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1親子

堀川 寿和2021/12/03 15:22

親子関係

 親子関係の発生には出生による場合と養子縁組による場合とがある。これに対応して、子には実子と養子がある。

実子

 実親子関係は、血縁関係が存在するときに、子の出生とともに法律上当然に発生する。

 実子は、嫡出子と嫡出でない子(非嫡出子)に区別される。


(1) 嫡出子

 嫡出子とは、婚姻関係にある夫婦の間に生まれた子をいう。

 嫡出子は、推定される嫡出子と推定されない嫡出子に区別される。


① 推定される嫡出子

 嫡出子であるかどうかについて、たとえばA男とB女の夫婦の間に子Cが生まれた場合に、B女とCの親子(母子)関係は確実であるが、A男とCの親子(父子)関係は、必ずしも確実であるとは限らない。そこで、民法は、嫡出の推定に関する規定を置いており、この規定によって夫の子と推定される子を推定される嫡出子という。


イ)嫡出の推定

 妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定される(772条1項)。婚姻中に懐胎したのであれば、夫の子である確実性が高いからである。

 また、婚姻の成立の日から200日を経過した後または婚姻の解消もしくは取消しの日から300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定される(772条2項)。したがって、この場合も夫の子(婚姻の解消・取消し後であれば元夫の子)と推定されることになる。


Point 事実上の離婚状態である場合(最判昭44.5.29)や、夫が長期間不在であった場合(最判平10.8.31)など、妻が夫の子を懐胎することが不可能であれば、夫の子であるとの嫡出の推定は及ばない。これを、「推定の及ばない子」という。



夫の子であるとの推定が及ばないとされた事例
離婚による婚姻解消後300日以内に出生した子であっても、母とその夫とが、離婚の届出に先だち約2年半以前から事実上の離婚をして別居し、まったく交渉を絶って、夫婦の実態が失われていた場合には、民法772条による嫡出の推定を受けない(最判昭44.5.29)。
婚姻成立の日から200日以後に出生した子であるが、母が子を懐胎した時期にはその夫は出征中であって母が夫の子を懐胎することが不可能であったことは明らかであるから、実質的には民法772条の推定を受けない嫡出子である(最判平10.8.31)。


ロ)嫡出の否認

 夫は、嫡出の推定により夫の子と推定された子が自分の子ではないと考える場合は、子が嫡出であることを否認することができる(774条)。この否認権は、子または親権を行う母に対する嫡出否認の訴えによって行う(775条前段)。なお、親権を行う母がないときは、家庭裁判所は、特別代理人を選任しなければならない(775条後段)。この嫡出否認の訴えは、夫が子の出生を知った時から1年以内に提起しなければならない(777条)。夫が成年被後見人であるときは、この期間は、後見開始の審判の取消しがあった後夫が子の出生を知った時から起算される(778条)。

 夫が、子の出生後において、その嫡出であることを承認したときは、その否認権を失う(776条)。したがって、嫡出否認の訴えを提起することはできない。


Point1 嫡出否認の訴えを提起する場合に、子に親権を行う母がないときは、その子に未成年後見人がいるときであっても、家庭裁判所が選任した特別代理人を相手方としなければならない。


Point2 父が「推定の及ばない子」との間の父子関係の不存在を争う場合は、「嫡出否認の訴え」によるのではなく、「親子関係不存在確認の訴え」によらなければならない。


② 推定されない嫡出子

 婚姻前に懐胎し、婚姻成立日から200日以内に生まれた子は、婚姻期間中に生まれているため嫡出子の身分は持つが、夫の子とは推定されない。このような子を推定されない嫡出子という。


Point 父が、「推定されない嫡出子」との間の父子関係の不存在を争う場合は、「嫡出否認の訴え」によるのではなく、「親子関係不存在確認の訴え」によらなければならない。


(2) 嫡出でない子(非嫡出子)

 嫡出でない子とは、婚姻関係にない男女の間に生まれた子をいう。非嫡出子ともいう。

 親同士が婚姻関係にないので、嫡出の推定の適用はなく、特に父子関係を確定させるためには『認知』という手続が必要となる。




(3) 認知

 嫡出でない子は、その父または母がこれを認知することができる(779条)。


① 母の認知

779条の文言は「父又は母」となっているが、母子関係は分娩の事実によって当然に確定できるので、原則として母の認知は不要である。母の認知は遺棄された子等に関する例外的な手段と考えられる。


② 父の認知(任意認知)

 認知が問題となるのは父のほうである。以下、認知の要件を挙げる。

 なお、未成年者または成年被後見人が認知をする場合でも、保護者の同意は不要である(780条)。

(a) 戸籍法による届出または遺言によって行うこと(781条)。

(b) 成年の子を認知する場合、その子の承諾を得ること(782条)。親の身勝手を防ぐ趣旨である。

(c) 胎児を認知する場合、その母の承諾を得ること(783条1項)

(d) 死亡した子に直系卑属がある場合、当該直系卑属のために死亡した子を認知することができるが、その場合は当該直系卑属の承諾を得ること(783条2項)


Point 認知は遺言によってもおこなうことができる(781条)。



認知の要式性が緩和された事例
嫡出でない子につき、父から、これを嫡出子とする出生届がされ、または嫡出でない子としての出生届がされた場合において、右各出生届が戸籍事務管掌者によって受理されたときは、その各届は認知届としての効力を有する(最判昭53.2.24)。


③ 効果

 認知は、出生の時にさかのぼってその効力を生ずる。したがって、認知を受けた子は、出生時に遡って、認知をした者の子としての身分を得る。ただし、第三者が既に取得した権利を害することはできない。(784条)。

 認知をした者は、その認知を取消すことができない(785条)。


④ 認知の訴え(強制認知)

