• 憲法―14.地方自治
  • 2.地方公共団体
  • 地方公共団体
  • Sec.1

1地方公共団体

堀川 寿和2021/12/01 12:52

 一般に、地方公共団体とは、一定の区域を基礎とし、その区域内の住民をもって、地方自治を行うために構成される公共団体をいう。


地方自治法における地方公共団体の種類

  地方公共団体は、普通地方公共団体と特別地方公共団体に分けられる(地方自治法1条の3第1項)。さらに、普通地方公共団体は都道府県と市町村に(地方自治法1条の3第2項)、特別地方公共団体は特別区、地方公共団体の組合および財産区に分けられる(地方自治法1条の3第3項)。

憲法上の地方公共団体の意味

 普通地方公共団体のうち市町村が憲法上の地方公共団体に当たること、特別地方公共団体のうち、地方公共団体の組合、財産区が憲法上の地方公共団体に当たらないことについては、争いがない。問題となるのは、都道府県と特別区である。


(1) 都道府県・市町村の2段階制

 都道府県・市町村という2段階制が憲法上保障されたものであるか否かについては、次のとおり争いがある。

① 否定説

 2段階制を設けるか否かは立法政策の問題であるとする説。これによれば、地方自治の本旨に反しない限り、都道府県を廃止して市町村だけとすること(1段階制)、複数の都道府県を包括する地方公共団体を新たに設けること(3段階制)も可能である。

② 肯定説

 都道府県・市町村の2段階制は憲法上保障されたものであるとする説。これによれば、法律によって都道府県を廃止したり、その長の公選制を廃止したりすることは、違憲である。

③ 中間説

 2段階構造自体は憲法上保障されたものであるが、具体的にそれをどのように編成するのかは立法政策の問題であるとする説。これによれば、都道府県を廃止して市町村だけとすること(1段階制)は違憲となるが、複数の市町村を包括する地方公共団体や、都道府県を併合して広域の地方公共団体を設けること(いわゆる道州制など)は、地方自治の本旨に反しない限り許される。


(2) 特別区

 特別区(東京都の23区)が憲法上の地方公共団体であるか否かについては次のとおり争いがある。

① 否定説(通説)

 憲法上の地方公共団体とは、基礎的・普遍的な地方公共団体を指すが、特別区は、歴史的・実体的には東京都という大都市の内部組織としての性質が強く、機能が限定され、住民の共同体意識も強くなかったことを根拠とする。これによれば、区長を公選にするか否かは立法政策の問題であり、区長公選制を廃止しても93条2項には反しない。



判例特別区と憲法上の地方公共団体(最判S38.3.27)
東京都特別区における区長の公選制を廃止した昭和27年の地方自治法改正の違憲性が争われた事件。
《争点》1. 憲法上の『地方公共団体』とは何か?
2. 特別区は地方公共団体といえるか?
《判旨》(争点1)
憲法上の地方公共団体といい得るためには、事実上住民が経済的文化的に密接な共同生活を営み、共同体意識をもっているという社会的基盤が存在し、沿革的にみても、また現実の行政の上においても、相当程度の自主立法権、自主行政権、自主財政権等地方自治の基本的権能を附与された地域団体であることを必要とする。
(争点2)
東京都の特別区は、長い歴史と伝統を有するものではあるが、未だ市町村のごとき完全な自治体としての地位を有していたことはなく、そうした機能を果たしたこともなかった。全く都の下部機構たるに過ぎなかったのである。また、特別区の自治権に重大な制約が加えられているのは、特別区が、東京都という市の性格をも併有した独立地方公共団体の一部を形成していることに基因する。したがって、特別区は、憲法93条2項の地方公共団体と認めることはできない。


② 肯定説

 特別区が地方公共団体ではないとした場合、特別区では、基礎的な地方公共団体が存在せず、特別区を包括する地方公共団体である都のみが存在することになるのに対して、東京都の特別区以外の地域では、都と市町村という2段階制が保障されているため、両者間に不均衡が生じることや、立法者意思などを根拠とする。これによると、区長公選制は憲法上の保障であるから、これを廃止することは93条2項に反して、違憲である。



地方公共団体の組織

 「地方公共団体には、法律の定めるところにより、その議事機関として議会を設置する。地方公共団体の長、その議会の議員及び法律で定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が直接これを選挙する」(93条)。


(1) 地方議会

 地方議会の議員は、当該地方公共団体の住民の直接選挙によって選出されるが(93条2項)、国会議員と異なり、住民から解職請求を受けることがあり(地方自治法80条)、免責特権(51条)が認められず(最判S42.5.24)、また、不逮捕特権(50条)も認められない。

 【地方議会に関して、国会と同様の議会自治・議会自律の原則を認め、さらに、地方議会議員の発言について、免責特権を憲法上保障していると解すべき根拠はなく、法律の定める地方議会の自治・自律の権能についても、原則として司法審査権の介入が許される】(最判S42.5.24)


(2) 地方公共団体の長

 地方公共団体の長もまた、当該地方公共団体の住民の直接選挙によって選出される(93条2項)。