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1心臓などの器官や血液に作用する薬

U222022/03/24 15:02

強心薬

1)動悸、息切れ等を生じる原因と強心薬の働き

a)動悸、息切れ、気つけ

心臓は、血液を全身に循環させるポンプの働きを担っているが、通常、自律神経系によって無意識のうちに調整がなされており、激しい運動をしたり、興奮したときなどの動悸や息切れは、正常な健康状態でも現れる。

体の不調による動悸、息切れは、日常生活の身体活動や平静にしているときに起こるもので、心臓の働きが低下して十分な血液を送り出せなくなり、脈拍数を増やすことによってその不足を補おうとして動悸(心臓の拍動が強く若しくは速くなり、又は脈拍が乱れ、それが不快に感じられる。)が起こる。また、心臓から十分な血液が送り出されないと体の各部への酸素の供給が低下するため、呼吸運動によって取り込む空気の量を増やすことでそれを補おうとして、息切れ(息をすると胸苦しさや不快感があり、意識的な呼吸運動を必要とする。)が起こる。これらは睡眠不足や疲労による心臓の働きの低下のほか、不安やストレス等の精神的な要因、また、女性では貧血や、更年期に生じるホルモンバランスの乱れなどによっても起こることがある。

気つけとは、心臓の働きの低下による一時的なめまい、立ちくらみ等の症状に対して、意識をはっきりさせたり、活力を回復させる効果のことである。

b)強心薬の働き

強心薬は、疲労やストレス等による軽度の心臓の働きの乱れについて、心臓の働きを整えて、動悸や息切れ等の症状の改善を目的とする医薬品である。心筋に作用して、その収縮力を高めるとされる成分(強心成分)を主体として配合される。

 

2)代表的な配合成分等、主な副作用

a) 強心成分

心筋に直接刺激を与え、その収縮力を高める作用(強心作用)を期待して、センソ、ゴオウ、ジャコウ、ロクジョウ等の生薬成分が用いられる。

 センソ

ヒキガエル科のシナヒキガエル等の毒腺の分泌物を集めたものを基原とする生薬で、微量で強い強心作用を示す。皮膚や粘膜に触れると局所麻酔作用を示し、センソが配合された丸薬、錠剤等の内服固形製剤は、口中で噛み砕くと舌等が麻痺することがあるため、噛まずに服用することとされている。

有効域(第2章-2)(薬の体内での働き)参照。)が比較的狭い成分であり、1日用量中センソ5mgを超えて含有する医薬品は劇薬に指定されている。一般用医薬品では、1日用量が5mg以下となるよう用法・用量が定められており、それに従って適正に使用される必要がある。なお、通常用量においても、悪心(吐きけ)、嘔吐の副作用が現れることがある。

 ジャコウ、ゴオウ、ロクジョウ

ジャコウは、シカ科のジャコウジカの雄の麝香腺(じゃこうせん)分泌物を基原とする生薬で、強心作用のほか、呼吸中枢を刺激して呼吸機能を高めたり、意識をはっきりさせる等の作用があるとされる。

ゴオウは、ウシ科のウシの胆嚢中に生じた結石を基原とする生薬で、強心作用のほか、末梢血管の拡張による血圧降下、興奮を静める等の作用があるとされる。

ロクジョウは、シカ科のマンシュウアカジカ又はマンシュウジカの雄のまだ角化していない、若しくは、わずかに角化した幼角を基原とする生薬で、強心作用の他、強壮、血行促進等の作用があるとされる。

これらは強心薬のほか、小児五疳(しょうにごかん)薬、滋養強壮保健薬等にも配合されている場合がある。

b) 強心成分以外の配合成分

強心成分の働きを助ける効果を期待して、また、一部の強心薬では、小児五疳薬や胃腸薬、滋養強壮保健薬等の効能・効果を併せ持つものもあり、鎮静、強壮などの作用を目的とする生薬成分を組み合わせて配合されている場合が多い。

 リュウノウ

中枢神経系の刺激作用による気つけの効果を期待して用いられる。

リュウノウ中に存在する主要な物質として、ボルネオールが配合されている場合もある。

 シンジュ

ウグイスガイ科のアコヤガイ、シンジュガイ又はクロチョウガイ等の外套膜(がいとうまく)組成中に病的に形成された顆粒状物質を基原とする生薬で、鎮静作用等を期待して用いられる。

 その他

レイヨウカク、ジンコウ、動物胆(ユウタンを含む。)、サフラン、ニンジン、インヨウカク等が配合されている場合がある。

レイヨウカク、ジンコウについては-6(小児の疳を適応症とする生薬製剤・漢方処方製剤)、動物胆(ユウタンを含む。)については-1(胃の薬)、サフランについては(婦人薬)、ニンジン、インヨウカクについてはⅩⅢ(滋養強壮保健薬)をそれぞれ参照して問題作成のこと。

