• 主な医薬品とその作用
  • 4.胃腸に作用する薬
  • 胃腸に作用する薬
  • Sec.1

1胃腸に作用する薬

U222022/03/24 14:23

胃の薬(制酸薬、健胃薬、消化薬)ー1

1)胃の不調、薬が症状を抑える仕組み

胃の働きに異常が生じると、胃液の分泌量の増減や食道への逆流が起こったり、胃液による消化作用から胃自体を保護する働きや胃の運動が低下して、胸やけや胃の不快感、消化不良、胃もたれ、食欲不振等の症状として現れる。また、胃の働きに異常を生じていなくても、食べすぎたときなど、胃内容物の量に対してそれを処理する働きが追いつかないことにより、腹部に不調を感じる場合もある。

吐きけや嘔吐は、延髄にある嘔吐中枢の働きによって起こる。嘔吐中枢が刺激される経路はいくつかあるが、消化管での刺激が副交感神経系を通じて嘔吐中枢を刺激する経路も知られており、胃の痙攣(けいれん)等によって吐きけが起きている場合がある。

制酸薬は、胃液の分泌亢進(ぶんぴつこうしん)による胃酸過多や、それに伴う胸やけ、腹部の不快感、吐きけ等の症状を緩和することを目的とする医薬品である。その配合成分としては、胃酸の働きを弱めるもの、胃液の分泌を抑えるものなどが用いられる。

健胃薬は、弱った胃の働きを高めること(健胃)を目的とする医薬品である。配合される生薬成分は独特の味や香りを有し、唾液や胃液の分泌を促して胃の働きを活発にする作用があるとされる。

消化薬は、炭水化物、脂質、タンパク質等の分解に働く酵素を補う等により、胃や腸の内容物の消化を助けることを目的とする医薬品である。

これらのほか一般用医薬品には、様々な胃腸の症状に幅広く対応できるよう、制酸、胃粘膜保護、健胃、消化、整腸、鎮痛鎮痙(ちんけい)、消泡等、それぞれの作用を目的とする成分を組み合わせた製品(いわゆる総合胃腸薬)もある。制酸と健胃のように相反する作用を期待するものが配合されている場合もあるが、胃腸の状態によりそれら成分に対する反応が異なり、総じて効果がもたらされると考えられている。しかし、消化不良、胃痛、胸やけなど症状がはっきりしている場合は、効果的に症状の改善を図るため、症状に合った成分のみが配合された製品が選択されることが望ましい。

健胃薬、消化薬、整腸薬又はそれらの目的を併せ持つものには、医薬部外品として製造販売されている製品もあるが、それらは人体に対する作用が緩和なものとして、配合できる成分やその上限量が定められており、また、効能・効果の範囲も限定されている。

 

2)代表的な配合成分等、主な副作用、相互作用、受診勧奨

a)制酸成分

中和反応によって胃酸の働きを弱めること(制酸)を目的として、i)炭酸水素ナトリウム(重曹)のほか、ii)乾燥水酸化アルミニウムゲル、ジヒドロキシアルミニウムモノアセテート等のアルミニウムを含む成分、iii)ケイ酸マグネシウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム等のマグネシウムを含む成分、iv)合成ヒドロタルサイト、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム等のアルミニウムとマグネシウムの両方を含む成分、v)沈降炭酸カルシウム、リン酸水素カルシウム等のカルシウムを含む成分、又はこれらの成分を組み合わせたもの等が配合されている場合がある。メタケイ酸アルミン酸マグネシウムは、胃酸の中和作用のほか、胃粘膜にゼラチン状の皮膜を形成して保護する作用もあるとされる。

また、ボレイ(イボタガキ科のカキの貝殻を基原とする生薬)等の生薬成分も、それらに含まれる炭酸カルシウムによる作用を期待して用いられる。

これらの制酸成分を主体とする胃腸薬については、酸度の高い食品と一緒に使用すると胃酸に対する中和作用が低下することが考えられるため、炭酸飲料等での服用は適当でない。

制酸成分のうちアルミニウムを含む成分については、透析療法を受けている人が長期間服用した場合にアルミニウム脳症及びアルミニウム骨症を引き起こしたとの報告があり、透析療法を受けている人では使用を避ける必要がある。また、透析治療を受けていない人でも、長期連用は避ける必要がある。

腎臓病の診断を受けた人では、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム等の無機塩類の排泄が遅れたり、体内に貯留しやすくなるため、使用する前にその適否につき、治療を行っている医師又は処方薬の調剤を行った薬剤師に相談がなされるべきである。

