- 不動産
- 3.不動産の取引
- 不動産の取引
- Sec.1
■不動産の売買
(1) 解約手付
不動産の売買契約においては、買主が売主に解約手付を交付することが多い。
民法の規定によれば、不動産の売買契約において、買主が売主に解約手付を交付したときは、相手方が契約の履行に着手するまでは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を現実に提供して、契約の解除をすることができる。
(2) 売主の担保責任〔契約不適合責任〕
① 売主の担保責任
民法の規定によれば、不動産の売買契約において、引き渡された売買の目的物が種類、品質または数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、(a)履行の追完の請求、(b)代金の減額の請求、(c)損害賠償の請求または(d)契約の解除をすることができる。
この場合に売主が負う上記(a)~(d)の責任を、売主の「担保責任」という。「契約不適合責任」とよばれることもある。
② 目的物の種類または品質に関する担保責任の期間の制限
民法の規定によれば、不動産の売買契約において、売主が種類または品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合は、買主がその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しないと、買主は、その不適合を理由として、売主の担保責任〔契約不適合責任〕を追及することができなくなる。
Point 民法の規定によれば、目的物の種類または品質に関する契約不適合を理由に、売主の担保責任を追及する場合は、買主がその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しなければならない。
③ 担保責任を負わない旨の特約
民法上、特約によって、売主の担保責任を免除したり、上記の通知期間を短縮したりすることができる。ただし、民法の規定によれば、このような担保責任に関する特約を締結しても、売主が知りながら買主に告げなかった事実については、その責任を免れることができない。
(3) 住宅の品質確保の促進等に関する法律に基づく新築住宅の売主の瑕疵担保責任
住宅の品質確保の促進等に関する法律の規定によれば、新築住宅の売買契約における新築住宅の売主は、住宅の構造耐力上主要な部分等の瑕疵(かし)について、物件を買主に引き渡した時から10年間、売主の担保責任〔=上記(2)①の(a)~(d)〕を負うことが義務付けられる。なお、この法律において「瑕疵」とは、種類または品質に関して契約の内容に適合しない状態をいう。
■不動産の賃貸借
不動産の賃貸借は、土地の賃貸借と建物の賃貸借に分かれる。
(1) 土地の賃貸借
建物の所有を目的とする土地の賃貸借には、借地借家法の適用がある。この場合の賃借権を、借地借家法では「借地権」という。借地権には、普通借地権と定期借地権等がある。
① 借地権の対抗力
民法の規定によれば、土地の賃借権を第三者に対抗するには賃借権の登記をしておかなければならない。それに対して、借地借家法の規定によれば、借地権は、その登記がなくても、土地の上に借地権者が登記されている建物を所有するときは、これをもって第三者に対抗することができる。
② 普通借地権
「普通借地権」とは、定期借地権等〔次の③で説明。〕以外の借地権をいう。
普通借地権は、更新することができ、合意による更新ができなかった場合にも、借地権者が更新を希望すれば借地権設定者に正当の事由があると認められない限り法定更新される借地権である。
(a) 普通借地権の存続期間
普通借地権に係る借地契約を締結する場合の借地権の存続期間は30年とされている。ただし、当事者がこれより長い期間を定めたときは、その期間とされる。
Point 借地権設定契約を締結する場合の存続期間は、借地上に所有する建物が堅固建物であるか非堅固建物であるかを問わず、30年以上とされている。
(b) 普通借地権の更新後の期間
普通借地権に係る借地契約を更新する場合において、その期間は、借地権設定後の最初の更新では更新の日から20年、それ以降の更新では更新の日から10年とされている。ただし、当事者がこれより長い期間を定めたときは、その期間とされている。
③ 定期借地権等
「定期借地権等」は、契約の更新がないものとして設定される借地権であり、存続期間の満了によって借地権は消滅する。借地借家法に規定されている定期借地権等には、一般定期借地権、事業用定期借地権等、建物譲渡特約付借地権の3つがある。
(a) 一般定期借地権
一般定期借地権は、借地上の建物は用途の制限がなく、存続期間を50年以上として設定するものであり、その設定契約は公正証書による等書面により作成する。
(b) 事業用定期借地権等
事業用定期借地権等は、専ら事業の用に供する建物の所有を目的とし、存続期間を10年以上50年未満として設定する借地権である。事業用定期借地権等は、存続期間が10年以上30年未満の事業用借地権と30年以上50年未満の事業用定期借地権に区分される。
事業用定期借地権等の設定を目的とする契約は、公正証書によって締結しなければならない。
