- 法令上の制限税その他ー9.価格の評定
- 2.不動産鑑定評価基準
- 不動産鑑定評価基準
- Sec.1
1不動産鑑定評価基準
不動産の鑑定評価とは、土地もしくは建物またはこれらに関する所有権以外の権利の経済価値を判定し、その結果を価額に表示することである。
この不動産の鑑定評価は、「不動産鑑定評価基準」という公的な基準に従って行われる。そして、この鑑定評価を専門職として行っているのが「不動産鑑定士」という資格者である。
鑑定評価の全体像、価格の種類、そしてこの鑑定評価の方式について最低限の基本知識を身につけておこう。
■不動産の価格に関する諸原則
不動産の価格の形成の過程には、基本的な法則性を認めることができる。これを具体的に現したものとして、不動産鑑定評価基準では、いくつか諸原則を挙げているが、ここでは最有効使用の原則を見ておく。
最有効使用の原則
不動産の価格は、その不動産の効用が最高度に発揮される可能性に最も富む使用(最有効使用)を前提として把握される価格を標準として形成される。これを最有効使用の原則という。この場合の最有効使用は、現実の社会経済情勢の下で客観的にみて、良識と通常の使用能力を持つ人による合理的かつ合法的な最高最善の使用方法に基づくものである。
■鑑定評価の方式
鑑定評価の方式には、原価方式、比較方式および収益方式の三方式がある。
原価方式は不動産の再調達(建築、造成等による新規の調達)に要する原価に着目して、比較方式は不動産の取引事例又は賃貸借等の事例に着目して、収益方式は不動産から生み出される収益に着目して、それぞれ不動産の価格または賃料を求めようとするものである。
■価格を求める鑑定評価の手法
価格を求める鑑定評価の基本的な手法は、原価法、取引事例比較法および収益還元法に大別される。
(1) 原価法
「原価法」は、価格時点における対象不動産の再調達原価を求め、この再調達原価について減価修正を行って対象不動産の試算価格(積算価格)を求める手法である。
再調達原価とは、対象不動産を価格時点において再調達することを想定した場合において必要とされる原価の総額をいう。要は、対象不動産と同一のものを現在作ったらいくらかかるかをまず求め、その再調達原価から、現在までに使用されて傷んだ分の価格を減額して算出するということである。
Point1 原価法は、対象不動産が建物又は建物及びその敷地である場合において、再調達原価の把握及び減価修正を適切に行うことができるときに有効であり、対象不動産が土地のみである場合においても、再調達原価を適切に求めることができるときはこの手法を適用することができる。一方、既成市街地などでは再調達原価が求められないので、一般には使えない。
Point2 原価法の減価修正の方法には、耐用年数に基づく方法と、観察減価法の2つの方法があり、これらを併用しなければならない。
Point3 土地についての原価法の適用において、宅地造成直後と価格時点とを比較し、公共施設の整備等により、社会的、経済的環境の変化が価格水準に影響を与えていると客観的に認められる場合には、地域要因の変化の程度に応じた増加額を熟成度として加算することができる。
(2) 取引事例比較法
「取引事例比較法」は、まず多数の取引事例を収集して適切な事例の選択を行い、これらに係る取引価格に必要に応じて事情補正及び時点修正を行い、かつ、地域要因の比較及び個別的要因の比較を行って求められた価格を比較考量し、これによって対象不動産の試算価格(比準価格)を求める手法である。
Point1 取引事例比較法は、近隣地域若しくは同一需給圏内の類似地域等において対象不動産と類似の不動産の取引が行われている場合又は同一需給圏内の代替競争不動産の取引が行われている場合に有効である。
Point2 取引事例は、原則として近隣地域又は同一需給圏内の類似地域に存する不動産に係るもののうちから選択するものとし、必要やむを得ない場合には近隣地域の周辺の地域に存する不動産に係るもののうちから選択するものとする。
Point3 同一需給圏とは、一般に対象不動産と代替関係が成立して、その価格の形成について相互に影響を及ぼすような関係にある他の不動産の存する圏域をいう。不動産の種類、性格および規模に応じた需要者の選好性によって、その地域的範囲は狭められる場合もあれば、広域的に形成される場合もある。
(3) 収益還元法
「収益還元法」は、対象不動産が将来生み出すであろうと期待される純収益の現在価値の総和を求めることにより対象不動産の試算価格(収益価格)を求める手法である。
収益還元法は、賃貸用不動産又は賃貸以外の事業の用に供する不動産の価格を求める場合に特に有効である。
この手法は、文化財の指定を受けた建造物等の一般的に市場性を有しない不動産以外のものにはすべて適用すべきものであり、自用の住宅地といえども賃貸を想定することにより適用されるものである。
なお、市場における土地の取引価格の上昇が著しいときは、その価格と収益価格の乖離が増大するものであるので、先走りがちな取引価格に対する有力な検証手段として、この収益還元法が活用されるべきである。
Point 収益価格を求める方法には、一期間の純収益を還元利回りによって還元する方法(「直接還元法」)と、連続する複数の期間に発生する純収益および復帰価格を、その発生時期に応じて現在価値に割り引き、それぞれを合計する方法(DiscountedCash Flow法「DCF法」)がある。
(4) 試算価格を求める場合の一般的留意事項
① 事例の収集および選択
不動産の鑑定評価における各手法の適用に当たって必要とされる事例は、鑑定評価の各手法に即応し、適切にして合理的な計画に基づき、豊富に秩序正しく収集し、選択されるべきであり、投機的取引であると認められる事例は用いることができない。
例えば、取引事例比較法における取引事例としては、特殊な事情のある事例(売り急ぎや買い進みなど)でもその具体的な状況が判明しており、補正できるものであれば採用することができるが、投機的取引であると認められる事例は採用できない。
② 事情補正
取引事例等に係る取引等が特殊な事情を含み、これが当該取引事例等に係る価格等に影響を及ぼしているときは適切に補正しなければならない。
③ 時点修正
取引事例等に係る取引等の時点が価格時点と異なることにより、その間に価格水準に変動があると認められる場合には、当該取引事例等の価格等を価格時点の価格等に修正しなければならない。
(5) 鑑定評価の手法の適用
鑑定評価の手法の適用に当たっては、鑑定評価の手法を当該案件に即して適切に適用すべきである。この場合、地域分析および個別分析により把握した対象不動産に係る市場の特性等を適切に反映した複数の鑑定評価の手法を適用すべきであり、対象不動産の種類、所在地の実情、資料の信頼性等により複数の鑑定評価の手法の適用が困難な場合においても、その考え方をできるだけ参酌するように努めるべきである。