- 金融資産運用
- 2.マーケット環境の理解
- マーケット環境の理解
- Sec.1
1マーケット環境の理解
■金融市場
資金の余っている者から資金の不足している者に資金を融通することを金融といい、資金を融通しあう場のことを金融市場という。金融市場は、短期金融市場と長期金融市場に分かれる。
|
(1) 短期金融市場
短期金融市場とは、1年以内の短期の資金を融通しあう場のことをいう。短期金融市場には、インターバンク市場とオープン市場がある。
① インターバンク市場
短期金融市場のうち、金融機関のみが参加し、コール取引などが行われている市場を、インターバンク市場という。
無担保コール翌日物金利は、インターバンク市場の代表的な金利である。
② オープン市場
短期金融市場のうち、金融機関のほか、事業法人や地方公共団体なども参加する市場を、オープン市場という。
(2) 長期金融市場
長期金融市場とは、1年超の長期の資金を融通しあう場のことをいう。長期金融市場には、代表的なものとして、株式市場や公社債市場がある。
■主要なマーケット指標[実技]
(1) 国内総生産(GDP)
国内総生産(GDP)とは、一定期間内に国内で生産された財やサービスの付加価値の総額である。付加価値の合計額を単純に市場価格〔=時価〕で示した指標を、名目GDPという。それに対して、付加価値の合計額から物価変動の影響を取り除いた指標を、実質GDPといい、一般に、その伸び率が国の経済成長率を測る指標として用いられる。
Point 国内総生産(GDP)には、日本企業が外国で生産した付加価値は含まれない。
【用語解説】付加価値
「付加価値」とは、生産された財やサービスの価額から、その生産に要した費用を差し引いた金額のことである。 |
(2) 景気動向指数
景気動向指数は、生産、雇用などさまざまな経済活動での重要かつ景気に敏感に反応する指標の動きを統合することによって、景気の現状把握および将来予測に資するために作成された指標であり、内閣府が公表している。
① コンポジット・インデックス(CI)とディフュージョン・インデックス(DI)
景気動向指数には、コンポジット・インデックス(CI:Composite Index)とディフュージョン・インデックス(DI:Diffusion Index)がある。
コンポジット・ インデックス(CI) |
コンポジット・インデックス(CI)は、主として景気変動の大きさやテンポ(量感)の測定を目的とした指標である。 一般に、景気動向指数のコンポジット・インデックス(CI)の一致指数が上昇しているときは、景気の拡張局面といえる。反対に、CIの一致指数が低下しているときは後退局面である。 |
ディフュージョン・インデックス(DI) |
ディフュージョン・インデックス(DI)は、景気拡張の動きの各経済部門への波及度合いを測定することを主な目的とした指標である。 |
② 景気動向指数に採用されている経済指標
景気動向指数に採用されている指標は、先行系列〔=景気に先行して動く指標〕、一致系列〔=景気に一致して動く指標〕、遅行系列〔=景気に後れて動く指標〕に分けられる。各系列の代表的な指標は、次のとおりである。
先行系列 |
新規求人数(除学卒) |
一致系列 |
有効求人倍率(除学卒) |
遅行系列 |
完全失業率(逆サイクル) |
なお、「逆サイクル」は、指数の上昇・下降が景気の動きと反対になる指標であることを指している。
(3) 全国企業短期経済観測調査(日銀短観)
全国企業短期経済観測調査は、日本銀行が年4回(毎年3月・6月・9月・12月に)実施する民間企業への業況調査である。このため、日銀短観と略称される。
日銀短観の業況判断DIは、調査対象の企業が、業況について「良い」「さほど良くない」「悪い」の選択肢から回答し、「良い」と回答した企業の割合から「悪い」と回答した企業の割合を差し引いた数値で表される。
Point 日銀短観は、日本銀行が景気の現状や先行きの見通しについて企業に直接行うアンケート調査である。
(4) マネーストック統計
マネーストック統計は、一般法人、個人、地方公共団体などの通貨保有主体〔=中央政府や金融機関を除く経済主体〕が保有する通貨量の残高を集計したものである。日本銀行が毎月公表している。
【用語解説】マネーストック
「マネーストック」とは、基本的に、一般法人、個人、地方公共団体などの通貨保有主体〔=金融機関・中央政府を除いた経済主体〕が保有する現金通貨や預金通貨などの通貨量の残高である。 |
(5) 物価指数
① 消費者物価指数
消費者物価指数は、全国の世帯が購入する家計に係る財およびサービスの価格等を総合した物価の変動を時系列的に測定するものであり、総務省が毎月公表している。
消費者物価指数が継続的に上昇している場合、一般に、経済環境はインフレーションの状態にあると判断される。
【用語解説】インフレーション、デフレーション
