• 憲法―3.包括的基本権と法の下の平等
  • 2.法の下の平等
  • 法の下の平等
  • Sec.1

1法の下の平等

堀川 寿和2021/11/30 13:45

『法の下の平等』の意味

(1) 『法の下』の意味

 14条1項は『法の下』の平等を定める。ここにいう『法』が、成文法のみならず、慣習法、判例法を含み、行政と司法を拘束することには争いがないが、『法の下』の平等が立法者を拘束するのかについては争いがある。

① 立法者拘束説(判例・通説)

14条1項は、立法者をも拘束し、法内容の平等までをも要求する。

[理由]

1. 内容が不平等な法を平等に適用しても、平等の要請は満たされない。

2. 『法の支配』の原則から、立法者も法の支配に服するのであり、その権限行使について憲法に拘束される。従って、法の定立において内容が不平等であることは許されない。

② 立法者非拘束説

14条1項は、法適用の平等を意味し、立法者を拘束しない。


(2) 14条1項後段列挙事由の意味

① 列挙の意味

 14条1項後段は、「人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」として、個別的な差別禁止事由を列挙している。この後段列挙事由は、いずれも歴史的に存在した不合理な差別事由といえる。後段列挙事由を、限定列挙とする見解もあるが、これを例示列挙とするのが判例・通説である。

[理由]

列挙事由から洩れたものは平等が保障されないとするのでは、法の下の平等の趣旨を没却する。

② 個別的差別禁止事由の内容

(a) 「人種」…皮膚、毛髪、目、体型等の身体的特徴によって区別される人類学上の種類をいう。

(b) 「信条」…宗教や信仰のみならず、広く思想・世界観等を含む。

(c) 「性別」…男女の別をいう。

(d) 「社会的身分」…争いがあるが、判例は、人が社会においてある程度継続的に占める地位または身分をいうとする。

(e) 「門地」…家系・血統などの家柄をいう。


(3) 『平等』の意味

『平等』とは一切の差別的取扱いを禁止するものかが問題となる。

① 絶対的平等説

 平等とは、各人の事実上の相違を度外視して、全く同じに取り扱うことをいう。

② 相対的平等説(判例・通説)

 平等とは、各人の出生・性別・資質・年齢・財産・職業などの事実的・実質的差異を前提に、異なった取扱いを認めることをいう。合理的差別は許容される。

[理由]

各人は、その事実状態において千差万別であることから、この事実上の差異を無視して均一な取扱いをすることは、場合によってはかえって不合理な結果を招来することになる。


14条1項のポイント整理
1. 立法者拘束説→法適用の平等+法内容の平等
2. 1項後段列挙事由は例示列挙
3. 相対的平等説→合理的差別は許される


14条1項が問題となった判例


判例尊属殺重罰規定違憲判決(最大判S48.4.4)
14歳のときに実父から姦淫され、以後10年あまり夫婦同様の生活を強いられて数人の子さえ産んだ女性が、知り合った男性との結婚を望んだところ、実父より常軌を逸した虐待を受けたため、思い余って実父を絞殺し刑法旧200条の尊属殺人罪で起訴された事件。
《争点》刑法旧200条の尊属殺規定が普通殺規定より重い刑罰を科していることは、憲法14条に反し、違憲か?


《判旨》尊属の殺害は通常の殺人に比して一般に高度の社会的道義的非難を受けて然るべきである。そこで、被害者が尊属であることを類型化し、法律上、刑の加重要件とする規定を設けても、かかる差別的取扱いをもってただちに合理的な根拠を欠くものと断ずることはできない。
 しかしながら、加重の程度が極端であって、立法目的達成の手段として甚だしく均衡を失し、これを正当化しうるべき根拠を見出しえないときは、その差別は著しく不合理なものといわなければならず、かかる規定は憲法14条1項に違反して無効である。
刑法200条をみるに、同条の法定刑は死刑および無期懲役のみであり、いかに酌量すべき情状があろうとも法律上刑の執行を猶予することができないのであり、普通殺の場合とは著しい対象をなすものといわなければならない。
 また、尊属でありながら卑属に対して非道の行為に出で、ついには卑属をして尊属を殺害する事態に立ち至らしめる事例も見られ、かかる場合、卑属の行為は必ずしも現行法の定める尊属殺の重刑をもって臨むほどの峻厳な非難には値しないものということができる。
 さらに、量刑の実情を見ても、現行法上許される2回の減軽を加えられ、その処断刑の下限の刑を宣告される場合も決して稀ではない。このことは、尊属殺の法定刑が極端に重きに失していることをも窺わせるものである。
 このようにみてくると、尊属殺の法定刑は、あまりにも厳しいものというべく、これにつき十分納得すべき説明がつきかねるところであり、合理的根拠に基づく差別的取扱いとして正当化することはとうていできない。刑法200条は、普通殺に関する刑法199条の法定刑に比し著しく不合理な差別的取扱いをするものと認められ、憲法14条1項に違反して無効であるとしなければならない。

