• 民法ー2.民法総則
  • 5.無効・取消しと追認
  • 無効・取消しと追認
  • Sec.1

1無効・取消しと追認

堀川 寿和2021/12/01 16:34

 無効とは契約などの効果がはじめから生じないことをいう。取消しとは、一応有効な契約の効果を一方的な意思表示によりはじめから無かったことにすることをいう。追認とは、取り消すことができる契約などを確定的に有効にすることをいう。

取消し・追認をすることができる者


取消権者・追認権者追認することができるとき
① 未成年者成年に達し、かつ、取消権を有することを知った後法定代理人の同意を得たとき
② 成年被後見人行為能力者となり(後見・保佐・補助開始の審判の取消しがあり)、かつ、取消権を有することを知った後
③ 被保佐人保佐人の同意を得たとき
④ 被補助人補助人の同意を得たとき
⑤ 制限行為能力者の保護者いつでも追認できる。
⑥ 錯誤・詐欺・強迫によって
意思表示をした者

錯誤の事実を知り・詐欺の事実を知り・畏怖の状態が終わり、かつ、取消権を有することを知った後


Point1 行為能力の制限によって取り消すことができる行為は、制限行為能力者であっても取り消すことができる(120条1項)。


Point2 制限行為能力者や錯誤・詐欺・強迫によって意思表示をした者と取引をした相手方第三者は、契約を取り消すことができない


Point3 成年被後見人が後見開始の審判を受ける前にした法律行為については、制限行為能力を理由として取り消すことはできない。


Point4 取り消すことができる行為の追認は、取消しの原因となっていた状況が消滅し、かつ、取消権を有することを知った後にしなければ、その効力を生じない(124条1項)。

 ただし、次の①または②に該当する場合は、取消しの原因となっていた状況が消滅した後にすることを要しない(124条2項)。

①法定代理人または制限行為能力者の保佐人もしくは補助人が追認をするとき

②制限行為能力者(成年被後見人を除く)が法定代理人、保佐人または補助人の同意を得て追認をするとき


Point5 強迫による意思表示は、強迫をした者に対する畏怖の状態が継続している間は追認することができない。


判例 主たる債務者がその債務を生じさせた行為を取り消すことができる場合であっても、当該債務の保証人は取消権者でなく、当該行為を取り消すことができない(大判昭20.5.21)。



取消し・追認の方法および効果

(1) 取消し・追認の方法

 取り消すことができる行為の相手方が確定している場合には、その取消しまたは追認は、相手方に対する意思表示によってする(123条)。


(2) 取消し・追認の効果

① 取消しの効果

 取り消された行為は、初めから無効であったものとみなされる(121条)。


Point 取り消された行為は、その取消しの時から将来に向かって効力を失うのではない。


② 追認の効果

取り消すことができる行為は、追認権者が追認したときは、以後、取り消すことができない(122条)。


Point1 取り消すことができる行為は、取り消されるまでは有効であるため、追認により、はじめから完全に有効であったものとして扱われることになる。追認の時から将来に向かって有効になるのではない。


Point2 無効な行為は、追認によっても、その効力を生じない(109条本文)。ただし、当事者がその行為の無効であることを知って追認をしたときは、新たな行為をしたものとみなされる(109条ただし書)。


無効・取消しによる原状回復義務

(1) 原則

無効な行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、相手方を原状に復させる義務を負う(121条の2第1項)。


事例 Aは、A所有の自動車をBに100万円で売却し(売買契約)、代金の受領と引き換えに自動車を引渡した。Aは代金として受け取った100万円を使ってしまったが、その後、この契約が錯誤を理由にBによって取り消された。

 この場合、BはAに自動車を返還しなければならず、AもBに100万円全額を返還しなければならなない。


(2) 例外

① 無効となった(取り消された)のが無償行為であった場合

無効な無償行為(贈与など)に基づく債務の履行として給付を受けた者は、給付を受けた当時その行為が無効であること(給付を受けた後に取消しにより初めから無効であったものとみなされた行為にあっては、給付を受けた当時その行為が取り消すことができるものであること)を知らなかったときは、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う(121条の2第2項)。


事例 Aは、Bから100万円の贈与を受けて(贈与契約)、そのうち60万円を遊興のために使ってしまった。ところが、その後、第三者Cの強迫を理由に、Bによりこの契約が取り消された。

 Aが100万円を受けとったときに、BがCに強迫を受けている事実を知らなかった(取り消すことができることを知らなかった)のであれば、手元にある40万円だけをBに返せばよい。

 Aが100万円を受けとったときに、BがCの強迫を受けている事実を知っていた(取り消すことができることを知っていた)のであれば、100万円全額をBに返さなければならない。


② 無効となった(取り消された)のが意思無能力者・制限行為能力者の行為であった場合

行為の時に意思能力を有しなかった者は、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う(121条の2第3項前段)。

行為の時に制限行為能力者であった者についても、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う(121条の2第3項後段)。

 なお、これらの者と取引をした相手方は、通常の原状回復義務を負う。


事例 未成年者Aが、親権者の同意を得ることなくBから100万円を借り入れて(金銭消費貸借契約)、そのうち60万円を遊興のために使ってしまった。その後、Aの親権者がこの契約を取り消した。

この場合、未成年者Aは手元にある40万円だけをBに返せばよい。