「インフレーション」とは、物価が継続的に上昇している状態をいう。それに対して、「デフレーション」とは、物価が継続的に下落している状態をいう。 |
② 企業物価指数
企業物価指数は、企業間で取引されている財に関する物価の変動を測定した指標であり、日本銀行が公表している。
原油価格などの商品市況や為替相場の影響は、消費者物価指数に先行して、企業物価指数に現れる傾向がある。
■マーケットの変動要因
(1) 金利の変動要因
① 金利の決まり方
金利は、元本に対する利息の割合を示したものである。資金の貸し借りに際して、借り手は貸し手に対価として利息を支払うが、金利は、財やサービスの価格と同様に、借り手と貸し手の間の資金の需給関係により決まる。つまり資金需要以上に資金量がある〔=余っている〕場合は金利が下がり、資金需要に資金量が満たない〔=足りない〕場合は金利が上昇する。
② 景気と金利の変動
景気の拡大や後退が、金利の変動要因となる。
景気拡大局面においては、一般に、消費や設備投資が活発になり資金需要が増えるため、市中金利が上昇しやすい。
景気後退局面においては、一般に、消費や設備投資が停滞することになり資金需要が減るため市中金利は低下しやすい。
景気 |
金利の変動 |
原因 |
拡大局面 |
金利上昇 |
資金需要の増加 |
後退局面 |
金利低下 |
資金需要の低下 |
③ 物価と金利の変動
物価の上昇や下落が、金利の変動要因となる。
物価が継続的に上昇して、相対的に通貨価値が下落するインフレーションの経済状況下においては、一般に、資金需要の増加により、市中金利が上昇しやすい。
物価が継続的に下落して、相対的に通貨価値が上昇するデフレーションの経済状況下においては、一般に、資金需要の減少による市中金利の低下がみられる。
物価 |
金利の変動 |
原因 |
インフレーション〔=継続的物価上昇〕 |
金利上昇 |
資金需要の増加〔安いうちに購入〕 |
デフレーション 〔=継続的物価下落〕 |
金利低下 |
資金需要の低下〔安くなるまで買控え〕 |
Point 物価が継続的な下落傾向〔=デフレーション〕にある場合、一般に実質金利のほうが名目金利よりも高くなる。
【用語解説】名目金利、実質金利
「名目金利」とは、物価の変動を考慮しない表面上の金利をいう。それに対して、「実質金利」は、名目金利から予想される物価上昇率を差し引いた金利をいう。 実質金利=名目金利-物価上昇率 |
(2) 為替相場の変動要因〔内外金利差〕
国内と海外の金利差による資金の移動が、為替相場の変動要因となる。
たとえば、米ドルと円の為替相場においては、米国の市場金利が上昇し、同時に日本の市場金利が一定かまたは低下すると、円を米ドルに換える動きを強まることにより、一般に、米ドル高、円安の要因となる。反対に、米国の市場金利が低下し、同時に日本の市場金利が一定かまたは上昇すると、米ドルを円に換える動きが強まることにより、一般に、米ドル安、円高の要因となる。
(3) 株価の変動要因〔金利〕
わが国の金利の上昇や低下が、日本の株式市場における株価に影響を与える。
金利が上昇すると、会社の金利負担が増加して資金調達しにくくなるため、会社の業績が悪化し、株価低下の要因となる。それに対して、金利が低下すると、会社の金利負担が減少して資金調達しやすくなるため、会社の業績が向上し、株価上昇の要因となる。
金利 |
株価の変動 |
原因 |
金利上昇 |
株価低下 |
資金調達しにくくなる → 会社の業績悪化 |
金利低下 |
株価上昇 |
資金調達しやすくなる → 会社の業績向上 |
(4) 日本銀行の金融政策
① 金融政策
金融政策とは、物価の安定のために日本銀行が行う金利に影響を与える政策をいう。金利を引き上げる金融引締め政策と、金利を引き下げる金融緩和政策がある。日本銀行は、公開市場操作(オペレーション)などを用いて、短期金融市場の資金の総量を調整している。
Point わが国の中央銀行である日本銀行は、物価の安定や金融システムの安定を図ることを目的としている。
② 公開市場操作(オペレーション)
公開市場操作(オペレーション)とは、日本銀行が有価証券等の買入れや売却を行い、市場における資金量を増減させることで、金利に影響を与える政策をいう。買いオペレーションと売りオペレーションがある。
公開市場操作により、日本銀行が金融機関の保有する国債などの有価証券等の買入れ〔=買いオペレーション〕を行えば、市中に出回る資金量が増加し、金利の低下を促す効果がある。
それに対して、日本銀行が金融機関に対して日本銀行の保有する有価証券等の売却〔=売りオペレーション〕を行えば、市中に出回る資金量が減少し、金利の上昇を促す効果がある。
Point1 日本銀行によるマネタリーベース〔=市中に出回っている流通現金〕を増加させる金融調節には、市場金利の低下を通じて金融を緩和する効果がある。
Point2 日本銀行による金融引締め政策は、金利の低下を促すため、一般に、日本の株式市場における株価の低下要因となる。