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1地下構造物
■シールド工法
(1) シールド工法
シールド工法は、トンネルの施工法の1つである。
シールド工法は、泥土あるいは泥水等で切羽の土圧と水圧に対抗して切羽の安定を図りながら、シールドを掘進させ、セグメントを組み立てて地山を保持し、トンネルを構築する工法である。トンネルの断面形状は、円形が標準である。
(2) シールド
① シールド
シールドは、シールド工法によりトンネルを構築する際に使用する機械で、カッターヘッド、フード部、ガーダー部、テール部からなる。
シールドは、切羽安定機構により密閉型及び開放型に大別される。開放型シールドは、隔壁を設けずに人力または掘削機械を使用して地山を掘削するものであるが、現在ではほとんど施工例がない。
② 密閉型シールドの形式
密閉型シールドの形式には土圧式と泥水式がある。土質などに応じて適切な形式を選定する必要がある。
引用:土木学会 トンネル工学委員会編『トンネル標準示方書[共通編]・同解説 [シールド工法編]同解説』151頁(土木学会、2016年制定、2016)
(a) 土圧式シールド
土圧式シールドは、掘削土砂を泥土化し、それに所定の圧力を与え切羽の安定を図るものである。掘削土砂を泥土化させるのに必要な添加材の注入装置の有無により、土圧シールド(注入装置なし)と泥土圧シールド(注入装置あり)に分けられる。現在は、泥土圧シールドを採用する場合が多い。
(b) 泥水式シールド
泥水式シールドは、チャンバー内に泥水を送り、切羽に作用する土水圧よりやや高めの泥水圧をかけて切羽の安定を図るもので、泥水の浸透による安定効果もあり、水圧の高いところでの使用に適している。
(3) 覆工
① 覆工
覆工とは、シールドトンネル周辺地山の土圧と水圧を受け、トンネル内空を確保するための構造体である。覆工には一次覆工と二次覆工とがある。一般に一次覆工はセグメントを組み立てた構造体である。一方、二次覆工は一次覆工の内側に構築される構造体で、おもに現場打ちのコンクリートが用いられている。
引用:土木学会 トンネル工学委員会編『トンネル標準示方書[共通編]・同解説 [シールド工法編]同解説』39頁(土木学会、2016年制定、2016)
② セグメント
セグメントとは、シールドトンネルの一次覆工に用いる工場製作の部材をいう。一般に鋼製、鉄筋コンクリート製及びこれらを合成した製品等に分類される。
(a) 鋼製セグメント
鋼製セグメントは、鋼材を加工した主桁と継手板、縦リブおよびスキンプレートを溶接によって接合した、箱型形状のセグメントである。
鋼製セグメントは、材質が均一で強度も保証され、優れた溶接性を有し、比較的軽量であるため、施工性に富み、現場における加工や修正が容易である。しかし、鉄筋コンクリート製セグメントに比較して変形し易く、ジャッキ推力や土圧、裏込め注入圧が過大となるときは、座屈に対する配慮が必要である。
(b) 鉄筋コンクリート製セグメント
鉄筋コンクリート製セグメントは、鉄筋コンクリート製の充実断面をもつ平板形状のセグメントである。
鉄筋コンクリート製セグメントは、耐久性に富み、耐圧縮性に優れているため、土圧、ジャッキ推力等に対して座屈の発生が少なく、また、剛性が高く、施工に留意すれば水密性に優れている。一方、その重量が大きく、引張強度が小さいため、セグメント端部が損傷しやすく、製造時の脱型、運搬、および施工時の取扱いには十分な注意が必要である。
(c) 合成セグメント
合成セグメントは、鋼材とコンクリートを一体化させた平板形状のセグメントである。鋼製セグメントの内面側の凹部にコンクリートを充填したものや、鉄筋のかわりに鋼材を用いたりする。
合成セグメントは、同じ断面であれば高い耐力と剛性を付与することが可能なことから、鉄筋コンクリート製セグメントと比較してセグメントの高さを低減できる。
[セグメント断面の例]
[セグメント各部の用語]