 

 漢方処方製剤

【苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)】 体力中等度以下で、めまい、ふらつきがあり、ときにのぼせや動悸があるものの立ちくらみ、めまい、頭痛、耳鳴り、動悸、息切れ、神経症、神経過敏に適すとされる。強心作用が期待される生薬は含まれず、主に尿量増加(利尿)作用により、水毒(漢方の考え方で、体の水分が停滞したり偏在して、その循環が悪いことを意味する。)の排出を促すことを主眼とする。

構成生薬としてカンゾウを含む。カンゾウを含有する医薬品に共通する留意点に関する出題については、-1(咳止め・痰を出しやすくする薬)を参照して作成のこと。なお、高血圧、心臓病、腎臓病の診断を受けた人では、カンゾウ中のグリチルリチン酸による偽アルドステロン症を生じやすく、また、動悸や息切れの症状は、それら基礎疾患によっても起こることがある。医薬品の販売等に従事する専門家においては、本剤を使用しようとする人における状況の把握に努めることが重要である。

比較的長期間(1ヶ月位)服用されることがあり、その場合に共通する留意点に関する出題については、ⅩⅣ-1(漢方処方製剤)を参照して作成のこと。

 

3)相互作用、受診勧奨

【相互作用】 漢方処方製剤、生薬成分が配合された医薬品における相互作用に関する一般的な事項について、ⅩⅣ(漢方処方製剤・生薬製剤)を参照して問題作成のこと。特に、滋養強壮保健薬では、強心薬と同じ生薬成分が配合されていることが多い。

何らかの疾患(心臓病に限らない。)のため医師の治療を受けている場合には、強心薬の使用が治療中の疾患に悪影響を生じることがあり、また、動悸や息切れの症状が、治療中の疾患に起因する可能性や、処方された薬剤の副作用である可能性も考えられる。医師の治療を受けている人では、強心薬を使用する前に、その適否につき、治療を行っている医師又は処方薬の調剤を行った薬剤師に相談がなされるべきである。

 

【受診勧奨】 強心薬については一般に、5~6日間使用して症状の改善がみられない場合には、心臓以外の要因、例えば、呼吸器疾患、貧血、高血圧症、甲状腺機能の異常等のほか、精神神経系の疾患も考えられる。医薬品の販売等に従事する専門家においては、強心薬を使用した人の状況に応じて、適宜、医療機関の受診を勧奨することが重要である。

激しい運動をしていないにもかかわらず突発的に動悸や息切れが起こり、意識が薄れてきたり、脈が十分触れなくなったり、胸部の痛み又は冷や汗を伴うような場合には、早めに医師の診療を受けるなどの対応が必要である。

心臓の働きの低下が比較的軽微であれば、心臓に無理を生じない程度の軽い運動と休息の繰り返しを日常生活に積極的に取り入れることにより、心筋が鍛えられ、また、手足の筋肉の動きによって血行が促進されて心臓の働きを助けることにつながる。強心薬の使用によって症状の緩和を図るだけでなく、こうした生活習慣の改善によって、動悸や息切れを起こしにくい体質づくりが図られることも重要である。

一般用医薬品にも副作用として動悸が現れることがあるものがあるが、一般の生活者においては、それが副作用による症状と認識されずに、強心薬による対処を図ろうとすることも考えられる。医薬品の販売等に従事する専門家においては、強心薬を使用しようとする人における状況の把握に努めることが重要である。

高コレステロール改善薬

1)血中コレステロールと高コレステロール改善成分の働き

コレステロールは細胞の構成成分で、胆汁酸や副腎皮質ホルモン等の生理活性物質の産生に重要な物質でもある等、生体に不可欠な物質である。コレステロールの産生及び代謝は、主として肝臓で行われる。

コレステロールは水に溶けにくい物質であるため、血液中では血漿タンパク質と結合したリポタンパク質となって存在する。リポタンパク質は比重によっていくつかの種類に分類されるが、そのうち低密度リポタンパク質(LDL)は、コレステロールを肝臓から末梢組織へと運ぶリポタンパク質である。一方、高密度リポタンパク質(HDL)は、末梢組織のコレステロールを取り込んで肝臓へと運ぶリポタンパク質である。このように、2種類のリポタンパク質によって、肝臓と末梢組織の間をコレステロールが行き来しているが、血液中のLDLが多く、HDLが少ないと、コレステロールの運搬が末梢組織側に偏ってその蓄積を招き、心臓病や肥満、動脈硬化症等の生活習慣病につながる危険性が高くなる。

