• 民法ー4.債権総論
  • 5.債務不履行
  • 債務不履行
  • Sec.1

1債務不履行

堀川 寿和2021/12/02 14:33

 債務不履行とは、債務者が、債務の本旨(本来の目的)に従って、債務を履行しない(または履行できない)ことである。債務が契約に基づくものであれば、契約違反をする(約束を破る)ことである。

 ここでは、契約違反などの債務不履行があった場合に、債権者が債務者に対してどのような責任を追及できるのかを学ぶ。


債務不履行の種類

 債務不履行とは、債務者が、債務の本旨(本来の目的)に従って、債務を履行しない(または履行できない)ことである。

 債務不履行は、「履行遅滞」と「履行不能」の2つに分けられる。




(1) 履行遅滞

 履行遅滞とは、債務者が債務を履行できるにもかかわらず、正当な理由がないのに、履行期を過ぎても履行しない場合である。

 債務を履行しないまま履行期を過ぎると履行遅滞となるが、債務者がいつから履行遅滞の責任を負うことになるかは、期限の種類等により異なる。


① 確定期限がある場合

 確定期限とは、到来する期日が確定している期限をいう。

 債務の履行について確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来した時から遅滞の責任を負う(412条1項)。


事例 Aを売主、Bを買主とする建物の売買契約が成立し、その契約で、Aは、4月1日に、Bに建物を引き渡す旨合意していた。この場合、4月1日を過ぎても、Aがその建物を引き渡さないときは、履行遅滞となる。


② 不確定期限がある場合

 不確定期限とは、将来確実に到来するが、いつ到来するかは不確定な期限をいう。

 債務の履行について不確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来した後に履行の請求を受けた時またはその期限の到来したことを知った時のいずれか早い時から遅滞の責任を負う(412条2項)。


事例 Aを売主、Bを買主とする建物の売買契約が成立し、その契約で、Aは、Aの父が死亡したら、Bに建物を引き渡す旨合意していた。この場合、Aの父が死亡した後にAがBから建物引渡しの請求を受けた時、または、Aが父の死亡を知った時のいずれか早い時を過ぎても、Aがその建物を引き渡さないときは、履行遅滞となる。


③ 期限の定めがない場合

イ) 原則

 債務の履行について期限を定めなかったときは、債務者は、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う(412条3項)。


事例 Aを売主、Bを買主とする建物の売買契約が成立し、その契約で、AがBに建物を引き渡す時期については何も定めていなかった。この場合、AがBから建物引渡しの請求を受けた時を過ぎても、Aがその建物を引き渡さないときは、履行遅滞となる。


ロ) 消費貸借契約に基づく債務

 消費貸借契約において返還の時期を定めなかったときは、債務者は、履行の請求を受けて相当の期間を経過した時から遅滞の責任を負う。


事例 BがAに10万円を期限の定めなく貸し付けた。この場合、AがBから10万円の返還を請求されて相当の期間を経過した時を過ぎても、Aが10万円を返還しないときは、履行遅滞となる。


ハ) 不法行為に基づく損害賠償債務

不法行為(損害発生)の時から当然に遅滞の責任を負う(履行の請求を要しない)。


(2) 履行不能

 履行不能とは、債務者が債務を履行したくても履行できない場合である。債務の履行が不可能かどうかは、契約その他の債務の発生原因および取引上の社会通念に照らして判断される。したがって、物理的に債務の履行が不能になる場合に限らない。なお、金銭債務の不履行については、履行遅滞にはなっても、履行不能になることはない。

 履行不能となった場合、債権者は、その債務の履行を請求することができない(412条の2第1項)。

 履行不能には、「原始的不能」と「後発的不能」の2つがある。


① 原始的不能

 原始的不能とは、契約に基づく債務の履行がその契約の成立の時にすでに不可能になっている場合をいう。このような契約成立時から債務の履行が不可能な契約も、原則として、有効に成立する。


事例 A所有の建物につきAB間で売買契約が成立したが、その契約が締結された日の前日に、その建物が火災によって消滅していた。契約締結時にそもそもAはBに建物を引き渡すことができなかったわけだが、このような場合を原始的不能という。


② 後発的不能

 後発的不能とは、契約の成立(債務の発生)後に債務の履行が不可能になった場合をいう。


事例1 A所有の建物につきAB間で売買契約が成立したが、引渡しまでの間に、その建物が火災によって消滅してしまった。AはBに建物を引き渡すことができないが、このような場合を後発的不能という。


事例2 A所有の建物につきAB間で売買契約が成立したが、Bが登記をするまでに、その建物がCに二重譲渡され、先にCが登記をしてしまった。法律上、AはBに建物を引き渡すことができなくなるが、上記事例1のように物理的に債務の履行が不能となる場合だけでなく、このように法律的に債務の履行が不能になる場合も履行不能になる(最判昭35.4.21)。なお、Cが仮登記をしたにすぎない場合は、履行不能とはいえない(最判昭46.12.16)。



債務不履行の解決方法


履行の強制

(1) 履行の強制とは

  履行の強制とは、債務者が債務を履行しない場合に、最終手段として、国家(裁判所)の力を借りて、債権の内容を強制的に実現させることである。

債務者が任意に債務の履行をしないときは、債権者は、民事執行法その他強制執行の手続に関する法令の規定に従い、直接強制、代替執行、間接強制その他の方法による履行の強制を裁判所に請求することができる(414条1項本文)。

 なお、債務の性質が履行の強制を許さないときは、履行の強制を裁判所に請求することができない(414条1項ただし書)。


(2) 履行の強制の種類

 履行の強制には、主なものに、直接強制、代替執行、間接強制がある。


① 直接強制

 直接強制とは、債務者の意思にかかわらず、裁判所が、債務の内容をそのまま実現させる方法である。

 たとえば、金銭債務の場合であれば、裁判所が債務者の財産を差し押さえて、競売にかけて換金し、そのお金を債権者に与えるような方法である。

 この直接強制は、金銭の支払いや特定物の引渡しといった「与える債務」には用いることができるが、ピアノを演奏したり、絵を描いたりといった一定の行為をする「為す債務」には用いることができない。債務者が債権者に与えるものは債務者から無理やり取り上げることもできるが、債務者に一定の行為を無理やりさせることはできないからである。

② 代替執行

 代替執行とは、他人が代わって行うことができる債務が履行されない場合に、第三者にこれを履行させ、それに要した費用を強制的に債務者に負担させる方法である。


③ 間接強制

 間接強制とは、債務者が一定の期間内に債務を履行しない場合は一定の金額を債権者に支払うことを裁判所が債務者に命じ、これによって間接的に債務者の債務の履行を促す方法である。


(3) 履行の強制と損害賠償請求の関係

 債権者は、履行の強制を裁判所に請求するとともに、債務者に損害賠償を請求することもできる(414条2項)。