- 医薬品の適正使用・安全対策
- 4.医薬品の副作用等による健康被害の救済
- 医薬品の副作用等による健康被害の救済
- Sec.1
1医薬品の副作用等による健康被害の救済
■医薬品の副作用等による健康被害の救済
サリドマイド事件、スモン事件等を踏まえ、1979年に薬事法が改正され、医薬品の市販後の安全対策の強化を図るため、再審査・再評価制度の創設、副作用等報告制度の整備、保健衛生上の危害の発生又は拡大を防止するための緊急命令、廃棄・回収命令に関する法整備等がなされたが、それらと併せて、医薬品副作用被害救済基金法(現「独立行政法人医薬品医療機器総合機構法(平成14年法律第192号)」)による救済制度が創設された。
医薬品は、最新の医学・薬学の水準においても予見しえない副作用が発生することがあり、また、副作用が起こり得ることが分かっていても、医療上の必要性から使用せざるをえない場合もある。また、副作用による健康被害については、民法ではその賠償責任を追及することが難しく、たとえ追求することが出来ても、多大な労力と時間を費やさなければならない。このため、医薬品(要指導医薬品及び一般用医薬品を含む。)を適正に使用したにもかかわらず副作用による一定の健康被害が生じた場合に、医療費等の給付を行い、これにより被害者の迅速な救済を図ろうというのが、医薬品副作用被害救済制度である。
1)医薬品副作用被害救済制度
医薬品を適正に使用したにもかかわらず発生した副作用による被害者の迅速な救済を図るため、製薬企業の社会的責任に基づく公的制度として1980年5月より運営が開始された。
健康被害を受けた本人(又は家族)の給付請求を受けて、その健康被害が医薬品の副作用によるものかどうか、医薬品が適正に使用されたかどうかなど、医学的薬学的判断を要する事項について薬事・食品衛生審議会の諮問・答申を経て、厚生労働大臣が判定した結果に基づいて、医療費、障害年金、遺族年金等の各種給付が行われる。
救済給付業務に必要な費用のうち、給付費については、独立行政法人医薬品医療機器総合機構法第19条の規定に基づいて、製造販売業者から年度ごとに納付される拠出金が充てられるほか、事務費については、その2分の1相当額は国庫補助により賄われている。
この医薬品副作用被害救済制度に加え、2002年の薬事法改正に際して、2004年4月1日以降に生物由来製品を適正に使用したにもかかわらず、それを介して生じた感染等による疾病、障害又は死亡について、医療費、障害年金、遺族年金等の給付を行うことなどにより、生物由来製品を介した感染等による健康被害の迅速な救済を図ることを目的とした「生物由来製品感染等被害救済制度」が創設されている。
このほか、総合機構においては、関係製薬企業又は国からの委託を受けて、裁判上の和解が成立したスモン患者に対して健康管理手当や介護費用の支払業務を行っている。また、(公財)友愛福祉財団からの委託を受けて、血液製剤によるHIV感染者・発症者に対する健康管理費用の支給等を行っている。
2)医薬品副作用被害救済制度等への案内、窓口紹介
医薬品副作用被害救済制度による被害者の救済には、医薬関係者の理解と協力が不可欠である。要指導医薬品又は一般用医薬品の使用により副作用を生じた場合であって、その副作用による健康被害が救済給付の対象となると思われたときには、医薬品の販売等に従事する専門家においては、健康被害を受けた購入者等に対して救済制度があることや、救済事業を運営する総合機構の相談窓口等を紹介し、相談を促すなどの対応が期待され、そのためには、救済給付の範囲や給付の種類等に関する一定の知識が必要となる。
(a) 給付の種類
給付の種類としては、医療費、医療手当、障害年金、障害児養育年金、遺族年金、遺族一時金及び葬祭料がある。給付の種類によっては請求期限が定められており、その期限を過ぎた分については請求できないので注意する必要がある。
給付の種類 |
請求の期限 |
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医療費 |
医薬品の副作用による疾病の治療(*)に要した費用を実費補償するもの(ただし、健康保険等による給付の額を差し引いた自己負担分。) |
医療費の支給の対象となる費用の支払いが行われたときから5年以内 |
医療手当 |
医薬品の副作用による疾病の治療(*)に伴う医療費以外の費用の負担に着目して給付されるもの(定額) |
請求に係る医療が行われた日の属する月の翌月の初日から5年以内 |
障害年金 |
医薬品の副作用により一定程度の障害の状態にある18歳以上の人の生活補償等を目的として給付されるもの(定額) |
請求期限なし |
障害児養育年金 |
医薬品の副作用により一定程度の障害の状態にある18歳未満の人を養育する人に対して給付されるもの(定額) |
請求期限なし |
遺族年金 |
生計維持者が医薬品の副作用により死亡した場合に、その遺族の生活の立て直し等を目的として給付されるもの(定額)ただし、最高10年間を限度とする。 |
死亡のときから5年以内。遺族年金を受けることができる先順位者が死亡した場合には、その死亡のときから2年以内。 |
遺族一時金 |
生計維持者以外の人が医薬品の副作用により死亡した場合に、その遺族に対する見舞等を目的として給付されるもの(定額) |
遺族年金と同じ |
葬祭料 |
医薬品の副作用により死亡した人の葬祭を行うことに伴う出費に着目して給付されるもの(定額) |
遺族年金と同じ |
(*)医療費、医療手当の給付の対象となるのは副作用による疾病が「入院治療を必要とする程度」の場合
(b) 救済給付の支給対象範囲
医薬品副作用被害救済制度は、医薬品を適正に使用したにもかかわらず、副作用によって一定程度以上の健康被害が生じた場合に、医療費等の諸給付を行うものである。
