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■山岳工法によるトンネルの掘削工法
山岳工法とは、掘削から支保工の構築完了までの間、切羽〔トンネルの掘削及び支保作業を行っている最前線近傍〕付近の地山が自立することを前提として、発破、機械又は人力により掘削し、支保工を構築することにより内部空間を確保しながら、トンネルを掘削する工法である。
山岳工法によるトンネルの掘削工法には、全断面工法、補助ベンチ付き全断面工法、ベンチカット工法、導坑先進工法がある。また、大断面及び都市域のトンネルなどでは、中壁分割工法も採用されている。
(1) 全断面工法
全断面工法は、小断面のトンネルや地質が安定した地山で採用される工法である。断面が大きい場合、掘削や支保工の施工に大型機械が使用でき、切羽が1個所に集中するので作業管理がしやすい。しかし、施工途中での地山条件の変化に対する順応性が低く、施工途中で他の掘削工法へ変更する場合には掘削効率が低下する。
(2) 補助ベンチ付き全断面工法
補助ベンチ付き全断面工法は、全断面工法では施工が困難となる地山において、ベンチを付けることにより切羽の安定を図るとともに、上半、下半の同時施工により掘削効率の向上を図るものである。
(3) ベンチカット工法
ベンチカット工法は、一般に上部半断面(上半)と下部半断面(下半)に2分割して掘削する工法であるが、3段以上に分割する多段ベンチカット工法もある。
ベンチの長さによって、ロングベンチ、ショートベンチ、ミニベンチに分けられる。
一般に、ベンチカット工法は全断面では切羽が安定しない場合に有効な掘削工法である。地山が安定していて断面閉合の時間制約がない場合にはベンチ長を長くし、地山が不良な場合にはベンチ長を短くする。
工法 |
主として地山条件から見た適用条件 |
地山の状態 |
ロングベンチカット工法 |
全断面では施工困難であるが、比較的安定した地山に適用する。 |
良好 ↑ | | ↓ 不良 |
ショートベンチカット工法 |
良好な地山から不良地山まで幅広い変化に対応しやすい。 |
|
ミニベンチカット工法 |
膨張性地山などで内空変位を抑制する場合や早期閉合が必要な場合に適用する。 |
Point ベンチカット工法は、地山の良否に応じてベンチ長を決定する。
(4) 導坑先進工法
導坑先進工法は、断面内における導坑の設置位置により、側壁導坑先進工法、中央導坑先進工法などがある。
側壁導坑先進工法は、ベンチカット工法で側壁脚部の地盤支持力が不足する場合、及び土被りが小さい土砂地山で地表面沈下を抑制する必要のある場合に適用される工法である。
(5) 中壁分割工法
中壁分割工法は、大断面掘削の場合に多く用いられ、左右どちらか片側半断面を先進掘削し、反対側半断面を遅れて掘削する工法である。先進切羽と後進切羽の間に中壁ができることから、中壁分割工法と呼ばれる。掘削途中でも各々のトンネルが閉合された状態で掘削されることが多く、切羽の安定性の確保とトンネルの変形や地表面沈下の抑制に有効な工法として採用される。
■支保工
支保工は、トンネル周辺の地山の変形を抑制して安定を確保するために施工さる。標準的な山岳工法では、吹付けコンクリート、ロックボルト、鋼製支保工などが支保部材として用いられる。
(1) 支保工の施工
支保工の施工は、周辺地山の有する支保機能が早期に発揮されるよう掘削後速やかに行い、支保工と地山とを密着あるいは一体化させることが必要である。
支保工は、地山の状態を考慮し、適切な施工順序を定めて施工しなければならない。一般に支保工の施工順序は、地山条件が良好な場合には、➊ 吹付けコンクリート、➋ ロックボルトの順であり、地山条件が悪い場合には、➊ 一次吹付けコンクリート、➋ 鋼製支保工、➌ 二次吹付けコンクリート、➍ ロックボルトの順である。
(2) 吹付けコンクリート
① 吹付けコンクリート
吹付けコンクリートは、トンネル掘削完了後、ただちに地山にコンクリートを面的に密着させて設置する支保部材である。吹付けコンクリートは、ロックボルトや鋼製支保工などの他の支保部材と併用することが一般的である。
② 吹付けコンクリートの施工(吹付け作業)
吹付け作業に当たっては、次の点に留意する必要がある。
