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1公衆衛生用薬

U222022/03/25 10:13

消毒薬

1)感染症の防止と消毒薬

感染症は、病原性のある細菌、寄生虫やウイルスなどが体に侵入することによって起こる望ましくない反応で、日常生活で問題となるのは、飛沫感染するものや経口感染するものが多い。

特に食中毒は、手指や食品、調理器具等に付着した細菌、寄生虫やウイルスが、経口的に体内に入って増殖することで生じる。一般に、夏は細菌による食中毒が、冬はウイルスによる食中毒が発生することが多いと言われている。通常の健康状態にある人では、生体に元来備わっている防御機能が働くため、一般的には、石鹸で十分に手洗いを行い、器具等については煮沸消毒等を行うといった対応により食中毒を防止することができる。しかし、煮沸消毒が困難な器具等もあり、また、食中毒の流行時期や、明らかに感染者が身近に存在するような場合には、集団感染を防止するため念入りに、化学薬剤(消毒薬)を用いた処置を行うことが有効とされる。

殺菌・消毒は生存する微生物の数を減らすために行われる処置であり、また滅菌は物質中のすべての微生物を殺滅又は除去することである。消毒薬が微生物を死滅させる仕組み及び効果は、殺菌消毒成分の種類、濃度、温度、時間、消毒対象物の汚染度、微生物の種類や状態などによって異なる。消毒薬によっては、殺菌消毒効果が十分得られない微生物が存在し(全く殺菌消毒できない微生物もある。)、さらに、生息条件が整えば消毒薬の溶液中で生存、増殖する微生物もいる。殺菌・消毒の対象となる微生物を考慮し、適切な医薬品の選択、定められた用法に従って適正な使用がなされることが重要である。

 

2)代表的な殺菌消毒成分、取扱い上の注意等

a)手指・皮膚の消毒のほか、器具等の殺菌・消毒にも用いられる成分

手指又は皮膚の殺菌・消毒を目的とする消毒薬のうち、配合成分やその濃度等があらかじめ定められた範囲内である製品については、医薬部外品として流通することが認められている。器具等の殺菌・消毒を併せて目的とする製品については、医薬品としてのみ製造販売されている。

 クレゾール石鹸液

結核菌を含む一般細菌類、真菌類に対して比較的広い殺菌消毒作用を示すが、大部分のウイルスに対する殺菌消毒作用はない。

日本薬局方に収載されているクレゾール石鹸液は、原液を水で希釈して用いられるが、刺激性が強いため、原液が直接皮膚に付着しないようにする必要がある。付着した場合には直ちに石鹸水と水で洗い流し、炎症等を生じたときには医師の診療を受けるなどの対応が必要である。

同様な殺菌消毒作用を有する成分として、ポリアルキルポリアミノエチルグリシン塩酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等が用いられることもある。

 エタノール、イソプロパノール

アルコール分が微生物のタンパク質を変性させ、それらの作用を消失させることから、結核菌を含む一般細菌類、真菌類、ウイルスに対する殺菌消毒作用を示す。ただし、イソプロパノールでは、ウイルスに対する不活性効果はエタノールよりも低い。

脱脂による肌荒れを起こしやすく、皮膚へ繰り返して使用する場合には適さない。粘膜刺激性があり、粘膜面や目の回り、傷がある部分への使用は避けることとされている。揮発性で引火しやすく、また、広範囲に長時間使用する場合には、蒸気の吸引にも留意する必要がある。

 クロルヘキシジングルコン酸塩

クロルヘキシジングルコン酸塩の殺菌消毒作用に関する出題については、(皮膚に用いる薬)を参照して作成のこと。

b)専ら器具、設備等の殺菌・消毒に用いられる成分

 塩素系殺菌消毒成分

次亜塩素酸ナトリウムやサラシ粉などの塩素系殺菌消毒成分は、強い酸化力により一般細菌類、真菌類、ウイルス全般に対する殺菌消毒作用を示すが、皮膚刺激性が強いため、通常人体の消毒には用いられない。