Point 事業用定期借地権等は、専ら事業の用に供する建物の所有を目的とするものであり、居住の用に供する建物の所有を目的として設定することはできない。
(c) 建物譲渡特約付借地権
建物譲渡特約付借地権は、借地上の建物は用途の制限がなく、借地権の設定後30年以上を経過した日に借地上の建物を借地権設定者に相当の対価で譲渡する旨の特約が付された借地権である。借地上の建物を借地権設定者に譲渡することにより借地権は消滅する。
<定期借地権等>
|
普通借地権 |
定期借地権等 |
||
一般定期借地権 |
事業用定期借地権等 |
建物譲渡特約付借地権 |
||
存続期間 |
30年以上 |
50年以上 |
10年以上50年未満 |
30年以上 |
更新 |
最初の更新 →20年以上 2回目以降の更新 →10年以上 |
なし |
なし |
なし |
契約方法 |
制限なし |
書面による |
公正証書による |
制限なし |
利用目的 |
制限なし |
制限なし |
事業用建物に限る |
制限なし |
(2) 建物の賃貸借
建物の賃貸借には、一時使用目的である場合を除いて、借地借家法の適用がある。
① 普通建物賃貸借契約〔普通借家契約〕
「普通建物賃貸借契約」は、定期建物賃貸借契約〔次の②で説明。〕を除く建物の賃貸借契約をいう。「普通借家契約」とよばれることもある。
普通建物賃貸借契約は更新することができ、合意による更新ができなかった場合にも、賃借人が更新を希望すれば賃貸人に正当の事由があると認められない限り法定更新される。
(a) 普通建物賃貸借契約の締結方法
普通建物賃貸借契約の締結方法については借地借家法で特に制限されていないため、普通建物賃貸借契約は書面により締結することができるほか、口頭の合意のみでも締結することができる。
(b) 普通建物賃貸借契約の賃貸借期間
普通建物賃貸借契約は、賃貸借期間を定めてもよいし、定めなくてもよい。ただし、賃貸借期間を定める場合は、1年以上の期間としなければならない。なお、最長期間の制限はない。
普通建物賃貸借契約において、1年未満の期間を賃貸借期間として定めた場合、期間の定めがない賃貸借とみなされる。
(c) 普通建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件
普通建物賃貸借契約においては、賃貸人は、正当の事由があると認められる場合でなければ、更新拒絶の通知または解約の申入れをすることができない。
Point 普通建物賃貸借契約においては、期間満了時に賃借人から更新の請求があった場合は、賃貸人は、正当の事由があると認められる場合でなければ、賃借人からの更新の請求を拒むことができない。
② 定期建物賃貸借契約〔定期借家契約〕
「定期建物賃貸借契約」は、契約の更新がなく、期間の満了とともに必ず契約が終了する建物賃貸借であり、借地借家法の規定により認められている。「定期借家契約」とよばれることもある。
(a) 定期建物賃貸借契約の締結方法
定期建物賃貸借契約は、公正証書による等書面によって締結しなければならない。
また、定期建物賃貸借契約を締結するためには、建物の賃貸人は、あらかじめ、建物の賃借人に対し、建物の賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により当該建物の賃貸借は終了することについて、その旨を記載した書面を交付して説明しなければならない。
Point 定期建物賃貸借契約は、公正証書によって締結することができるが、必ず公正証書によって締結しなければならないというわけではない。⇔事業用定期借地権等
(b) 定期建物賃貸借契約の賃貸借期間
定期建物賃貸借契約においては、必ず賃貸借期間を定めなければならないが、1年未満の期間を賃貸借期間として定めることができる。なお、最長期間の制限はない。
Point 定期建物賃貸借契約において、1年未満の期間を賃貸借期間として定めても、期間の定めのない賃貸借とはみなされない。⇔普通建物賃貸借契約
(c) 定期建物賃貸借契約の終了
定期建物賃貸借契約は、契約上は、期間の満了により終了する。しかし、借地借家法の規定によれば、定期建物賃貸借契約において、賃貸借期間が1年以上である場合には、賃貸人は、期間の満了の1年前から6か月前までの間(通知期間)に、賃借人に対して期間の満了により賃貸借が終了する旨の通知をしなければ、その終了を賃借人に対抗することができない。
ただし、賃貸人が通知期間中に賃借人に対して上記の通知をしなかった場合であっても、通知期間の経過後に賃借人に対し上記の通知をすれば、その通知の日から6か月を経過した後は、契約の終了を賃借人に対抗することができるようになる。
(d) 定期建物賃貸借契約終了後の再契約
定期建物賃貸借契約終了後に、当事者間で再度定期建物賃貸借契約を締結することは可能である。しかし、賃貸人は必ずしも再契約に応じる必要はなく、再契約を拒絶するのに正当事由の有無は問われない。賃貸人が再契約に応じない限り、賃借人は建物を明け渡さなければならない。
Point 定期建物賃貸借契約においては、更新がないので、期間満了時に賃借人から更新の請求があった場合は、賃貸人は、正当の事由があると認められなくても、賃借人からの更新の請求を拒むことができる。⇔普通建物賃貸借契約