血漿中のリポタンパク質のバランスの乱れは、生活習慣病を生じる以前の段階では自覚症状を伴うものでないため、自分で気付いて医療機関の受診がなされるよりもむしろ、偶然又は生活習慣病を生じて指摘されることが多い。医療機関で測定する検査値として、LDLが140mg/dL以上、HDLが40mg/dL未満、中性脂肪が150mg/dL以上のいずれかである状態を、脂質異常症という。

高コレステロール改善薬は、血中コレステロール異常の改善、血中コレステロール異常に伴う末梢血行障害(手足の冷え、痺れ)の緩和等を目的として使用される医薬品である。末梢組織へのコレステロールの吸収を抑えたり、肝臓におけるコレステロールの代謝を促す等により、血中コレステロール異常の改善を促すとされる成分(高コレステロール改善成分)を主体として配合される。

 

2)代表的な配合成分、主な副作用

a)高コレステロール改善成分

大豆油不鹸化物(ふけんかぶつ)(ソイステロール)、リノール酸を含む植物油、ポリエンホスファチジルコリン(大豆から抽出・精製したレシチンの一種)、パンテチン等が用いられる。悪心(吐きけ)、胃部不快感、胸やけ、下痢等の消化器系の副作用が現れることがある。

大豆油不鹸化物(ソイステロール)には、腸管におけるコレステロールの吸収を抑える働きがあるとされる。

リノール酸、ポリエンホスファチジルコリンは、コレステロールと結合して、代謝されやすいコレステロールエステルを形成するとされ、肝臓におけるコレステロールの代謝を促す効果を期待して用いられる。

パンテチンは、LDL等の異化排泄を促進し、リポタンパクリパーゼ活性を高めて、HDL産生を高める作用があるとされる。

b)ビタミン成分

ビタミンB2(リボフラビン酪酸エステル等)

血漿中に過剰に存在するコレステロールは、過酸化脂質となって種々の障害の原因となることが知られている。リボフラビンは酵素により、フラビンモノヌクレオチド(FMN)さらにフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)へと活性化され、フラビン酵素の補酵素として細胞内の酸化還元系やミトコンドリアにおける電子伝達系に働き、糖質、脂質の生体内代謝に広く関与する。コレステロールの生合成抑制と排泄・異化促進作用、中性脂肪抑制作用、過酸化脂質分解作用を有すると言われている。

リボフラビンの摂取によって尿が黄色くなることがあるが、これは使用の中止を要する副作用等の異常ではない。

 ビタミンE(トコフェロール酢酸エステル)

ビタミンEは、コレステロールからの過酸化脂質の生成を抑えるほか、末梢血管における血行を促進する作用があるとされ、血中コレステロール異常に伴う末梢血行障害(手足の冷え、痺れ)の緩和等を目的として用いられる。

同様の作用を期待して、ガンマ-オリザノールが配合されている場合もある。ガンマ-オリザノールに関する出題については、ⅩⅢ(滋養強壮保健薬)を参照して作成のこと。

 

 

3)生活習慣改善へのアドバイス、受診勧奨等

コレステロールは、食事から摂取された糖及び脂質から主に産生される。糖質や脂質を多く含む食品の過度の摂取を控える、日常生活に適度な運動を取り入れる等、生活習慣の改善が図られることが重要であり、高コレステロール改善薬の使用による対処は、食事療法、運動療法の補助的な位置づけである。

目安としてウエスト周囲径(腹囲)が、男性なら85cm、女性なら90cm以上である場合には生活習慣病を生じるリスクが高まるとされており、血中コレステロール値に留意することが重要である。ただし、高コレステロール改善薬は、結果的に生活習慣病の予防につながるものであるが、ウエスト周囲径(腹囲)を減少させるなどの痩身(そうしん)効果を目的とする医薬品ではない。医薬品の販売等に従事する専門家においては、購入者等に対してその旨を説明する等、正しい理解を促すことが重要である。

 

生活習慣の改善を図りつつ、しばらくの間(1~3ヶ月)、高コレステロール改善薬の使用を続けてもなお、検査値に改善がみられない時には、遺伝的又は内分泌的要因も疑われるため、いったん使用を中止して医師の診療を受けるなどの対応が必要である。このような場合、医薬品の販売等に従事する専門家においては、購入者等に対して、高コレステロール改善薬の使用を漫然と継続せずに医療機関を受診するよう促すべきである。

 

貧血用薬(鉄製剤)

1)貧血症状と鉄製剤の働き

貧血は、その原因によりビタミン欠乏性貧血、鉄欠乏性貧血等に分類されるが、一般的な症状として、疲労、動悸、息切れ、血色不良、頭痛、耳鳴り、めまい、微熱、皮膚や粘膜の蒼白(青白くなること)、下半身のむくみ等が現れる。