金属腐食性があるとともに、プラスチックやゴム製品を劣化させる。また、漂白作用があり、毛、絹、ナイロン、アセテート、ポリウレタン、色・柄物等には使用を避ける必要がある。酸性の洗剤・洗浄剤と反応して有毒な塩素ガスが発生するため、混ざらないように注意する必要がある。

なお、吐瀉(としゃ)物や血液等が床等にこぼれたときの殺菌消毒にも適しているが、有機物の影響を受けやすいので、殺菌消毒の対象物を洗浄した後に使用した方が効果的である。

 有機塩素系殺菌消毒成分

ジクロルイソシアヌル酸ナトリウム、トリクロルイソシアヌル酸等の有機塩素系殺菌消毒成分は、塩素臭や刺激性、金属腐食性が比較的抑えられており、プール等の大型設備の殺菌・消毒に用いられることが多い。

 

【誤用・事故等による中毒への対処】 基本的に応急処置の後は、すみやかに医療機関に受診するなどの対応が必要である。

a)誤って飲み込んだ場合

一般的な家庭における応急処置として、通常は多量の牛乳などを飲ませるが、手元に何もないときはまず水を飲ませる。いずれにしても中毒物質の消化管からの吸収を遅らせ、粘膜を保護するために誤飲してから数分以内に行う。なお、原末や濃厚液を誤って飲み込んだ場合には、自己判断で安易に吐き出させることは避ける。

b)誤って目に入った場合

顔を横に向けて上から水を流すか、水道水の場合には弱い流れの水で洗うなどにより、流水で十分に(15分間以上)洗眼する。水流が強いと目に障害を起こすことがある。目が痛くて開けられない時には、水を満たした容器に顔をつけて、水の中で目を開けてもよい。

酸やアルカリが目に入った場合は、早期に十分な水洗がされることが重要であり、特にアルカリ性物質の場合には念入りに水洗する。なお、酸をアルカリで中和したり、アルカリを酸で中和するといった処置は、熱を発生して刺激をかえって強め、状態が悪化するおそれがあるため適切ではない。

c)誤って皮膚に付着した場合

流水をかけながら着衣を取り、石鹸を用いて流水で皮膚を十分に(15分間以上)水洗する。酸やアルカリは早期の十分な水洗がなされることが重要であり、特にアルカリ性の場合には念入りに水洗する。目に入った場合と同様、中和剤は用いない。

d)誤って吸入した場合

意識がない場合は新鮮な空気の所へ運び出し、人工呼吸などをする。

殺虫剤・忌避剤ー1

殺虫剤・忌避剤のうち、ハエ、ダニ、蚊等の衛生害虫の防除を目的とする殺虫剤・忌避剤は医薬品又は医薬部外品として、法による規制の対象とされている。殺虫剤・忌避剤のうち、人体に対する作用が緩和な製品については医薬部外品として製造販売されているが、原液を用時希釈して用いるもの、長期間にわたって持続的に殺虫成分を放出させる又は一度に大量の殺虫成分を放出させるもの、劇薬に該当するもの等、取扱い上、人体に対する作用が緩和とはいえない製品については医薬品として扱われる。

忌避剤は人体に直接使用されるが、蚊、ツツガムシ、トコジラミ(ナンキンムシ)、ノミ等が人体に取り付いて吸血したり、病原細菌等を媒介するのを防止するものであり、虫さされによる痒みや腫れなどの症状を和らげる効果はない。

 

1)衛生害虫の種類と防除

疾病を媒介したり、飲食物を汚染するなどして、保健衛生上の害を及ぼす昆虫等を衛生害虫という。代表的な衛生害虫の種類と防除に関する出題については、以下の内容から作成のこと。

a)ハエ

ハエ(イエバエ、センチニクバエ等)は、赤痢菌、チフス菌、コレラ菌、O-157大腸菌等の病原菌や皮膚疾患、赤痢アメーバ、寄生虫卵、ポリオウイルスの伝播など様々な病原体を媒介する。また、人の体内や皮膚などに幼虫(ウジ)が潜り込み、組織や体液や消化器官内の消化物を食べて直接的な健康被害を与えるハエ蛆(うじ)症と呼ばれる症状もある。

