• 民法ー5.債権各論
  • 7.請負契約
  • 請負契約
  • Sec.1

1請負契約

堀川 寿和2021/12/03 12:32

請負契約の成立

 請負契約は、当事者の一方(請負人)がある仕事を完成することを約し、相手方(注文者)がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる(632条)。

 土地の造成工事や家屋の建築工事などは、ほぼ、この請負契約によって行われる。



Point 請負契約は、当事者の合意で成立する諾成契約である。



請負人・注文者の義務

(1) 請負人の義務

① 仕事の完成義務

請負人は、仕事を完成させる義務を負う(632条)。


Point1 請負人は自ら仕事を完成する義務を負わないので、下請負禁止特約がない限り、下請負人に仕事を委託することができる


Point2 下請負禁止特約に違反しても下請負契約自体は有効である(大判明45.3.16)。


② 目的物引渡義務

請負契約の目的が家屋の建築の場合など、仕事の目的物の引渡しが必要な場合は、請負人は、完成した仕事の目的物を、注文者に対して引渡す義務を負う。


Point1 注文者が建築材料の主要部分を供給した場合は、特約のない限り、建物の所有権は原始的に注文者に帰属する(大判昭7.5.9)。特約があれば、特約によって所有権の帰属が定まる。


Point2 請負人が建築材料の全部または主要な部分を供給した場合は、建物の所有権は原始的に請負人に帰属し、引渡しによって所有権が注文者に移転する(大判明37.6.22)。ただし、請負人が材料の全部を供給したときであっても、仕事完成までの間に注文者が請負代金の大部分を支払っていた場合は、建物完成と同時に建物の所有権を注文者に帰属させる合意があったものと推認される(大判昭18.7.20)。


(2) 注文者の義務(報酬支払義務)

 注文者は、仕事の結果に対して、請負人に報酬を支払う義務を負う(632条)。

報酬は、仕事の結果に対して支払われるものであるので、請負人は、その約束した仕事が完成した後でなければ、報酬を請求することができない(633条ただし書、624条1項)。したがって、注文者は、仕事が完成しない場合は報酬を支払う必要はない。つまり、請負人の仕事の完成義務と注文者の報酬支払義務は同時履行の関係に立つのではなく、請負人の仕事の完成義務のほうが先履行となる。

 それに対して、仕事の目的物の引渡しが必要となる請負契約の場合は、報酬は、仕事の目的物の引渡しと同時に、支払わなければならない(633条本文)。つまり、請負人の目的物引渡義務と注文者の報酬支払義務は同時履行の関係に立つ。


仕事が完成しなかった場合の請負人の報酬請求権

前述の通り、原則として、請負人は、約束した仕事が完成した後でなければ、報酬を請求することができない。しかし、例外的に、仕事が完成しなかった場合であっても、既に行われた仕事によって注文者が利益を受けるときは、その利益に対応する部分の報酬の請求が認められる場合がある。

すなわち、次の①または②に該当する場合において、請負人が既にした仕事の結果のうち可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるときは、その部分を仕事の完成とみなされ、請負人は、注文者が受ける利益の割合に応じて報酬を請求することができる(634条)。

① 注文者の責めに帰することができない事由によって仕事を完成することができなくなったとき
② 請負が仕事の完成前に解除されたとき

 なお、注文者の責めに帰すべき事由によって仕事を完成することができなくなった場合は、請負人は報酬の全額を請求することができる。


事例 A工務店はBから家屋の新築工事を請け負った。しかし、工程の50%を施工した段階で、Aの経営困難により完成時期までに全工事を完成させることが不可能になってしまったため、BはAの債務不履行を理由に請負契約を解除した。その後、Bは既施工部分を引き取って、別の工務店によって建築工事を続行し、家屋を完成させた。

この場合、Bは既施工部分については利益を受けているので、その部分については仕事の完成とみなされ、Aはこの部分に対応する報酬を請求することができる。


Point 建物等の工事未完成の間に注文者が請負人の債務不履行を理由に請負契約を解除する場合において、工事内容が可分であり、かつ、当事者が既施工部分の給付について利益を有するときは、特段の事情のない限り、その部分についての契約を解除することはできない(最判昭56.2.17)。