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■砂防えん堤ー1
砂防えん堤は砂防効果を発揮するもっとも代表的な砂防施設である。
(1) 砂防えん堤の機能
砂防えん堤は、主に次の4つの機能を持っている。
① 渓岸・渓床の侵食を防止する機能(生産土砂の抑制) ② 流下土砂を調節する機能(土砂調節機能) ③ 土石流の捕捉及び減勢する機能 ④ 流木を捕捉する機能 |
(2) 砂防えん堤の分類
① 形式による分類:透過型、不透過型 ② 土砂の制御形態による分類:調節形態、捕捉形態 ③ 構造による分類:重力式、アーチ式、スリット式、暗渠式など |
(3) 不透過型砂防えん堤
① 不透過型砂防えん堤の目的別の設置位置等
縦横侵食の防止を目的とする不透過型砂防えん堤は、崩壊地等の土砂生産区域の下流端に設置され、堤高は縦横浸食区域が包含される高さとする。侵食区間が長い場合には数基を階段状に設置するが、この場合、最下流のえん堤の基礎は岩盤であることが望ましい。
(b) 流出土砂の貯砂及び調節砂防えん堤
貯砂及び調節を目的とする不透過型砂防えん堤は、一般には砂防えん堤設置位置の谷幅が狭く、上流部が開いて堆砂域が大きく、しかも、渓床勾配の小さい地形を選定するのが望ましい。
土石流対策を目的とする不透過型砂防えん堤は、常に計画捕捉量に対応した空き容量を確保しておくことが望ましく、除石が容易なように搬出路が設置される場合がある。
土石流発生域に設置するのが望ましいが、その特定は困難なことから、土石流の流下区域又は堆積区域に、土石流の総量に見合う貯砂空間を有する規模の砂防えん堤を設置する。
(d) 流木対策砂防えん堤
不透過型砂防えん堤による流木の捕捉は、満砂時においては確実でないので、透過型又は部分透過型で対応するのが望ましい。
② 不透過型重力式砂防えん堤
(a) 不透過型重力式砂防えん堤の材料
不透過型重力式砂防えん堤の材料は、コンクリートと鋼製に大別される。そのうち、コンクリートブロックや鋼製枠えん堤は、屈とう性があるため、地すべり地帯で用いられる。
(b) 不透過型重力式砂防えん堤の各部の名称
不透過型重力式砂防えん堤の各部の名称は、次のとおり。
(c) 水通しの位置
砂防えん堤の水通しの位置は、えん堤の基礎並びに両岸の地質と流水の法線を考慮して定める。
例えば、えん堤の基礎と両岸の地質状況が同程度であれば水通しは中央に設ければよいが、えん堤下流部基礎の一方が岩盤で他方が砂礫層や崖錐の場合は、流水による洗堀を防止するため、水通し位置を岩盤側に寄せる。
(d) 水抜き
砂防えん堤の水抜きは、施工中の流水の切替えと堆砂後の浸透水圧の減殺を主目的とし、さらに後年の補修時の施工をも容易にする。
(e) 前庭保護工
砂防えん堤の前庭保護工として代表的なものが、副えん堤と水叩き工である。砂防えん堤計画地点付近で流量に比較して流送石礫が大きい場所には副えん堤が適し、流量と比較してえん堤位置の河床を構成する石礫、流送石礫が小さい場所には水叩き工法が適している。なお、流量、流送石礫ともに大きく、えん堤位置の河床を構成する石礫が小さい場合は、副えん堤と水叩き工を設ける。
(4) 透過型砂防えん堤
透過型砂防えん堤とは、渓流の水理的連続性を損なうことなく平常時に土砂を流下させることが可能で、土石流(流木)を捕捉し、又は洪水中の土砂流出を調節する砂防えん堤をいう。
したがって、透過型砂防えん堤は、渓床、山脚の固定を目的とした箇所へは適しないため用いることはできない。
なお、土石流捕捉のための透過型砂防えん堤の設置位置は、斜面上方からの地すべり、雪崩などによって、えん堤の安定が損なわれないように、両岸の斜面が安定している地点を選定することが望ましい。
■砂防えん堤ー2
(5) 砂防えん堤の基礎の施工
① 基礎処理
(a) 地盤支持力、せん断摩擦抵抗力の改善