ハエの防除の基本は、ウジの防除である。ウジの防除法としては、通常、有機リン系殺虫成分が配合された殺虫剤が用いられる。薬液がウジの生息場所に十分行き渡るよう散布されることが重要であるが、厨芥(ちゅうかい=生ごみ)がビニール袋に入っているなどして薬液が浸透しない場合や、薬液をかけた後に乾燥させるのが困難な場合には、主に成虫の防除を行うことになる。成虫の防除では、医薬品の殺虫剤(希釈して噴霧する)も用いられるが、一般家庭においては、調製を要さずそのまま使用できる医薬部外品の殺虫剤(エアゾールなど)や、ハエ取り紙などの物理的な方法が用いられることが多い。

b)蚊

蚊(アカイエカ、シナハマダラカ等)は、吸血によって皮膚に発疹や痒みを引き起こすほか、日本脳炎、マラリア、黄熱、デング熱等の重篤な病気を媒介する。

水のある場所に産卵し、幼虫(ボウフラ)となって繁殖する。人が蚊に刺される場所と蚊が繁殖する場所が異なるため、種類による生息、発生場所に合わせた防除が必要となる。

ボウフラが成虫にならなければ保健衛生上の有害性はないため、羽化するまでに防除を行えばよい。ボウフラの防除では水系に殺虫剤を投入することになるため、生態系に与える影響を考慮して適切な使用を行う必要がある。

成虫の防除では、医薬品の殺虫剤(希釈して噴霧する)も用いられるが、一般家庭においては、調製を要さずそのまま使用できる医薬部外品の殺虫剤(蚊取り線香、エアゾール等)が用いられることが多い。なお、野外など殺虫剤の効果が十分期待できない場所では、忌避剤を用いて蚊による吸血の防止を図ることとなる。

c)ゴキブリ

ゴキブリ(チャバネゴキブリ、クロゴキブリ等)は、食品にサルモネラ菌、ブドウ球菌、腸炎ビブリオ菌、ボツリヌス菌、O-157大腸菌等を媒介する。また、アメーバ赤痢等の中間宿主になっている。

ゴキブリは、暗所、風のない場所、水分のある場所、暖かい場所を好むので、該当する場所を中心に防除を行うのが効果的とされている。

燻蒸(くんじょう)処理を行う場合、ゴキブリの卵は医薬品の成分が浸透しない殻で覆われているため、殺虫効果を示さない。そのため3週間位後に、もう一度燻蒸処理を行い、孵化(ふか)した幼虫を駆除する必要がある。

d)シラミ

シラミの種類ごとに寄生対象となる動物が決まっているため、ヒト以外の動物に寄生するシラミがヒトに寄生して直接的な害を及ぼすことはない。ヒトに寄生するシラミ(コロモジラミ、アタマジラミ、ケジラミ等)による保健衛生上の害としては、吸血箇所の激しい痒みと日本紅斑熱や発疹チフス等の病原細菌であるリケッチア(リケッチアは人獣共通して感染する)の媒介である。

シラミの防除は、医薬品による方法以外に物理的方法もある。物理的方法としては、散髪や洗髪、入浴による除去、衣服の熱湯処理などがある。医薬品による方法では、殺虫成分としてフェノトリンが配合されたシャンプーやてんか粉が用いられる。また、シラミの成虫が脱落して次の宿主に伝染しやすい場所には殺虫剤を散布して、寄生の拡散防止を図ることも重要である。

e)トコジラミ

トコジラミは、シラミの一種でなくカメムシ目に属する昆虫で、ナンキンムシとも呼ばれる。トコジラミに刺されると激しい痒痛(ようつう)を生じ、アレルギー反応による全身の発熱、睡眠不足、神経性の消化不良を起こすことがある。また、ときにペスト、再帰熱、発疹チフスを媒介することもある。

