- 憲法―11.内閣
- 5.内閣の権能
- 内閣の権能
- Sec.1
1内閣の権能
「内閣は、国民主権の理念にのつとり、日本国憲法第73条その他日本国憲法に定める職権を行う」(内閣法1条1項)。憲法に定める内閣の権能は、次のとおりである。
■73条各号により付与された権能
「内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ」として掲げる重要な行政事務は、次のとおりである。
① 法律の誠実な執行と国務の総理(1号)
法律の誠実な執行とは、内閣が法律の目的にかなった執行を義務付けられていることを意味している。内閣が違憲と判断した法律を執行する義務があるか否かについては争いがあるが、法律が違憲であるか否かを判断する権限は内閣に与えられておらず、国会が合憲であると判断して制定した法律について、内閣は国会の判断に拘束され、執行義務を免れないと解するのが通説である。
国務を総理することの意味については、国務を行政事務と解した上で、内閣が最高の行政機関として行政事務を統括し、行政各部を指揮監督するとする説と、国務を行政事務のみならず立法や司法を含む概念と解した上で、国の政治全体が調和を保って円滑に進行するよう配慮することであるとする説が対立している。
② 外交関係の処理(2号)
外交関係の処理には、外交交渉、外交使節の任免、外交文書の作成など、外交関係に関する事務のすべてが含まれる。
③ 条約の締結(3号)
内閣は条約を締結する権限を有する。したがって、条約締結のために相手国と交渉する権限も含まれる。
④ 官吏に関する事務の掌理(4号)
官吏の意味については争いがある。最広義の官吏には国家公務員一般(国の行政機関の一般職員のほか、国務大臣、国会議員、裁判所職員など)が含まれるが、地方公務員は含まれない。
⑤ 予算の作成と国会への提出(5号)
⑥ 政令の制定(6号)
一般に、行政機関の制定する法形式を命令といい、このうち内閣の制定する命令が政令である。政令は、「憲法及び法律を実施するために」制定されるのであるから、法律の根拠を必要とし、独立命令は許されない。政令には、法律を執行するために必要な細則である執行命令が含まれることは明らかであるが、法律が政令に委任した事項を定める委任命令もまた政令として制定することが許される(【憲法73条6号但書においては、内閣の制定する「政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない」と規定しているのであつて、これを裏から言えば、特に法律の委任がある場合においては、政令で罰則(すなわち犯罪構成要件及び刑を定める法規)を設けることができること及び法律は罰則を設けることを政令に委任することができることの趣旨を表明していることは、一点の疑いを挿む余地がない】 最判S25.2.1)。ただし、委任命令については、立法権を事実上放棄する意味をもつような包括的委任や白紙委任は託されない。なお、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。
⑦ 恩赦の決定(7号)
■73条各号以外の条文により付与された権能
1. 天皇の国事行為に対する助言と承認(3条、7条)
2. 最高裁判所長官の指名(6条2項)
3. 国会の臨時会の召集(53条)
4. 参議院の緊急集会を求めること(54条2項但書)
5. 最高裁判所長官以外の裁判官の任命(79条1項・80条1項)
6. 予備費の支出(87条)
7. 国会に対する決算の提出(90条1項)
8. 国会および国民に対する財政状況の報告(91条)
■法律案の提出権限
内閣に法律案の提出権を認めた憲法の明文はない(内閣法5条参照)が、これは国会単独立法の原則には違反しないとするのが通説である。
憲法上の内閣の権能 | 憲法上の内閣総理大臣の権能 |
法律の誠実な執行と国務の総理 | 国務大臣の任命及び罷免 |
外交関係の処理 | 両議院に出席し発言 |
条約の締結(事前又は事後に国会の承認を要する) | 内閣を代表して、行政各部の指揮監督 |
官吏の事務の掌理 | 内閣を代表して、議案を国会に提出 |
予算を作成し、国会への提出 | 内閣を代表して、一般国務及び外交関係について国会に報告 |
政令の制定 | 法律及び政令への連署 |
大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除、復権の決定(認証は天皇) | 国務大臣の訴追に同意 |
天皇の国事行為に関する助言と承認 | |
最高裁判所長官の指名(任命は天皇) | |
最高裁判所長官以外の裁判官の任命 | |
参議院の緊急集会を開く | |
臨時会の招集決定(常会や特別会についても類推) | |
衆議院の解散 | |
予備費の支出(事後に国会の承諾要) | |
決算の国会提出(検査は会計検査院) | |
財政報告 |