• 民法ー3.物権(担保物権を除く)
  • 5.共有
  • 共有
  • Sec.1

1共有

堀川 寿和2021/12/02 13:00

 共有とは、2人以上の者が1つの物を共同で所有しあうこという。一物一権主義に基づき、1つの物には1つの所有権しか存在することができないというのが原則である。しかし、現実には、複数の者による共同所有形態も少なくないため、民法ではこのような共有を認めている。

持分


共有の対象物共有物
共有物の各所有者共有者
持分持分とは、各共有者が共有物に対して持っている所有権である。持分は割合の形をとっており、各共有者の持分をあわせると、1つの所有権と内容が同じになる。つまり、共有物の所有権は、各共有者にその持分の割合
に応じて帰属するということである。共有者は多い少ないを別にして、必ず持分を有する。
各共有者は、他の共有者の同意を得ることなく自由にその持分を処分(譲渡・放棄)することができる。
持分の割合持分の割合は、法律の規定で定まる場合を除き、共有者間の合意により定める。法律の規定や共有者間の合意がない場合には、各共有者の持分は相等しいものと推定される(250条)。
持分の譲渡共有者の1人が持分を譲渡すれば、その持分は譲受人に移転する。
持分の放棄共有者の1人が持分を放棄すれば、その持分は他の共有者に(その持分割合に応じて)帰属する(255条)。
持分の相続共有者の1人が死亡して相続人がある場合は、その持分は相続人に移転する。
共有者の1人が死亡して相続人がない場合は、特別縁故者(その共有者の生前に療養・看護に努めた者)への財産分与があるときを除いて、その持分は、他の共有者に(その持分割合に応じて)帰属する(255条)。


Point1 共有者の1人が、その持分を放棄したとき、または死亡して相続人がないときは、その持分は、他の共有者に帰属する(255条)。無主物として国庫に帰属するのではない


Point2 被相続人が相続人なくして死亡した場合、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部または一部を与えることができる(958条の3)。共有者の1人が死亡し、相続人の不存在が確定し、相続債権者や受遺者に対する清算手続が終了したときは、その持分は、この特別縁故者に対する財産分与の対象となり、財産分与がされないときに、他の共有者に帰属する(最判平1.11.24)。


共有物の利用

(1) 共有物の使用

 各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる(249条)。共有者は、たとえ持分がわずかでも、自己の持分に基づいて、共有物の全部を占有することができる。また、共有者は、自己の持分に基づいて、第三者に共有物の占有使用を承認することもできる。なお、具体的な使用方法については、共有者の協議で定められる。


Point1 他の共有者との協議に基づかないで共有者の1人が共有物全部を占有している場合であっても、その共有者は自己の持分に基づいて共有物を占有することができるので、他の共有者は当然にはその共有物の明渡しを請求することができない(最判昭41.5.19)。


Point2 他の共有者との協議に基づかないで共有者の1人から共有物の占有使用を承認された第三者が共有物全部を占有している場合であっても、その第三者はその占有使用を承認した共有者の持分に基づくものと認められる限度で共有物を占有使用することができるので、他の共有者は当然にはその共有物の明渡しを請求することができない(最判昭63.5.20)。


(2) 共有物の保存・管理・変更

① 保存行為

 保存行為は、各共有者が単独ですることができる(252条ただし書)。

 保存行為とは、管理行為のひとつであり、共有物の現状を維持する行為をいう。具体的には、共有物の修繕、共有物の不法占有者(不法占拠者)に対する妨害排除請求(明渡請求)、共有不動産に係る債権の消滅時効の更新などがこれにあたる。


Point 共有物が不法占有された場合は、各共有者は自己の持分に基づいて、不法占有者に対して損害賠償を請求することができるが、各共有者は自己の持分を超えて損害賠償請求をすることができない(最判昭51.9.7)。


【発展・判例】不実の持分移転登記の抹消請求が保存行為とされた事例(最判平15.7.11)

不動産の共有者の1人は、その持分権に基づき、共有不動産に対して加えられた妨害を排除することができるところ、不実の持分移転登記がされている場合には、その登記によって共有不動産に対する妨害状態が生じているということができるから、共有不動産について全く実体上の権利を有しないのに持分移転登記を経由している者に対し、単独でその持分移転登記の抹消登記手続を請求することができる。


② 管理行為

 共有物の管理に関する事項は、各共有者の持分の価格の過半数で決する(252条)。

管理行為とは、共有物の性質を変えない範囲で利用したり、改良したりする行為をいう。具体的には、共有物の賃貸借契約を解除すること(最判昭39.2.25)、共有建物に冷暖房を完備したり、リフォームしたりすること、などがある。


③ 変更行為

 各共有者は、他の共有者全員の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができない(251条)。

変更行為とは、共有物の性質を大きく変更するか、共有物そのものを処分してしまう行為である。具体的には、建物の増築・改築・建替え、木を伐採して道をつくる、共有物を売却するなどがある。


