• 法令上の制限税その他ー8.宅地・建物に関する税
  • 6.所得税
  • 所得税
  • Sec.1

1所得税

堀川 寿和2021/11/26 10:54

所得税は、所得を有する者に対して、国が課税する国税である。

課税主体・課税対象・納税義務者

(1) 課税主体

 所得税の課税主体は国である。


(2) 課税対象

 課税の対象は、個人の所得である。

 所得とは、原則として収入から必要経費を控除したものを意味する。つまり、利益のことである。

 土地建物等を譲渡(売却)することにより所得を得た場合は、譲渡所得として、所得税が課税される。譲渡所得とは、資産の譲渡による所得のことをいう。ここでは、おもに土地建物等を譲渡した場合の譲渡所得に対する所得税の課税を扱う。


Point1 不動産の貸付けによる所得は、不動産所得とされる。ただし、借地権(建物の所有を目的とする地上権または賃借権)の設定により他人に土地を長期間使用させる行為で一定のものは資産の譲渡とされ、これによる所得は譲渡所得とされる。具体的には、借地権の設定の対価として支払いを受ける権利金等の金額が、その土地の価額の10分の5に相当する金額を超えるときは、譲渡所得として課税される。それ以外の場合は、不動産所得として課税される。


Point2 資産の譲渡による所得であっても、営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡による所得は譲渡所得に含まれない


(3) 納税義務者

 納税義務者は、原則として、所得を有する個人である。


課税標準

 所得税の課税標準は、土地建物等を譲渡した場合の譲渡所得に関しては、土地建物等に係る譲渡所得の金額である。


(1) 総合課税と分離課税

所得税の課税方法には、総合課税と分離課税がある。


① 総合課税(原則)

所得税の原則的な課税方法は、総合課税である。

所得税額を算出するにあたり、所得をその性質に応じて10種類に区分し、それぞれの所得に適した所得金額を計算したうえで、最後にこれを合算することにより総所得金額を求める。原則として、これが所得税の課税標準となる。

譲渡所得は、10種類ある所得の1つであり、原則として、総合課税の対象になる。


② 分離課税(例外)

 これに対して、所得税の例外的な課税方法が、分離課税である。

 所得の中でも、総合課税になじまない一定の所得については、他の所得と区分し、分離して課税される。譲渡所得のうち、土地建物等に係る譲渡所得については、分離課税の対象とされる。


(2) 譲渡所得の金額の計算

① 総合課税とされる譲渡所得の金額

上記のように、土地建物等に係る譲渡所得は分離課税の対象となるのだが、まず、総合課税とされる譲渡所得の金額の計算についてみておく。

譲渡所得は、所有期間の長短により、さらに長期譲渡所得と短期譲渡所得の2つのグループに区分される。資産の取得の日以後譲渡の日までの所有期間が5年超のものが長期譲渡所得であり、5年以下のものが短期譲渡所得である。

譲渡所得の金額は、それぞれのグループごとに、その年中の当該所得に係る総収入金額から取得費および譲渡費用の合計額を控除し(この金額を「譲渡益」という)、そこから譲渡所得の特別控除額(最高50万円)を控除することにより計算する。なお、50万円の特別控除額は長期譲渡所得と短期譲渡所得共通のものである。長期譲渡と短期譲渡の両方の譲渡益がある場合は、まず譲渡益のうち短期譲渡に該当する部分の金額から控除し、なお控除しきれない特別控除額があれば、長期譲渡に該当する部分の金額から控除することになっている。

(a) 長期譲渡所得の金額=総収入金額-(取得費+譲渡費用)-特別控除額
(b) 短期譲渡所得の金額=総収入金額-(取得費+譲渡費用)-特別控除額
                                       譲渡益    ※ 特別控除額は、長期と短期あわせて50万円

 このようにして求めた金額を他の所得と合算して総所得金額を求める。その際に、短期譲渡所得の金額は、そのままの金額を合算するのに対して、長期譲渡所得の金額は、その2分の1の額を合算する。


② 分離課税とされる土地建物等に係る譲渡所得の金額

 土地建物等に係る譲渡所得については、総合課税ではなく、例外的に分離課税の対象となる。

 土地建物等に係る譲渡所得の金額も、所有期間の長短により、さらに長期譲渡所得と短期譲渡所得の2つのグループに区分される。ただし、所有期間を判定する時期が総合課税のものと異なり、譲渡した年の1月1日において所有期間が5年超のものが長期譲渡所得、5年以下のものが短期譲渡所得である。

各譲渡所得の金額は、その年中の総収入金額から取得費および譲渡費用の額の合計額を控除した金額、つまり譲渡益である。

(a) 土地建物等に係る長期譲渡所得の金額=総収入金額-(取得費+譲渡費用)
(b) 土地建物等に係る短期譲渡所得の金額=総収入金額-(取得費+譲渡費用)


Point1 総合課税とされる譲渡所得の長短は、譲渡した日における所有期間が5年超か否かで判定する。それに対して、分離課税とされる土地建物等に係る譲渡所得の長短は、譲渡した年の1月1日における所有期間が5年超か否かで判定する。


Point2 取得費とは、その資産の取得時に支出した購入代金や購入手数料等の金額に、その資産の取得後に支出した設備費と改良費とを加えた合計額のことである。建物の取得費については、この金額から、さらに減価償却費相当額を控除した金額となる。


Point3 個人が、相続(限定承認に係るものを除く)により取得した土地や建物

を譲渡した場合は、譲渡所得の金額の計算上、その土地や建物の取得費については、原則として、被相続人の取得費を引き継ぐ。


Point4 取得費が不明な場合は、譲渡所得の計算上、譲渡収入金額の5%相当額を取得費とすることができる。また、実際の取得費の額が譲渡収入金額の5%相当額を下回る場合も、同様に、譲渡収入金額の5%相当額を取得費とすることができる。これを概算取得費という。


