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1安全管理

堀川 寿和2022/04/20 14:12

安全管理

 「安全管理」では、「安全衛生管理体制」、「安全基準」からの出題が多い。また、「安全基準」では、特に「クレーン等の安全基準」、「明り掘削の作業における危険の防止」、「墜落、飛来崩壊等による危険の防止」、「足場の安全基準」からの出題が多い。

労働災害の発生と防止

(1) 労働災害の発生の要因と対策

 労働災害の発生には、物的な要因人的な要因管理上の要因が考えられ、災害はこれらの要因が単独又は何らかの形で重なって発生するものである。

 

① 物的な要因

 物的な要因には、機器や設備の不良、構造の欠陥などがあり、これらの対策として、事業者は機械設備の点検や検査などを法令の定めに従い確実に行うことが必要である。

 

② 人的な要因

 人的な要因には、未熟、知識の不足などがあり、この対策としては、特定元方事業者は労働者の新規雇い入れ時、作業内容の変更時の教育などを法令に定められた安全衛生教育を確実に行うことが必要である。

 

③ 管理上の要因

 管理上の要因には、作業打合せの不足、指示及び指導方法のまずさなどがあり、特に複数の事業者が重なる現場においては特定元方事業者は法令に定められた統括安全衛生責任者を選任し、各事業者間の連絡及び調整を統括管理させることが必要である。

 

(2) ハインリッヒの法則(129300の法則)

 ハインリッヒの法則(129300の法則)は、アメリカの損害保険会社で技術・調査に携わっていたハインリッヒが労働災害の事例の統計を分析した結果、導き出した次のような法則である。

 同じ人間が起こした330件の同様の事故(accident)のうち、300件は無傷害事故(no injury)だが、29件は軽障害(minor injury)1件は重障害(major injury)を伴う。そして、傷害(injury)の有無・重軽にかかわらず、すべての事故(accident)の背景に、おそらく数千に達すると思われるだけの 「不安全な行動」と「不安全な状態」が存在する。

 下の図は、ハインリッヒの法則を示した労働災害の背後要因図を示したものである。

引用:平成22年度 1級土木施工管理技術検定学科試験 問題B No.25

 

 このように、労働災害の背後には、労働災害に至らない無傷害事故、膨大な不安全な行動や不安全な状態がある

 

① 不安全な行動

 不安全な行動とは、労働災害の要因となった人の行動のことである。

 例えば、「安全確認をせずに建設重機を動かした」ことは不安全な行動である。

 

② 不安全な状態

 不安全な状態とは、労働災害・事故を起こしそうな、又は、その要因を作り出した物理的な状態若しくは環境のことである。

 例えば、「壊れた防護柵が放置されていた」ことは不安全な状態である。

 

(3) リスクアセスメント

① リスクアセスメントの導入

 過去に発生した労働災害と同様の作業等の災害の発生防止対策としては、工事現場に潜在する危険性又は有害性などの調査(リスクアセスメント)を行いリスクの軽減措置の検討及び実施をすることが必要である。

 

② 労働安全衛生法によるリスクアセスメントの実施義務

 一定の化学物質を取り扱う事業者は、その化学物質による危険性又は有害性等を調査しなければならない(労働安全衛生法57条の31項)。そして、この調査の結果に基づいて、事業者は、安衛法又はこれに基づく命令の規定による措置を講ずるほか、労働者の危険又は健康障害を防止するため必要な措置を講ずるように努めなければならない(同条2項)。

 

Point 労働安全衛生法により、一定の危険性・有害性が確認されている化学物質を取り扱う場合には、事業場におけるリスクアセスメントが義務づけられている。

 

(4) 土木工事の安全対策に関する法令等

① 労働安全衛生法

 土木工事の安全対策は、主として「労働安全衛生法」(以下この節において「安衛法」という。)に従って実施される。特に労働安全衛生法には、労働災害防止のために守らなければならない事項が規定されている。

 安衛法を実施するために、政令として「労働安全衛生法施行令」(以下この節において「安衛令」という。)が定められ、省令として「労働安全衛生規則」(以下この節において「安衛則」という。)が定められている。

 この他にも、労働災害防止のために、「クレーン等安全規則」、「高気圧作業安全衛生規則」、「酸素欠乏症等防止規則」、「粉じん障害防止規則」などの省令が定められている。

 

② 土木工事安全施工技術指針

 国土交通省は、土木工事における施工の安全を確保するために、安全施工の技術指針として「土木工事安全施工技術指針」(以下この節において「工安針」という。)を定めている。具体的に実施すべき安全対策が示されており、国土交通省発注工事では「参考とすること」とされている。

 

安全衛生管理体制

(1) 建設業の事業場における安全衛生管理体制

総括安全衛生管理者

 事業者は、建設業においては常時100人以上の労働者を使用する事業場ごとに、総括安全衛生管理者を選任し、その者に安全管理者、衛生管理者又は安衛法の規定により技術的事項を管理する者の指揮をさせるとともに、次の業務を統括管理させなければならない(安衛法101項、安衛令21号、安衛則3条の2)。

