- 憲法―2.基本的人権総論
- 4.特別な法律関係
- 特別な法律関係
- Sec.1
1特別な法律関係
人は国民たる地位に基づいて国の統治権に服し、かつ基本的人権を享有する。このような国家と国民との関係を『一般権力関係』という。これに対し、特定の国民が特別の法律上の原因(法律の規定または本人の同意)に基づいて、一般権力関係とは異なった特別の関係に立つ場合に、一般国民と同様に基本的人権の保証を受けるかどうかが問題となる。
■特別な法律関係の類型
(1) 法律の規定による場合
例: 監獄法による受刑者の在監関係、伝染病予防法による強制入院患者の在院関係
(2) 本人の同意による場合
例: 公務員の勤務関係、国立大学の学生の在学関係
■特別権力関係論
特別権力関係論とは、国家と国民との特別な法律関係である『特別権力関係』においては、一般権力関係とは異なる特殊な支配・服従関係を認め、このような関係にある特定の国民は、一般国民よりも基本的人権を広く制限されることを正当化するものである。特別権力関係論の具体的な内容は以下のとおり。
1. 法治主義が排除され、公権力は包括的支配権を与えられる。
2. 公権力は一般国民として保障される人権を、法律なくして制約することができる。
3. 特別権力関係内部の行為については、司法審査が及ばない。
■特別権力関係論の修正
伝統的な特別権力関係論はドイツの公法理論で、我が国でも旧憲法以来用いられてきたが、法の支配を原理として基本的人権の尊重を謳い、国会を唯一の立法機関と位置づける日本国憲法においては、この理論は妥当し得ない。
そこで、特別権力関係の存在自体は認めるが、特別権力関係においても基本的人権の保障が原則として及び、人権制限は特別権力関係の設定目的に照らして必要かつ合理的な範囲に限定されなければならないとして、伝統的な特別権力関係論に大きな修正を加えた学説が提唱されるようになった。
そして現在では、特別権力関係論そのものに否定的な学説が有力になっている。この学説は、公務員の勤務関係、受刑者の在監関係など、全く性質の異なる法律関係にある者をすべて「公権力に服している」という形式的なカテゴリーによって、同じ性質のものと一括して捉えている点を批判した上で、従来特別権力関係とされてきた様々の関係を個別的・具体的に考察し、それぞれの関係において、いかなる人権が、いかなる根拠に基づいて、どの程度制約されるかを具体的に明らかにすることが重要であると主張している。