(a) 吹付けは、掘削後できるだけ速やかに行わなければならないが、吹付けコンクリートの付着性や強度に悪影響を及ぼす掘削面の浮石などは、吹付け前に入念に取り除く必要がある。 (b) 吹付けは、はね返りをできるできるだけ少なくするため、吹付けノズルを吹付け面に直角に保ち、ノズルと吹付け面の距離が適正となるように行う必要がある。 (c) 吹付けは、地山の凹凸を埋めるように行い、鋼製支保工がある場合には、鋼製支保工の背面に空げきを残さないように注意して吹き付けるとともに、覆工コンクリートのひびわれを防止するために、吹付け面をできるだけ平滑に仕上げなければならない。 |
Point 吹付け面に凹凸を残してはならない。
③ 吹付けコンクリートの施工管理
(a) 吹付けコンクリートの強度
吹付けコンクリートは、強度試験を実施して、所要の強度が得られていることを確認しなければならない。なお、強度については、初期強度、早期強度、長期強度が必要である。
強度試験の目的は地山に吹き付けられたコンクリートの強度発現の状態を把握することにあるので、なるべく原位置で試験を行うことが望ましい。特に吹付けコンクリートは掘削後ただちに施工し地山を保持するための初期強度が重要であるので、弱材齢でも行える適切な試験方法を選定して、強度を確認するのが望ましい。
(3) ロックボルト
① ロックボルト
ロックボルトは、トンネル壁面から地山内部に穿孔された孔に設置される支保部材である。
ロックボルトは、鋼棒などの芯材、頭部で芯材と吹付けコンクリートなどとを一体化させるためのベアリングプレート及びナットで構成される。
芯材と地山とを一体化する定着方式には、定着材を用いる定着材式と摩擦力に期待する摩擦式がある。
[定着材式の例] [摩擦式の例]
引用:土木学会 トンネル工学委員会編『トンネル標準示方書[共通編]・同解説 [山岳工法編]・同解説』94頁(土木学会、2016年制定、2016年)
② ロックボルトの施工
(a) ロックボルト孔の穿孔
ロックボルト孔は、適切なロッド、ビットを使用し、所定の位置、方向、深さ、孔径となるよう穿孔する。摩擦式では定着材を介さずロックボルトと周辺地山との直接の摩擦力に定着力を期待するため、特に孔径の拡大や孔荒れに注意する必要がある。
(b) ロックボルトの挿入及び定着
ロックボルトは、所定の深さに挿入し、所定の定着力が得られるよう定着しなければならない。定着材式では、挿入孔から湧水がある場合、定着材のモルタルが流出することがあるため、事前に近くに水抜き孔を設けるなど、適切な処置を講ずる必要がある。
また、ロックボルトの性能を十分に発揮させるために、定着後、プレートなどが掘削面や吹付けコンクリート面に密着するようナットなどで固定しなければならない。
③ ロックボルトの施工管理
(a) ロックボルトの定着
ロックボルトは、十分な定着力が得られるよう、穿孔、孔内清掃、湧水処理、定着材の混合、充填などがなされていることを確認しなければならない。
一般に、施工前あるいは施工の初期段階に同一地質の箇所を選んで試験を行い所定の引抜き耐力が得られることを確認し、施工中にも必要に応じて引抜き試験などを行って十分な定着力が得られていることを確認する必要がある。また、施工前又は初期掘削段階の試験で確認された引抜き耐力から適切な定着方式やロックボルトの種類などの選定を行う。
(4) 鋼製支保工
① 鋼製支保工
鋼製支保工は、トンネル壁面に沿って形鋼などをアーチ状に設置する支保部材であり、建込みと同時に一定の効果を発揮できるため、吹付けコンクリートの強度が発現するまでの早期において切羽の安定化を図ることができる。また、鋼製支保工は、吹付けコンクリートなどと一体となって地山に密着し、トンネルの安定化を図ることができる。
② 鋼製支保工の施工(鋼製支保工の建込み)
鋼製支保工は、一般に地山条件が悪い場合に用いられ、初期荷重を負担する割合が大きいので、一次吹付けコンクリート施工後すみやかに建て込む必要がある。なお、覆工の所要の巻厚を確保するためにも、建込み時の誤差などに対する余裕を考慮して大きく製作し、上げ越しや広げ越しをしておく必要がある。
また、十分な支保効果を確保するためには、鋼製支保工と吹付けコンクリートを一体化させなければならない。そのためには、鋼製支保工は、地山又は一次吹付けコンクリート面にできる限り密着して建て込み、空隙を吹付けコンクリートなどで充てんし、荷重が支保工に円滑に伝達されるようにする必要がある。