- リスク管理
- 2.リスクマネジメントと私的保険
- リスクマネジメントと私的保険
- Sec.1
1リスクマネジメントと私的保険
■リスクマネジメント
(1) リスクマネジメント
われわれ個人や企業のまわりには、偶発的な事故や災害など、さまざまなリスクが存在する。各種リスクが発生した場合に、損失が発生しないように予防対策を講じ、もし損失が発生してもその影響を最小限にとどめるよう準備しておくことをリスクマネジメントという。リスク管理やリスク対策と呼ばれることもある。
(2) リスクマネジメントの手法
個人や企業のリスクマネジメントの手法には、リスクコントロールとリスクファイナンシングがある。
① リスクコントロール
リスクコントロールとは、損失の発生頻度や規模を最小限度におさえるために事前に対策を行い、リスクそのものを変えることをいう。リスクコントロールの方法には、事故の回避、事故の発生防止、損害の軽減などがある。
事故の回避 |
事故の回避とは、リスクの発生原因となる行為そのものを行わないことである。 |
事故の発生防止 |
事故の発生防止とは、事前の対策によりリスクによる損失の発生頻度(確率)を小さくすることである。例として、火気使用を禁止することが挙げられる。 |
損害の軽減 |
損害の軽減とは、事前の対策によりリスクによる損失の規模(程度)を小さくすることである。例として、消火器を設置することが挙げられる。 |
② リスクファイナンシング
リスクファイナンシングとは、損失を補てんするために金銭的な手当てをする方法である。リスクファイナンシングには、「保有」と「移転」の2つの方法がある。
保有 |
保有とは、損失を自ら負担することである。例として、積立金や借入金が挙げられる。 |
移転 |
移転とは、契約によって損失を第三者に負担してもらうことである。例として、保険が挙げられる。 |
■私的保険ー1
(1) 私的保険
① 公的保険と私的保険
不慮の事故や災害、病気などのリスクに備えるために、公的保険と私的保険がある。
公的保険は、社会保険や公的年金など、国が運営する保険であり、強制加入が原則である〔→Chapter1〕。それに対して、私的保険は、民間の保険会社が運営する保険であり、公的保険を補完するために必要に応じて任意に加入するものである。民間保険とも呼ばれる。
② 私的保険の分類
私的保険は、次の3つに分類される。
第一分野の保険 |
生命保険〔=人の生存または死亡に関し保険金が支払われる保険〕 |
生命保険会社が取り扱う |
第二分野の保険 |
損害保険〔=偶然の事故によって生じる損害をてん補する保険〕 |
損害保険会社が取り扱う |
第三分野の保険 |
生命保険、損害保険のいずれにも該当しない保険 |
生命保険会社、損害保険会社の双方が取り扱う |
(2) 保険に関する用語
保険契約 |
当事者の一方が一定の事由が生じたことを条件として保険給付を行うことを約し、相手方がこれに対して保険料を支払うことを約する契約〔生命保険契約、損害保険契約などがある〕 |
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保険者 |
保険契約の当事者のうち、保険給付を行う義務を負う者〔生命保険会社、損害保険会社、少額短期保険業者などがある〕 |
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保険契約者 |
保険契約の当事者のうち、保険料を支払う義務を負う者 |
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被保険者 |
生命保険契約 |
その者の生存または死亡に関し保険者が保険給付を行うこととなる者 |
損害保険契約 |
損害保険契約によりてん補することとされる損害を受ける者 |
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保険金受取人 |
保険給付を受ける者として生命保険契約で定めるもの |
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保険事故 |
生命保険契約 |
被保険者の死亡または一定の時点における生存 |
損害保険契約 |
損害保険契約によりてん補することとされる損害を生ずることのある偶然の事故として当該損害保険契約で定めるもの |
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保険期間 |
生命保険契約 |
その期間内に保険事故が発生した場合に保険給付を行うものとして生命保険契約で定める期間 |
損害保険契約 |
その期間内に発生した保険事故による損害をてん補するものとして損害保険契約で定める期間 |
(3) 保険業法
保険業法は、保険契約者を保護するために、保険会社などの保険業を行う者が遵守すべき事項を定めている法律である。
① 生命保険会社・損害保険会社、少額短期保険業者
(a) 生命保険会社・損害保険会社
保険業は、原則として、内閣総理大臣の免許を受けた者でなければ、行うことができない。保険業の免許には、生命保険業免許と損害保険業免許の2種類があり、生命保険業免許を受けた者を生命保険会社、損害保険業免許を受けた者を損害保険会社という。
(b) 少額短期保険業者
保険業の免許を受けていない者であっても、内閣総理大臣の登録を受けた者は、保険業のうち少額短期保険業を行うことができる。この登録を受けて少額短期保険業を行う者を少額短期保険業者という。
