- 憲法―3.包括的基本権と法の下の平等
- 1.生命、自由および幸福追求権
- 生命、自由および幸福追求権
- Sec.1
1生命、自由および幸福追求権
■13条の沿革と位置づけ
(1) 13条の沿革
アメリカ独立宣言には「われわれは、自明の真理として、すべての人は平等に造られ、造物主によって、一定の奪いがたい天賦の権利を賦与され、そのなかに生命、自由および幸福の追求の含まれることを信ずる」とある。13条の規定はこれに由来するものである。
(2) 位置づけ
13条は「個人の尊厳」と「幸福追求権」の二つの部分からなる。13条前段は、個人の尊厳を尊重する個人主義原理を表明したものであり、憲法の基本原理として国政全般を支配する。
13条後段は、前段と密接に結びついて、いわゆる幸福追求権を宣言している。この規定は、人権保障の一般原理を表明するものであり、また、新しい人権の憲法上の根拠となりうるものである。
■幸福追求権の意義
(1) 新しい人権
日本国憲法は、14条以下に詳細な人権規定を置いているが、それらの人権規定は、歴史的に国家によって侵害されることが多かった重要な権利・自由を列挙したもので、すべての人権を網羅しているわけではない。社会状況の変化に伴い、憲法に規定されていないが「自律的な個人が人格的に生存するために不可欠と考えられる基本的な権利・自由」が主張されるようになった。このような権利・自由を「新しい人権」という。
(2) 幸福追求権の意義
幸福追求権は、憲法に列挙されていない新しい人権の根拠となる一般的かつ包括的な具体的権利として重要な意味を持つ。初期の頃には、幸福追求権の具体的権利性を消極的に解する学説が有力であったが、次第に具体的権利性を積極的に解する見解が有力になり、通説的立場を占めるようになった。実際に、新しい人権の多くが幸福追求権に基づいて提唱され、いくつかは判例においてすでに承認されている。
■幸福追求権の法的性格
13条後段は、人権保障の一般原理を表明するものであるが、さらに、裁判上の救済を受けることができる具体的権利としての性格を有するかについては争いがある。新しい人権が、幸福追求権を根拠にして憲法上認められるかどうかに関連して問題となる。
(1) 権利性肯定説(判例・通説)
幸福追求権は、人格的生存に不可欠な権利を包摂する包括的権利であり、裁判上の救済を受けることができる具体的権利である。この説によると、憲法の保障する権利・自由は、14条以下に列挙されたものに限定されない。
[理由]権利性否定説への批判
1. 規定が包括的であるからといって、直ちに内容が漠然として不明確であるとはいえない。
2. 憲法制定当時、将来を見越してあらゆる権利を個別的に明文で定めることは不可能である。
3. 同一規定中にも、客観的規範と個別的・具体的権利は両立しうる。
4. 社会の変化に伴い個人の尊厳を確保するために必要な権利を憲法上保障する必要がある。
(2) 権利性否定説
13条はプログラム的性格しかもたず、国政の在り方ないし基本的人権に関する通則的性格を持つにとどまり、具体的権利を保障したものとはいえない。この説によると、14条以下で列挙されていない権利は、憲法上の権利として認められない。
[理由]権利性肯定説への批判
1. 幸福追求権は漠然として不明確である。
2. 憲法自体に詳細な人権規定が置かれている。
3. 国政の一般原理の宣言(客観的規範)と個別的・具体的権利の保障は両立しない。