貧血用薬(鉄製剤)は、鉄欠乏性貧血に対して不足している鉄分を補充し、造血機能の回復を図る医薬品である。

鉄分は、赤血球が酸素を運搬する上で重要なヘモグロビンの産生に不可欠なミネラルである。

鉄分の摂取不足を生じても、初期には貯蔵鉄(肝臓などに蓄えられている鉄)や血清鉄(ヘモグロビンを産生するために、貯蔵鉄が赤血球へと運ばれている状態)が減少するのみでヘモグロビン量自体は変化せず、ただちに貧血の症状は現れない。しかし、持続的に鉄が欠乏すると、ヘモグロビンが減少して貧血症状が現れる。鉄欠乏状態を生じる要因としては、日常の食事からの鉄分の摂取不足及び鉄の消化管からの吸収障害による鉄の供給量の不足、消化管出血等が挙げられる。また、体の成長が著しい年長乳児や幼児、月経血損失のある女性、鉄要求量の増加する妊婦・母乳を与える女性では、鉄欠乏状態を生じやすい。

 

2)代表的な配合成分、主な副作用

a)鉄分

不足した鉄分を補充することを目的として配合されているものであり、主な成分としては、フマル酸第一鉄、溶性ピロリン酸第二鉄、可溶性含糖酸化鉄、クエン酸鉄アンモニウムなどが用いられる。

なお、鉄製剤を服用すると便が黒くなることがある。これは使用の中止を要する副作用等の異常ではないが、鉄製剤の服用前から便が黒い場合は貧血の原因として消化管内で出血している場合もあるため、服用前の便の状況との対比が必要である。

b)鉄以外の金属成分

銅はヘモグロビンの産生過程で、鉄の代謝や輸送に重要な役割を持つ。補充した鉄分を利用してヘモグロビンが産生されるのを助ける目的で、硫酸銅が配合されている場合がある。

 

コバルトは赤血球ができる過程で必要不可欠なビタミンB12の構成成分であり、骨髄での造血機能を高める目的で、硫酸コバルトが配合されている場合がある。

マンガンは、糖質・脂質・タンパク質の代謝をする際に働く酵素の構成物質であり、エネルギー合成を促進する目的で、硫酸マンガンが配合されている場合がある。

c)ビタミン成分

貧血を改善するため、ヘモグロビン産生に必要なビタミンB6や、正常な赤血球の形成に働くビタミンB12や葉酸などが配合されている場合がある。

ビタミンC(アスコルビン酸等)は、消化管内で鉄が吸収されやすい状態に保つことを目的として用いられる。

 

【主な副作用】 貧血用薬(鉄製剤)の主な副作用として、悪心、嘔吐、食欲不振、胃部不快感、腹痛、便秘、下痢等の胃腸障害が知られている。鉄分の吸収は空腹時のほうが高いとされているが、消化器系への副作用を軽減するには、食後に服用することが望ましい。胃への負担を軽減するため、腸溶性とした製品もある。

 

3)相互作用、受診勧奨等

【相互作用】 複数の貧血用薬と併用すると、鉄分の過剰摂取となり、胃腸障害や便秘等の副作用が起こりやすくなる。

服用の前後30分にタンニン酸を含む飲食物(緑茶、紅茶、コーヒー、ワイン、柿等)を摂取すると、タンニン酸と反応して鉄の吸収が悪くなることがあるので、服用前後はそれらの摂取を控えることとされている。

医師の治療を受けている人では、鉄分の吸収に影響を及ぼす薬剤が処方されている場合があるので、使用する前にその適否につき、治療を行っている医師又は処方薬の調剤を行った薬剤師に相談がなされるべきである。

 

【受診勧奨等】 貧血のうち鉄製剤で改善できるのは、鉄欠乏性貧血のみである。特段の基礎疾患等がなく鉄分の欠乏を生じる主な要因としては、食事の偏り(鉄分の摂取不足)が考えられ、貧血用薬(鉄製剤)の使用による対処と併せて、食生活の改善が図られることが重要である。なお、貧血の症状がみられる以前から予防的に貧血用薬(鉄製剤)を使用することは適当でない。

食生活を改善し、かつ鉄製剤(貧血用薬)の使用を2週間程度続けても症状の改善がみられない場合には、月経過多、消化管出血、痔及び子宮筋腫等、出血性の疾患による慢性的な血液の損失が原因で貧血症状が起きている可能性がある。これらの場合、基礎疾患の治療が優先されるべきであり、一般用医薬品による対処を漫然と継続することは適当でない。また、鉄欠乏性貧血以外の貧血により症状が現れていることも疑われ、鉄製剤によって対処すること自体が適当でない可能性もある。いずれの場合も、医薬品の販売等に従事する専門家においては、購入者等に対して、貧血用薬(鉄製剤)の使用を漫然と継続せずに医療機関を受診するよう促すべきである。