したがって、救済給付の対象となるには、添付文書や外箱等に記載されている用法・用量、使用上の注意に従って使用されていることが基本となる。医薬品の不適正な使用による健康被害については、救済給付の対象とならない。
救済給付の対象となる健康被害の程度としては、副作用による疾病のため、入院を必要とする程度の医療(必ずしも入院治療が行われた場合に限らず、入院治療が必要と認められる場合であって、やむをえず自宅療養を行った場合も含まれる。)を受ける場合や、副作用による重い後遺障害(日常生活に著しい制限を受ける程度以上の障害。)が残った場合であり、医薬品を適正に使用して生じた健康被害であっても、特に医療機関での治療を要さずに寛解したような軽度のものについては給付対象に含まれない。
また、救済制度の対象とならない医薬品が定められており、要指導医薬品又は一般用医薬品では、殺虫剤・殺鼠(そ)剤、殺菌消毒剤(人体に直接使用するものを除く)、一般用検査薬、一部の日局収載医薬品(精製水、ワセリン等)が該当する。
このほか、製品不良など、製薬企業に損害賠償責任がある場合や、無承認無許可医薬品(いわゆる健康食品として販売されたもののほか、個人輸入により入手された医薬品を含む。)の使用による健康被害についても救済制度の対象から除外されている。
(c) 救済給付の請求にあたって必要な書類
要指導医薬品又は一般用医薬品の使用による副作用被害への救済給付の請求に当たっては、医師の診断書、要した医療費を証明する書類(領収書等)などのほか、その医薬品を販売等した薬局開設者、医薬品の販売業者が作成した販売証明書等が必要となる。医薬品の販売等に従事する専門家においては、販売証明書の発行につき円滑な対応を図る必要がある。
【医薬品PLセンター】 医薬品副作用被害救済制度の対象とならないケースのうち、製品不良など、製薬企業に損害賠償責任がある場合には、「医薬品PLセンター」への相談が推奨される。
平成6年、製造物責任法(平成6年法律第85号。以下「PL法」という。)が国会において成立するに当たり、「裁判によらない迅速、公平な被害救済システムの有効性に鑑み、裁判外の紛争処理体制を充実強化すること」が衆参両院で附帯決議され、各業界に対して裁判によらない紛争処理機関の設立が求められた。これを受けて、日本製薬団体連合会において、平成7年7月のPL法の施行と同時に開設された。
消費者が、医薬品又は医薬部外品に関する苦情(健康被害以外の損害も含まれる)について製造販売元の企業と交渉するに当たって、公平・中立な立場で申立ての相談を受け付け、交渉の仲介や調整・あっせんを行い、裁判によらずに迅速な解決に導くことを目的としている。
■医薬品の副作用等による健康被害の救済ー問題
【問16】 医薬品副作用被害救済制度における次の給付の種類のうち、請求の期限がないものはどれか。
1 遺族一時金 2 医療費 3 葬祭料 4 障害児養育年金 5 遺族年金
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【問17】 医薬品副作用被害救済制度における救済給付の支給対象に関する次の記述の正誤について、正しい組合せはどれか。なお、支給対象となるものは「正」、支給対象とならないものは「誤」と表記する。
a 個人輸入により入手された医薬品を使用して、入院治療が必要と認められる程度の健康被害が生じた場合 b 一般用医薬品の殺菌消毒剤(人体に直接使用しないもの)を使用して、入院治療が必要と認められる程度の健康被害が生じた場合 c 一般用医薬品の殺虫剤を使用して、入院治療が必要と認められる程度の健康被害が生じた場合 d 医薬品を適正に使用して生じた副作用による疾病のため、入院治療が必要と認められるが、やむを得ず自宅療養を行った場合
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a |
b |
c |
d |
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1 |
正 |
正 |
誤 |
正 |
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2 |
誤 |
正 |
正 |
誤 |
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3 |
誤 |
誤 |
誤 |
正 |
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4 |
正 |
誤 |
正 |
誤 |
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5 |
誤 |
誤 |
正 |
正 |
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【問18】 医薬品PLセンターに関する次の記述のうち、正しいものの組合せはどれか。
a 医薬品、医薬部外品及び化粧品について、苦情等の相談を受け付けている。 b 苦情を申し立てた消費者が製造販売元の企業と交渉するに当たって、裁判による迅速な解決に導くことを目的としている。 c 平成7年7月の製造物責任法の施行と同時に、日本製薬団体連合会により開設された。 d 医薬品副作用被害救済制度の対象とならないケースのうち、製品不良など、製薬企業に損害賠償責任がある場合には、医薬品PLセンターへの相談が推奨されている。
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1(a、c) |
2(a、d) |
3(b、c) |
4(b、d) |
5(c、d) |
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