《POINT》

1. 普通殺のほかに尊属殺という特別な犯罪を設け、刑を加重すること自体は14条1項に反しない。
2. しかし、尊属殺の法定刑を死刑または無期懲役に限っている点で、刑法200条の規定は立法目的達成のための必要な限度を超え、14 条1項に反する。

cf. 判決後もすぐには国会は改廃措置を講じなかったが、平成7年の刑法改正によって、刑法200条は削除された。その間、検察庁は、同種の事件について、199条によって起訴していた。


判例衆議院議員定数不均衡違憲判決(最大判S51.4.14)
衆議院議員総選挙で、投票価値の開きが最小区と最大区で1対4.99にも達しているのは憲法14条に違反するかが争われた事件。


《争点》1. 選挙権の平等の保障は投票価値の平等も保障するか。
2. 1対4.99の不均衡は許容限度内か。
3. 許容限度を超えた不均衡はただちに違憲と断じてよいか。
4. 議員定数不均衡の違憲を理由に選挙を無効とすべきか。
《判旨》(争点1)
法の下の平等は、選挙権に関しては、国民はすべて政治的価値において平等であるべきであるとする徹底した平等化を志向するものであり、選挙権の内容、すなわち各選挙人の投票の価値の平等もまた、憲法の要求するところである。
(争点2)
本件衆議院議員選挙当時においては、投票価値の開きは、約5対1の割合に達していた。右の開きが示す選挙人の投票価値の不平等は、ある程度の政策的裁量を考慮に入れてもなお、一般的に合理性を有するものとはとうてい考えられない程度に達しているばかりでなく、これを更に超えるに至っているものというほかはなく、憲法の選挙権の平等の要求に反する程度になっていた。
(争点3)
投票価値の不平等は、人口の変動の状態をも考慮して合理的期間内における是正が憲法上要求されていると考えられるのにそれが行われない場合に始めて憲法違反と断ぜられる。
本件の場合には、憲法上要求される合理的期間内における是正がなされなかったものと認めざるをえない。
(争点4)
本件選挙を無効としても、真に憲法に適合する選挙が実現するためには、公選法自体の改正にまたなければならないことに変わりはなく、更に、全国の選挙区について同様の訴訟が提起され選挙無効の判決によって衆議院の活動が不可能となるような不当な結果を生ずることもありうる。また、仮に一部の選挙区のみが無効とされるにとどまった場合でも、公選法の改正を含むその後の衆議院の活動が、選挙を無効とされた選挙区からの選出議員を得ることができないままの異常な状態の下で、行われざるをえないこととなるのであって、このような結果は、憲法上決して望ましい姿ではない。
行政事件訴訟法31条に基づく事情判決の法理は、行政処分の取消の場合に限られない一般的な法の基本原則に基づくものとして理解すべき要素も含まれていると考えられる。本件においては、前記の法理にしたがい、本件選挙は憲法に違反する議員定数配分規定に基づいて行われた点において違法である旨を判示するにとどめ、選挙自体はこれを無効としない。

《POINT》

1. 選挙権の平等は、投票価値の平等を含む。
2. 最大較差5対1の不均衡は違憲状態にある。
3. しかし、直ちに憲法違反とすべきではなく、合理的な期間内に是正が行われない場合に初めて憲法違反となる。
4. 本件の場合、憲法上要求される合理的期間内に是正がなされなかった。
5. 単に憲法に違反する不平等を招来している部分のみでなく、全体として違憲の瑕疵を帯びる。
6. 本件選挙は違法だが、事情判決の法理の援用により、選挙自体は無効としない。