Point5 譲渡費用には、仲介手数料登記費用等が含まれる。


③ 著しく低い価額で譲渡した場合の譲渡所得の金額の計算

 個人に対して譲渡時の価額の2分の1に満たない金額で譲渡所得の起因となる資産を譲渡した場合、その譲渡により生じた損失の金額は、譲渡所得の金額の計算上、なかったものとみなされる。

 法人に対して譲渡時の価額の2分の1に満たない金額で譲渡所得の起因となる資産を譲渡した場合、譲渡時の価額に相当する金額で資産の譲渡があったものとみなして、譲渡所得の金額が計算される。


④ 生活に通常必要でない資産の災害による損失

  個人が、災害または盗難もしくは横領により、生活に通常必要でない資産について受けた損失の金額(保険金、損害賠償金などで補てんされる部分の金額を除く)は、その者のその損失を受けた日の属する年分またはその翌年分の譲渡所得の金額の計算上控除される。


Point 保養の用に供する目的で所有する別荘は、生活に通常必要でない資産に該当する。


課税標準の特例

(1) 居住用財産の譲渡所得の特別控除(3,000万円特別控除)

① 制度の概要

 個人が、所定の要件を満たす居住用財産を譲渡した場合は、譲渡所得の金額から最高3,000万円を控除することができる。個人が自己の居住用財産を手放すのは、もうけを得るためではなく、やむにやまれぬ事情で仕方なくということがほとんどである。当事者が金銭的に困窮していることも多い。そこで、税金を安くしてやるための政策的配慮である。


② 特例の適用要件(主なもの)

 この特例の適用を受けるには、次の要件を満たしている必要がある。

(a) 現在居住の用に供している家屋やその敷地の譲渡であること
(b) 現在居住の用に供していないものについては、居住の用に供さなくなった日から3年を経過する年の12月31日までの譲渡であること
(c) 配偶者・直系血族・生計を一にする親族など、特別の関係がある者への譲渡ではないこと
(d) 前年、前々年においてこの特例や特定の居住用財産の買換え特例の適用を受けていないこと 


Point1 この特例には、所有期間に関する適用要件はない。したがって、譲渡した居住用財産の所有期間にかかわらず、特例の適用を受けることができる。


Point2 夫婦の共有名義の土地建物等を譲渡した場合に、夫婦ともに適用要件を満たしていれば、夫婦それぞれについて、この特例の適用を受けることができる。


(2) 収用交換等の場合の譲渡所得等の特別控除(5,000万円特別控除)

 個人が、土地等を収用交換等(土地収用法などの規定に基づく収用等)により譲渡して補償金や対価(資産を含む)を得たときは、譲渡所得金額から最高5,000万円を控除することができる。


Point 「3,000万円特別控除」や「5,000万円特別控除」は、「居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例」(居住用財産を譲渡した場合の軽減税率の特例)と併用することができる


(3) 特定の居住用財産の買換えの場合の長期譲渡所得の課税の特例

① 制度の概要

 個人が、所定の要件を満たす居住用財産を譲渡した場合に、一定の期間内に所定の要件を満たす居住用財産を取得したとき、長期譲渡所得について、譲渡による収入が買換えによる支出を上回った部分についてのみ譲渡があったものとして課税の対象となる。

 今まで住んでいた家を売って買い換える場合、多少のもうけが出たとしても新しい家の購入費に消えるのだから、通常どおり課税するのは酷である。そこで、今までの家を売ったお金でそれよりも安価な家を買う場合は差額部分の譲渡があったものとして課税するが、売ったお金を元にそれよりも高価な家を買う場合には、譲渡はなかったものとして課税しない(課税を繰り延べる)こととするのである。


② 特例の適用要件(主なもの)

 特例の適用を受けるためには、次の要件を満たす必要がある。

(イ)譲渡資産の要件
(a) 現在居住の用に供している家屋やその敷地の譲渡であること
(b) 現在居住の用に供していないものについては、居住の用に供さなくなった日から3年を経過する年の12月31日までの譲渡であること
(c) 配偶者・直系血族・生計を一にする親族など、特別の関係がある者への譲渡ではないこと
(d) 居住用財産を譲渡した日の属する年の1月1日において、譲渡した居住用財産の所有期間が10年超であること
(e) 譲渡した居住用財産の居住期間が10年以上であること
(f) 譲渡資産の譲渡に係る対価の額が1億円以下であること
(g) 前年、前々年において3,000万円の特別控除および軽減税率の特例の適用を受けていないこと
(ロ)買換資産の要件
(a) 買換資産の建物の床面積が50㎡以上であること
(b) 買換資産が建築後使用されたことのある耐火建築物である場合は、築25年以内であるか、または一定の耐震基準に適合していること
(c) 買換資産の土地が500㎡以下であること
(d) 譲渡年の前年1月1日から譲渡年の翌年の12月31日までの間に買換資産を取得すること
(e) 当該取得の日から譲渡年の翌年12月31日までの間に(買換資産を譲渡年の翌年に取得した場合は譲渡年の翌々年の12月31日までの間に)買換資産を居住の用に供すること、または供する見込みであること


(4) 収用等に伴い代替資産を取得した場合の課税の特例(課税の繰延べ)

 個人の資産が土地収用法などの規定に基づき収用等された場合に、収用等があった日から2年以内に、収用等によって取得した補償金等で代替資産を取得したときは、その補償金等の額が代替資産の取得価額以下である場合は譲渡がなかったものとして課税せず、その補償金等の額がその取得価額を超える場合は、その超える金額に相当する部分につき譲渡があったものとして課税される。