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1連帯債務(多数当事者の債権債務)

堀川 寿和2021/12/02 15:18

 連帯債務とは、複数の債務者がいる場合に成立する債務である。金銭債務のように債務の目的が性質上可分である場合に複数の債務者がいるときは、原則として各債務者は全債務を債務者の数で等分した債務を負うことになるのだが、連帯債務が成立すると、複数の債務者がそれぞれ個々に、債権者に対して全債務を履行する義務を負うことになる。ここでは連帯債務が成立する場合の、債務者と債権者の関係、債務者間の関係について学習していく。

連帯債務の意義

(1) 可分債務

 金銭債務など、債務の目的がその性質上可分な場合、その債務を可分債務という。

 可分債務について数人の債務者がある場合に、別段の意思表示がないときは、各債務者は、それぞれ等しい割合で義務を負う(427条)。


事例 A・B・Cの3人が共同でXから900万円の借金をした。この場合、別段の意思表示がなければ、A・B・Cは、それぞれが、Xに対して300万円の債務を負担することになる。したがって、Xは、A・B・Cに対して、それぞれ300万円ずつしか請求できないので、たとえばAが300万円を返せなくなったとしても、その300万円を、BやCに代わりに支払うよう請求することはできない。



(2) 連帯債務

① 連帯債務者に対する履行の請求

 前述のように、可分債務の場合で数人の債務者があるとき、債権者は債務者の1人に全額を弁済するよう請求することができないが、これを可能にしたものが連帯債務である。

 債務の目的がその性質上可分である場合において、法令の規定または当事者の意思表示によって数人が連帯して債務を負担するときは、債権者は、その連帯債務者の1人に対し、または同時にもしくは順次に全ての連帯債務者に対し、全部または一部の履行を請求することができる(436条)。


② 負担部分

 連帯債務が成立すると、連帯債務者は各自で債権者に対して全額の弁済義務を負うことになるが、連帯債務者間の内部では、その債務の負担割合が定められる。 この割合を負担部分という。負担部分は、特約があればそれにより、特約がなければ平等ということになる。弁済をした連帯債務者は、他の連帯債務者に対して、それぞれの負担部分に応じて求償することができる(後述)。


事例 A・B・Cの3人が共同でXから900万円の借金をした。このとき、A・B・CはXに対する債務について連帯して負担する旨の契約をした。この場合、A・B・Cは、それぞれが、Xに対して900万円全額の債務を負担することになる。Xは、900万円までの範囲で、A・B・Cの誰か1人に対して支払うよう請求してもよいし、A・B・Cの全員に対して同時または順次に支払うよう請求してもよい。

また、A・B・Cの間で「負担部分は平等」と定めれば、A・B・Cの負担部分は各300万円となる。




連帯債務者の1人についての法律行為の無効等

 連帯債務者の1人について法律行為の無効または取消しの原因があっても、他の連帯債務者の債務は、その効力を妨げられない(437条)。


事例 A・B・Cの3人が共同でXから900万円の建物を購入した。このとき、A・B・CはXに対する代金債務について連帯して負担する旨の契約をした。

Aは未成年者であったが、親権者の同意を得ないで契約を締結したということで、契約が取り消されたとしても、XとB・C間の契約は有効であり、B・Cの2人で900万円の連帯債務を負担することになる。




相対的効力と絶対的効力

 連帯債務者の1人について生じた事由が、他の連帯債務者に対してその効力を生じないことを相対的効力という。これに対して、絶対的効力とは、連帯債務者の1人について生じた事由が、他の連帯債務者に対してその効力を生じることをいう。


(1) 相対的効力の原則

 原則として、連帯債務者の1人について生じた事由は、他の連帯債務者に対してその効力を生じない(441条本文)。これを、「相対的効力の原則」という。

ただし、相対的効力しか有しない事由について、当事者間の合意により、絶対的効力を与えることはできる(441条ただし書)。


事例 Xに対してA・B・Cの3人が900万円の連帯債務を負担している。なお、A・B・Cの負担部分は、平等とする。

XがAに対して履行の請求をした場合に、確定判決等によって権利が確定すると、Aに対する債権の消滅時効は更新されるが、BやCにはその効力は及ばない。




(2) 絶対的効力事由

 弁済、相殺、更改および混同の4つは、絶対的効力を有する。したがって、これらが連帯債務者の1人について生じた場合は、他の連帯債務者に対してその効力を生じる。


① 弁済

 連帯債務者の1人が弁済すれば、他の連帯債務者の債務も消滅する。


事例 Xに対してA・B・Cの3人が900万円の連帯債務を負担している。なお、A・B・Cの負担部分は、平等とする。

AがXに900万円弁済するとAの債務は消滅するが、このときBおよびCの債務も消滅することになる。




② 相殺

 連帯債務者の1人が債権者に対して債権を有する場合において、その連帯債務者が相殺を援用したときは、債権は、全ての連帯債務者の利益のために消滅する(439条1項)。


事例 Xに対してA・B・Cの3人が900万円の連帯債務を負担している。なお、A・B・Cの負担部分は、平等とする。

AがXに対して900万円の債権を持っていた場合に、Aが相殺を援用すると、Aの債務は消滅するが、このときBおよびCの債務も消滅することになる。




③ 更改

 連帯債務者の1人と債権者との間に更改があったときは、債権は、全ての連帯債務者の利益のために消滅する(438条)。


事例 Xに対してA・B・Cの3人が900万円の連帯債務を負担している。なお、A・B・Cの負担部分は、平等とする。

AとXとの間で、900万円の金銭を支払うかわりに、A所有の甲土地を引き渡す旨の契約(更改)をした場合、Aには新たに甲土地の引渡し債務が発生するのに対して、Aの900万円の支払債務は消滅するが、このときBおよびCの900万円の支払い債務も消滅することになる。



④ 混同

 連帯債務者の1人と債権者との間に混同があったときは、その連帯債務者は、弁済をしたものとみなす(440条)。


事例 Xに対してA・B・Cの3人が900万円の連帯債務を負担している。なお、A・B・Cの負担部分は、平等とする。

債務が履行される前にXが死亡し、AがXを単独で相続した場合、AとXの間に混同が生じて、Aが弁済したものとして扱われる。したがって、Aの債務は消滅するが、このときBおよびCの債務も消滅することになる。




Point 債権者が連帯債務者の1人に債権を譲渡した場合も、混同が生じる。


絶対的効力

弁済連帯債務者の1人が弁済すれば、他の連帯債務者の債務も消滅する。 
相殺連帯債務者の1人が債権者に対して債権を有する場合において、その連帯債務者が相殺を援用したときは、債権は、全ての連帯債務者の利益のために消滅する。
更改連帯債務者の1人と債権者との間に更改があったときは、債権は、全ての連帯債務者の利益のために消滅する。
混同連帯債務者の1人と債権者との間に混同があったときは、その連帯債務者は、弁済をしたものとみなす。