 父が任意に認知しない場合、父に対して認知を求める訴えを提起することができる。この訴えを提起することができるのは、子、その直系卑属、またはこれらの者の法定代理人である(787条)。


(4) 準正

 準正とは、父母の婚姻を原因として、非嫡出子を嫡出子とする制度をいう。


【準正の種類】

種類内容効果発生時期
婚姻準正認知された子の父母が、その後婚姻することで成立婚姻の時から
認知準正父母の婚姻後に、子が認知された場合に成立認知の時から

※ 子が既に死亡していた場合も、準正の効果を生じる(789条3項)

※ 一度嫡出子の身分を得た子が、その後非嫡出子となることはない。親が離婚しても嫡出子は嫡出子のままである。



養子

 養子制度は、親子の血縁関係がない者の間に、法的に親子関係を擬制する制度である。

 養子は縁組のときから実子と全く同じ扱いを受け、養親の嫡出子としての身分を得る。


(1) 縁組の成立要件

 養親子関係は、以下の要件を満たすことで生じる。婚姻と類似している点が多いので、関連させて覚えるとよい。なお、養子縁組の場合も、やはり成年被後見人は単独の行為が可能である(799条)

① 縁組意思の合致と戸籍法上の届出(799条、739条)

② 養親となる者が、20歳に達していること(792条)

③ 養子となる者が、養親の尊属または年長者でないこと(793条)

④ 後見人が被後見人を養子とする場合、家庭裁判所の許可を得ること(794条)。

⑤ 未成年者を養子とする場合のうち、自己または配偶者の直系卑属以外の者を養子とする場合は、家庭裁判所の許可を得ること(798条)。


Point1 養親となる者は、20歳に達している必要はあるが、婚姻していることまでは要しない(792条)。


Point2 尊属や年長者は、その年齢にかかわらず、養子とすることができない(793条)。


Point3 尊属や年長者を養子とした場合、無効となるのではなく、取消事由となる(805条)。


Point4 未成年者を養子とする場合は、家庭裁判所の許可を得る必要はあるが(798条)、未成年者の法定代理人の同意を得る必要はない。


Point5 未成年者を養子とする場合であっても、自己または配偶者の直系卑属を養子とするときは、家庭裁判所の許可を要しない(798条)。



養子縁組届の要式行為性が問題となった事例
養子とする意図で他人の子を嫡出子として出生届をしても、右出生届をもって養子縁組届とみなし、有効に養子縁組が成立したものとすることはできない(最判昭50.4.8)。


(2) 効果

① 養子は、縁組の日から養親の嫡出子としての身分を取得する(809条)。

② 養子が未成年者である場合は、養親の親権に服する(818条2項)。

③ 養子と「養親の血族」との間に、法定血族関係を生じる(727条)。なお、養親と「養子の血族」との間には血族関係は生じない。

④ 養子は、実方の親族関係から離脱しない。よって、実親の相続権を引き続き有することになる。

⑤ 養子は、養親の氏を称する。ただし、養子となった者が婚姻の際に配偶者の氏を称するものと定めていた場合は配偶者の氏をそのまま称する。


(3) 養子縁組に関するその他の規定

① 代諾縁組(797条)

 15歳未満の者を養子とする場合、その法定代理人が代わって承諾することが必要である。加えて家庭裁判所の許可も得なければならない。

② 夫婦共同縁組(795条)

 配偶者のある者が未成年者を養子にする場合、配偶者と共にしなければならない。夫婦の一方だけが親になるという不自然な状況を避けるためである。

 ただし、以下の場合は単独でよい。

(a) 配偶者の嫡出子を養子にする場合。連れ子での再婚の場合が典型例である。

(b) 配偶者が意思表示できない場合

③ 縁組の無効・取消し

(a) 縁組の無効

 縁組は、以下の場合に無効となる。

i) 縁組意思を欠く場合

ii) 縁組の届出を欠く場合

(b) 縁組の取消し

 縁組の取消しは、以下の場合に、必ず家庭裁判所に請求して行う(803条)。

i) 養親が20歳未満の者である場合(804条)

ii) 養子が尊属または年長者である場合(805条)

iii) 後見人が家庭裁判所の許可を得ずに被後見人を養子にした場合(806条)

iv) 夫婦の一方が配偶者の同意を得ずに縁組した場合(806条の2)

v) 代諾縁組で、監護者たる父母の同意を得ずに縁組した場合(806条の3)

vi) 家庭裁判所の許可を得ずに未成年者を養子にした場合(807条)

vii) 詐欺または強迫による縁組(808条、747条)


(4) 離縁

 離婚と同様、養子縁組も解消することができる。それが離縁である。離縁にも協議によるものと裁判によるものがある。

① 協議離縁

 当事者はいつでもその協議によって離縁することができる。この離縁は離縁意思の合致と戸籍法上の届出によって成立する(812条、813条)。

 養子が15歳未満であるときは、離縁の後にその養子の法定代理人となるべき者とが協議する(811条2項)。

 また、養親が夫婦である場合に、未成年者と離縁をするには、夫婦が共にしなければならない(811条の2本文)。

② 裁判離縁(814条1項)

 こちらも離婚同様、814条1項列挙事由に該当しなければ裁判離縁はできない。列挙事由は以下のとおり。

(a) 悪意の遺棄

(b) 3年以上の生死不明

(c) 縁組を継続し難い重大な事由 


(5) 離縁の効果

① 養親子関係・養親族関係の終了(729条)

② 復氏(816条1項)

③ 養親子関係継続中に養親の祖先の祭祀を営むための祭具等の所有権を承継していた場合、関係人と協議してその権利の継承者を定めなければならない(817条、769条)。