• 憲法―5.経済的自由権
  • 3.職業選択の自由
  • 職業選択の自由
  • Sec.1

1職業選択の自由

堀川 寿和2021/11/30 16:00

職業選択の自由の意義

 職業選択の自由とは、自己の従事すべき職業を決定する自由をいう。選択した職業を遂行する自由、すなわち営業の自由も含まれる(判例・通説)。

『公共の福祉』の内容

22条1項及び29条2項の『公共の福祉』は、次の2つの内容を意味する。

1. 社会生活における公共の安全・秩序維持の見地からの消極的な内在的制約

2. 社会国家理念の実現のための積極的な政策的制約


経済的自由の規制に対する合憲性判定基準

(1) 二重の基準論

① 経済的自由に対する規制と精神的自由に対する規制の比較

経済的自由は、精神的自由と比べて、より強度の規制を受ける。

[理由]

1. 職業は性質上、社会的相互関連性が大きいので、無制限な職業活動を許すと、社会生活に不可欠な公共の安全と秩序の維持を脅かすおそれが大きい。

2. 社会国家の理念を実現するためには、政策的な配慮に基づいて、積極的な規制を加えることが必要とされる。

② 二重の基準論による論旨展開

 経済的自由の規制に対する合憲性判定基準は、精神的自由の規制に対する合憲性判定基準と比較して緩やかな、『合理性の基準』が用いられる。

 合理性の基準とは、立法目的及び立法目的達成手段の双方について、一般人を基準にして合理性が認められるかどうかを審査するもので、『合憲性推定の原則』が及ぶ。合憲性推定の原則とは、立法目的及び立法目的達成手段の合理性を支える立法事実の存在が推定されることを意味する。従って、精神的自由の場合と異なり、立法府の下した判断に合理性があることを前提とするものであり、原則として当該規制が違憲であることを主張する側が、違憲とするに足りる説得的な根拠を提出しなければならない。

cf. 精神的自由の規制立法には合憲性推定の原則が及ばないので、公権力の側が当該立法を合憲とするに足りる説得的な根拠を提出する必要がある。



(2) 二分論

 合理性の基準は、経済的自由の規制の目的に応じて、2つに分けて用いられる。これを、(規制目的)二分論という。消極目的による規制については『厳格な合理性の基準』が、積極目的による規制については『明白性の原則』が、合憲性判定基準として用いられる。

① 消極目的による規制

(a) 規制の目的

 国民の生命及び健康に対する危険を防止するために課される。社会生活における安全の確保、秩序維持などの警察目的に基づいてなされるので、警察目的による規制ともいう。

 例:食品衛生法、医師免許制、毒物劇物営業者の登録制

(b) 規制の程度

 害悪の発生を防止するための必要最小限度の制約であることが要求される。

(c) 合憲性判定基準

【厳格な合理性の基準】

裁判所が、規制の必要性、合理性及び 「同じ目的を達成できる、より緩やかな規制手段」の有無を、立法事実(立法の必要牲、合理性を支える社会的・経済的な事実)に基づいて審査する。

② 積極目的による規制

(a) 規制の目的

 社会国家の理念に基づいて、経済の調和のとれた発展を確保し、とくに社会的・経済的弱者を保護するためになされる規制であり、社会・経済政策の一環としてとられる規制である。政策目的による規制ともいう。

 例:独占禁止法、小売商業調整特別措置法

(b) 規制の程度

 目的達成のために必要かつ合理的な範囲にとどまる限り許される。

(c) 合憲性判定基準

【明白性の原則】

立法府がその裁量権を逸脱し、当該規制が著しく不合理であることが明白である場合に限って違憲となる。