トコジラミは床や壁の隙間、壁紙の裏、畳の敷き合わせ目、ベッド等に潜伏する。その防除にはハエ、蚊、ゴキブリと同様な殺虫剤が使用されるが、体長が比較的大きい(成虫で約8mm)ので、電気掃除機で隅々まで丁寧に吸引することによる駆除も可能である。

f)ノミ

ノミによる保健衛生上の害としては、主に吸血されたときの痒みであるが、元来、ペスト等の病原細菌を媒介する衛生害虫である。近年、ヒトノミの生息数は激減しているが、ノミはシラミと異なり宿主を厳密に選択しないため、ペット等に寄生しているノミによる被害がしばしば発生している。

そのためノミの防除には、イヌやネコなどに寄生しているノミに対して、ノミ取りシャンプーや忌避剤などが用いられる。また、シラミが終生を宿主に寄生して生息するのに対して、ノミはペットの寝床やよくいる場所、部屋の隅の埃(ほこり)の中などで幼虫が育つため、電気掃除機による吸引や殺虫剤の散布などによる駆除を行うことも重要である。

g)イエダニ、ツツガムシ

イエダニは、ネズミを宿主として移動し生息場所を広げていく。吸血による刺咬(しこう)のため激しい痒みを生じる。また、発疹熱などのリケッチア、ペストなどを媒介する。イエダニの防除には、まず宿主動物であるネズミを駆除することが重要であるが、ネズミを駆除することで、宿主を失ったイエダニが吸血源を求めて散乱するため、併せてイエダニの防除も行われる。イエダニの防除には、殺虫剤による燻蒸処理等が行われる。

ツツガムシは、ツツガムシ病リケッチアを媒介するダニの一種である。ヒトの生活環境でなく野外に生息し、目視での確認が困難であるため、ツツガムシが生息する可能性がある場所に立ち入る際には、専ら忌避剤による対応が図られる。その場合、忌避剤の使用だけに頼らず、なるべく肌の露出を避け、野外活動後は入浴や衣服の洗濯を行う等の防御方法を心がけることが重要である。

h)屋内塵(じん)性ダニ(ツメダニ類、ヒョウヒダニ類、ケナガコナダニ等)

ツメダニ類は、通常は他のダニや昆虫の体液を吸って生きているが、大量発生したときにはヒトが刺されることがある。刺されるとその部位が赤く腫れて痒みを生じる。

ヒョウヒダニ類やケナガコナダニについては、ヒトを刺すことはないが、ダニの糞や死骸がアレルゲンとなって気管支喘息やアトピー性皮膚炎などを引き起こすことがある。

屋内塵性ダニが生息する環境は、どんな住居にも存在し、完全に駆除することは困難である。また、一定程度まで生息数を抑えれば保健衛生上の害は生じないので、増殖させないということを基本に防除が行われることが重要である。

殺虫剤の使用についてはダニが大量発生した場合のみとし、まずは畳、カーペット等を直射日光下に干すなど、生活環境の掃除を十分行うことが基本とされている。併せて、室内の換気を改善し湿度を下げることも、ダニの大量発生の防止につながる。

殺虫剤を散布する場合には、湿度がダニの増殖の要因になるため、水で希釈する薬剤の使用は避け、エアゾール、粉剤が用いられることが望ましい。医薬品の散布が困難な場合には、燻蒸処理等が行われる。

 

2)代表的な配合成分・用法、誤用・事故等への対処

殺虫剤使用に当たっては、殺虫作用に対する抵抗性が生じるのを避けるため、同じ殺虫成分を長期間連用せず、いくつかの殺虫成分を順番に使用していくことが望ましい。

a)有機リン系殺虫成分

代表的な有機リン系殺虫成分として、ジクロルボス、ダイアジノン、フェニトロチオン、フェンチオン、トリクロルホン、クロルピリホスメチル、プロペタンホス等がある。

殺虫作用は、アセチルコリンを分解する酵素(アセチルコリンエステラーゼ)と不可逆的に結合してその働きを阻害することによる。

これらの殺虫成分は、ほ乳類や鳥類では速やかに分解されて排泄されるため毒性は比較的低い。ただし、高濃度又は多量に曝露(ばくろ)した場合(特に、誤って飲み込んでしまった場合)には、神経の異常な興奮が起こり、縮瞳、呼吸困難、筋肉麻痺等の症状が現れるおそれがある。これらの症状が見られたときは、直ちに医師の診断を受ける必要がある。