 

制酸成分は他の医薬品(かぜ薬、解熱鎮痛薬等)でも配合されていることが多く、併用によって制酸作用が強くなりすぎる可能性があるほか、高カルシウム血症、高マグネシウム血症等を生じるおそれがあるため、同種の無機塩類を含む医薬品との相互作用に注意する必要がある。また、カルシウム、アルミニウムを含む成分については止瀉(ししゃ)薬、マグネシウムを含む成分については瀉下(しゃげ)薬に配合される成分でもあり、それぞれ便秘、下痢等の症状に注意することも重要である。

 

b)健胃成分

味覚や嗅覚を刺激して反射的な唾液や胃液の分泌を促すことにより、弱った胃の働きを高めることを目的として、オウバク、オウレン、センブリ、ゲンチアナ、リュウタン、ケイヒ、ユウタン等の生薬成分が配合されている場合がある。

これら生薬成分が配合された健胃薬は、散剤をオブラートで包む等、味や香りを遮蔽する方法で服用されると効果が期待できず、そのような服用の仕方は適当でない。

 オウバク、オウレン

オウバク(ミカン科のキハダ又はフェロデンドロン・キネンセの周皮を除いた樹皮を基原とする生薬)、オウレン(キンポウゲ科のオウレン、コプティス・キネンシス、コプティス・デルトイデア又はコプティス・テータの根をほとんど除いた根茎を基原とする生薬)は、いずれも苦味による健胃作用を期待して用いられる。

日本薬局方収載のオウバク末(オウバクを粉末にしたもの)、オウレン末は、止瀉薬としても用いられる。止瀉薬における注意に関する出題については、-2(腸の薬)を参照して作成のこと。

日本薬局方収載のオウバク末は、外用薬としても用いられるが、その場合に関する出題については(皮膚に用いる薬)を参照して作成のこと。

 センブリ

リンドウ科のセンブリの開花期の全草を基原とする生薬で、苦味による健胃作用を期待して用いられる。

日本薬局方収載のセンブリ末は、健胃薬のほか止瀉薬としても用いられる。

 ゲンチアナ、リュウタン

ゲンチアナ(リンドウ科のゲンチアナの根及び根茎を基原とする生薬)、リュウタン(リンドウ科のトウリンドウ等の根及び根茎を基原とする生薬)は、いずれも苦味による健胃作用を期待して用いられる。

 ユウタン

クマ科のヒグマその他近縁動物の胆汁を乾燥したものを基原とする生薬で、苦味による健胃作用を期待して用いられるほか、消化補助成分として配合される場合もある。

同様の作用を期待して、ウシ等に由来する動物胆が用いられることもある。

 ケイヒ

クスノキ科のシンナモムム・カッシアの樹皮又は周皮の一部を除いたものを基原とする生薬で、香りによる健胃作用を期待して用いられる。

 その他

香りによる健胃作用を期待して用いられる生薬(芳香性健胃生薬)として、コウボク(モクレン科のホオノキ、カラホオ等の樹皮を基原とする生薬)、ショウキョウ(ショウガ科のショウガの根茎を基原とする生薬)、チョウジ(フトモモ科のチョウジの蕾(つぼみ)を基原とする生薬)、チンピ(ミカン科のウンシュウミカンの成熟した果皮を基原とする生薬)、ソウジュツ(キク科のホソバオケラ等、又はそれらの雑種の根茎を基原とする生薬)、ビャクジュツ(キク科のオケラの根茎(ワビャクジュツ)又はオオバナオケラの根茎(カラビャクジュツ)を基原とする生薬)、ウイキョウ(-2(口腔咽喉薬、うがい薬)参照。)、オウゴン(-1(痔の薬)参照。)等が配合されている場合がある。

味覚や嗅覚に対する刺激以外の作用による健胃成分として、乾燥酵母やカルニチン塩化物が配合されている場合がある。

乾燥酵母は、胃腸の働きに必要な栄養素を補給することにより胃の働きを高めるものと考えられている。

カルニチン塩化物は、生体内に存在する有機酸の一種であり、その働きは必ずしも明らかにされていないが、胃液分泌を促す、胃の運動を高める、胃壁の循環血流を増す等の作用があるとされ、胃の働きの低下や食欲不振の改善を期待して、胃腸薬や滋養強壮保健薬に用いられる。

