• 民法ー2.総則
  • 1.制限行為能力者制度
  • 制限行為能力者制度
  • Sec.1

1制限行為能力者制度

堀川 寿和2021/05/17 09:52


 「行為能力」とは、契約などの法律行為を単独で有効にすることのできる能力である。行為能力が制限されている者を制限行為能力者という。民法は、制限行為能力者として、未成年者、成年被後見人、被保佐人、被補助人の4つを定めている。
 いったん自分で結んだ契約(約束)は守らなければならない。これが民法の考え方である。しかし、なかには契約をすることの責任がわからない人や、契約の意味すら理解できない人もいる。そこで、これらの人々を自由な取引競争の犠牲から守るために、制限行為能力者として一定の契約は一人でできないことにしておき、一人で契約をしてしまった場合は、それがたとえきちんとした契約であっても後日取り消すことができるようにしているのである。


学習のポイント

1. 制限行為能力者の種類

2. 制限行為能力者の保護の方法

3. 追認と催告


意思能力

 「行為能力」について学習する前に、まずは「意思能力」について説明しておく。「意思能力」とは「自分がした意思表示の意味を理解することができる能力」である。有効に意思表示を行うには、「意思能力」が備わっている必要がある。意思能力は、子供であれば6~7歳くらいから備わりだすとされる。

 契約の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その契約は、無効となる。意思能力を有しない者(意思無能力者)がした意思表示は、その意味が理解できないまました意思表示であって、その意思に基づく意思表示とは言えないからである。


制限行為能力者制度

 このように、意思能力を有しない幼児や泥酔者、重い精神上の障害がある者などが契約をした場合は、意思能力がないために自分に不利な契約をしてしまったとしても、その契約は無効となり、これらの人は保護される。しかし、意思能力の有無が判定されるのは「意思表示をした時」であるため、契約の無効を主張する者は意思表示をした時に自分が意思無能力者であったことを証明しなければならず、これは現実的にはかなり難しい。また、それが証明されて契約が無効になったとしても、「一見して意思無能力者のようには見えないから契約したが、実は意思無能力者だった」というような場面では、契約の相手方が不測の損害を被る可能性がある。

 そこで民法は、「未成年者」と、判断能力の不十分な成年者を判断能力の程度に応じて「成年被後見人」「被保佐人」「被補助人」に分け、この4種類を「制限行為能力者」とし、それぞれに保護者をつけて、単独でした契約は取り消せるという制度をおいたのである。

 制限行為能力者制度では、契約をした時に制限行為能力者であったことを証明すれば契約を取り消すことができるので、契約をした時の意思能力の有無を証明する必要はなく、判断能力の不十分な人たちを手厚く保護することができる。また、契約の相手方も、未成年者かどうかは戸籍謄本を見れば分かるし、それ以外の3種類は登記されているため、公的な証明書によってそうであるかないかが判別できる。したがって、相手方も安心して契約できるようになる。


制限行為能力者保護者
未成年者年齢が18歳に達しない者親権者
未成年後見人
成年被後見人精神上の障害により、事理を弁識する能力を欠く常況にある者で、家庭裁判所の後見開始の審判を受けたもの成年後見人
被保佐人精神上の障害により、事理を弁識する能力が著しく不十分である者で、家庭裁判所の保佐開始の審判を受けたもの保佐人
被補助人精神上の障害により、事理を弁識する能力が不十分である者で、家庭裁判所の補助開始の審判を受けたもの補助人


Point 「後見開始の審判」、「保佐開始の審判」は、本人以外の請求により行われても本人の同意は必要としないが、「補助開始の審判」については、本人以外の請求によって行う場合は本人の同意を必要とする

制限行為能力者の保護とその方法

(1) 未成年者

 未成年者は、契約などの法律行為をするには、その法定代理人(親権者・未成年後見人)の同意を得なければならない。これは、未成年者は、原則として、単独で契約などをすることができないということである。未成年者が法定代理人の同意を得ずにした法律行為は、原則として取り消すことができる。例外的に、未成年者が単独ですることができ、取り消すことができないものは次の3つである。


① 単に権利を得または義務を免れる行為

 単に権利を得、または義務を免れる法律行為については、法定代理人の同意を得る必要はない。たとえば、プレゼントをもらう、借金を免除してもらうなどの行為は単独でできる。


② 法定代理人が処分を許した財産を処分する行為

 法定代理人が目的を定めて処分を許した財産は、その目的の範囲内において、未成年者が自由に処分することができる。目的を定めないで処分を許した財産を処分するときも、同様である。たとえば、お小遣いで買い物をするなどの行為は、単独でできる。


③ 法定代理人から許可された営業に関する行為

 1種または数種の営業を許された未成年者は、その営業に関しては、成年者と同一の行為能力を有する。




(2) 成年被後見人

 成年被後見人の法律行為は、取り消すことができる。これは、成年被後見人は、原則として、単独で契約などをすることができないということである。ただし、日用品の購入その他日常生活に関する行為については、単独ですることができ、取り消すことができない。ハブラシやシャンプーを買ったり、食料品を買ったりする契約ぐらいは1人でできないと不便だからである。


Point1 成年被後見人が単独で、

日用品を購入した取消しできない
不動産の贈与を受けた取消しできる

Point2 契約者が契約締結後に成年被後見人になったとしても、契約締結時に行為能力者であれば、その契約を取り消すことはできない


(3) 被保佐人

 被保佐人は、原則として単独で契約などをすることができる。ただし、被保佐人が「重要な財産上の行為」をするには、その保佐人の同意を得なければならない。そして、被保佐人が、保佐人の同意(またはこれに代わる裁判所の許可)を得ないで行った「重要な財産上の行為」は取り消すことができる。「重要な財産上の行為」とは、失敗したら大損害を被るような行為であり、具体的には、次の①~⑩に該当する行為である。


重要な財産上の行為
①元本を領収し、または利用すること
②借財または保証をすること
③不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること(土地の売買など)
④訴訟行為をすること
⑤贈与、和解または仲裁合意をすること
⑥相続の承認もしくは放棄または遺産分割をすること
⑦贈与の申込みを拒絶し、遺贈を放棄し、負担付贈与の申込みを承諾し、または負担付遺贈を承諾すること
新築改築増築または大修繕をすること
⑨長期賃貸借(5年を超える土地の賃貸借、3年を超える建物の賃貸借、6か月を超える動産の賃貸借)をすること
⑩上記①~⑨の行為を制限行為能力者(未成年者、成年被後見人、被保佐人および補助人)の法定代理人としてすること


Point 保佐人の同意を得なければならない行為について、保佐人が被保佐人の利益を害するおそれがないにもかかわらず同意をしないときは、家庭裁判所は、被保佐人の請求により、保佐人の同意に代わる許可を与えることができる。

(4) 被補助人

 被補助人は、原則として単独で契約等をすることができる。ただし、被補助人が、補助人の同意またはこれに代わる裁判所の許可を得ないでした補助人の同意を要する特定の法律行為は取り消すことができる。なお、補助人の同意を要する行為は上記の「重要な財産上の行為」のうち、家庭裁判所の審判で必要と判断されたものである。