• 民法ー5.債権各論
  • 4.消費貸借契約
  • 消費貸借契約
  • Sec.1

1消費貸借契約

堀川 寿和2021/12/03 10:30

 消費貸借契約の典型例が、お金の貸し借りである。借りた物は消費してしまう(使ってなくなってしまう)ため、賃貸借や使用貸借と違って、借りた物そのものを返還するのではなく、借りた物と価値が同じ物を返還すればよいというのが、消費貸借の特徴である。


消費貸借契約の成立

 消費貸借契約には、要物契約である消費貸借契約と、諾成契約である諾成的消費貸借契約の2つがあり、それぞれ契約の成立要件が異なる。


(1) 要物契約としての消費貸借契約

消費貸借契約は、当事者の一方(借主)が種類、品質および数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方(貸主)から金銭その他の物を受け取ることによって、その効力を生ずる(587条)。このように、「物を受け取ること」によって契約は成立するので、消費貸借契約は、原則として、要物契約である。


事例 BがAから50万円を借りる場合、BがAから50万円を受け取ったときに、消費貸借契約は成立する。




Point 消費貸借契約は、原則として、片務無償要物契約である。


(2) 諾成的消費貸借契約(書面でする消費貸借契約)

 諾成的消費貸借契約は、書面ですることにより、物の引渡しがなくても成立する(諾成契約)。


① 諾成的消費貸借契約の成立(契約が書面でされること)

書面でする消費貸借契約は、当事者の一方(貸主)が金銭その他の物を引き渡すことを約し、相手方(借主)がその受け取った物と種類、品質および数量の同じ物をもって返還をすることを約することによって、その効力を生ずる(587条の2第1項)。


Point 口頭の合意だけでは、諾成的消費貸借契約は成立しない。

 なお、お金の貸し借りをした場合などに作成される「借用証(書)」は、お金を借りたこと(消費貸借契約の存在)を証明する書面にすぎないので、これを作成したとしても書面で消費貸借契約(諾成的消費貸借)をしたことにはならない。 


② 目的物受取り前の借主の解除権

書面でする消費貸借の借主は、貸主から金銭その他の物を受け取るまで、契約の解除をすることができる(587条の2第2項前段)。これは、契約が成立したからといって、借りる必要がなくなった場合にまで、借主に借りる義務はないということである。

 ただし、貸主は、その契約の解除によって損害を受けたときは、借主に対し、その賠償を請求することができる(587条の2第2項後段)。


③ 当事者の一方が破産手続開始の決定を受けた場合の契約の失効

書面でする消費貸借は、借主が貸主から金銭その他の物を受け取る前に当事者の一方が破産手続開始の決定を受けたときは、その効力を失う(587条の2第3項)。これは、借主が破産手続開始の決定を受けた場合に、貸主に対して弁済の資力がない借主に貸す義務を負わせるのは不公平であるし、貸主が破産手続開始の決定を受けた場合は、借主の貸主に対する信用がなくなるからである。


④ 契約が電磁的記録でされた場合

消費貸借がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その消費貸借は、書面によってされたものとみなされる(587条の2第4項)。つまり、諾成的消費貸借契約は、書面に代えて、電磁的記録によりすることもできる。


利息

 要物契約としての消費貸借契約も、諾成契約としての消費貸借契約も、契約の成立要件として利息に関する合意は要求されていない。したがって、貸主は、特約がなければ、借主に対して利息を請求することができない(589条1項)。

 利息の特約があるときは、貸主は、借主が金銭その他の物を受け取った日以後の利息を請求することができる(589条2項)。


貸主の引渡義務等

(1) 貸主の引渡義務

 消費貸借契約は原則として要物契約である(貸主が物を貸したときに契約が成立する)ので、貸主は貸す(目的物を引き渡す)義務を負わない。

 これに対して、諾成契約としての消費貸借契約では、貸主に貸す(目的物を引き渡す)義務が発生する。

契約の内容については、貸主は、消費貸借の目的である物または権利を、消費貸借の目的として特定した時の状態で引き渡し、または移転することを約したものと推定される(590条1項、551条1項)


(2) 貸主の担保責任(契約不適合責任)

 利息の特約のない消費貸借において消費貸借の目的物が契約の内容に適合しない場合は、目的物の契約不適合に関する贈与の規定が準用される(590条1項、551条2項)。