• 憲法―7.社会権
  • 2.教育を受ける権利
  • 教育を受ける権利
  • Sec.1

1教育を受ける権利

堀川 寿和2021/12/01 09:34

教育を受ける権利の意義

 教育は、個人が人格を形成し、社会において有意義な生活を送るために必要不可欠の前提をなす。同時に、教育は、民主国家の存立と発展を担う健全な国民の育成過程としての意味をも有する。このような教育の重要性に鑑み、26条は教育を受ける権利を保障する。

教育を受ける権利の性格

 教育を受ける権利は、自由権的側面と社会権的側面を併せ持つ複合的人権である。


(1) 自由権的側面

 どのような教育を受けるかは各人の選択に任されているものであり、その意味で本来、教育は私事性を有しており、教育を受ける権利は自由権としての側面を有する。

 国民は、国家に介入されることなく、自由に教育を受けることができる。


(2) 社会権的側面

 教育を受ける権利は、国家に対して合理的な教育制度の整備と、そこでの適切な教育を要求する権利でもある。教育を受ける権利の社会権的側面の法的牲格については生存権同様の争いがあるが、通説はこれを抽象的権利と解する。

cf. 判例の立場は必ずしも明確ではないが、26条は立法その他の措置を講ずることを要求できる法的権利を保障しているとしつつも、広範な立法裁量を認めた下級審判決(大阪地判S55.5.14)がある。

※ 26条2項後段に具体的権利性が認められる点については争いがない。

※ 具体的にどのような制度を定めるかは「法律の定めるところ」による。

例:教育基本法、学校基本法



教育を受ける権利の内容

(1) 学習権

 すべての国民が教育を受ける権利の主体であるが、その中心をなすのは子どもたちなので、教育を受ける権利は主として子どもの学習権を保障したものと解されている。学習権とは、「国民各自が、一個の人間として、また、一市民として、成長、発達し、自己の人格を完成、実現するために必要な学習をする固有の権利であり、「特に、みずから学習することのできない子どもは、その学習要求を充足するための教育を自己に施すことを大人一般に対して要求する権利を有する」とされる(旭川学力テスト事件)。→Chapter4 精神的自由権「学問の自由」参照

cf. 今日では、教育を受ける権利を、子供の学習権を軸にして捉えるようになってきている。子供の学習権に対応して、子供に教育を受けさせる義務を負うのは第一次的には親である。また、子供の学習権に対応して、教師や国も一定の義務を負う。


(2) 義務教育の無償

 26条2項後段は「義務教育は、これを無償とする」と定める。ここにいう無償の範囲については争いがあるが、授業料の無償を定めたものとするのが判例・通説である。

cf. 他に無償範囲法定説、就学必需費無償説がある。

【憲法26条2項後段の義務教育の無償とは授業料不徴収の意味と解するのが相当である。授業料のほかに、教科書、学用品その他教育に必要な一切の費用まで無償としなければならないことを定めたものと解することはできない】(最大判S39.2.26)

※ 法律(義務教育諸学佼の教科用図書の無償措置に関する法律)により、現在、教科書は無償で配布されている。