- 憲法―6.人身の自由
- 4.被告人の権利
- 被告人の権利
- Sec.1
1被告人の権利
刑罰は、人の自由に重大な制限を加えるものであるから、その内容はもちろんのこと、科刑の手続は慎重かつ公正であることが要請される。37条~39条は、主として刑事被告人の権利を保障するため、刑事裁判の手続に関する規定を設けた。
■公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利
(1) 37条1項の意義
32条は裁判を受ける権利を、82条は裁判の公開原則について一般的に規定しているが、37条1項は特に刑事被告人の権利を明確にするため、公平・迅速・公開の要件が充たされる必要があることを明示した。
(2) 『公平な裁判所』の意味
『公平な裁判所』とは、「構成其他において偏頗のおそれなき裁判所」をいう(最大判S23.5.5)。
cf. 『公平な裁判所』の裁判である以上、個々の事件において法律の誤解または事実の誤認等によりたまたま被告人に不利益な裁判がなされても、それが直ちに37条1項に抵触し、違憲になるというものではない。判例も、「個々の事件につきその内容実質が具体的に公正妥当な裁判を指すのではない」とし(最大判S23.5.26)、刑の量刑の不当は37条1項に反しないとする。
cf. 『公平な裁判所』を具体化するため、裁判官等の除斥、忌避及び回避の制度が設けられている(刑訴法20条以下・377条)。この制度は、裁判官等が、事件やその当事者と特殊な関係にあってその事件を担当することが、裁判の公正と信用からみて適当でない場合、その事件について職務をとることができないというものである。
(3) 『迅速な裁判』の意味
『迅速な裁判』とは、適正な裁判を確保するのに必要な期間を超えて不当に遅延した裁判でない裁判をいう。
判例 | 高田事件(最大判S47.12.20) |
15年にわたって審理が中断した事件の被告人が、37条1項が保障する迅速な裁判を受ける権利が侵害されていることを理由に審理の打ち切りを申し立てた事件。 |
《争点》 | 1. 迅速な裁判を受ける権利は具体的権利か?
2. 救済方法は? |
《判旨》 | 憲法37条1項の保障する迅速な裁判を受ける権利は、憲法の保障する基本的人権の1つであり、当該条項は、単に迅速な裁判を一般的に保障するために必要な立法上及び司法行政上の措置を執るべきことを要請するにとどまらず、さらに個々の刑事事件について、現実に当該保障に明らかに反し、審理の著しい遅延の結果、迅速な裁判を受ける被告人の権利が害せられたと認められる異常な事態を生じた場合には、これに対処すべき具体的な規定がなくても、もはや当該被告人に対する手続の続行を許さず、その審理を打ち切るという非常救済手段が採られるべきことをも認めている趣旨の規定であると解する。 |
《POINT》
1. 迅速な裁判を受ける権利は具体的権利である。
2. その権利侵害の有無は、遅延の期間だけでなく、諸般の状況を総合判断して決せられる。 3. 救済手段としては、判決で免訴の言渡しをするのが相当である。 |
cf. 本件は、被告人らが迅速な裁判を受ける権利を自ら放棄したとは認めがたく、被告人の諸利益が実質的に侵害されたと認められ、免訴となった。
■証人に関する権利
(1) 証人審問権
37条2項前段は、被告人の証人審問権を保障する。これは、被告人に審問の機会が充分に与えられない証人の証言に証拠能力が認められない、という趣旨の直接審理の原則を保障している。これに基づく制度が、刑事訴訟法の定める伝聞証拠禁止の原則である(320条、その例外につき321条以下)。
もっとも判例は、直接審理を厳格に要求するものとは解していない。
(2) 証人喚問権
37条2項後段は、証人喚問権を保障する。
判例によれば、裁判所は被告人申請の証人を全て喚問する必要はなく、その裁判をするのに必要適切な証人を喚問すればよい。また、「公費で」といっても、有罪判決を受けた場合は、被告人に訴訟費用の負担を命ずることは差し支えない(最大判S23.7.29、最大判S23.12.27)。
■弁護人選任権
(1) 意義
37条3項は、前段で弁護人依頼権を、後段で国選弁護人に関する権利を保障する。憲法は、刑事手続のあり方として、デュー・プロセスの思想を基礎とした当事者主義の構造を予定しており、被疑者・被告人は、無罪推定の下に、捜査・訴追側と対等な一方当事者として、防御活動を積極的に展開することが期待されている。しかし、通常、被疑者・被告人は法律の素人であるので、当事者主義を真に実質的に機能させるために、法律の専門家である弁護士の援助が不可欠となる。そこで、37条3項は、弁護人依頼権と国選弁護人依頼権を規定し、被告人・被疑者がデュー・プロセスの実現のために与えられた権利を十分に行使できるようにしている。
(2) 弁護人依頼権の告知
判例は、37条3項前段の弁護人依頼権は 被告人が自ら行使すべきもので、裁判所は被告人にこの権利を行使する権利を与え、その行使を妨げなければ足り」、「被告人に対し弁護人の選任を請求し得る旨を告知すべき義務を裁判所に負わせているものではない」とし(最大判S24.11.30)、弁護人依頼権を形式的に理解している。
(3) 必要的弁護事件
刑訴法289条は、「死刑又は無期若しくは長期3年を超える懲役若しくは禁錮にあたる事件を審理する場合には、弁護人がなければ開廷することができない」と定める。
(4) 国選弁護人依頼権
37条3項後段は、被告人が自ら弁護人を依頼できないときは、国でこれを附すと定める。この規定は、前段の弁護人依頼権を実質化しようとしたものである。国選弁護人依頼権が、被告人のみならず被疑者にも認められるかについては争いがあるが、これを否定するのが判例・通説である。
[理由]
1. 被疑者の弁護人依頼権について規定する34条は、国選弁護人依頼権に言及していない。
2. 37条3項は、『被告人』という文言を用いている。
※ 国選弁護人依頼権は、自らそれを行使しようとする者にのみ認められる。
※ 国選弁護人の費用をすべて国が負担するとは限らない。