- 民法ー6.担保物権
- 6.根抵当権
- 根抵当権
- Sec.1
1根抵当権
例えば、銀行が特定の取引先に繰り返し融資を行う場合、上記で学習した普通の抵当権を使うと、大変な手間がかかる。というのも、普通の抵当権は、担保している債権が消滅すると、それに伴って当然に消滅してしまう(付従性)ため、その都度設定し直さなければならなくなるのである。
このような場合に出番となるのが「根抵当権」である。根抵当権は、一定の範囲に属する不特定の債権を、極度額を限度にまとめて1つの抵当権で担保してくれるというものである(398条の2第1項)。これを使えば、複数ある債権のうちの一部が消滅したとしても、抵当権を設定し直す必要がなくなり、便利なのである。
■根抵当権の設定・内容
(1) 根抵当権の設定
抵当権は、設定行為で定めるところにより、一定の範囲に属する不特定の債権を極度額の限度において担保するためにも設定することができる(398条の2第1項)。このような抵当権のことを「根抵当権」という(398条の2第2項)。
極度額とは、根抵当権者がその根抵当権に基づいて優先弁済を受けることができる上限額をいう。
(2) 根抵当権の内容
根抵当権の担保すべき不特定の債権の範囲は、債務者との特定の継続的取引契約によって生ずるものその他債務者との一定の種類の取引によって生ずるものに限定して、定めなければならない(398条の2第2項)。
Point1 上記の債権以外にも、①特定の原因に基づいて債務者との間に継続して生ずる債権、②手形上もしくは小切手上の請求権または③電子記録債権は、根抵当権の担保すべき債権とすることができる。
Point2 現在および将来の一切の債務をを担保するための根抵当権(包括根抵当権)を設定することはできない。
■根抵当権の特色
①付従性がない
根抵当権は、将来発生する可能性のある債権のために設定することができ、元本の確定前に債権が弁済により消滅しても、根抵当権は消滅しない。
②随伴性がない
普通の抵当権には随伴性があり、被担保債権が譲渡されるとそれに伴って移転する。一方、根抵当権の場合は、元本の確定前に個別の被担保債権が譲渡されても、その債権を譲り受けた者は、根抵当権を取得できない(398条の7第1項前段)。
③極度額の範囲内なら、元本以外の債権もすべて担保
根抵当権者は、確定した元本ならびに利息その他の定期金および債務の不履行によって生じた損害の賠償の全部について、極度額を限度として、その根抵当権を行使することができる(398条の3第1項)。
普通の抵当権のような、「最後の2年分まで」というような制限はない。その代わり、極度額を上回った部分は一切担保されない(一般債権になる)。
■根抵当権の変更
根抵当権者と根抵当権設定者は、元本確定前であれば根抵当権の内容を変更することができる。ただし、極度額については、元本確定後も変更することができる。
なお、極度額の変更には、利害関係人の承諾が必要である(398条の5)。例えば、1億円の極度額を1億5,000万円に増額する場合、配当額が減少するおそれのある後順位抵当権者等が利害関係人となり、承諾が必要となる。
さらに、減額の場合も承諾が必要な場合はある。例えば、根抵当権を担保にとっている者を転抵当権者というが、根抵当権の極度額が1億円から5,000万円に減額されると、転抵当権者は配当額が減少するおそれがある。したがって、転抵当権者は利害関係人にあたり、承諾が必要となる。
【まとめ】(398条の4、398条の5)
変更の対象 | 元本確定前 | 元本確定後 |
極度額 | 変更できる | |
被担保債権の範囲 | 変更できる | 変更できない |
債務者 | 変更できる | 変更できない |
元本確定期日 | 変更できる | 変更できない |
※ 極度額の変更のみ、利害関係人の承諾が必要
※ 「利害関係人」とは、増額変更なら後順位抵当権者など、減額変更なら転抵当権者などである。