判例参議院議員定数不均衡事件①(最大判S58.4.27)
参議院議員選挙における地方選挙区間における投票価値の最大格差が1対5.26に達しており、また、いくつかの選挙区間に、選挙人数の少ない選挙区の議員定数が選挙人数の多い選挙区の議員定数より多くなっているといういわゆる逆転現象がみられたことの合憲性が争われた事件。
《争点》1. 参議院議員選挙においても投票価値の平等は要求されるか。
2. 1対5.26の不均衡は許容限度内か。
《判旨》(争点1)
参議院議員選挙は、その代表の実質的内容ないし機能に独特の要素を持たせようとする意図の下に、全国選出議員と地方選出議員とに分かち、地方選出議員については、事実上都道府県代表的な意義ないし機能を加味しようとしたものであるので、投票価値の平等の要求は、人口比例主義を基本とする選挙制度の場合と比較して一定の譲歩、後退を免れないと解せざるをえない。
(争点2)
人口の異動が、到底看過することができないと認められる程度の投票価値の著しい不平等状態を生じさせ、かつ、それが相当期間継続して、このような不平等状熊を是正するなんらの措置を講じないことが、国会の裁量的権限に係るものであることを考慮してもその許される限界を超えると判断される場合に、初めて議員定数の配分の定めが憲法に違反する。本件では、いまだ前記のような許容限度を超えて違憲の間題が生ずる程度の著しい不平等状態が生じていたとするには足りない。したがって、選挙当時において本件参議院議員定数配分規定が憲法に違反するに至っていたものとすることはできない。

《POINT》

1. 参議院においても投票価値の平等が要求されるが、参議院の特質から一定の譲歩を免れない。
2. 1対5.26の不均衡は許容限度を超えない。



判例参議院議員定数不均衡事件②(最大判H8.9.11)
参議院議員選挙における投票価値の格差が最大1対6.59にまで達していたことが憲法14条に反するのではないかが争われた事件。
《争点》1. 1対6.59の不均衡は許容限度内か。
2. 許容限度を超えた不均衡はただちに違憲と断じてよいか。
《判旨》(争点1)
投票価値の不平等は、投票価値の平等の有すべき重要性に照らして、もはや到底看過することができないと認められる程度に達していたものというほかはなく、これを正当化すべき特別の理由も見出せない以上、本件選挙当時、違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態が生じていたものと評価せざるを得ない。
(争点2)
参議院(選挙区選出)議員については、格差が投票価値の平等の有すべき重要性に照らして到底看過することができないと認められる程度に達したかどうかの判定は、国会の裁量的権限の限界にかかわる困難なものであり、かつ、右の程度に達したと解される場合においても、どのような形で改正するかについて、なお種々の政策的又は技術的な考慮要素を背景とした議論を経ることが必要となる。本件において、その立法裁量権の限界を超えるものと断定することは困難である。

《POINT》

1対6.59の格差は許容範囲を超えているが、違憲とまでは断定できない。



判例地方議会議員選挙における定数不均衡問題(最判S59.5.17)
東京都議会議員選挙における全選挙区間で1対7.45、特別区の選挙区間で5.15対1という格差の合憲性、合法性が争われた事件。
《争点》1. 地方議会議員選挙においても投票価値の平等は保障されるか。
2. 1対7.45の不均衡は許容限度内か。
《判旨》(争点1)
地方議会議員の選挙に関して、住民が選挙権行使の資格において平等に取り扱われるべきであるにとどまらず、その選挙権の内容、すなわち投票価値においても平等に取り扱われるべきであることは,憲法の要求するところであり、人口比例原則を定める公選法15条7項(現8項)は、投票価値の平等という憲法上の要請を受けたものである。
(争点2)
本件配分規定の下における選挙区間の投票価値の格差は遅くとも昭和45年10月実施の国勢調査の結果が判明した時点において既に公職選挙法15条7項(現8項)の選挙権の平等の要求に反する程度に至っていたものであり、この間東京都議会は極く部分的な改正に終始し、合理的期間内における是正をしなかったものであり、本件配分規定は、本件選挙当時、同項の規定に違反するものであった。

《POINT》

1. 地方議会議員選挙においても保障される。
2. 1対7.45の不均衡は許容限度を超える。



判例非嫡出子相続分規定事件(最大決H7.7.25)
相続分に差をつけられた非嫡出子が、その根拠となる民法900条4号但書前段が憲法14条に反し違憲であると主張した事件。


《争点》嫡出子と非嫡出子の法定相続分の区別は憲法14条に反し違憲か。
《判旨》民法900条4号但書前段の立法理由は、法律婚の尊重と非嫡出子の保護の調整を図ったものと解される。現行民法は法律婚主義を採用しているのであるから、右のような本件規定の立法理由にも合理的な根拠があるというべきであり、本件規定が非嫡出子の法定相続分を嫡出子の二分の一としたことが、右立法理由との関連において著しく不合理であり、立法権に与えられた合理的な裁量判断の限界を超えたものということはできないのであって、本件規定は、合理的理由のない差別とはいえず、憲法14条1項に反するものとはいえない。