 

c)消化成分

炭水化物、脂質、タンパク質、繊維質等の分解に働く酵素を補うことを目的として、ジアスターゼ、プロザイム、ニューラーゼ、リパーゼ、セルラーゼ又はその複合酵素(ビオジアスターゼ、タカヂアスターゼ)等が配合されている場合がある。

胆汁末や動物胆(ユウタンを含む。)、ウルソデオキシコール酸、デヒドロコール酸は、胆汁の分泌を促す作用(利胆作用)があるとされ、消化を助ける効果を期待して用いられる。これらの成分は肝臓の働きを高める作用もあるとされるが、肝臓病の診断を受けた人ではかえって症状を悪化させるおそれがあり、使用する前にその適否につき、治療を行っている医師又は処方薬の調剤を行った薬剤師に相談がなされるべきである。

胃の薬(制酸薬、健胃薬、消化薬)ー2

d)その他の成分

胃粘膜保護・修復成分

胃粘液の分泌を促す、胃粘膜を覆って胃液による消化から保護する、荒れた胃粘膜の修復を促す等の作用を期待して、アズレンスルホン酸ナトリウム(水溶性アズレン)、アルジオキサ、スクラルファート、ゲファルナート、ソファルコン、テプレノン、セトラキサート塩酸塩、トロキシピド、銅クロロフィリンカリウム、銅クロロフィリンナトリウム、メチルメチオニンスルホニウムクロライド等が配合されている場合がある。このほか、胃粘膜保護作用を期待して、アカメガシワ(トウダイグサ科のアカメガシワの樹皮を基原とする生薬)等の生薬成分も用いられる。

これらのうち、アルジオキサ(アラントインと水酸化アルミニウムの複合体)、スクラルファートはアルミニウムを含む成分であるため、透析を受けている人では使用を避ける必要がある。透析治療を受けていない人でも、長期連用は避ける必要がある。また、腎臓病の診断を受けた人では、アルミニウムが体内に貯留しやすいため、使用する前にその適否につき、治療を行っている医師又は処方薬の調剤を行った薬剤師に相談がなされるべきである。

ソファルコン、テプレノンについては、まれに重篤な副作用として肝機能障害を生じることがある。肝臓病の診断を受けた人では、使用する前にその適否につき、治療を行っている医師又は処方薬の調剤を行った薬剤師に相談がなされるべきである。

テプレノンについては、その他の副作用として腹部膨満感、吐きけ、腹痛、頭痛、皮下出血、便秘、下痢、口渇が現れることがある。

セトラキサート塩酸塩は、体内で代謝されてトラネキサム酸(I-1(かぜ薬)参照。)を生じることから、血栓のある人、血栓を起こすおそれのある人では、生じた血栓が分解されにくくなることが考えられるので、使用する前にその適否につき、治療を行っている医師又は処方薬の調剤を行った薬剤師に相談がなされるべきである。

胃粘膜の炎症を和らげる成分(抗炎症成分)

胃粘膜の炎症を和らげることを目的として、グリチルリチン酸二カリウム、グリチルリチン酸ナトリウム、グリチルリチン酸モノアンモニウム、又は生薬成分としてカンゾウが配合されている場合がある。グリチルリチン酸を含む成分又はカンゾウを含有する医薬品に共通する留意点に関する出題については、-1(かぜ薬)、-1(咳止め・痰を出しやすくする薬)を参照して作成のこと。

消泡成分

消化管内容物中に発生した気泡の分離を促すことを目的として、ジメチルポリシロキサン(別名ジメチコン)が配合されている場合がある。

胃液分泌抑制成分

胃液の分泌は副交感神経系からの刺激によって亢進することから、過剰な胃液の分泌を抑える作用を期待して、副交感神経の伝達物質であるアセチルコリンの働きを抑えるロートエキスやピレンゼピン塩酸塩が配合されている場合がある。

これらの成分を含有する胃腸薬では、胃腸鎮痛鎮痙薬、乗物酔い防止薬との併用を避ける必要がある。

ロートエキスに関する出題については、-3(胃腸鎮痛鎮痙薬)を参照して作成のこと。

 