(a) 労働者の危険又は健康障害を防止するための措置に関すること。

(b) 労働者の安全又は衛生のための教育の実施に関すること。

(c) 健康診断の実施その他健康の保持増進のための措置に関すること。

(d) 労働災害の原因の調査及び再発防止対策に関すること。

(e) 安全衛生に関する方針の表明に関すること。

(f) 危険性又は有害性等の調査及びその結果に基づき講ずる措置に関すること。

(g) 安全衛生に関する計画の作成、実施、評価及び改善に関すること。

 

② 安全管理者

 事業者は、建設業においては常時50以上の労働者を使用する事業場ごとに、安全管理者を選任し、その者に総括安全衛生管理者が統括管理する業務〔上記①(a)(g)〕のうち安全に係る技術的事項を管理させなければならない(安衛法111項)。

 

Point1 建設業においては、常時50以上の労働者を使用する事業場に該当している場合に、安全管理者を選任する必要がある。

Point2 安全管理者の職務は、総括安全衛生管理者の業務のうち安全に関する技術的な具体的事項について管理することである。

 

③ 衛生管理者

 事業者は、常時50人以上の労働者を使用する事業場ごとに、衛生管理者を選任し、その者に総括安全衛生管理者が統括管理する業務〔上記①(a)(g)〕のうち衛生に係る技術的事項を管理させなければならない(安衛法121項)。

 

Point 衛生管理者の職務は、総括安全衛生管理者の業務のうち衛生に関する技術的な具体的事項について管理することである。衛生管理者は、事務的事項については管理しない。

 

④ 作業主任者

 事業者は、高圧室内作業その他の労働災害を防止するための管理を必要とする作業で、政令で定めるものについては、都道府県労働局長の免許を受けた者又は都道府県労働局長の登録を受けた者が行う技能講習を修了した者のうちから、当該作業の区分に応じて、作業主任者を選任し、その者に当該作業に従事する労働者の指揮その他の厚生労働省令で定める事項を行わせなければならない(安衛法14条)。

 

【参考】建設業の事業場における安全管理体制

 

(2) 建設業の請負関係における安全衛生管理体制

① 用語の定義

(a) 元方事業者

 「元方事業者」とは、一の場所において行う事業の仕事の一部を請負人に請け負わせているものをいう(安衛法151項)。なお、当該事業の仕事の一部を請け負わせる契約が2以上あるため、その者が2以上あることとなるときは、当該請負契約のうちの最も先次の請負契約における注文者を元方事業者とする。

 

(b) 特定事業

 特定事業」とは、建設業及び造船業をいう(安衛法151項、安衛令71項)。

 

(c) 特定元方事業者

 「特定元方事業者」とは、元方事業者のうち、特定事業を行う者をいう(安衛法151項)。

 

Point 建設業を行う元方事業者は、特定元方事業者に該当する。

 

(d) 関係請負人

 「関係請負人」とは、元方事業者の請負人をいう(安衛法151項)。なお、元方事業者の当該事業の仕事が数次の請負契約によって行われるときは、当該請負人の請負契約の後次のすべての請負契約の当事者である請負人を含む(同項)。

 

② 統括安全衛生責任者

(a) 統括安全責任者の選任及びその職務

 特定元方事業者は、その労働者及び関係請負人の労働者が当該場所において作業を行うときは、これらの労働者の作業が同一の場所において行われることによって生ずる労働災害を防止するため、統括安全衛生責任者を選任し、その者に元方安全衛生管理者の指揮をさせるとともに、「特定元方事業者の講ずべき措置」に係る事項〔安衛法301項各号〕を統括管理させなければならない(安衛法151項本文)。

 

Point 特定元方事業者は、原則として、統括安全衛生責任者を選任しなければならない。

 

(b) 統括安全衛生責任者の選任が不要な場合

 特定元方事業者の労働者及び関係請負人の労働者の数が仕事の区分に応じ次の数未満であるときは、統括安全衛生責任者を選任する必要はない(安衛法151項ただし書、安衛令72項)。

 

仕事の区分

労働者数

1

ずい道等の建設の仕事、橋梁の建設の仕事(一定のものに限る。)又は圧気工法による作業を行う仕事

常時30人未満

2

上記外の仕事

常時50人未満

 

Point 特定元方事業者は、その労働者及び関係請負人の労働者を合わせた数が50人以上である場合には、統括安全衛生責任者を選任する必要がある

 

(c) 統括安全衛生責任者の資格

 統括安全衛生責任者は、当該場所においてその事業の実施を統括管理する者をもって充てなければならない(安衛法152項)。

 

③ 元方安全衛生管理者

 統括安全衛生責任者を選任した事業者で、建設業を行うものは、元方安全衛生管理者を選任し、その者に「特定元方事業者の講ずべき措置」に係る事項〔安衛法301項各号〕のうち技術的事項を管理させなければならない(安衛法15条の2)。

 

④ 安全衛生責任者

 統括安全衛生責任者を選任しなければならない場合において、統括安全衛生責任者を選任すべき事業者以外の請負人で、当該仕事を自ら行うものは、安全衛生責任者を選任し、その者に統括安全衛生責任者との連絡その他の所定の事項を行わせなければならない(安衛法161項)。

 

Point 安全衛生責任者を選任する必要があるのは、統括安全衛生責任者を選任している事業者以外の請負人である。したがって、統括安全衛生責任者と安全衛生責任者の両方を選任している事業者は存在しない。

 

【参考】建設業の請負関係における安全衛生管理体制