• 法令上の制限税その他ー4.農地法
  • 2.権利移動および転用の制限
  • 権利移動および転用の制限
  • Sec.1

1権利移動および転用の制限

堀川 寿和2021/11/25 15:24

農地法は、権利移動および転用の制限として、3種類の許可制を設けている。

農地または採草放牧地の権利移動の制限(3条許可)

(1) 3条許可

農地または採草放牧地について所有権を移転し、または地上権、永小作権、質権、使用貸借による権利、賃借権もしくはその他の使用および収益を目的とする権利を設定し、もしくは移転する場合(権利移動)には、当事者が農業委員会の許可を受けなければならない。

※ 農業委員会は市町村に設置され、農業委員によって構成される独立行政委員会である。その委員は、農業に関する識見を有し、農地等の利用の最適化の推進に関する事項その他の農業委員会の所掌に属する事項に関しその職務を適切に行うことができる者のうちから、議会の同意を得て、市町村長により任命される。委員の過半数は「認定農業者」でなければならない。


Point1 「農地」と「採草放牧地」が同じ取扱を受ける。採草放牧地でも農業委員会の許可が必要になることに注意。


(2) 3条許可の対象となる権利移動

 「権利移動」とは、所有権の移転または使用収益を目的とする権利の設定・移転である。つまり、売買したり、貸借したりすることである。

3条許可の対象になる権利移動は、権利移動のうち、後述する5条許可の対象になる権利移動を除いたものである。具体的には、農地を農地のまま権利移動する場合、採草放牧地を採草放牧地のまま権利移動する場合、および採草放牧地を農地に転用するために権利移動する場合である。


Point2 「採草放牧地」を「農地」とするための権利移動は、5条許可ではなく3条許可が必要。


Point3 「農地以外の土地」を「農地」とするための権利移動に、3条許可は不要である。


Point4 3条許可は、土地の耕作者が代わることに着目している。そこで、耕作者に変動のない抵当権の設定等は許可不要である。


(3) 許可の基準

 たとえば、農地を農地のまま他人に売買したり、貸したりする場合に、3条許可の対象になる。農業は引き続き行われるのだから、田がなくなるわけではない。したがって規制は不要とも考えられるが、農地は耕す人によって収穫が違う。「Aは10俵の米を取ったが、Bは3俵しか取れなかった」ということもある。そこで、農業生産力の増進を目的とする農地法は、権利取得者がその取得後において耕作または養畜の事業に供すべき農地および採草放牧地の全てを効率的に利用して耕作または養畜の事業を行うと認められない場合などは、3条許可をすることができないとしている。

(4) 許可が不要となる例外

 上記のとおり、農地の権利移動には、原則として農業委員会の許可が必要であるが、例外として、次の場合は許可不要である。

① 権利取得者が国または都道府県である場合
② 民事調停法による農事調停によって権利が取得される場合
③ 土地収用法などによって権利が収用または使用される場合
④ 相続や遺産の分割などによって権利が取得される場合
⑤ 包括遺贈または相続人に対する特定遺贈により権利が取得される場合

 「国、都道府県」がこれらの権利を取得する場合は、その土地を公共の福祉のために使用するのであるから、許可不要とされ、「民事調停法による農事調停」の場合は、公的機関が関与することから許可不要とされた。

 これに対して、「遺産分割」の場合は、若干趣旨が異なる。すなわち、遺産分割は、極めてデリケートな家庭内の事柄である。そのような家庭内の出来事は、なるべく家庭内の自主性にまかせ、法律は口を出さない(「法は家庭に入らず」)、という考えの現れである。


Point5 農地または採草放牧地について相続遺産の分割などによって権利を取得した者は、遅滞なく、その土地の存する市町村の農業委員会にその旨を届け出なければならない


Point6 相続人に該当しない者に対する特定遺贈により農地等が取得される場合は、3条許可を受ける必要がある


Point7 3条許可について競売により権利を取得する場合に許可不要となる例外はない。したがって、競売により所有権を取得しようとする場合、その買受人は農地法の許可を受ける必要がある。なお、後述の5条許可も同様である。


Point8 3条許可に、市街化区域内の農地等についてあらかじめ農業委員会に届出をすれば許可不要となる例外はない。



農地の転用の制限(4条許可)

 「農地の転用」とは、農地を所有者自ら宅地などに造りかえることである(自己転用)。

 農地が転用されると、その土地の農作物の生産がゼロになる。これは農地法としては見過ごせない。そこで、農地を転用する場合は、原則として都道府県知事の許可を要するとしたのである。