ピレンゼピン塩酸塩は、消化管の運動にはほとんど影響を与えずに胃液の分泌を抑える作用を示すとされる。しかし、消化管以外では一般的な抗コリン作用のため、排尿困難、動悸、目のかすみの副作用を生じることがある。排尿困難の症状がある人、緑内障の診断を受けた人では、症状の悪化を招くおそれがあり、使用する前にその適否につき、治療を行っている医師又は処方薬の調剤を行った薬剤師に相談がなされるべきである。また、使用後は乗物又は機械類の運転操作を避ける必要がある。なお、まれに重篤な副作用としてアナフィラキシーを生じることがある。

 

 漢方処方製剤

胃の不調を改善する目的で用いられる漢方処方製剤としては、安中散(あんちゅうさん)、人参湯(にんじんとう)(理中丸=りちゅうがん)、平胃散(へいいさん)、六君子湯(りっくんしとう)等がある。

これらはいずれも構成生薬としてカンゾウを含む。カンゾウを含有する医薬品に共通する留意点に関する出題については、-1(咳止め・痰を出しやすくする薬)を参照して作成のこと。また、いずれも比較的長期間(1ヶ月位)服用されることがあり、その場合に共通する留意点に関する出題については、ⅩⅣ-1(漢方処方製剤)を参照して作成のこと。

a)安中散(あんちゅうさん)

体力中等度以下で腹部筋肉が弛緩する傾向にあり、胃痛又は腹痛があって、ときに胸やけや、げっぷ、食欲不振、吐きけなどを伴うものの神経性胃炎、慢性胃炎、胃腸虚弱に適するとされる。

b)人参湯(にんじんとう)

体力虚弱で、疲れやすくて手足などが冷えやすいものの胃腸虚弱、下痢、嘔吐、胃痛、腹痛、急・慢性胃炎に適すとされる。下痢又は嘔吐に用いる場合には、漫然と長期の使用は避け、1週間位使用しても症状の改善がみられないときは、いったん使用を中止して専門家に相談がなされるべきである。

c)平胃散(へいいさん)

体力中等度以上で、胃がもたれて消化が悪く、ときに吐きけ、食後に腹が鳴って下痢の傾向のある人における食べすぎによる胃のもたれ、急・慢性胃炎、消化不良、食欲不振に適すとされる。急性胃炎に用いる場合には、漫然と長期の使用は避け、5~6回使用しても症状の改善がみられないときは、いったん使用を中止して専門家に相談がなされるなどの対応が必要である。

d)六君子湯(りっくんしとう)

体力中等度以下で、胃腸が弱く、食欲がなく、みぞおちがつかえて疲れやすく、貧血性で手足が冷えやすいものの胃炎、胃腸虚弱、胃下垂、消化不良、食欲不振、胃痛、嘔吐に適すとされる。まれに重篤な副作用として、肝機能障害を生じることが知られている。

 

【相互作用】 漢方処方製剤、生薬成分が配合された医薬品における相互作用に関する一般的な事項については、ⅩⅣ(漢方処方製剤・生薬製剤)を参照して問題作成のこと。

 

【受診勧奨】 一般用医薬品の胃薬(制酸薬、健胃薬、消化薬)は、基本的に、一時的な胃の不調に伴う諸症状を緩和する目的で使用されるものであり、慢性的に胸やけや胃部不快感、胃部膨満感等の症状が現れる場合、又は医薬品を使用したときは治まるが、やめると症状がぶり返し、医薬品が手放せないような場合には、食道裂孔ヘルニア、胃・十二指腸潰瘍、胃ポリープ等を生じている可能性も考えられ、医療機関を受診するなどの対応が必要である。

制酸薬は、胃内容物の刺激によって促進される胃液分泌から胃粘膜を保護することを目的として、食前又は食間に服用することとなっているものが多いが、暴飲暴食による胸やけ、吐きけ(二日酔い・悪酔いのむかつき、嘔気)、嘔吐等の症状を予防するものではない。「腹八分目を心がける」「良く噛んでゆっくりと食べる」「香辛料やアルコール、カフェイン等を多く含む食品の摂取を控えめにする」等、生活習慣の改善が図られることも重要である。

嘔吐に発熱や下痢、めまいや興奮を伴う場合、胃の中に吐くものがないのに吐きけが治まらない場合等には、医療機関を受診するなどの対応が必要である。特に、乳幼児や高齢者で嘔吐が激しい場合には、脱水症状を招きやすく、また、吐瀉(としゃ)物が気道に入り込んで呼吸困難を生じることもあるため、医師の診療を受けることが優先されるべきである。