引用:土木学会 トンネル工学委員会編『トンネル標準示方書[共通編]・同解説 [シールド工法編]同解説』40頁(土木学会、2016年制定、2016)
■シールドの掘進
(1) シールドの掘進
シールドは、地山の条件に応じてシールドジャッキを適正に作動させ、地山の安定を図りながら、セグメントに損傷を与えることなく、所定の計画線上を安全かつ正確に掘進させなければならない。
セグメントの損傷を防止するには、セグメントの強度を考慮して、1本当たりのジャッキ推力を小さくするため、多くのジャッキを使用して所要推力を得るようにするのが望ましい。
(2) 土圧式シールド工法の掘進管理
土圧式シールド工法は、カッターヘッドにより掘削した土砂を切羽と隔壁間に充満させ、必要により添加材を注入して、その土圧により切羽の安定を図りながら掘進し、隔壁を貫通して設置しているスクリューコンベヤーで排土する工法である。
土圧式シールド工法において切羽の安定をはかるためには、泥土圧の管理及び泥土の塑性流動性管理と排土量管理が中心となり、これらを慎重に行わなければならない。
① 地山の条件
粘着力が大きい硬質粘性土を掘削する場合は、掘削土砂に適切な添加材を注入して、カッターチャンバ内やカッターヘッドへの掘削土砂の付着を防止する必要がある。
砂層、礫層からなる土層の掘削土砂は、流動性が乏しく透水性が高いため止水性の確保が必要となるので、添加材を注入して強制的にかくはんし塑性流動性を高めるとともに、止水性を有する泥土に改良することが必要である。
Point 土圧式シールド工法において、粘着力が大きい硬質粘性土や砂層、礫層を掘削する場合には、添加剤を注入することにより掘削土砂の塑性流動性を高めることが必要である。水を直接注入するのではない。
② 添加剤
土圧式シールド工法においては、添加材は、次の目的で切羽面やカッターチャンバー内に注入される。
(a) カッターチャンバー内に充満した掘削土砂の塑性流動性を高める (b) 掘削土砂とかくはん混練りして止水性を高める (c) 掘削土砂のシールドヘの付着を防止する |
③ カッターチャンバー内の圧力管理
切羽の安定を確保するには、カッターチャンバーの圧力(泥土圧)を適正に保持する必要がある。切羽の安定状態の把握は、泥土圧を隔壁などに設置した土圧計で確認し管理する間接的な方法が一般的である。
④ カッターチャンバー内土砂の塑性流動性管理
掘削土砂の塑性流動性管理は、土圧式シールド工法で重要な管理項目であり、管理手法としては、排土性状による管理、排土効率による管理及びシールド負荷による管理がある。
⑤ 排土量管理
切羽の安定を保持しながらスムーズな掘進を行うには、掘進量に見合った掘削土砂を排出する必要がある。掘削に際しては、切羽と隔壁間に充満した掘削土砂を、切羽の安定に必要な状態に加圧し、シールドの掘進量に合わせた排土を保持できるよう、カッターチャンバー内の圧力(泥土圧)や排土量の計測を実施し、スクリューコンベヤーの回転数や掘進速度の制御を行う。
Point 切羽の安定を図るためには、切羽と隔壁間に掘削土砂を充満させて、切羽の安定に必要な土圧を維持する必要がある。
(3) 泥水式シールド工法の掘進管理
泥水式シールド工法は、泥水を循環させ、泥水によって切羽の安定を図りながらカッターヘッドにより掘削し、掘削土砂は泥水として流体輸送方式によって地上に搬出することを特徴とする工法である。
掘削に際しては、適切な切羽の泥水圧を設定するとともに、この圧力が切羽に有効に作用するように泥水の品質を管理し、掘削土量の計測を実施し、カッタートルク、推力等を把握して、切羽を緩めることのない適正な運転管理を実施しなければならない。この工法は、掘削、切羽の安定、泥水処理が一体化したシステムとして運用されるので、構成する設備の特徴、能力を十分把握して計画しなければならない。
① 地山の条件
切羽の安定を保持するには、地山の条件に応じて泥水品質を調整して切羽面に十分な泥膜を形成するとともに、切羽泥水圧と掘削土量の管理を慎重に行わなければならない。
