- 民法ー2.民法総則
- 7.時効
- 時効
- Sec.1
1時効
時効とは、一定の期間、一定の事実状態が継続すると、権利を得たり(取得時効)または権利が消滅してしまったり(消滅時効)する制度である。つまり真実の権利関係と事実状態とが違っていた場合に、法律は長い間続いていた事実状態を保護することにしたのである。
■取得時効
(1) 所有権の取得時効
① 所有権の取得時効の要件
一定期間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物(動産・不動産)を占有した者は、その所有権を取得することができる(162条)。
以下が、所有権の取得時効を主張するのに必要な占有期間である。
占有開始時の占有者の状態 | 占有期間 |
善意かつ無過失 (自分の物と信じ、かつ、それについて落ち度がない) | 10年間 |
悪意(他人の物と知っている)または 善意有過失(落ち度があって知らない) | 20年間 |
Point1 占有とは、自己のためにする意思をもって物を所持すること、つまり物理的に物を支配することである。
Point2 所有の意思のある占有は自主占有、所有の意思のない占有は他主占有と呼ばれる。占有における所有の意思の有無は、占有者の内心の意思によってではなく、占有取得の原因たる事実によって客観的に定められる(最判昭45.10.29)。
自主占有 | 不動産の買主や受贈者の占有 |
他主占有 | 不動産の賃借人や預かり主の占有 |
Point3 占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定される(186条1項)。したがって、所有者が取得時効の成立を否定するためには、占有者に所有の意思がないことを証明しなければならない。
判例は、占有者がその性質上所有の意思のないものとされる権原に基づき占有を取得した事実が証明されるか、または占有者が占有中、真の所有者であれば通常はとらない態度を示し、もしくは所有者であれば当然とるべき行動に出なかったなど、外形的客観的にみて占有者が他人の所有権を排斥して占有する意思を有していなかったものと解される事情(他主占有事情)が証明されるときは、占有者の内心の意思のいかんを問わず、その所有の意思を否定し、時効による所有権取得の主張を排斥しなければならないとする(最判昭58.3.24)。
Point4 占有は、代理人によって取得することができる(181条)。このような占有を、代理占有という。たとえば、土地の賃貸借の関係でいえば、賃貸人自身も賃借人に貸している土地の占有(代理占有)を有することになる。
自己占有 | 実際に自分自身で占有する場合 |
代理占有 | 自分自身の代わりに他人に貸し付ける等により他の者に占有させる場合 |
事例 Aは、B所有の土地を善意無過失で5年間占有し、引き続き5年間Cに賃貸した。
この場合、Aは「自己占有の5年間」と「Cに賃貸した代理占有の5年間」をあわせて10年間占有を継続したことになり、B所有地を時効取得することができる。
Point5 Cには所有の意思がない(他主占有)ため、Cが何年占有を継続したとしても、CはB所有地を時効取得することはできない。
② 占有の承継
占有者の承継人(包括承継人・特定承継人)は、その選択に従い、自己の占有のみを主張し、または自己の占有に前の占有者の占有をあわせて主張することができる(187条1項)。
占有者の承継人が、前の占有者の占有をあわせて主張する場合には、前の占有者の瑕疵をも承継する(187条2項)。したがって、前の占有者が占有開始時に悪意や善意有過失であれば、あわせて20年間の占有が必要となる。
事例 Aは、B所有の土地を善意無過失で5年間占有したあと、悪意のCに売却した。
Cが自己の占有期間のみを主張するのであれば、悪意のCはあと20年間の占有が必要になる。ただし、前の占有者Aの占有期間(5年)を併せて主張するのであれば、Cはあと5年間占有すれば、Aの占有期間と併せて10年となり、B所有地を時効取得することができる。
Point 判例によれば、占有者の承継人が、前の占有者の占有をあわせて主張する場合に、最初の占有者が占有開始の時点で善意無過失であれば、(占有者の承継人が占有開始の時点で悪意や善意有過失であっても、)あわせて10年間の占有で所有権を時効取得することができる(最判昭53.3.6)。
(2) 所有権以外の財産権の取得時効
所有権以外の財産権(地上権、永小作権、地役権、不動産賃借権)を、自己のためにする意思をもって、平穏に、かつ、公然と行使する者は、所有権の取得時効の場合と同様に、20年または10年を経過した後、その権利を取得することができる(163条)。
Point 不動産賃借権は賃貸借契約から生じる債権であるが、取得時効によって取得することができる。
■消滅時効
(1) 消滅時効とは
一定期間権利を行使しなければ権利が消滅してしまうのが消滅時効である。ただし、所有権は消滅時効によって消滅することはない(取得時効によって奪われることはある)。
以下は、消滅時効の対象となる権利とその時効期間である。
消滅時効の対象 | 時効期間 |
債権(166条1項) | ①②いずれか早いほう
①債権者が権利を行使することができることを知った時から5年 ②権利を行使することができる時から10年 |
債権または所有権以外の財産権
(166条2項) | 権利を行使することができる時から20年 |
人の生命または身体の侵害による
損害賠償請求権(166条3項) | ①②いずれか早いほう