(1) 4条許可

農地を農地以外のものにする者は、都道府県知事(指定市町村の区域内にあっては、指定市町村の長)の許可を受けなければならない。

※ 指定市町村とは、農地または採草放牧地の農業上の効率的かつ総合的な利用の確保に関する施策の実施状況を考慮して農林水産大臣が指定する市町村をいう。


Point1 転用許可の必要なのは「農地」に限られる。したがって「採草放牧地」の転用は許可不要


Point2 「農地以外のものにする」には、農地を採草放牧地にすることを含む(許可が必要)。


Point3 農地を相続により取得する場合に3条許可は不要であるが、相続により取得した農地を転用する場合は、4条許可が必要である。


(2) 許可が不要となる例外

 農地の転用であっても、例外として、次の場合は許可不要である。

① 国または都道府県等(都道府県または指定市町村)が、道路、農業用用排水施設その他の地域振興上または農業振興上の必要性が高いと認められる一定の施設の用に供するため、農地を転用する場合
② 土地収用法などによって収用し、または使用した農地を転用する場合
③ 市街化区域内にある農地を、あらかじめ農業委員会に届け出て、転用する場合
④ 耕作の事業を行う者が2a未満の農地をその者の農作物の育成または養畜の事業のための農業用施設に供する場合
⑤ 土地区画整理法にもとづく土地区画整理事業の施行により道路、公園等公共施設を建設するため農地を転用する場合

 ③は重要である。「市街化区域内にある農地」はできれば宅地としたり、公園を造ったりしたいのである。市街化区域内に農地があると、土地の値上がりにもつながる。そこで、市街化区域内の農地の転用については、規制を緩和し、あらかじめ農業委員会に届け出れば許可が要らないものとした。


(3) 国または都道府県等の特例

 国または都道府県等が農地を農地以外のものにしようとする場合(許可が不要となる例外に該当する場合を除く)においては、国または都道府県等と都道府県知事等との協議が成立することをもって4条許可があったものとみなされる。



農地または採草放牧地の転用のための権利移動の制限(5条許可)

 「転用のための権利移動」とは、農地等を農地のまま権利移動するが、それを譲り受けた人が農地以外のものにする目的で移動するものである。

この場合も、最終的には農地が農地でなくなる。そこで、4条規制と同じような規制がなされる。


(1) 5条許可

農地を農地以外のものにするためまたは採草放牧地を採草放牧地以外のもの(農地を除く)にするため、これらの土地について所有権を移転し、または地上権、永小作権、質権、使用貸借による権利、賃借権もしくはその他の使用および収益を目的とする権利を設定し、もしくは移転する場合には、当事者が都道府県知事(指定市町村の区域内にあっては、指定市町村の長)の許可を受けなければならない。


(2) 5条許可の対象となる権利移動

 「権利移動」は、所有権の移転または使用収益を目的とする権利の設定・移転である。つまり、3条許可の場合と同じで、売買したり、貸借したりすることである。

 5条許可の対象になる権利移動は、採草放牧地を農地に転用するために権利移動する場合を除く転用のための権利移動である。具体的には、農地を農地以外のものに転用するために権利移動する場合、採草放牧地を農地または採草放牧地以外のものに転用するために権利移動する場合である。


Point1 「採草放牧地」を「農地」とするための権利移動の場合は、5条ではなく3条許可の対象となる。


Point2 建設業者が、農地を工事期間中一時的に資材置き場として借り受け、工事終了後は速やかに農地に復元して返還するような場合であっても、5条許可は必要である。


(3) 許可が不要となる例外

① 国または都道府県等(都道府県または指定市町村)が、道路、農業用用排水施設その他の地域振興上または農業振興上の必要性が高いと認められる一定の施設の用に供するため、権利を取得する場合
② 土地収用法などによって権利が収用または使用される場合
③ 市街化区域内にある農地または採草放牧地につき、あらかじめ農業委員会に届け出て、転用するため権利を取得する場合


Point3 5条許可について競売により権利を取得する場合に許可不要となる例外はない。したがって、競売により権利を取得する場合は農地法の許可を受ける必要がある


(4) 国または都道府県等の特例

 国または都道府県等(都道府県または指定市町村)が、農地を農地以外のものにするためまたは採草放牧地を採草放牧地以外のものにするため、権利を取得しようとする場合(許可が不要となる例外に該当する場合を除く)においては、国または都道府県等と都道府県知事等との協議が成立することをもって5条許可があったものとみなされる。