泥水は、切羽面で泥水圧を伝達するのに十分な泥膜が形成される必要があり、地山の条件に応じて比重や粘性を調整し泥水圧が切羽に十分伝達するよう管理する必要がある。
② 泥水圧の管理
泥水式シールド工法において切羽の安定を確保するには、切羽の土質および土水圧等に応じて泥水圧を適正に設定し、保持する必要がある。泥水圧の管理手法としては、隔壁等に設置した水圧計で管理することが多い。
一般に、泥水圧が不足すると切羽での崩壊が生じ地盤沈下の危険性が大きくなり、過大になると泥水の噴発や地盤隆起などの現象が懸念される。泥水の管理圧力は、地表面の沈下を極力抑止したい場合は、静止土圧+水圧+変動圧がひとつの目安になる。一方、シールド前方の地盤隆起が確認される場合は、主働土圧+水圧+変動圧、もしくは水圧+変動圧を管理値として採用することもある。
③ 掘削土量管理
掘削時の掘削土量管理は、送泥管及び排泥管に設置した流量計と密度計から得られるデータより偏差流量と掘削乾砂量を求め、地山の掘削土量の取込み量を調節して管理する。
④ 泥水の処理
掘削した土砂は、チャンバー内においてアジテーター等によりかくはん混合し、排泥ポンプにより配管を通して地上に流体輸送を行う。地上に搬出された泥水は一次処理設備によって礫、砂等を機械的に分離除去される。一次処理設備で土砂を分離した余剰泥水は水や粘土、ベントナイト、増粘剤などを加えて比重、濃度、粘性などを調整して切羽へ再循環される。
■覆工
(1) 一次覆工(セグメントの組立て)
一般に、一次覆工は、セグメントをリング状に組み立てる。一次覆工は、掘進完了後すみやかに行わなければならない。
① シールドジャッキの開放
セグメントを組み立てる際、多数のシールドジャッキ全部を一度に引き戻し、解放すると地山の土水圧や切羽の泥土圧あるいは泥水圧によってシールドが押し戻され、切羽の安定が保てなくなることがある。そのため、セグメント組立て時のジャッキ解放本数は、組立てに伴う必要最小限としなければならない。
Point セグメントを組み立てる際に、全数のシールドジャッキを同時に引き戻してはならない。
② セグメントの組立て・ボルトの締付け
セグメントを正確な形状で組み立て、その形状を保持することは、トンネル断面の確保、セグメントの損傷防止、漏水防止および地盤沈下の減少等の面から重要である。したがって、シールドのテール内でセグメントを組み立てる際、セグメント組立て形状に十分注意し、セグメントの継手ボルトは、所定のトルクに達するまで十分締め付けなければならない。
セグメントの組立ては、その精度を高めるため、セグメントを組み立ててからテールを離れて裏込め注入材がある程度硬化するまでの間、セグメント形状保持装置を用いることが有効である。
(2) 裏込め注入工
裏込め注入とは、シールドトンネルのセグメントと地山との間の空隙(テールボイド)に充填材を注入することをいう。
裏込め注入工は、地山の緩みと沈下を防ぐとともに、セグメントからの漏水の防止、セグメントリングの早期安定やトンネルの蛇行防止などに役立つため、速やかに行わなければならない。一般に裏込め注入工は、同時注入または即時注入で行われている。同時注入とは、シールドの掘進に合わせて裏込め注入を行う方法で、即時注入とは掘進後すみやかに裏込め注入を行う方法である。
(3) 一次覆工の防水工
シールドトンネルは、地下水位より下方に構築されることが多いため、地下水圧に耐えられる防水工が必要である。とくに、高水圧下あるいは内水圧が作用する場合にはシール工を確実にするために、セグメント隅角部に別途コーナーシールを貼り付けることやセグメント隅角部の密着性を確保するためにシームレス加工したものが用いられている。
(4) 二次覆工
二次覆工は、トンネルの設計条件により無筋または鉄筋コンクリートを巻立て、セグメントの補強、防食、防水、蛇行修正、防振、内面の平滑化、トンネルの内装仕上げ工等として施工されている。