吐きけや嘔吐に腹部の激しい痛みを伴う場合の受診勧奨に関する出題については、-3(胃腸鎮痛鎮痙薬)を参照して作成のこと。

腸の薬(整腸薬、止瀉薬、瀉下薬)ー1

1)腸の不調、薬が症状を抑える仕組み

腸における消化、栄養成分や水分の吸収が正常に行われなかったり、腸管がその内容物を送り出す運動に異常が生じると、便秘や軟便、下痢といった症状が現れる。

水分の吸収は大半が小腸で行われ、大腸では腸内容物が糞便となる過程で適切な水分量に調整がなされるが、糞便には、腸内細菌の活動によって生じる物質や腸内細菌自体及びその死骸が多く含まれ、それらも便通や糞便の質に影響を与える。

腸の働きは自律神経系により制御されており、異常を生じる要因は腸自体やその内容物によるものだけでなく、腸以外の病気等が自律神経系を介して腸の働きに異常を生じさせる場合もある。

下痢が起こる主な要因としては、急性の下痢では、体の冷えや消化不良、細菌やウイルス等の消化器感染(食中毒など)、緊張等の精神的なストレスによるものがあり、慢性の下痢については、腸自体に病変を生じている可能性がある。便秘が起こる主な要因としては、一過性の便秘では、環境変化等のストレスや医薬品の副作用などがあり、慢性の便秘については、加齢や病気による腸の働きの低下、便意を繰り返し我慢し続けること等による腸管の感受性の低下などがある。また、これらの要因が重なり合って、便秘と下痢が繰り返し現れる場合もある。

整腸薬は、腸の調子や便通を整える(整腸)、腹部膨満感、軟便、便秘に用いられることを目的とする医薬品であり、その配合成分としては、腸内細菌の数やバランスに影響を与えたり、腸の活動を促す成分が主として用いられる。

止瀉薬は、下痢、食あたり、吐き下し、水あたり、下り腹、軟便等に用いられること(止瀉。瀉はお腹を下す意味。)を目的とする医薬品であり、その配合成分としては、腸やその機能に直接働きかけるもののほか、腸管内の環境を整えて腸に対する悪影響を減らすことによる効果を期待するものもある。

瀉下薬(下剤)は、便秘症状及び便秘に伴う肌荒れ、頭重、のぼせ、吹き出物、食欲不振、腹部膨満、腸内異常発酵、痔の症状の緩和、又は腸内容物の排除に用いられること(瀉下)を目的とする医薬品であり、その配合成分としては、腸管を直接刺激するもの、腸内細菌の働きによって生成した物質が腸管を刺激するもの、糞便のかさや水分量を増すもの等がある。

整腸薬、瀉下薬では、医薬部外品として製造販売されている製品もあるが、それらは人体に対する作用が緩和なものとして、配合できる成分(瀉下薬については、糞便のかさや水分量を増すことにより作用する成分に限られる。)やその上限量が定められている。また、効能・効果の範囲も限定され、例えば、下痢・便秘の繰り返し等の場合における整腸については、医薬品においてのみ認められている。

 

2)代表的な配合成分等、主な副作用

a)整腸成分

腸内細菌のバランスを整えることを目的として、ビフィズス菌、アシドフィルス菌、ラクトミン、乳酸菌、酪酸菌等の生菌成分が用いられる。

ケツメイシ(マメ科のエビスグサ又はカッシア・トーラの種子を基原とする生薬)、ゲンノショウコ(フウロソウ科のゲンノショウコの地上部を基原とする生薬)、アセンヤク(アカネ科のガンビールの葉及び若枝から得た水製乾燥エキスを基原とする生薬)等の生薬成分が、整腸作用を期待して配合されている場合もある。日本薬局方収載のケツメイシ、ゲンノショウコについては、煎薬として整腸(便通を整える。)、腹部膨満感等に用いられる。

【トリメブチンマレイン酸塩】 消化管(胃及び腸)の平滑筋に直接作用して、消化管の運動を調整する作用(消化管運動が低下しているときは亢進的に、運動が亢進しているときは抑制的に働く。)があるとされる。

まれに重篤な副作用として肝機能障害を生じることがある。肝臓病の診断を受けた人では、使用する前にその適否につき、治療を行っている医師又は処方薬の調剤を行った薬剤師に相談がなされるべきである。

