- 民法ー5.債権各論
- 2.売買契約
- 売買契約
- Sec.1
1売買契約
■売買契約の成立
売買契約は、当事者の一方(売主)がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方(買主)がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる(555条)。
■売主・買主の義務
(1) 売主の義務
① 財産権移転義務
売主は売買の目的となる財産権を買主に移転する義務を負う。
売買の目的が権利の場合は、売主は契約の内容に適合した権利を買主に移転する義務を負い、売買の目的が物の場合は、売主は、種類、品質および数量に関して契約の内容に適合するものを、買主に引き渡す義務を負う。
② 対抗要件具備義務
売主は、買主に対し、登記、登録その他の売買の目的である権利の移転についての対抗要件を備えさせる義務を負う(560条)。
③ 全部他人物・一部他人物の売主の権利取得移転義務
他人の権利(権利の一部が他人に属する場合におけるその権利の一部を含む)を売買の目的としたときは、売主は、その権利を取得して買主に移転する義務を負う(561条)。
④ 特定物の売主の目的物保管義務
売買の目的が特定物の場合は、売主は、その引渡しをするまで、契約その他の債権の発生原因および取引上の社会通念に照らして定まる善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない(400条)。
(2) 買主の義務(代金支払義務)
買主は売主に対して代金を支払う義務を負う。
■売主の契約不適合責任(売主の担保責任)
前述の通り、売主は、「契約の内容に適合した」権利を移転し、または目的物を引き渡すべき義務を負う。その義務の不履行に対する売主の責任が、売主の契約不適合責任(売主の担保責任)である。
すでに学んだように、売買契約の売主に債務不履行があった場合は、買主は売主に対し損害賠償の請求や契約の解除をすることができるが、物・権利に関する契約不適合があった場合は、これに加えて、買主に追完請求権や代金減額請求権の行使が認められる。
(1) 買主の追完請求権
① 目的物の契約不適合を理由とする追完請求権
引き渡された目的物が種類、品質または数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、以下のいずれかによる履行の追完を請求することができる(562条1項本文)。
イ) 目的物の修補
ロ) 代替物の引渡し ハ) 不足分の引渡し |
Point たとえば、マイホームを建築するために200㎡の宅地の売買契約を締結した場合に、引渡しを受けた土地が宅地ではなく田であった場合は種類に関する契約不適合となり、引渡しを受けた土地に産業廃棄物が埋まっていた場合は品質に関する契約不適合となり、引渡しを受けた土地が180㎡しかなければ数量に関する契約不適合となる。
② 追完の方法
いずれの方法によって追完の請求をするかは、原則として買主の選択によるが、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる(562条ただし書)。
③ 追完請求権を行使できない場合
契約不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、履行の追完の請求をすることができない(562条2項)。
④ 権利の契約不適合を理由とする追完請求権
以上の①~③のルールは、売主が買主に移転した権利が契約の内容に適合しないものである場合(権利の一部が他人に属する場合においてその権利の一部を移転しないときを含む)にも適用される(565条)。たとえば、マイホームを建築するために宅地の売買契約を締結した場合に、その土地の一部が他人物であった場合や、地上権・賃借権・抵当権等の存在しないはずの権利があった場合などが、権利に関する契約不適合となる。
(2) 買主の代金減額請求権
① 目的物の契約不適合を理由とする代金減額請求権(原則)
引き渡された目的物が種類、品質または数量に関して契約の内容に適合しないものであるときに、買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がないときは、買主は、その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができる(563条1項)。
② 催告が不要な場合(例外)
次のいずれかに該当する場合は、買主は、履行の追完の催告をすることなく、直ちに代金の減額を請求することができる。このような場合は、催告をしても無意味だからである(563条2項)。
イ)履行の追完が不能であるとき。
ロ)売主が履行の追完を拒絶する意思を明確に表示したとき。 ハ)契約の性質または当事者の意思表示により、特定の日時または一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、売主が履行の追完をしないでその時期を経過したとき。 ニ)イ)~ハ)のほか、買主が催告をしても履行の追完を受ける見込みがないことが明らかであるとき。 |
③ 代金減額請求権を行使できない場合
契約不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、代金の減額の請求をすることができない(563条3項)。
④ 権利の契約不適合を理由とする代金減額請求権
以上の①~③のルールは、売主が買主に移転した権利が契約の内容に適合しないものである場合(権利の一部が他人に属する場合においてその権利の一部を移転しないときを含む)にも適用される(565条)。
(3) 買主の損害賠償請求権および解除権
売買契約において売主に債務不履行があった場合は、一定の要件を満たす場合に、買主は売主に対し損害賠償の請求や契約の解除をすることができる。
契約不適合も債務不履行の一種であるので、買主が契約不適合を理由とする追完請求権や代金減額請求権を行使することができる場合であっても、その要件を満たしているのであれば、債務不履行を理由に、買主は売主に対し損害賠償の請求や契約の解除をすることができる(564条)。
(4) 目的物の種類または品質に関する担保責任の期間の制限
売主が「種類」または「品質」に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合において、買主がその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、その不適合を理由として、①履行の追完の請求、②代金の減額の請求、③損害賠償の請求および④契約の解除をすることができない(566条本文)。
ただし、売主が引渡しの時にその不適合を知り、または重大な過失によって知らなかったときは、1年以内にその旨を売主に通知していなくても、上記①~④をすることができる(566条ただし書)。
Point1 買主は、契約不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知していれば、1年経過後であっても上記①~④をすることができる。
Point2 この1年の期間制限は、権利および目的物の数量に関する契約不適合には適用されない。
(5) 担保責任を負わない旨の特約
売主は、上記の担保責任を負わない旨の特約をすることができる。
ただし、担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても、次の事項については、その責任を免れることができない(572条)。
① 売主が知りながら告げなかった事実
② 売主が自ら第三者のために設定しまたは第三者に譲り渡した権利 |
(6) 目的物の滅失等についての危険の移転
① 引渡しによる買主への危険の移転
売主が買主に目的物(売買の目的として特定したものに限る)を引き渡した場合において、その引渡しがあった時以後にその目的物が当事者双方の責めに帰することができない事由によって滅失し、または損傷したときは、買主は、その滅失または損傷を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求および契約の解除をすることができず、また代金の支払を拒むことができない(567条1項)。
② 買主の受領遅滞中の目的物の滅失・損傷に関する危険
売主が契約の内容に適合する目的物をもって、その引渡しの債務の履行を提供したにもかかわらず、買主がその履行を受けることを拒み、または受けることができない場合において、その履行の提供があった時以後に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその目的物が滅失し、または損傷したときも、買主は、その滅失または損傷を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求および契約の解除をすることができず、また代金の支払を拒むことができない(567条2項)。