• 専門土木
  • 2.構造物(鋼構造物・コンクリート構造物)
  • 構造物(鋼構造物・コンクリート構造物)
  • Sec.1

1構造物(鋼構造物・コンクリート構造物)

堀川 寿和2022/03/31 11:16

構造物(鋼構造物・コンクリート構造物)

 「構造物」は、「鋼構造物」と「コンクリート構造物」に分かれる。「鋼構造物」では、特に「高力ボルト」、「鋼橋の溶接」からの出題が多いが、「耐候性鋼材」、「鋼橋の架設作業」からもよく出題されている。「コンクリート構造物」では、特に「コンクリート構造物の劣化機構」、「コンクリート構造物の補修工法」、「コンクリート構造物の補強工法」からの出題が多い。

鋼構造物ー1

(1) 耐候性鋼材

 耐候性鋼材は、無塗装のまま使用することができる鋼材である。耐候性鋼材を用いた橋を耐候性鋼橋という。

 

① 防食の原理

 耐候性鋼材は、鋼材に適量の合金元素を添加することで、鋼材表面に緻密なさび層(保護性さび)を形成させ、これが鋼材表面を保護することで以降のさびの進展が抑制され、鋼材の腐食による板厚減少を抑制するものである。

 

② 適用可能環境

 耐候性鋼材が緻密なさび層を形成して所定の性能を発揮するためには、適度に乾湿が繰り返され、かつ大気中に塩分量が少ない条件下で使用する必要がある。例えば、海からの飛来塩分量が0.05mddNaCl:㎎/100/day)を超える地域では、さびの保護性が損なわれるおそれが高いため、一般に、耐候性鋼材を無塗装で用いることはできない。

 

③ 使用材料

(a) 鋼材

 主要構造部材に使用する耐候性鋼材として、溶接構造用耐候性熱間圧延鋼材〔JIS G 3140〕及び橋梁用高降伏点鋼板がある。

 耐候性鋼橋に用いるフィラー板は、肌隙などの不確実な連結を防ぐためのもので、主要構造部材ではないが、防食機能を保つために耐候性鋼材が使用される

 

(b) 接合材料

 耐候性鋼橋〔耐候性鋼材を用いた橋〕に用いる連結ボルトは、主要構造物と同等以上の耐候性能を有する耐候性高力ボルトを使用する。

 

(c) 耐候性鋼用表面処理剤

 耐候性鋼材は、塗装を施さず裸使用するものであるが、その表面に保護性さびが形成されるまでの期間はさび汁が生じるため、初期のさびの生成抑制保護性さびの生成促進を目的とした表面処理を施す場合もある。

 耐候性鋼用表面処理剤は、耐候性鋼材表面の緻密なさび層の形成を助け架設当初のさびむらの発生やさび汁の流出を防ぐことを目的に使用されるもので、防食機能の向上を意図して使用するものではない。長期的には風化・焼失し、その後は耐候性鋼材表面に緻密な錆層が形成される。

 

Point1 耐候性鋼材は、裸使用とする場合と表面処理剤を塗布する場合がある。

Point2 耐候性鋼用表面処理剤は、塩分過多な地域でも耐候性鋼材を使用できるよう防食機能を向上させるために使用するものではない

 

④ 部分塗装

 耐候性鋼橋でも、条件に応じて特定の部位に他の防食法を採用することで、橋全体の耐久性を確保している。

 例えば、耐候性鋼材の箱桁や鋼製橋脚などの内面は、閉鎖された空間であり結露が生じやすく、また雨水の進入によって湿潤になりやすいと考えられるため、耐候性鋼材の適用可能な環境とならない場合には、通常の塗装橋に用いられる普通鋼材と同様内面用塗装仕様を適用する。

 

⑤ 架設時の留意点

 現地に架設後床版コンクリート打設までの期間が長期に及ぶ場合には、耐候性鋼材の雨水のかかりによるさびむらを避けるため、あらかじめ耐候性鋼用表面処理剤を塗布する。

 

⑥ 鋼材表面の調整

 耐候性鋼材に所定の防食機能を確保するため、鋼材の加工を行う製作時又は架設時に、鋼材表面を緻密なさび層が形成されやすいよう調整することが必要になる。

 