b)ピレスロイド系殺虫成分

除虫菊の成分から開発された成分で、比較的速やかに自然分解して残効性が低いため、家庭用殺虫剤に広く用いられている。主なピレスロイド系殺虫成分として、ペルメトリン、フェノトリン、フタルスリン等がある。このうちフェノトリンは、殺虫成分で唯一人体に直接適用されるものである(シラミの駆除を目的とする製品の場合)。

殺虫作用は、神経細胞に直接作用して神経伝達を阻害することによるものである。高濃度又は多量に曝露して身体に異常が現れた場合には、医師の診療を受けるなどの対応が必要である。

c)カーバメイト系殺虫成分、オキサジアゾール系殺虫成分

プロポクスルに代表されるカーバメイト系殺虫成分、メトキサジアゾンに代表されるオキサジアゾール系殺虫成分は、いずれも有機リン系殺虫成分と同様にアセチルコリンエステラーゼの阻害によって殺虫作用を示すが、有機リン系殺虫成分と異なり、アセチルコリンエステラーゼとの結合は可逆的である。ピレスロイド系殺虫成分に抵抗性を示す害虫の駆除に用いられる。

一般に有機リン系殺虫成分に比べて毒性は低いが、高濃度又は多量に曝露して呼吸困難等の症状が出た場合には、医師の診療を受けるなどの対応が必要である。

d)有機塩素系殺虫成分

有機塩素系殺虫成分(DDT等)は、我が国ではかつて広く使用され、感染症の撲滅に大きな効果を上げたが、残留性や体内蓄積性の問題から、現在ではオルトジクロロベンゼンがウジ、ボウフラの防除の目的で使用されているのみとなっている。

殺虫作用は、ピレスロイド系殺虫成分と同様、神経細胞に対する作用に基づくものである。

e)昆虫成長阻害成分

殺虫作用でなく、昆虫の脱皮や変態を阻害する作用を有する成分で、有機リン系殺虫成分やピレスロイド系殺虫成分に対して抵抗性を示す場合にも効果がある。

メトプレンやピリプロキシフェンは、幼虫が十分成長して蛹(さなぎ)になるのを抑えているホルモン(幼若ホルモン)に類似した作用を有し、幼虫が蛹になるのを妨げる。蛹にならずに成虫になる不完全変態の昆虫やダニには無効である。

ジフルベンズロンは、脱皮時の新しい外殻の形成を阻害して、幼虫の正常な脱皮をできなくする。

f)その他の成分

殺虫補助成分

それ自体の殺虫作用は弱いか、又はほとんどないが、殺虫成分とともに配合されることにより殺虫効果を高める成分として、ピペニルブトキシド(PBO)やチオシアノ酢酸イソボルニル(IBTA)などがある。

忌避成分

ディートが最も効果的で、効果の持続性も高いとされ、医薬品(又は医薬部外品)の忌避剤の有効成分として用いられる。その忌避作用は、虫が一般にこの物質の臭いを嫌うためと考えられているが、詳細は分かっていない。

 

殺虫剤・忌避剤ー2

 主な剤形、用法

a)スプレー剤

医薬品を空間中に噴霧するもので、原液を水で希釈して噴霧に用いる製品もある。

1)衛生害虫に直接噴射して殺滅させるもの、(2)害虫が潜んでいる場所や通り道に吹き付けるもの(残留噴射)、(3)部屋を閉め切って部屋の広さに応じて一定時間噴射し、室内にいる虫を殺滅させるもの(空間噴射)等がある。

b)燻蒸(くんじょう)剤

空間噴射の殺虫剤のうち、容器中の医薬品を煙状又は霧状にして一度に全量放出させるものである。霧状にして放出するものは、煙状にするものに比べて、噴射された粒子が微小であるため短時間で部屋の隅々まで行き渡るというメリットがある。

