- 民法ー2.民法総則
- 6.代理
- 代理
- Sec.1
1代理
本来、契約は自らの責任において本人が直接なすべきものだが、本人がすべて相手方に意思表示をしなければならないとしたら、幅広い経済活動を行うのを阻害し、大変不便である。そこで民法では本人に代わって他人が契約等を行い、その効果を本人に生じさせる制度(代理制度)を認めた。これによって、忙しくて暇がない場合でも、他人に頼むことにより契約等を行うことができる。このように、本人から依頼を受けて代理人になる場合を「任意代理」という。
また、自分では契約をすることができない未成年者や成年被後見人も、代理人の助けにより有効な契約を成立させることが可能になる。このように、本人の依頼に基づかないで、法律の規定に基づいて代理人が選任される場合を「法定代理」という。
■代理行為の要件と効果
代理人が、その権限内において、本人のためにすることを示してした意思表示は、本人に対して直接にその効力を生ずる(99条1項)。
事例Aは、Bの代理人として、B所有地をCに売却する契約を締結した。
この場合、Aがした契約の効果は、直接Bに帰属する。
Point1 代理権(法律行為の効果を本人に帰属させることができる代理人の地位)が法律に基づくものを法定代理といい、法律ではなく本人の意思に基づくものを任意代理という。任意代理の場合の代理権は、本人と代理人との間の契約から生じ、委任契約だけでなく、雇用契約、請負契約など多様な契約に基づくが、委任契約に基づくものは、とくに委任による代理とよばれる。
Point2 「顕名」とは、本人のために意思表示をすることを示すことだが、代理人が本人の名前で契約を締結するということではない。代理人は本人のために意思表示をすることを示しつつ、自らの名で、自らの判断により相手方と契約をするのである。たとえば、本人Bの代理人Aは「B代理人A」として相手方Cと契約をする。
Point3 代理人が本人のためにすることを示さないでした意思表示は
原則 | 代理人が自己のためにしたものとみなす(100条本文) |
例外 | ①または②の場合は、本人に対して直接その効力を生ずる(100条ただし書)
① 相手方が本人のためにすることを知っていた場合(悪意) ② 相手方が本人のためにすることを知ることができた場合(善意有過失) |
■代理行為の瑕疵
(1) 原則
代理人や相手方がした意思表示の効力が次の①または②によって影響をうけるべき場合には、その事実の有無は、代理人について決する(代理人を基準として判定する)。
① 代理人が相手方に対してした意思表示の効力が意思の不存在、錯誤、詐欺、強迫、または、ある事情を知っていたこと(悪意)もしくは知らなかったことにつき過失があったこと(善意有過失)によって影響を受けるべき場合(101条1項)
② 相手方が代理人に対してした意思表示の効力が意思を受けた者がある事情を知っていたこと(悪意)または知らなかったことにつき過失があったこと(善意有過失)によって影響を受けるべき場合(101条2項) |
こんなとき | どうなるか? | |
①の例 | AがCに対して心裡留保による意思表示をしたとき | Bは、原則として、その意思表示の無効を主張することはできない |
AがCと通じて虚偽表示をしたとき | Bは、虚偽表示の無効を主張することができる | |
AがCに対してCの詐欺・強迫によって意思表示をしたとき | Bは、その意思表示を取り消すことができる | |
AがCに対して錯誤に基づいて意思表示をしたとき | Bは、その意思表示を取り消すことができるが、Aに重大な過失があった場合は、取り消すことができない | |
②の例 | CがAに対して第三者による詐欺によって意思表示をしたとき | Aが第三者による詐欺の事実を知っていた(または知ることができた)場合は、Cにより契約が取り消されることがある |
(2) 例外(「特定の法律行為」の委託の場合)
このように、代理行為に瑕疵がある場合は、その事実の有無は、原則として代理人を基準に判定することになるが、特定の法律行為をすることを委託された代理人がその行為をしたときは、本人は、自ら知っていた事情(悪意)または過失によって知らなかった事情(善意有過失)について代理人が知らなかったこと(善意)を主張することができない(101条3項)。
事例 本人BからC所有の甲土地の購入に関する代理権を与えられた代理人Aが、その指示通りにCと甲土地の売買契約を締結したところ、実は甲土地はDが強制執行を免れるためにCに売却したことにしていたものであった。このとき、DC間の虚偽表示の事実について代理人Aは善意であったが、本人Bは悪意であった。
本来であれば、代理人Aが善意なので、DはBに対してDC間の虚偽表示の無効を対抗できないところであるが、この場合、代理人AにC所有の甲土地の購入を委託した本人Bが悪意であるので、本人Bは代理人Aの善意をDに主張することができず、DはBに対してDC間の虚偽表示の無効を対抗できる。
Point 本人が決定した意思を相手方に伝達して法律行為を完成させる者を、自ら意思決定をする代理人と区別して、「使者」という。使者の意思表示の瑕疵は、使者ではなく、本人について決する(本人を基準として判定する)。
■代理人の行為能力
制限行為能力者であっても、代理人になることができる。
制限行為能力者が代理人としてした行為は、行為能力の制限によっては取り消すことができない(102条本文)。
ただし、制限行為能力者が他の制限行為能力者の法定代理人としてした行為については、取り消すことができる(102条ただし書)。
Point 代理行為の効果は、代理人には帰属せず、本人に帰属するから、制限行為能力者が代理人として代理行為を行っても、制限行為能力者が損をするおそれはない。任意代理人が制限行為能力者の場合は、仮に、代理行為が本人に有利になされなかったとしても、制限行為能力者を選任したことによる不利益・損失(リスク)は、本人が負えばよいとされていることから、契約を取り消すことができないとされている。
それに対して、法定代理人が制限行為能力者の場合は、代理人の行為を常に有効とすると本人保護の目的が達成できない場合があり、また、本人が代理人を選任したわけではなく、代理人が制限行為能力者であることにより生じるリスクを本人に負担させればよいということもできないので、契約を取り消すことができるとされる。