【判例】 非嫡出子相続分差別事件 最高裁違憲決定(最大決H25.9.4)

① 憲法14条1項適合性の判断基準

 憲法14条1項は、法の下の平等を定めており、この規定が、事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づくものでない限り、法的な差別的取扱いを禁止する趣旨のものであると解すべきことは、当裁判所の判例とするところである(最大判S39.5.27、最大判S48.4.4)。

② 民法900条4号ただし書の憲法14条1項適合性

 昭和22年民法改正時から現在に至るまでの間の社会の動向、我が国における家族形態の多様化やこれに伴う国民の意識の変化、諸外国の立法のすう勢及び我が国が批准した条約の内容とこれに基づき設置された委員会からの指摘、嫡出子と嫡出でない子の区別に関わる法制等の変化、更にはこれまでの当審判例における度重なる問題の指摘等を総合的に考察すれば、家族という共同体の中における個人の尊重がより明確に認識されてきたことは明らかであるといえる。そして、法律婚という制度自体は我が国に定着しているとしても、上記のような認識の変化に伴い、上記制度の下で父母が婚姻関係になかったという、子にとっては自ら選択ないし修正する余地のない事柄を理由としてその子に不利益を及ぼすことは許されず、子を個人として尊重し、その権利を保障すべきであるという考えが確立されてきているものということができる。

 以上を総合すれば、遅くともAの相続が開始した平成13年7月当時においては、立法府の裁量権を考慮しても、嫡出子と嫡出でない子の法定相続分を区別する合理的な根拠は失われていたというべきである。

 したがって、本件規定は、遅くとも平成13年7月当時において、憲法14条1項に違反していたものというべきである。



判例サラリーマン税金訴訟(最大判S60.3.27)
旧所得税法の給与所得課税は、事業所得等に比べて給与所得者に著しく不公平な税負担を課しているとして、憲法14条1項に違反するのではないかが争われた事件。
《争点》給与所得者と事業所得者等の課税方法を異なったものとすることは、憲法14条に反し、違憲か?
《判旨》租税法の定立は立法府の政策的・技術的な判断にゆだねるほかないので、その立法目的が正当なものであり、かつ、当該立法において具体的に採用された区別の態様がこの目的との関連で著しく不合理であることが明らかでない限り、その合理性を否定することができず、憲法14条1項の規定に違反するものということはできない。



判例女子再婚禁止期間事件(最判H27.12.16)
民法733条により離婚後の6か月間は現在の夫と再婚できなかったため、精神的損害を被ったとして、国会・内閣の立法の作為・不作為による国家賠償を請求した事件。
《争点》1. 民法733条の女性のみを対象にした再婚禁止期間は憲法14条及び24条2項に反し違憲か?
2. 国会・内閣が民法733条を立法または提案し、さらに改正または廃止する立法、または提案をしないことは国家賠償法1条の違法行為に当たるか?
《判旨》(争点1)
民法733条の規定のうち100日の再婚禁止期間を設ける部分は、憲法14条1項、24条2項に違反するものではない。
これに対して、100日超過部分については民法772条の定める父性の推定の重複を回避するために必要な期間とはいえないので、同部分にていては憲法14条1項、24条2項にも違反する。
 (争点2)
100日超過部分が憲法に規定に違反することが明白であるにも関わらず国会が正当な理由なく長期にわたって改廃等の立法措置を怠っていたと評価することはできない。
よって、国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるものではない。

《POINT》

再婚禁止期間について定めた民法733条は、100日超過部分に関しては憲法14条1項、24条2項に違反する。



貴族制度の禁止と栄典に伴う特権の禁止

(1) 貴族制度の禁止

 貴族とは、一般国民から区別された特権を伴う世襲の身分をいう。明治憲法下で認められていた華族という特権身分を廃止し、将来においても類似の制度が復活することを禁止している。


(2) 栄典に伴う特権の禁止

 栄典の授与は、与えられる者の特別の功労に見合うものであるから、一般人と区別される特殊の地位に置くことになっても、通常は合理的な差別として一般的平等原則に反するとはいえない。栄典自体が広い意味では一種の特権であるから、それが認められる以上、例えば経済的利益の提供などを伴っても、ただちに違憲とはいえない。