- 民法ー6.担保物権
- 5.抵当権の実行
- 抵当権の実行
- Sec.1
1抵当権の実行
■抵当不動産の第三取得者の保護
抵当権設定者から、抵当不動産を買い受けた第三者を「第三取得者」という。第三取得者は抵当権が実行されると、せっかく手に入れた不動産の所有権を失うことになりかねない。そこで第三取得者が、買い受けた不動産の所有権を失わずにすむ方法が定められている。第三取得者は次の①~③のいずれかの方法によって抵当権を消滅させることができる。
① 抵当権消滅請求 ② 代価弁済 ③ 第三者弁済
PointAのBに対する貸金債権を担保するため、B所有地にAの抵当権が設定されていたが、Bはその所有地をCに売却した。その後、Bが債務を弁済しないため、Aは抵当権を実行し、C所有地を競売にかけた。
この場合において、Dがその土地を競落したときは、土地の所有権がCからDに移転するため、Cは、土地の所有権を失うことになる。これを未然に防ぐための方法があるということである。
(1) 抵当権消滅請求
① 抵当権消滅請求の手続
抵当不動産の第三取得者は、一定の金額を抵当権者に提供することを申し出て、抵当権消滅請求をすることができる(379条)。この場合、抵当不動産の第三取得者は、登記をした各債権者に対し、所定の書面を送付しなければならない(383条)。
登記をしたすべての債権者が抵当不動産の第三取得者の提供した一定の金額を承諾し、かつ、抵当不動産の第三取得者がその承諾を得た一定の金額を払い渡しまたは供託したときは、抵当権は、消滅する(386条)。
事例AのBに対する貸金債権3,000万円を担保するために、B所有地にAの抵当権が設定されていたが、Bはその土地をCに売却した。この場合、B所有地を買い受けた第三取得者Cは、抵当権者Aに対して、抵当不動産の購入代金2,000万円をAに支払うことで抵当権を消滅させるよう請求し、その金額についてAの承諾を得たときは、Cは、購入代価2,000万円をAに支払うことにより、抵当権を消滅させ、自己の所有権を保全することができる。
Point1 主たる債務者、保証人およびその承継人は、抵当権消滅請求をすることができない(380条)。
Point2 買い受けた不動産について契約の内容に適合しない抵当権の登記があるときは、買主は、抵当権消滅請求の手続が終わるまで、その代金の支払を拒むことができる(577条1項前段)。この場合、売主は、買主に対し、遅滞なく抵当権消滅請求をすべき旨を請求することができる(577条1項後段)。
② 抵当権消滅請求の時期
抵当不動産の第三取得者は、抵当権の実行としての競売による差押えの効力が発生する前に、抵当権消滅請求をしなければならない(382条)。
③ 債権者のみなし承諾
債権者が上記①の所定の書面の送付を受けた後2か月以内に抵当権を実行して競売の申立てをしないときには、債権者が抵当不動産の第三取得者の提供した一定の金額を承諾したものとみなされる(384条1号)。
Point 債権者は、抵当権消滅請求を承諾したくない場合は、書面の送付を受けた後2か月以内に抵当権を実行して競売の申立てをしなければならない。
(2) 代価弁済
抵当不動産について所有権(または地上権)を買い受けた第三者が、抵当権者の請求に応じてその抵当権者にその代価を弁済したときは、抵当権は、その第三者のために消滅する(378条)。
事例AのBに対する貸金債権3,000万円を担保するために、B所有地にAの抵当権が設定されていたが、Bはその土地をCに売却した。この場合、B所有地を買い受けた第三取得者Cは、抵当権者Aの請求に応じて、抵当不動産の購入代金2,000万円をAに支払うことにより、抵当権を消滅させ、自己の所有権を保全することができる。
(3) 第三者弁済
Point第三取得者は、「弁済をするについて正当な利益を有する第三者」に該当するため、債務者に(第三者取得者がすることにつき)反対の意思があったとしても、弁済することができる。
■抵当権実行としての競売
抵当不動産の第三取得者は、その競売において買受人となることができる(390条)。
Point1抵当不動産の競落人(競売により、抵当不動産を買受けた者。「買受人」ともいう。)には、債務者を除き、誰でも(第三取得者・物上保証人・抵当権者)なることができる。
Point2抵当権者は、第三取得者がいる場合であっても、抵当権を実行する前に、第三取得者に対して、「抵当権を実行する旨の通知」をする必要はない。
競売の手続き(参考)
①競売の申立 | 抵当権者が、抵当不動産を管轄する裁判所に競売の申立てをする。 |
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②競売の開始決定 | 申立てを受けた裁判所は、競売の開始決定をし、抵当権者のために抵当不動産を差し押さえる。 |
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③競売 | 抵当不動産の売却は、入札または競り売り等の方法により行われる。 |
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④代金の納付 | 抵当不動産の競落人は、その代金を裁判所に納付する。代金納付したときに、競落人に所有権が移転する。 |
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⑤配当 | 裁判所は、納付された代金を抵当権者に配当する。 |
■抵当権と賃借権の関係
(1)抵当権設定登記前の賃貸借
Point「借地借家法による対抗力」で建物の賃借人は、建物の引き渡しを受けていれば、建物賃借権の登記がなくても、対抗力を有する。
(2)抵当権設定登記後の賃貸借
①原則
② 例外(抵当権者の同意の登記がある場合の賃貸借の対抗力)
登記をした賃貸借は、その登記前に登記をした抵当権を有するすべての者が同意をし、かつ、その同意の登記があるときは、その同意をした抵当権者に対抗することができる(387条1項)。
Point抵当権者の同意の登記がある場合に保護される賃貸借は、「賃借権の登記」を備えたものに限られる。「借地借家法に定める対抗力」を有するのみでは、保護されない。
(3)抵当建物使用者の引渡しの猶予
抵当権者に対抗することができない賃貸借により抵当権の目的である建物の使用または収益をする者であって次の①または②に該当するもの(抵当建物使用者)は、その建物の競売における買受人の買受けの時から6か月を経過するまでは、その建物を買受人に引き渡すことを要しない(395条1項)。
①競売手続の開始前から使用または収益をする者
②強制管理または担保不動産収益執行の管理人が競売手続の開始後にした賃貸借により使用または収益をする者 |
買受人の買受けの時より後にその建物の使用をしたことの対価について、買受人が抵当建物使用者に対し相当の期間を定めてその1か月分以上の支払の催告をし、その相当の期間内に履行がない場合には、上記の引渡しの猶予の規定は適用されない(395条2項)。