燻蒸処理が完了するまでの間、部屋を締め切って退出する必要がある。処理後は換気を十分に行い、ダニやゴキブリの死骸を取り除くために掃除機をかけることも重要である。

c)毒餌剤(誘因殺虫剤)

殺虫成分とともに、対象とする衛生害虫(主にゴキブリ)を誘引する成分を配合し、マット状、ペレット状、ペースト状等にしたものである。害虫が潜んでいる場所や通り道に置いて、害虫が摂食したときに殺虫効果を発揮するものである。乳幼児等が誤って口に入れたりしないよう、十分留意する必要がある。

d)蒸散剤

殺虫成分を基剤に混ぜて整形し、加熱したとき又は常温で徐々に揮散するようにしたものである。医薬部外品となっている製品を除き、通常、一般の家庭で使用されることは少ない。

e)粉剤・粒剤

粉剤は、殺虫成分を粉体に吸着させたもので、主にダニやシラミ、ノミの防除において散布される。粒剤は、殺虫成分を基剤に混ぜて粒状にしたもので、ボウフラの防除において、ボウフラが生息する水系に投入して使用されるもの等がある。

f)乳剤・水和剤

原液を水で希釈して使用するもので、包装単位が大きい製品が多く、通常、個人で用いるよりも地域ぐるみの害虫駆除で使用される。

g)油剤

湿気を避ける必要がある場所でも使用できるが、噴射器具を必要とし、包装単位が大きい製品が多いため、一般の生活者が家庭において使用することはほとんどない。

 

【殺虫剤を使用する際の一般的な留意事項】 殺虫剤を噴霧・散布する際は、なるべく防護ゴーグル、マスク、手袋、肌の露出度の低い衣服を着用し、定められた用法・用量を厳守して使用する。医薬品が皮膚に付着した場合には、直ちに石鹸水で洗い流し、目や口に入らないようにする。また、食品、食器、玩具等に医薬品がかからないよう、あらかじめ他の場所へ移動させるか収納しておく(食器棚の扉を開けて殺虫する場合は、食品と食器はビニール袋に入れて密閉する。)必要がある。

殺虫剤を使用したあとに身体に異常が現れた場合、又は誤って殺虫用医薬品を飲み込んだ場合には、その製品が何系の殺虫成分を含むものであるかを医師に伝えて診療を受けるなどの対応が必要である。

 

【忌避剤を使用する際の一般的な留意事項】 基本的に、忌避剤は漫然な使用を避け、蚊、ブユ(ブヨ)等が多い戸外での使用等、必要な場合にのみ使用することが重要である。また、スプレー剤等を使用した場合も塗りむらがあると忌避効果が落ちるため、手で塗り拡げるなどして、必要以上に使用しないこと。

粘膜刺激性があるため、創傷面、目の周囲、粘膜等に薬剤が触れないようにする必要がある。また、皮膚にひどい湿疹やただれを起こしている人では、使用を避けるべきである。なお、薬剤により合成繊維やプラスチック製品の腐食を生じることがある。

スプレー剤となっている忌避剤を顔面に使用する場合は、目や口の粘膜に触れることのないよう、いったん手のひらに噴霧してから塗布する(その場合、塗布した手で目を擦らないようにする。)等、直接顔面に噴霧しないようにする必要がある。また、玄関のような狭い場所で使用することも、目や口の粘膜に触れやすくなるため、避けるべきである。万一、目に入ったときは直ちに大量の水でよく洗い流し、症状が重い場合には、使用した医薬品の含有成分(例えば、ディートとアルコール)を眼科医に伝えて診療を受けることとされている。

ディートについては、外国において動物実験(ラット皮膚塗布試験)で神経毒性が示唆されているため、ディートを含有する忌避剤(医薬品及び医薬部外品)は、生後6ヶ月未満の乳児への使用を避けることとされている。また、生後6ヶ月から12歳未満までの小児については、顔面への使用を避け、1日の使用限度(6ヶ月以上2歳未満:1日1回、2歳以上12歳未満:1日1~3回)を守って使用する必要がある。