基礎地盤が岩盤の場合は、所定の強度が得られる深さまで掘削するか、えん堤の堤底幅を広くして応力を分散させるか、あるいはグラウト、岩盤PS工等により改善を図る方法等がある。基礎の一部に弱層、風化層、断層などの軟弱部をはさむ場合は、軟弱部を取り除きコンクリートで置き換える必要がある。
砂礫基礎の場合は、えん堤の堤底幅を広くして応力を分散させたり、杭基礎、ケーソン基礎を施工する。
(b) その他の改善
基礎の透水性に問題がある場合は、グラウトなどの止水工事により改善を図り、また、パイピングに対してはえん堤の堤底幅を広くしたり、止水壁、カットオフなどを施工する。
えん堤下流部の洗掘を防止するためには、えん堤基礎を必要な深さまで下げるか、カットオフ、コンクリート水叩き、あるいは水褥池を設けて対処する。
② 基礎地盤の掘削
(a) 基礎地盤の掘削の目的
基礎地盤の掘削は、基礎として適合する地盤を得るために行われ、えん堤本体の基礎地盤へのかん入による支持力、固定、透水性、滑動、洗掘に対する抵抗力の改善、安全度の向上を目的としている。
(b) 仕上げ掘削
砂礫基礎の仕上げ面付近の掘削は、一般に0.5m程度は人力で施工し掘削用重機のクローラ(履帯)などによって密実な地盤をかく乱しないようにする。
砂礫基礎の仕上げ面付近にある大転石は、その2/3以上が地下にもぐっていると予想される場合は取り除く必要はないので存置する。
③ コンクリートの打込み準備
(a) 基礎仕上げ面の処理
岩盤にコンクリートを打ち込む場合は、基礎掘削によって緩められた岩盤を取り除き岩屑や泥を十分洗い出し、たまり水をふき取る作業が必要である。
砂礫の上にコンクリートを打ち込む場合は、漏水、湧水、溜水の処理を行って水セメント比が変化しないようにしなければならない。また、転石などの泥を洗浄し、基礎面は十分水切りを行って、泥濘によるコンクリート汚染が起こらないようにしなければならない。
(b) 打継ぎ面の処理
コンクリートの打継ぎ面は、砂防えん堤の堤体の一体化をはかるため、コンクリート打込み時には湿潤状態を保たなければならない。
④ 間詰め
間詰めは、一般に掘削部において行い、基礎掘削部の場合の間詰めは、基礎岩盤はコンクリート、砂礫基礎は砂礫あるいはコンクリートで行う。
砂防えん堤の上下流の岩盤余掘部をコンクリートで充てんするための間詰めは、風化していない岩盤までコンクリートを打ち上げる。
(6) 砂防工事現場における施工上の留意点
砂防工事を施工するにあたっては、特に環境面への配慮が必要になる。
① 基本的事項
本来自然環境を保全すべき砂防工事が自然環境の改変につながらないように、細心の注意を払う必要がある。特に、植生の保全のための留意事項は次のとおり。
(a) 工事のため樹林を伐採する区域においては、幼齢木や苗木となる樹木はできる限り保存し、現場の植栽に活用する。 (b) 伐根は必要最小限とし、萌芽が期待できる樹木の切株は保存する。 |
② 土工事
砂防工事を行う場所は、土砂の流出が容易で、かつその影響の大きいところである。したがって土工事では、土砂の流出に注意しなければならない。このため、残土を現場内に仮置きする場合には、降雨などにより土砂が流出しないように表面をシートなどで保護する必要がある。
③ 材料運搬及び仮設工事
材料運搬や仮設工事は、砂防工事において本体工事よりも広い場合があるので、以下の点に留意する。
(a) 余剰コンクリートはその都度持ち帰って処理すること。 (b) 材料運搬に用いられる索道設置に必要となるアンカーは、既存の樹木を利用せず、埋設アンカーを基本とする。 (c) 施工中に生じた工事廃棄物はすべて持ち帰り、現場に残さない。 |
Point 現場から発生する余剰コンクリート、コンクリート塊の破片などの工事廃棄物は持ち帰らなければならず、渓岸部などの工事区域内で埋設処分してはならない。
④ 現場発生土の活用
地山掘削に伴う現場発生土は、その工事に極力活用し、できる限り工事区域外へ搬出しないようにする。