①債権者が権利を行使することができることを知った時から5年 ②権利を行使することができる時から20年 |
確定判決または確定判決と同一の効力を有するものによって確定した権利(169条) | 10年
(10年より短い時効期間の定めがあるものであっても) |
(2) 債権の消滅時効の起算点
債権は、次の①②いずれか早い時点で、時効によって消滅する(166条1項)。
① 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき。
② 権利を行使することができる時から10年間行使しないとき。 |
したがって、債権の消滅時効の起算点は、「債権者が権利を行使することができることを知った時」または「権利を行使することができる時」である。この起算点は、期限等の種類に応じて、以下のように分類される。
期限等の種類 | 起算点(時効の進行が始まる時) | |
債権者が権利を行使することが できることを知った時 | 権利を行使することができる時 | |
確定期限付き債権 (例:○年4月1日) | 期限が到来した時 | 期限が到来した時 |
不確定期限付き債権 (例:父が死亡したら) | 債権者が期限の到来を 現実に知ったとき | 期限が到来した時 |
期限の定めのない債権 (例:売買の目的物の引渡し期限を定めていない) | 債権者が債権の成立を知った時 (契約の場合は契約成立時) | 債権が成立した時 (契約の場合は契約成立時) |
Point1 「確定期限」とは、いつ到来するか確定している期限をいう。
例えば、BがAから100万円の借金をしたとする「今年の4月1日に返済する」と約束すれば、この日が到来した時点でAはBに対し権利を行使できるのと同時に、5年および10年の消滅時効も進行する。
Point2 「不確定期限」とは、到来することは確実であるが、それがいつ到来するのか確定していない期限をいう。
例えば、「父が死んだら」というのは将来必ず到来するが、いつ到来するのかがわからないので不確定期限である。「Bの父が死んだらただちに返す」という約束でBがAから10万円の借金をしたとする。この場合、Bの父が死んだらAはBに対し貸金の返還を請求することが可能となり、10年の消滅時効も進行開始となる。また、AがBの父が死んだことを知った時から、5年の消滅時効も進行開始となる。
Point3 「期限の定めのない場合」とは、いつ債務を履行するか定めていないことをいう。契約で債務の履行につき期限を定めていなかったら、5年および10年の消滅時効は債権成立時(つまり契約成立時)から進行開始となる。
Point4 「債権者が権利を行使することができることを知ったとき」は債務者を知ったことも含む。
■時効の完成猶予および更新
時効の完成猶予とは、一定の事由が生じている場合に、その事由の終了(または一定期間の経過)までは時効が完成しないことをいう。
時効の更新とは、それまでの時効期間の経過が無意味となって(振り出しに戻って)、新たに時効が進行を開始することをいう。
以下は、時効の完成猶予および更新事由である(147条、148条、149条、150条、152条)。
完成猶予 | 更新 | |
裁判上の請求 | 事由が終了するまで
(確定判決または確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなく事由が終了した場合は、事由終了時から6か月が経過するまで) | 事由が終了した時
(ただし確定判決または確定判決と同一の効力を有するものにより権利が確定した場合に限る) |
支払督促 | ||
裁判上の和解・民事調停・家事調停 | ||
破産手続参加・再生手続参加・更正手続参加 | ||
強制執行 | 事由が終了するまで
(申立の取下げ・法律の規定に従わないことによる取消によって事由が終了した場合は、事由終了時から6か月が経過するまで) | 事由が終了したとき
(ただし申立の取下げ・法律の規定に従わないことによる取消によって事由が終了した場合を除く) |
担保権の実行 | ||
形式的競売 | ||
財産開示手続・第三者からの情報取得手続 | ||
仮差押え | 事由終了時から6か月が経過するまで | ― |
仮処分 | ||
催告 | 催告の時から6か月が経過するまで
(催告による時効の完成猶予期間内における再度の催告は、完成猶予の効力を生じない) | ― |
承認 | ― | 権利の承認があったとき |
なお、権利についての協議を行う旨の合意が書面でされたときは、次の①②③のいずれか早い時までの間は、時効の完成が猶予される(151条1項)。
① その合意があった時から1年を経過した時
② その合意において当事者が協議を行う期間(1年に満たないものに限る)を定めたときは、その期間を経過した時 ③ 当事者の一方から相手方に対して協議の続行を拒絶する旨の通知が書面でされたときは、その通知の時から6か月を経過した時 |
Point1 債権者が裁判上の請求を行っても、その訴えが却下された場合には、時効は更新されない。
Point2 債権者が破産手続に参加しても、その参加を取り消したり、その請求が却下された場合は、時効は更新されない。
Point3 時効の期間の満了前6か月以内の間に未成年者または成年被後見人に法定代理人がないときは、その未成年者もしくは成年被後見人が行為能力者となった時または法定代理人が就職した時から6か月を経過するまでの間は、その未成年者または成年被後見人に対して、時効の完成が猶予される(158条1項)。