(3) 共有物に関する負担

 各共有者は、その持分に応じ、管理の費用を支払い、その他共有物に関する負担を負う(253条1項)。管理の費用には、租税公課のほか、共有物の修繕費など共有物の保存・変更・管理に要するすべての費用を含む。

 共有者が1年以内にこの負担義務を履行しないときは、他の共有者は、相当の償金を支払ってその者の持分を取得することができる(235条2項)。


共有物の分割

(1) 共有物の分割

① 共有物の分割請求権

共有物の分割とは、共有物の共有関係を解消することである。各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができる(256条1項本文)。


Point 共有物の分割請求は、各共有者が単独ですることができ、全員の合意は必要ない


【発展・判例】共有物の分割において持分の譲渡が対抗できないとされた事例(最判昭46.6.18)

不動産の共有者の一員が自己の持分を譲渡した場合における譲受人以外の他の共有者は「第三者」に該当するから、持分譲渡につき登記が存しないときには、譲受人は、持分の取得をもって他の共有者に対抗することができない。持分譲渡があっても、その登記がないためにこれをもって他の共有者に対抗できないときには、共有者全員に対する関係において、持分がなお譲渡人に帰属するものとして共有物分割をなすべきである。


② 分割禁止特約

 共有者は、その全員の合意によって、5年を超えない期間内は分割をしない旨の契約をすることができる(256条1項ただし書)。この契約は、共有者全員の合意によって更新することができるが、その期間は、更新の時から5年を超えることができない(256条2項)。


Point 分割禁止特約がある場合は、各共有者は共有物の分割を請求することができない。


(2) 共有物の分割の方法

① 協議による分割

 共有物の分割は、原則として、共有者全員の協議により行う。

 協議による分割の方法としては、①現物分割、②代金分割、③価格賠償の3つがあり、どの方法で行ってもよい。

現物分割共有物をそのまま物理的に分ける方法
代金分割共有物を売却して、その代金を分ける方法
価格賠償共有物を共有者のうちの1人の単独所有または数人の共有として、これらの者から他の共有者に持分の価格を賠償させる方法


② 裁判による分割

 共有物の分割について共有者間に協議が調わないときは、その分割を裁判所に請求することができる(258条1項)。

裁判による分割の方法は、原則として現物分割であるが、現物分割が不可能な場合や現物分割をすると著しく価格が減少するような場合は、代金分割を命じることもできる(258条2項)。また、特段の事情がある場合は、判例により、価格賠償の方法による分割も認められている(最判平8.10.31)。


Point 共有物の現物を分割することができないとき、または分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは、裁判所は、共有物の競売を命ずることができる(258条2項)。これは、代金分割を命じることができるということである。


【発展・判例】裁判による分割でも特段の事情があれば価格賠償も認められるとされた事例(最判平8.10.31)

共有物の性質および形状、共有関係の発生原因、共有者の数および持分の割合、共有物の利用状況および分割された場合の経済的価値、分割方法についての共有者の希望およびその合理性の有無等の事情を総合的に考慮し、当該共有物を共有者のうちの特定の者に取得させるのが相当であると認められ、かつ、その価格が適正に評価され、当該共有物を取得する者に支払能力があって、他の共有者にはその持分の価格を取得させることとしても共有者間の実質的公平を害しないと認められる特段の事情が存するときは、共有物を共有者のうちの1人の単独所有または数人の共有とし、これらの者から他の共有者に対して持分の価格を賠償させる方法(全面的価格賠償の方法)による分割をすることも許される。


【発展・判例】複数の共有物を一括して分割の対象にできるとされた事例(最判昭45.11.6)

共有物のいわゆる現物分割は、本来は各個の共有物についての分割方法をいうものと解すべきであるが、数個の物であっても、たとえば、数個の建物が1筆の土地の上に建てられており外形上一団の建物とみられるときは、そのような数個の共有物を一括して、共有者がそれぞれその各個の物の単独所有権を取得する方法により分割することも現物分割の方法として許される。


【発展・判例】共有物分割請求をする者に対してのみの現物分割を認めた事例(最大判昭62.4.22)

共有者が多数である場合、その中のただ1人でも分割請求をするときは、当該請求者に対してのみ持分の限度で現物を分割し、その余は他の者の共有として残すことも許される


(3) 共有物の分割への参加

 共有物について権利を有する者および各共有者の債権者は、自己の費用で、分割に参加することができる(260条1項)。

 この参加の請求があったにもかかわらず、その請求をした者を参加させないで分割をしたときは、その分割は、その請求をした者に対抗することができない(260条2項)。


事例 AおよびBが共有する甲土地をCが賃借し、Cが甲土地上に乙建物を建てて所有している。

 AおよびBが甲土地の分割協議を行うときは、Cは、自己の費用で分割協議に参加することができる。そして、Cからの参加請求があったにもかかわらず、Cを参加させないでAおよびBが甲土地を分割した場合、その分割はCに対して対抗することができない。