- 憲法―8..国務請求権(受益権)
- 4.刑事補償請求権
- 刑事補償請求権
- Sec.1
1刑事補償請求権
■刑事補償請求権の意義
刑事裁判が有罪、無罪を判断するプロセスである以上、抑留または拘禁された者が結果的に無罪になる場合があることは、制度上当然予想されており、これを国家の違法行為とすることはできない。しかし、結果として無罪とされた者は、その刑事裁判の遂行により、本来必要のなかった抑留・拘禁等の人権制限措置を受けたわけであり、それに対して相応の補償をすることによって公平の要請を満たす必要がある。そこで40条は、官憲の違法行為や故意・過失に関わりなく、結果に対する補償請求を認めた。
cf. 旧憲法には刑事補償請求権の規定はなかった。1931(昭和6)年に刑事補償法が制定されたが、補償は国の、恩恵的施策という性格のものであった。日本国憲法はこれを憲法上の権利にまで高め、その具体的実施については、1950(昭和25)年に制定された刑事補償法が定めている。
■刑事補償請求権の内容
(1) 人身の自由との違い
31条以下の刑事手続の規定が人身の自由の事前的保障であるのに対し、40条は事後的救済を定めたものである。
(2) 17条との違い
40条の刑事補償請求権は、国家機関により人権が侵害された場合の救済を求める権利の一種であり、この点は17条と共通している。ただ、逮捕・勾留・拘禁・裁判の各手続が適法であっても無罪である場合には、国家に補償の義務がある点(無過失責任)が、17条の国家賠償請求権とは異なる。
(3) 『何人も』の意味
『何人』とは、すべての自然人をさし、外国人も含まれる。法人は 「抑留又は拘禁される」ことはないので保障の対象外である。
(4) 『法律』
40条にいう『法律』とは、刑事補償法である。
(5) 刑事補償の要件
刑事補償請求の要件は、1『抑留又は拘禁』されたこと、2『無罪の裁判』を受けたことである。
① 『抑留又は拘禁』
(a) 『抑留又は拘禁』には、未決の抑留・拘禁のみならず、自由刑の執行、労役場留置、死刑執行のための拘置も含まれる。
(b) 『抑留又は拘禁』は刑事訴訟法による抑留及び拘禁に限られない(刑補法1)。
例:少年法による拘禁
(c) 『抑留又は拘禁』された被疑事実が不起訴となった場合は、40条の補償の問題は生じない。ただし、ある被疑事実による逮捕または勾留中に、他の被疑事実について取り調べ、その事実について公訴が提起された後無罪の裁判を受けた場合、その取調べが不起訴となった事実に対する逮捕勾留を利用してなされたものであるときは、40条の適用対象となる。
② 『無罪の裁判』
『無罪の裁判』とは、刑事訴訟法による無罪判決が確定したときと一般に解されている。
③ 補償をしないことができる場合
刑事補償法3条は、正義・衡平の理念から以下の場合には補償を不要とする。
(a) 本人が、捜査又は審判を誤らせる目的で、虚偽の自白をし、又は他の有罪の証拠を作為することにより、起訴、未決の抑留若しくは拘禁又は有罪の裁判をうけるに至ったものと認められる場合。
(b) 一個の裁判によって併合罪の一部について無罪の判決を受けても、他の部分について有罪の裁判を受けた場合。
(6) 補償の内容
① 補償の方法
補償は、金銭をもって支払われるべきものとされている。補償の範囲に関しては、完全補償とすべきか相当補償とすべきかについて争いがある。刑事補償法は、相当補償説に基づいている。
② 国家賠償請求権との関係
抑留・拘禁が公務員の故意・過失による場合には、国家賠償と刑事補償が競合しうる。この場合、補償額は調整される(刑補法5条)。