少額短期保険業者による取扱商品は「少額・短期・掛捨て」に限定され、1人の被保険者から引き受ける保険金額の総額は、原則として1,000万円が上限となっている。
② ソルベンシー・マージン比率
保険業法で定められた保険会社の健全性を示すソルベンシー・マージン比率は、通常の予測を超えて発生するリスクに対し、保険金等の支払余力をどの程度有するかを示す指標であり、この値が200%を下回った場合、監督当局による業務改善命令などの早期是正措置の対象となる。
【参考】ソルベンシー・マージン比率
③ 保険募集
保険業法上の保険募集とは、保険契約の締結の代理または媒介を行うことをいう。
代理 |
保険契約の締結の代理とは、保険契約の申込みに対して保険募集人が承諾をすれば、その保険契約が成立する形態を指す。 |
媒介 |
保険契約の締結の媒介とは、保険募集人が保険契約の勧誘を行い、保険契約の成立は保険会社の承諾による形態を指す。 |
④ 保険契約の締結・保険募集に関する禁止行為
保険会社等や保険募集人は、保険契約の締結・保険募集などをするにあたり、次の行為をしてはならない〔=禁止される〕。
(a) 保険契約者または被保険者が保険会社等に対して重要な事項につき虚偽のことを告げることを勧める行為 |
(b) 保険契約者または被保険者が保険会社等に対して重要な事実〔=病気や事故歴など〕を告げるのを妨げ、または告げないことを勧める行為 (c) 保険契約者または被保険者に対して、不利益となるべき事実を告げずに、保険契約の乗換募集を行う〔=既に成立している保険契約を消滅させて新たな保険契約の申込みをさせる〕行為 (d) 保険契約者または被保険者に対して、保険料の割引、割戻しその他特別の利益の提供を約し、または提供する行為〔→顧客が支払うべき保険料を立替払いすることも含む〕 (e) 保険契約者等に対して、他の保険契約との比較において保険契約者等に誤解させるおそれのある比較表示や説明を行う行為 (f) 保険契約者等に対して、将来における契約者配当金など将来における金額が不確実な事項について、断定的判断を示し、または確実であると誤解させるおそれのあることを告げ、もしくは表示する行為 |
⑤ クーリング・オフ
保険契約を申し込んだ者(または保険契約者)がその撤回(または解除)を希望する場合、保険業法上、原則として、契約の申込日または契約の申込みの撤回等に関する事項を記載した書面の交付日のいずれか遅い日から起算して8日以内であれば、書面により申込みの撤回(または解除)ができる。
Point1 クーリング・オフは書面でしなければならず、口頭ですることはできない。
Point2 所定の期間内であっても、契約にあたって保険会社指定の医師による診査を受けた場合は、クーリング・オフをすることができない。
【用語解説】診査
「診査」とは、保険契約に先立ち、保険契約の被保険者に対して診査医が行う身体検査のことである。 |
■私的保険ー2
(4) 保険法
保険法は、保険契約に関する規律を定めた法律である。
① 告知義務
保険契約者または被保険者になる者は、生命保険契約または損害保険契約の締結に際し、保険者になる者が告知を求めた事項〔=現在の健康状態・過去の傷病歴、職業、事故歴など〕について、事実の告知をしなければならない。
Point 生命保険に加入する際には、過去の傷病歴や現在の健康状態などについて、事実をありのままに正しく告知する必要がある。なお、生命保険募集人には告知受領権がないため、口頭で告知しても告知したことにはならず、正確に告知書に記入する必要がある。
② 告知義務違反による解除
(a) 保険者の解除権
保険契約者または被保険者に告知義務違反があった〔=告知事項について、故意または重大な過失により事実の告知をせず、または不実の告知をした〕場合、保険者〔=保険会社〕は原則として保険契約を解除することができる。
(b) 解除の制限
保険募集人が保険契約者等に対して不実の告知をすることを勧めた場合、原則として、保険者は告知義務違反を理由としてその保険契約を解除することができない。
(c) 解除権の消滅
解除権は、保険者が解除の原因があることを知った時から1か月間行使しないとき、または契約締結の時から5年を経過したときは消滅する。
(5) 保険契約者保護機構
保険会社の破綻に備えて、生命保険契約者保護機構および損害保険契約者保護機構が設立されている。
① 生命保険契約者保護機構
生命保険契約者保護機構は、国内で事業を行う全ての生命保険会社が会員として加入している。
国内で事業を行う生命保険会社が破綻した場合、生命保険契約者保護機構による補償の対象となる保険契約については、高予定利率契約を除き、破綻時点の責任準備金等の90%まで補償される。
また、国内銀行の窓口において加入した生命保険契約についても、預金保険機構による保護の対象となるのではなく、生命保険契約者保護機構による補償の対象となる。
Point 生命保険会社は、将来の保険金・年金・給付金等の支払に備えるために、保険料の一部などを財源として積み立てており、この準備金を責任準備金という。一般に、責任準備金の金額は、払い込まれた保険料の金額よりも少なくなる。
② 損害保険契約者保護機構
損害保険契約者保護機構は、国内で事業を行う全ての損害保険会社が会員として加入している。
国内で事業を行う損害保険会社が破綻した場合、損害保険契約者保護機構による補償の対象となる保険契約については、保険契約の種類により、保険金の80%から100%まで補償される。
Point 国内で事業を行う少額短期保険業者と締結した保険契約は、生命保険契約者保護機構および損害保険契約者保護機構による補償の対象とならない。