 

b)止瀉成分

 収斂(しゅうれん)成分

腸粘膜のタンパク質と結合して不溶性の膜を形成し、腸粘膜をひきしめる(収斂)ことにより、腸粘膜を保護することを目的として、次没食子(じもっしょくし)酸ビスマス、次硝酸ビスマス等のビスマスを含む成分、タンニン酸アルブミン等が配合されている場合がある。タンニン酸アルブミンに含まれるタンニン酸やその類似の物質を含む生薬成分としてゴバイシ(ウルシ科のヌルデの若芽や葉上にアブラムシ科のヌルデシロアブラムシが寄生し、その刺激によって葉上に生成したのう状虫こぶを基原とする生薬)、オウバク、オウレン等も用いられる。

ビスマスを含む成分は収斂作用のほか、腸内で発生した有毒物質を分解する作用も持つとされる。オウバク、オウレンは、収斂作用のほか、抗菌作用、抗炎症作用も期待して用いられる。

収斂成分を主体とする止瀉薬については、細菌性の下痢や食中毒のときに使用して腸の運動を鎮めると、かえって状態を悪化させるおそれがある。急性の激しい下痢又は腹痛・腹部膨満・吐きけ等の症状を伴う人では、細菌性の下痢や食中毒が疑われるため、安易な使用を避けることが望ましいとされている。

次没食子酸ビスマス、次硝酸ビスマス等のビスマスを含む成分については、海外において長期連用した場合に精神神経症状(不安、記憶力減退、注意力低下、頭痛等)が現れたとの報告があり、1週間以上継続して使用しないこととされている。アルコールと一緒に摂取されると、循環血液中への移行が高まって精神神経症状を生じるおそれがあり、服用時は飲酒を避ける必要がある。胃潰瘍や十二指腸潰瘍の診断を受けた人では、損傷した粘膜からビスマスの吸収が高まるおそれがあるため、使用する前にその適否につき、治療を行っている医師又は処方薬の調剤を行った薬剤師に相談がなされるべきである。なお、循環血液中に移行したビスマスは血液-胎盤関門を通過することが知られており、妊婦又は妊娠していると思われる女性では使用を避けるべきである。

タンニン酸アルブミンについては、まれに重篤な副作用としてショック(アナフィラキシー)を生じることがある。タンニン酸アルブミンに含まれるアルブミンは、牛乳に含まれるタンパク質(カゼイン)から精製された成分であるため、牛乳にアレルギーがある人では使用を避ける必要がある。

 ロペラミド塩酸塩

ロペラミド塩酸塩が配合された止瀉薬は、食べすぎ・飲みすぎによる下痢、寝冷えによる下痢の症状に用いられることを目的としており、食あたりや水あたりによる下痢については適用対象でない。発熱を伴う下痢や、血便のある場合又は粘液便が続くような場合は、本剤の適用対象でない可能性があり、症状の悪化、治療期間の延長を招くおそれがあるため、安易な使用は避けるべきである。なお、本成分を含む一般用医薬品では、15歳未満の小児には適用がない。

使用は短期間にとどめ、2~3日間使用しても症状の改善がみられない場合には、医師の診療を受けるなどの対応が必要である。

腸管の運動を低下させる作用を示し、胃腸鎮痛鎮痙薬との併用は避ける必要がある。また、水分や電解質の分泌も抑える作用もあるとされる。効き目が強すぎて便秘が現れることがあり、まれに重篤な副作用としてイレウス様症状を生じることもある。便秘を避けなければならない肛門疾患がある人では、使用を避けるべきである。

このほか重篤な副作用として、まれにショック(アナフィラキシー)、皮膚粘膜眼症候群、中毒性表皮壊死融解症を生じることがある。

中枢神経系を抑制する作用もあり、副作用としてめまいや眠気が現れることがあるため、乗物又は機械類の運転操作を避ける必要がある。また、中枢抑制作用が増強するおそれがあるため、服用時は飲酒しないこととされている。

吸収された成分の一部が乳汁中に移行することが知られており、母乳を与える女性では使用を避けるか、又は使用期間中の授乳を避けるべきである。

 腸内殺菌成分

細菌感染による下痢の症状を鎮めることを目的として、ベルベリン塩化物、タンニン酸ベルベリン、アクリノール、木(もく)クレオソート等が用いられる。これらは、通常の腸管内に生息する腸内細菌に対しても抗菌作用を示すが、ブドウ球菌や大腸菌などに対する抗菌作用の方が優位であることと、下痢状態では腸内細菌のバランスが乱れている場合が多いため、結果的に腸内細菌のバランスを正常に近づけることにつながると考えられている。