(a) 黒皮の除去

 黒皮とは、鉄鋼の熱間圧延中に生じる酸化鉄の層である。

 耐候性鋼材の表面の黒皮は、鋼材表面のさびむらを防ぐために、除去する必要がある。黒皮を除去する方法には、原板ブラストによる方法と製品ブラストによる方法とがある。

 

) 原板ブラスト

 原板ブラストは、製作加工(孔あけ、切断、溶接組立)を行う前に製鋼工場などで鋼板の黒皮をあらかじめ除去する方法である。

 

) 製品ブラスト

 製品ブラストは、溶接加工後の橋の部材の状態で製作工場において黒皮を除去する方法である。

 原板ブラストによる方法は、製作加工時に付着する汚れなどがそのまま残るのに対して、製品ブラストによる方法は、仮置きを含めた製作工程の最後にブラストをかけるため、製品ブラストによる製品は、原板ブラストによる製品に比べると汚れが少なくさびの均一性に優れている

 

(b) 付着した塩分の除去

 耐候性鋼材で保護さび層を形成させるには、架設現場などで鋼材の表面に塩分が付着するのを避け、万一、過度の塩分付着が確認された場合は、入念に水洗いを行い除去する必要がある。

 

鋼構造物ー2

(2) 高力ボルト

 鋼道路橋における高力ボルトの締付け施工に関しては、「道路橋示方書・同解説 Ⅱ鋼橋・鋼部材編」(日本道路協会)に規定されている。

 

① 高力ボルト継手の接合方法

 高力ボルト継手の接合方法として、摩擦接合、支圧接合及び引張接合がある。

 

(a) 摩擦接合

 摩擦接合は、高力ボルトにより継手を構成する部材同士を高い軸力で締付け、材片間の接触面に生じる摩擦力で力を伝達する。

 

(b) 支圧接合

 支圧接合は、継手を構成する部材の孔とボルト軸部の支圧力により、ボルトのせん断抵抗を介して力を伝達するものである。

 

(c) 引張接合

 引張接合は、接合面に接触応力を発生させてボルト軸方向の力を伝達させる形式である。

 

② 摩擦接合における接合面の処理

 摩擦接合では、接合される材片の接触面を塗装しない場合は、所定のすべり係数が得られるよう黒皮、浮きさび、油、泥などを除去粗面とする必要がある。

 

③ ボルトの締付け

(a) ボルトの締付け方法

 ボルトの締付け方法としては、締付け軸力の管理方法により、トルク法、ナット回転法、耐力点法等がある。トルク法が現在行われている方法の中で最も一般的なものである。

 

(b) ボルトの締付け

) ボルト軸力の導入〔ボルトの締付け〕は、ナットを回して行うのを原則とし、やむを得ず頭回しを行う場合にはトルク係数値の変化を確認する。

) ボルトの締付けをトルク法によって行う場合は、締付けボルト軸力が各ボルトに均一に導入されるよう締付けトルクを調整する。

) トルシア型高力ボルトを使用する場合は、本締めには専用締付け機を使用する。なお、予備締めには作業能率のよい電動インパクトレンチを使用することができる。

引用:日本道路協会編『道路橋示方書(Ⅱ鋼橋・鋼部材編)・同解説』694頁(日本道路協会、改訂版、2017

* インパクトレンチには、空動式のエアーインパクトレンチもあるが、予備締めに使用されるのは電動式が主流である。電動インパクトレンチには、トルク制御できるトルク制御式レンチと、トルク制御できないレンチがある。

 

(c) 締付けの順序

 ボルトの締付けは、連結板の中央のボルトから順次端部ボルトに向かって行い2度締めを行う

引用:土木学会 鋼構造委員会 高力ボルト摩擦接合継手の設計法に関する調査検討小委員会編『高力ボルト摩擦接合継手の設計・施工・維持管理指針()29(土木学会、鋼構造シリーズ152006)

 

(d) 継手の肌隙

 部材と連結板又は接合する材片同士は、しめつけにより密着させ肌隙が生じないようにする。

 継手部の母材に板厚差がある場合にはフィラーを用いるが、肌隙などの不確実な連結及び腐食などを防ぐため、複数枚を重ねて使用してはならない