすることができないときは、家庭裁判所がこれを定める旨の規定(878条、879条)があるが、これは過去の扶養料を他の扶養義務者に求償する場合にも適用があり、各自の分担額は、協議が調わない限り、家庭裁判所が、各自の資力その他の一切の事情を考慮して審判で決定すべきであり、通常裁判所の判決手続で決定されることはない(最判S42.2.17)。

扶養義務を負わない第三者が要扶養者を事実上扶養したことによって扶養料を支払った場合、当該第三者は、扶養義務者の全員または任意の1人に対して、その立替扶養料の全額を請求できることができる(神戸地判S56.4.28)。この場合に扶養義務を負わない第三者が支払った扶養料は、不当利得(703条、704条)あるいは事務管理(702条1項)としての性質を有するからである。