ベルベリン塩化物、タンニン酸ベルベリンに含まれるベルベリンは、生薬のオウバクやオウレンの中に存在する物質のひとつであり、抗菌作用のほか、抗炎症作用も併せ持つとされる。オウバクのエキス製剤は、苦味による健胃作用よりも、ベルベリンによる止瀉作用を期待して、消化不良による下痢、食あたり、吐き下し、水あたり、下り腹、軟便等の症状に用いられる。

タンニン酸ベルベリンは、タンニン酸(収斂作用)とベルベリン(抗菌作用)の化合物であり、消化管内ではタンニン酸とベルベリンに分かれて、それぞれ止瀉に働くことを期待して用いられる。

木クレオソートについては、殺菌作用のほか、局所麻酔作用もあるとされる。また、過剰な腸管の蠕動(ぜんどう)運動を正常化し、あわせて水分や電解質の分泌も抑える止瀉作用もある。局所麻酔作用に関する注意等の出題については-3(胃腸鎮痛鎮痙薬)を参照して作成のこと。

 吸着成分

腸管内の異常発酵等によって生じた有害な物質を吸着させることを目的として、炭酸カルシウム、沈降炭酸カルシウム、乳酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、天然ケイ酸アルミニウム、ヒドロキシナフトエ酸アルミニウム等が配合されている場合がある。同様の作用を期待して、カオリンや薬用炭などの生薬成分も用いられる。

アルミニウムを含む成分に共通する留意点に関する出題については、-1(胃の薬)を参照して作成のこと。

 

c)瀉下(しゃげ)成分

 刺激性瀉下成分

腸管を刺激して反射的な腸の運動を引き起こすことによる瀉下作用を目的として配合される成分である。刺激性瀉下成分が配合された瀉下薬については、大量に使用することは避けることとされている(腸管粘膜への刺激が大きくなり、激しい腹痛や腸管粘膜に炎症を引き起こすおそれがある)。

i)小腸刺激性瀉下成分

ヒマシ油は、ヒマシ(トウダイグサ科のトウゴマの種子)を圧搾して得られた油を用いた生薬で、小腸でリパーゼの働きによって生じる分解物が、小腸を刺激することで瀉下作用をもたらすと考えられている。

日本薬局方収載のヒマシ油及び加香ヒマシ油は、腸内容物の急速な排除を目的として用いられる。急激で強い瀉下作用(峻下(しゅんげ)作用)を示すため、激しい腹痛又は悪心・嘔吐の症状がある人、妊婦又は妊娠していると思われる女性、3歳未満の乳幼児では使用を避けることとされている。

主に誤食・誤飲等による中毒の場合など、腸管内の物質をすみやかに体外に排除させなければならない場合に用いられるが、防虫剤や殺鼠(さっそ)剤を誤って飲み込んだ場合のような脂溶性の物質による中毒には使用を避ける必要がある(ナフタレンやリン等がヒマシ油に溶け出して、中毒症状を増悪させるおそれがある)。

吸収された成分の一部が乳汁中に移行して、乳児に下痢を引き起こすおそれがあり、母乳を与える女性では使用を避けるか、又は使用期間中の授乳を避ける必要がある。

ii)大腸刺激性瀉下成分

大腸を刺激して排便を促すことを目的として、センナ(マメ科のチンネベリセンナ又はアレキサンドリアセンナの小葉を基原とする生薬)、センナから抽出された成分であるセンノシド、ダイオウ(タデ科のショウヨウダイオウ、タングートダイオウ、ダイオウ、チョウセンダイオウ又はそれらの種間雑種の、通例、根茎を基原とする生薬)、カサントラノール、ビサコジル、ピコスルファートナトリウム等が用いられる。

このほか、大腸刺激による瀉下作用を期待して、センノシドに類似の物質を含むアロエ(ユリ科のケープアロエ等の葉から得た液汁を乾燥したものを基原とする生薬)や、ジュウヤク(ドクダミ科のドクダミの花期の地上部を基原とする生薬)、ケンゴシ(ヒルガオ科のアサガオの種子を基原とする生薬)等の生薬成分が配合されている場合もある。

刺激性瀉下成分が配合された瀉下薬は一般に、腸の急激な動きに刺激されて流産・早産を誘発するおそれがある。特に、センナ及びセンノシドが配合された瀉下薬については、妊婦又は妊娠していると思われる女性では、使用を避けるべきである。

センナ、センノシド、ダイオウ、カサントラノールについては、吸収された成分の一部が乳汁中に移行することが知られている。乳児に下痢を生じるおそれがあり、母乳を与える女性では使用を避けるか、又は使用期間中の授乳を避ける必要がある。構成生薬にダイオウを含む漢方処方製剤においても、同様に、母乳を与える女性では使用を避けるか、又は使用期間中の授乳を避けることとされている。

【センナ、センノシド、ダイオウ】 センナ中に存在するセンノシドは、胃や小腸で消化されないが、大腸に生息する腸内細菌によって分解され、分解生成物が大腸を刺激して瀉下作用をもたらすと考えられている。センノシドカルシウム等として配合されている場合もある。

ダイオウもセンナと同様、センノシドを含み、大腸刺激性瀉下成分として用いられる。

ダイオウは各種の漢方処方の構成生薬としても重要であるが、瀉下を目的としない場合には瀉下作用は副作用となる。構成生薬にダイオウを含む漢方処方製剤では、瀉下作用の増強を生じて、腹痛、激しい腹痛を伴う下痢等の副作用が現れやすくなるため、瀉下薬の併用に注意する必要がある。

【ビサコジル、ピコスルファートナトリウム】 ビサコジルは、大腸のうち特に結腸や直腸の粘膜を刺激して、排便を促すと考えられている。また、結腸での水分の吸収を抑えて、糞便のかさを増大させる働きもあるとされる。内服薬のほか、浣腸薬(坐剤)としても用いられるが、その場合の出題については-4(その他の消化器官用薬)を参照して作成のこと。内服薬では、胃内で分解されて効果が低下したり、胃粘膜に無用な刺激をもたらすのを避けるため、腸内で溶けるように錠剤がコーティング等されている製品(腸溶性製剤)が多い。腸溶性製剤の場合、胃内でビサコジルが溶け出すおそれがあるため、服用前後1時間以内は制酸成分を含む胃腸薬の服用や牛乳の摂取を避けることとされている。

ピコスルファートナトリウムは、胃や小腸では分解されないが、大腸に生息する腸内細菌によって分解されて、大腸への刺激作用を示すようになる。

 無機塩類

腸内容物の浸透圧を高めることで糞便中の水分量を増し、また、大腸を刺激して排便を促すことを目的として、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、硫酸マグネシウム等のマグネシウムを含む成分が配合されている場合がある。また、同様な目的で硫酸ナトリウムも用いられる。

マグネシウムを含む成分は、一般に消化管からの吸収は少ないとされているが、一部は腸で吸収されて尿中に排泄されることが知られている。腎臓病の診断を受けた人では、高マグネシウム血症を生じるおそれがあり、使用する前にその適否につき、治療を行っている医師又は処方薬の調剤を行った薬剤師に相談がなされるべきである。

硫酸ナトリウムについては、血液中の電解質のバランスが損なわれ、心臓の負担が増加し、心臓病を悪化させるおそれがある。心臓病の診断を受けた人では、使用する前にその適否につき、治療を行っている医師又は処方薬の調剤を行った薬剤師に相談がなされるべきである。

 膨潤性瀉下成分

腸管内で水分を吸収して腸内容物に浸透し、糞便のかさを増やすとともに糞便を柔らかくすることによる瀉下作用を目的として、カルメロースナトリウム(別名カルボキシメチルセルロースナトリウム)、カルメロースカルシウム(別名カルボキシメチルセルロースカルシウム)が配合されている場合がある。同様な作用を期待して、プランタゴ・オバタ(プランタゴ・オバタ(オオバコ科))の種子又は種皮のような生薬成分も用いられる。

膨潤性瀉下成分が配合された瀉下薬については、その効果を高めるため、使用と併せて十分な水分摂取がなされることが重要である。

 ジオクチルソジウムスルホサクシネート(DSS)

腸内容物に水分が浸透しやすくする作用があり、糞便中の水分量を増して柔らかくすることによる瀉下作用を期待して用いられる。

 マルツエキス

主成分である麦芽糖が腸内細菌によって分解(発酵)して生じるガスによって便通を促すとされている。瀉下薬としては比較的作用が穏やかなため、主に乳幼児の便秘に用いられる。なお、乳児の便秘は母乳不足又は調整乳希釈方法の誤りによって起こることもあるが、水分不足に起因する便秘にはマルツエキスの効果は期待できない。

マルツエキスは麦芽糖を60%以上含んでおり水飴状で甘く、乳幼児の発育不良時の栄養補給にも用いられる。